軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真の仲間Episode.0ショートストーリー 勇者の村の少女A 後編

「なるほど、西からゴブリンが攻めてきたと」

「はい、これまでは遠くのゴブリンがこの村まで来ることは無かったのですが……魔王軍が来たことでモンスターが活発になっているんでしょ?」

「ふむ……そういう噂もあるが」

クラウディアから話を聞いて、俺は考え込んだ。

「これまでは無かったんだな?」

「来るとしても近くの森や北の山に住んでるゴブリンくらいで、ブラックドックを飼っているゴブリンの部族が村の近くまで来たことは一度もないです」

「そうか」

どうも引っかかるな。

その時。

「西を調べに行っていたやつらが帰ってきたぞ!」

クラウディアの仲間の1人が声を上げた。

視線を向けると5人の人々が村の方へと歩いてくる。

「3人は外の人間か」

「うん、知らない人です」

俺のつぶやきにクラウディアが答えた。

幼い頃に村を出た俺は、村の人の顔と名前はあまり知らないのだが、それでも5人のうちの3人の男性の様子が村の人とは別種のものだということは分かる。

「ギデオン!」

外の人間を連れてきた村の女性が俺の顔を見て声を上げた。

「帰ってきていたのね」

近づいてくる青い髪の女性に対し、俺も十歩ほど歩み寄る。

「ただいま母さん」

「この場にあなたがいてくれて心強いわ」

彼女は俺の母親、ピリエッタ・ラグナソン。

母さんは片手で使える短槍を左手に持ち、俺に向けて笑顔を作った。

「そっちの人達は?」

俺の質問に母さんは連れてきた男達の方を見る。

「西の村から逃げてきた人達よ」

「……西の村の知り合い?」

「いいえ、顔は知らないけれど、そもそも西の村の人とは顔を合わせる機会もないし……困ったときはお互い様でしょう」

「なるほど、そうだね」

俺は彼らの様子を見る、モンスターに襲われた村から逃げてきた彼らは顔を伏せて、何も喋らない。

腰には使い込まれた剣。

「ああ、これか? 行商人から中古で手に入れて、モンスター狩りにずっと使ってたんだ」

「見てもいいか?」

「は?」

さすがに意表を突かれたのか、男は顔を上げて俺を見た。

日焼けで肌がボロボロとなった男の顔は、たしかに畑仕事をする百姓にも見える。

「……ただの安物だぞ」

「いや取ろうというわけじゃない、俺は剣を見ればどんなモンスターと戦ったのか分かるのさ」

「は、はは、冗談だろ? そんなスキルがあるのかよ」

「いや俺の特技だよ、俺は騎士なんだ」

僅かな間だったが男達は不安げに視線を交わしていた。

「村を襲ったのはゴブリン達だ」

「さて、普通の百姓が見たものだからだ。もしかしたら別のモンスターが混じっているかもしれないだろう、何ちょっと剣を見せてくれるだけでいいんだ。それとも、何か見せられない理由でもあるのかい?」

「い、いや、そんなものはないけどよ……」

男は目を泳がせた後、ゆっくりと剣を抜いて俺に渡した。

「使い込まれているな」

「あ、ああ、中古だからな」

「もう少しちゃんと扱ってやれ、錆が浮いてるし刃こぼれもある」

俺は男に剣を返す。

「なんなら研いでやろうか?」

「い、いやいいよ……もういいんだな」

「ああ」

男はホッとした様子で剣を治める。

「ギデオン、彼らはとても疲れているのよ」

「分かった、引き止めてごめん」

「いいのよ、あなたのやることはいつだって私には分からなかったから」

「…………」

母さん達は村へと帰っていった。

「久しぶりに会ったにしては……」

俺の様子を黙って見ていたクラウディアが言った。

「俺と母さんのやりとりか?」

「あっさりしているというか……王都の騎士となった息子が帰ってきたなんて状況、私の母親ならうざいくらい抱きついてくると思います……仕送りの額もすごいって聞いてますし」

