軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65話 思わぬ再会

「2日遅れですか、まぁいいでしょう」

「へ、へぇ、すいやせん」

依頼された荷物を最速で運ぶチャーター便。

軽ガレー船ゴールデンロード号の船長であるブレイク船長はペコリと頭を下げた。

だが内心はツバを吐きたい気持ちだった。この地方の冬の海は嵐は来ないが波風は強く、操舵難易度は高い。それでいてピタリと風が止むこともあり、どれだけの船速で進むことができるのかは熟練の船乗りであるブレイクにすら判断できないのだ。

(陸の人間が偉そうに)

だがそんな表情はおくびにも出さない。

日焼けした顔をくしゃくしゃにして人好きする笑みを浮かべながら頭を下げるばかりだ。

ブレイクは船乗りではあるが、宿している加護は『宮廷詩人』。

相手を怒らせたりなだめたり、感情を操作するスキルを習得できる。交渉術もお手の物だ。

だがブレイクは目の前の男相手に、感情操作系のスキルを使う気にはなれなかった。

貼り付けたような笑顔を浮かべるその青年は顎を撫でながら荷物の目録に目を通している。

「それじゃあ荷物を見せてもらいましょうか」

「へい」

その身から放たれる強者の自信とでもいうのだろうか。

ブレイクはその男が強者であることを理解すると同時にどうも信用ができないと、密かに警戒している。

「ビュウイさん、荷物は船の側におろしてありますので」

ビュウイと呼ばれた男は左手に目録を持ち、右手で顎をさすっていた。

その時、ふと何かに気がついたようにビュウイの表情が険しくなる。

「どうかしましたか?」

ビュウイの視線の先には銅の剣を腰に佩いた冒険者風の男がいた。

ブレイクにはどこにでもいる普通の冒険者に見える。

「苦手な相手なんだ、できれば会いたくない」

ビュウイは肩をすくめると少し声を落として、届いた品物を数え始めた。

(これだけの道具があれば十分でしょう。これまでの調査結果からしても、やはりウッドエルフ達は山に兵器を封じたはず。その場所は古代エルフの遺跡以外にない。この地のウッドエルフは古代エルフの技術をある程度解析できていたようですね)

ビュウイは最先端の調査器具を手に取りながら、決意を固めていた。

☆☆

数時間後。

小舟から陸に上がった三人の男女はぐっと伸びをした。

「みすぼらしい港だ」

賢者アレスは、ゾルタンの港を見渡すとそう毒づいた。

普段ならそれを心の中にとどめておく程度のことはできるのだが、アレスは現在余裕がない。

勇者ルーティを見つけ出し、魔王を討伐するその時に自分が隣にいなければならないのだ。

そうでなければ何のために血と泥にまみれながら、この旅を続けてきたのか分からなくなる。そうアレスは焦燥感を感じている。

アレスの言葉を聞いたテオドラは僅かに眉をひそめた。

とはいえいちいちアレスの言葉を正していたのでは今日の宿すら取れないだろう。

「大丈夫か?」

「はい」

テオドラの後ろをよろよろと歩くのはアルベールだ。

このゾルタンでは脱獄囚であるアルベールは、包帯を巻いて顔を隠している。

この包帯はマジックアイテムで、顔に巻くことでその存在に注意を払えなくなるというものだ。

もちろんアレスやテオドラ達勇者パーティークラスの人間からすれば、その程度の認識阻害は何の影響も及ぼさないが、辺境ゾルタンの住人ならまず見抜くことはできないだろうと、テオドラは考えている。

「しかし、寂れている割には活気があるな」

「交易船がいるから、多分市が開いていると思います。アレスさんの船の船員達も港に滞在している間に交易品を売り買いしているようです」

アルベールが言った。

アレスが大金を支払って借りているシルフィード号には基本的に水や食料しか積んでいない。が、船乗り達は自分の小遣いで貴金属や工芸品など小さくとも高価な物を買い、こうして滞在した港で売りさばいているのだ。

とはいっても、辺境のゾルタンでは大した値にはならないだろう。

「しかし世界の果ての壁の先にいくことにならずに済んで良かった。シルフィード号の船乗り達も乗り気ではなかったからな」

どこにでもいくという契約でアレスは船を借りたが、最山脈である世界の果ての壁で隔てられたその先に行くというのは想定外だ。

まともな補給地もない先に進むためには快速船一隻では困難だっただろう。その場合は何隻か船を新しく借り、船団を率いて向かうという計画を立てていた。

それが、ゾルタンに近づくに連れて、勇者ルーティは世界の果ての壁の向こうではなくゾルタンにいるということが分かったのだ。

「飛空艇なら向こう側にいくのは簡単だろうが、海路でも陸路でも容易なことではない」

もしゾルタンから東方交易が可能であれば、ここも辺境などと言われることはなかったのだろうか。

いまのところ、王冠航路と呼ばれる北回りの航路か、竜の道と呼ばれる山間の道を進むかしか世界の果ての壁を超える交易路はない。どちらも半数以上が命を落とすと言われる過酷な道だ。

