軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158話 ヤランドララと夕日

「……というわけで、今はゾルタンでリットと一緒に薬草店をやってるんだ」

レッド&リット薬草店の居間で、俺とリットが並んで座り、そして向かい合うようにヤランドララが座っている。

テーブルにはお茶とビスケット。

俺はヤランドララに、これまでの経緯を説明していた。

チャールズに説明した内容とは違う、俺がパーティーを追い出されてから今日までの正直な経緯だ。

「そうだったのね」

ヤランドララは様々な感情が入り混じった表情で何度も頷いていた。

「色々言いたいことはあるけど……まずはあなたもリットもルーティも、みんな良い形に落ち着けて良かったわ」

「ありがとうヤランドララ」

ヤランドララの言葉に迷いはない。

俺達が世界を救う冒険を辞めたことを心から喜んでくれていた。

「私はもともとあなたが旅をしていたから一緒にいただけだもの。私達ハイエルフにとって、友人の幸せは世界よりも重いのよ。ルーティにもあとで会わせてね」

ヤランドララはそう言った。

それがヤランドララの価値観なのだ。

「……アレスは死んだのね」

「ああ」

「だったら……それももういいわ。私とアレスは本当に仲が悪かったし、あなたを追い出したことは許せないけど、思い出は来世まで持ち越せないものね」

ヤランドララは目を閉じ、小声で祈りの言葉をつぶやいた。

「そして、リット」

「うん」

俺の隣でそわそわしていたリットへ、ヤランドララは視線を向ける。

「おめでとう、あなたとギデオンが一緒になって本当に嬉しい。あなたならギデオンと上手くやれるんじゃないかと思っていたの」

「え、あ、ありがとう」

ヤランドララは嬉しそうに笑っているが、リットの笑顔は少しぎこちない。

リットは、俺の手を握っているヤランドララの手に、チラチラと視線を向けている。

「あー、リット、大丈夫だ。ヤランドララのスキンシップは今に始まったことじゃない。ハイエルフの文化なんだ」

「分かってるけど……」

「俺はリット一筋だよ」

「……もう!」

リットは緩んだ口元を赤いバンダナで隠すと、そっぽを向いてしまった。

「それにしても、よく俺がゾルタンに居るって分かったな。誰にも追跡されないよう気を使ったつもりだったんだけど」

「うん、私の力でも痕跡を見つけられないくらいだもの、誰にも見つけられないわ」

「だったらどうやって?」

「リットを探したの」

「私を?」

そっぽを向いていたリットが、驚いて向き直った。

「確かに私は別に身を隠して移動したわけじゃないから、追いかけることはできただろうけど、なんで私を?」

ヤランドララは俺の手から左手を離し、リットの手を握る。

「もしかしたらギデオンはあなたのところへ行ったんじゃないかって」

ヤランドララはそう言い切った。

確かに俺とリットはこうして一緒に暮らすようになったが。

「ゾルタンでレッドと再会できたのは偶然よ……そりゃ、会いたいと思ってたけど」

「俺もゾルタンにリットがいると知ったのは、ゾルタンに移住してからだ。まさか再会できると思っていなかったから驚いたな」

俺とリットは顔を見合わせて笑う。

こうして口にすると、この広い世界でリットと再び出会い、一緒に暮らすことになったのが奇跡のように思える。

もし2人っきりなら、リットを抱き寄せていたところだ。

「私は」

俺達の様子を微笑ましそうに見ていたヤランドララが言った。

「ロガーヴィアでリットと一緒に冒険した時、あなたが仲間になってくれたら良いなって思っていた。あなたならきっと、ギデオンに頼るのが当たり前になっていた私達と違って、ギデオンに寄り添って助け合える仲間になっていたんじゃないかって期待していたの」

「そんな風に思われていただなんて……でも私は……」

「うん、リットはロガーヴィアに残って、私がギデオン達の仲間になった。でも私じゃダメだった。私は小さなギデオンが王都に来た頃から知っていて、ギデオンが特別だった。私はギデオンの仲間だったけど、他の人達の仲間にはなれない。私達ハイエルフはすべてを平等に愛するってことができない種族だから」

ヤランドララは少し寂しそうだった。

旅の間、ヤランドララは常に俺の味方をしてくれた。

だがそれはアレスにとって公平な意見には聞こえなかったことだろう。

ハイエルフという種族は、友人との信頼を重視する。

それが合理を越えてしまうのが、ハイエルフの美徳であり欠点でもある。

「ギデオンが自分を責めて追い詰められていくのが分かっていた、でも私じゃどうすることもできなかった。もし、あなたが一緒に旅をしていたらと何度も思ったものだわ」

「ヤランドララ……うん、私だってレッドが辛いときに側にいることができなかったことは悲しい。でも、あの時はルーティのためのレッドが必要なのだと思ったの」

「それも分かるわ、だからあなたがロガーヴィアに残ることを選んだのが間違いだったとは言わない……間違ったのは私達の方だから」

ヤランドララは笑みを浮かべた。

「だからねリット。私はギデオンがあなたと一緒にいてくれたら幸せだなって思ったの。だから私はギデオンを探しにあなたのところへ来たのよ」

「まさか、そんな確証もない希望で辺境のゾルタンまで!?」

俺が思わず言った言葉に、ヤランドララはじっと俺を見た。

「当然でしょ」

説明する必要もないというような短い一言。

ああでも、そうだな。

ヤランドララはそういう人だ。

「こうしてあなたが幸せになってくれて良かった」

「ごめん」

ヤランドララの真っ直ぐな瞳を見て、俺はもう一度謝罪の言葉を口にしていた。

☆☆

「話し込んでたらもうこんな時間ね、あっという間」

窓からは夕日が差し込んでいる。

夕日がヤランドララの美しい顔を染めていた。

もうじき夜になるだろう。

俺達とヤランドララは、随分長いこと話を続けていた。

お互いに伝えたいことは沢山あった。

ヤランドララの知っている俺、リットの知っている俺、俺の知っているヤランドララとリット。

ルーティの話もした。

『勇者』を辞めた経緯を話したら、ヤランドララは嬉しそうに祝福してくれた。

あまりに喜ぶものだから、ヤランドララの魔力が漏れて庭の花が白い花を咲かせていたほどだった。

ティセとうげうげさんの話もした。

1人と1匹の尊敬すべき友人の話にぜひ私も会ってみたいと言ってくれた。

ヤランドララは、この2年間の旅について話してくれた。

孤独な旅の中でもヤランドララは俺達のことを想い続けてくれた。

「ねぇギデオン」

窓の夕日を見ていたヤランドララの青い目が俺の方に向けられる。

「次の店休日っていつ?」

「明後日だ」

「だったらその日、みんなでキャンプにいかない?」

「キャンプ?」

「そっ! ゾルタンの近くに良さそうな場所があるみたいなの。草原の花に教えてもらったわ」

ヤランドララの加護は『木の歌い手』。

植物と会話しその力を操るスキルを持つ。

「1泊2日の小旅行。旅をしていた頃のようにみんなで焚き火を囲んで星空を眺めたりしたいの」

「なるほど、それは良い。ルーティとティセも誘っていいか?」

「もちろん! リットも来てくれる?」

「喜んで! 私もヤランドララと話したいことまだ沢山あるの」

「ありがとう、楽しみにしているわね!」

ヤランドララは嬉しそうに笑っていた。