「村で暮らすのに相応な額しか送っていないよ、どう使えばいいか分からないお金なんて不幸にするだけだ」

「はぁ」

「……母さんも父さんも、俺とルーティが理解できないようでね、折り合いが悪いんだ」

特別な加護と宿命を背負って産まれた俺達と違い、母さん達はありふれた加護と世界で生きてきた。

『勇者』の母親というのは、多分普通の人にとっては苦痛でしかないのだろう。

「騎士様にも苦労があるんですね」

クラウディアは俺の話がピンときていない様子だったが……少しだけ俺に同情している様子だった。

「さて、俺はちょっと西を調べてくる」

「調べるって……!?」

「村の守りは頼んだぞ!」

「ギデオンさん、一体何が!!」

「後で説明する!」

俺はクラウディアに答えることなく、走竜にまたがり走らせた。

さっさと済ませてルーティのところへ帰らないとな。

☆☆

2時間後。

村に戻ってきた俺は、西の村から来たという3人がいる小屋へと向かった。

扉を開けると、顔を突き合わせ何かを話し合っていた男たちはぎょっとして俺の方を見た。

「ノックくらいしろよ」

男は虫歯で黒くなった歯をむき出しにして俺に不満を言った。

答える代わりに、俺は持ってきた剣を投げる。

「剣を見せてくれた礼だ、俺のも一振り見せてやる」

「こ、これは!!!」

剣を見た男達の顔色が変わる。

「知っているのか?」

「い、いや、知らない!」

「そいつは近くの森に隠れていた盗賊の首領の物だ。せっかくの業物なのに手入れが雑で可哀想な剣だな」

「そ、そうなのか……その盗賊達は」

「全員斬った」

俺の言葉に、男達は呆然としてしまった。

「言ったろう、俺は剣を見たら、その剣が何を斬ってきたのか分かるって……あんたの剣は随分人間を斬ってきたようだな」

「あ、あ……」

「魔王軍のせいでモンスターが活発化しているという噂はあるが、今回のは違う。お前達はゴブリンの住処を襲撃して追い出し、村を襲撃させたんだ」

真相はこうだ。

盗賊達は噂を利用して、村を略奪する方法を思いついた。

まずモンスターを追い立て村を襲撃させ、村の戦力を外へとおびき出す。

盗賊でも追い立てる程度のモンスターだが、魔王軍によってモンスターが活発化しているという噂によって見えている以上の脅威を村の人は感じ取る。少数のモンスターの襲撃でも続くモンスター達の襲撃があると村の人達は思い込んでしまうのだ。