「だから、その片腕のお人が海賊をみんなやっつけちまったんだよ!」

「嘘くせえ! たった一人で海賊船5隻をどうやったんってんだ」

「ぶん殴ったら船が真っ二つになったんだよ!」

「あははは! ホラ吹くならもうちっとマシなホラ吹けってんだ酔っ払いどもめ!」

「なにおおお!」

「100人乗りの帆船が拳で砕けるもんかい!」

「砕いたんだよ!」

交易船の方から聞こえる大声に、アレスはますます顔をしかめた。

「はぁぁ。早く宿を取りに行きましょう。こんな薄汚い町ではごめんです。中央の方はいくらかマシらしいのでそこで宿を探します」

「私はここらで宿を取らせてもらうよ。港には情報が集まる」

「勝手にしてください。ルーティの居場所は分かっているんです、いまさら情報収集なんて」

ふんと鼻で笑うとアレスは肩をいからせて去っていった。

「普段はあそこまで酷くはないんだがな」

テオドラは困った顔をしながらアルベールに言った。

アレスは決して性格がいいとはいえないが、あそこまで短慮ではない。

「勇者と共に魔王を討伐し、没落し家名以外、土地も名誉も財産もあらゆるものを失ったスロア公爵家を再興するというのがアレスのこれまで旅をしてきた意味なんだ」

アルベールは気にしていないと首を振った。

「没落した家の再興ってそんなに難しいんですか?」

「4代前の当主が反乱を起こしてな。さらにはその背後には領地を狙う隣国の陰謀ありと。大逆罪だよ。王の命と国を奪おうとしたんだ。それも外国に国土を売り渡す契約でね。一族の大半は処刑され、別の家に留学に出されていたアレスの曽祖父が継ぐことになった」

「それは……大変な過去ですね」

「アレスの前では言わない方がいいぞ、あいつはこの事で自分が苦労するハメになっているのが許せないらしいからな」

「もちろんです」

アルベールは頷く。プライドの高いアレスにとっては、許しがたい経歴なのだろう。触れるべきではない。

アルベールは聞いたことを胸の奥にしまい、港区の宿へとテオドラを案内した。

☆☆

時間は少し遡る。

ビュウイが荷物の確認を終え、それぞれの器具を自分が借りている屋敷に運ぶよう指示して帰った後。

そしてレッドが交易船の近くで開かれている市を眺めていた時。

「おっ、本当にあった」

俺は、銀貨を支払いいくつかの道具を受け取る。

全部ではないにしろ、目的の高精度の測定器具や濾過器など魔法の掛かった錬金道具をいくつか購入することができた。

「これだけで1000ペリル以上か」

騎士団時代や勇者パーティー時代ならなんてことの無い価格なのだが、今の俺にはかなりの大金だ。

もちろん交易船相手にローンやツケは使えない。一括払いのみだ。

俺は買った器具を大事に包むとリット達を追いかけようと立ち上がる。

「ギデオン!」

その時、大きな叫び声がした。

その声を俺は知っている。知っているが、どうしてここにいる?

大きな影が、その巨大さからは想像もできないほどの身軽さで人々の頭上を跳ぶ。

俺の目の前にどんと音を立てて大男が立ちはだかる。

「本当にギデオンじゃないか! すっかりみすぼらしい装備になっちまって!」

俺の事情など知ったこっちゃない様子で男は俺の肩を掴んだ。

なんでこんなタイミングで……。

「ダナン、ちょっと落ち着け、ここじゃ目立つから場所を変えよう。お互い話すことがあるだろうしな」

しばらく見ないうちに右手の肘から先を失っていたダナンは、そのことをなんら気にすることもなく笑う。

「またあえて嬉しいぜ 戦友(とも) よ!」

いろいろ面倒なことになりそうだった。こんなところで、こんなタイミングでダナンに再会してしまうなんて想像もしていなかった。

これは、おそらくは俺の失態ということになる。

だが、俺との再会を嬉しそうに笑うダナンの顔を見ていたら、どうも俺にはこの再会を疎んじることなどできそうになかった。

「ああ、まっ、そうだな……俺も嬉しいみたいだよ」

これからどうするか、俺は内心頭を抱えながらも……同時にダナンとの再会で心の底から笑っていた。