軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156話 デミス

その輝きは見る者に畏敬の念を抱かせる。

膝を付き、額を地面に押し当て、従属したいという感情を引き起こす。

「デーモンに騙され、勇者に救われ、改心して心穏やかに処刑されるのが私の人生だったと、それが幸せな最期だったと、そう仰っしゃりたいのでしょうが、無駄です。私は私の人生になんら悔いはありません」

だがレオノールは屈しない。

世界に抗い続けたその精神力は、神を前にしても折れることはない。

「無駄な時間ですわ。私は救いも慈悲も必要ありません、それどころか汚らわしいとすら思っています。虫けらに転生させるなり、地獄にでも落とすなり好きにするがいいわ」

レオノールはそう言い放った。

次の瞬間。

「私の愛する子よ」

デミスが言葉を発した。

レオノールの両耳が破れ血が迸った。

それはすべての人類が同時に叫んでも届かないほど。

デミスの声は人間が直接聞くにはあまりにも力強かった。

しかし鼓膜がやぶれても、神の声はレオノールへはっきりと届いた。

目を血走らせ、歯を食いしばって耐えながら、それでもレオノールは膝を屈しない。

デミスは言葉を続けた。

「愛しき我が子よ、あなたは道を誤った」

「いいえ、私は何も間違えなかった。私に悔いはないと言ったでしょう」

「愚かな子よ、無為な旅を続ける子よ、それでも私はあなたを愛しています」

神の声はどこまでも慈愛に満ちていた。

だが、レオノールは冷笑を浮かべる。

「さすが神様お優しいこと、でも私はあなたを愛さない」

レオノールの意思は挫けない。

神に相対していることで、存在が燃え尽きようとも、自分の生き方を曲げたりはしない。

思う存分悪女として生きたことを否定することは、レオノールがレオノールでなくなるということだ。

デミスが見せた、レオノールと名乗るあの弱々しい何かを受け入れるくらいなら地獄で永遠の責め苦を味わうほうがマシだと、そうレオノールは思っていた。

「いいえ」

神は否定する。

一体何を否定したのだろうと考えた。

そしてレオノールは自分の歩いている一本の道を見て、ふと疑問が浮かぶ。

「デミス、一つだけ質問に答えてくださるかしら……この道はどこまで行けば分かれるの?」

レオノールの目が見通せる限り、そこにあるのはただ一本の道だ。

地獄があるというのなら、どこかで道が分かれなければならない。

「レオノール、 賢(さか) しい子よ。あなたの考えていることは正しい」

「……まさか」

「我が子らがどう生きようが、その道は変わりません」

「地獄なんてものは存在しないのですね」

「この道であなたは一匹のアナグマに転生します。それもまた決められていたことです」

「それでは、人の人生とはなんの意味があるのかしら。善行も悪行も、あなたの加護に従ってきた人々が生きてきた意味は一体どこにあるというの」

「いいえ、我が子よ。人々の命は無駄ではありません。私は我が子すべてを救いたいのです。愛しています我が子よ、心から愛しています」

レオノールの形が崩れていく。

意思も記憶もない、純粋な魂へと還っていく。

それでもレオノールは残った知性でこの瞬間の出来事を考察し続けていた。

やがて。

「だから『勇者』なのね」

レオノールは一つの答えにたどり着いた。

「祝福します我が子よ。あなたが『勇者』として生まれていれば、きっと救いがあったことでしょう。それだけが残念でなりません。いつかあなたが『勇者』となり私の元へとたどり着いた時また語らいましょう」

レオノールは最後に残った右目で神を睨みつけた。

もはや口も、発する言葉も、知性すら残されていない。

「さようなら、愛する子よ。あなたに寄り添う加護と共に、私はいつでもあなたを愛しています」

遠くなっていくデミスの言葉を聞きながら、そしてレオノールという存在は流れる水のように意思のない純粋なモノへと溶けていった。

デミスは果てしなく広がる世界を見渡す。

そこには数限りない流れ続ける魂。

その中に一つ、特別な魂がある。

デミスはそれに触れることはないが、ただじっと見つめた。

☆☆

ルーティは剣を抜き、空を一閃した。

全力の一振りは大気を切り裂き、ビリビリという衝撃を周囲に発した。

「る、ルーティ!?」

俺は驚き、反射的に飛び退いていて何が現れても対応できるように剣の柄に手を触れた。

だが何も感じない。

「何か嫌なものを感じた」

ルーティは不快そうに周囲を見渡している。

「そうか? 俺は何も感じなかったが」

「うん、今は何も感じない」

ルーティは剣を納める。

「……嫌なものだった」

気配が過ぎ去ってもルーティは、寒気が立つほどの殺気を発していた。

ここまでルーティが感情的になることは珍しい。

「一体何が」

俺はルーティが剣を振った空を見上げる。

そこにはいつもの変わらない青空が広がっていた。

「分からないな……けれど」

俺はルーティの側に近づき、その小さな肩を抱き寄せた。

ルーティの身体から次第に力が抜け、俺の方へ体重を預けてくれた。

妹を苦しめようとする力があるのなら、必ず俺が食い止めよう。

妹がこのスローライフを望む限り、今度こそ俺が守るのだ。

ルーティの体温を感じながら、俺は広がる青空へそう誓ったのだった。