次に襲撃されたよその村からの逃亡者として村に潜入し、内部から襲撃しやすいよう工作する。放火したり門の鍵を開けておいたりと言ったところだろう。

そして最後に近くに潜む盗賊の本隊が混乱した村を襲って略奪する、という計画だったわけだ。

「盗賊団の首領の名はワマー。800ペリルのちんけな賞金首だな」

俺は自分の剣の柄に手をかける。

「お、俺達を斬るつもりか!」

「ここは王都じゃないから裁判所もないし、まぁ殺しもやってきた盗賊なら死罪だろ」

盗賊達も自分の腰の剣に手を伸ばす。

だが、先頭の1人が両手を上げて叫んだ。

「証拠はあるのか!」

「証拠?」

「あんたの言う通り俺達が盗賊だっていう証拠だよ!」

「ふむ、意外なことを言うな」

「へ、へへ……」

「確かに証拠はない、俺がこうだと判断しただけだ」

「だ、だったら斬るわけにはいかないだろう!」

商家で働いたことでもあるのだろうか。

小賢しい。

「いや斬るが」

「はぁ?」

「俺が敵だと判断したんだ、斬るにはそれで十分だろう」

「え、あ、ふざけるな! そんな無法が……」

「盗賊が無法を語るのかよ」

俺が笑うと、盗賊は怒って言い返す。

「証拠がなけりゃ盗賊じゃないだろ!」

「はは、全く甘いなぁ」

「甘い?」

「ここは判事はいない、証拠を集めて誰にお伺いを立てるつもりだ。俺は騎士だぞ、戦場で敵を斬るのにわざわざ証拠を集めるのか?」

「あ、ああ……」

「お前たちは俺の大切な妹の暮らしている村を襲おうとしたと、そう俺が判断した」

俺は騎士の剣を抜いた。

「なら斬るさ、一切躊躇なく」

盗賊達は慌てて剣を抜こうとした。

だが遅すぎる。

「格上相手に先に剣を抜かせるとか、いくら木っ端盗賊団の団員とはいえ舐めすぎだろう」

「や、やめ!!」

命乞いをするより早く、俺の剣は彼らの身体を斬り捨てた。

血があまり出ないよう最小の傷にとどめたが、それでも倒れた死体から床へと血が広がっていく。

「……死体の始末は任せてもいいか?」

俺が外に声をかけると、少し青ざめたクラウディアが外から入ってくる。

「ぎ、ギデオンさんが何をしようとしているのか気になって……」

「別に怒っていないよ、俺はほとんど外の人間のようなものだし、不審な行動を取っていたら村を守るクラウディアが気にするのは当然だ」

「やはり騎士様は私達とは違うんですね」

「……そうかもな」

クラウディアはキュッと目をつぶり、そして目を開けた。

「盗賊の亡骸の処理は私の方でやっておきます、彼らの持ち物は……」

「好きにしていいよ、たいしたものは持っていないだろうが駄賃くらいにはなるだろう」

「ではそうします、今回の騒動で頑張ってくれた仲間達に何か報酬を与えたかったので丁度いいです」

「いい考えだ」

「……私はただの村娘です。ちょっと弓を使えるだけで、騎士様のような心構えはありません」

「そうか」

「でも私達が村を守ると、そう私は決めたんです」

クラウディアははっきりと俺にそう言った。

「良い目だ」

だが危うさがある。

彼女の決意は、“私達”が村を守るという部分にかかっている。

おそらく彼女にとって本当に重要なのは自分の仲間達だ……そのズレが道を間違う原因になることもある。

だが、それをここで俺が指摘しても意味はないだろう。

村の外の人間である俺の言葉では彼女の信念には届かない。

「頑張れよ」

だから俺はただそう言うしか無かった。

☆☆

やるべきことを終え、俺はルーティの待つ家へと帰ってきた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

「ふふふ」

「どうした、そんなに嬉しそうに笑って」

「今日はお兄ちゃんにたくさんおかえりなさいを言えた、良い日」

「そっか」

せっかく帰ってきたのに盗賊のせいでルーティといる時間が減ってしまったと悲しんでいたのだが、ルーティの言葉を聞いて、俺も嬉しくなる。

「俺もルーティにたくさんただいまを言えて良い日だよ」

「良かった、お兄ちゃんが良い日なら私はもっと嬉しい」

俺が強くなろうと思ったのはいつかルーティが旅立つ時のためだ。

魔王軍が侵略を始めた今、その日はそう遠くない未来になるだろう。

その日がくればルーティは他人のために望まない戦いを続ける日々が続く。

それは悲しいことだと思っていたが……その日からは俺はルーティの側に居続けることができるようになる。

それがちょっとだけ楽しみに思ってしまう。

「お兄ちゃんのためにお夕飯を作ってた」

「ルーティが俺のために作ってくれたのか?」

「うん、お兄ちゃんが外で頑張ったから、私は家で頑張った」

「楽しみだよ」

「すぐに持ってくる」

その日、俺とルーティの夕食はとても楽しいものとなった。

明後日には王都に戻るつもりだから、明日はずっとルーティと一緒にいよう。

それから1年と半年後。

魔王軍はついにアンゲル村まで押し寄せる。

そしてその日こそ、『勇者』ルーティの旅立ちの日となるのだった。