軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

149話 辺境ゾルタンは平和に騒ぐ

ゾルタン共和国建国以来、初めての戦争。

将軍ウィリアム卿の宣戦布告から戦争終結までおよそ半日弱、正確には4時間17分。

魔王軍と熾烈な戦争を続けている各国から見たら、戦争とすら認識されない規模の戦いなのかもしれない。

だが当事者にとってそれは輝かしい勝利に違いなく、ゾルタンという国の歴史に未来永劫残される祝いの日となるだろう。

つまりは戦勝記念祭をやるつもりなのだ。

この間冬至祭を盛大にやったばかりなのに。

ヴェロニアとの一件が終わったのにもかかわらず、トーネード市長は祭りの段取りで大忙しだ。

一年通して収穫祭の次に大規模な祭りである冬至祭、初めての外交問題と戦争、そして戦勝記念祭。

自他ともに認める辺境ゾルタンでは、誰も予想できなかった大忙しの日々だった。

☆☆

戦いから三日後。

冒険者ギルドからのCランク昇格の話を断り、俺はリットと一緒に薬屋のカウンターに座る日常へと戻っていた。

「終わってみればあっという間の騒動だったな」

「前のビックホークの騒動は調べている時間が結構あったのに比べると、今回はリリンララやレオノール王妃に時間がなかったからだろうね」

スローライフを送る俺達の外からやってきた、大陸の歴史の真ん中にいるヴェロニア王国の継承問題。

ゾルタンはたまたま巻き込まれただけで、アヴァロニア大陸史においてはやはり脇役であり、騒動はレオノール王妃とミスフィア王妃の戦いが中心だった。

でもゾルタンはそれでいいと俺は思っている。

「戦後処理もあっという間だったな」

「まぁヴェロニア王国はこれからサリウス派が王権を取り返すことになるんだろうし、そんなサリウス王子がヴェロニア王国に持ち帰る最初の功績がゾルタンへの賠償というわけにもいかないからね」

「捕虜にしたヴェロニアの傭兵達もほぼ無条件解放か」

「捕虜にしても傭兵から身代金は取れないし、奴隷商人に売るってのもやりたくないってみんな言ってるから。それに私もやりたくないから大賛成」

「サリウス王子の船にあった賠償金で十分な余裕があるとはいえ、なんだかんだゾルタン人は呑気で……お人好しだな」

「そこがいいんでしょ」

「ああ、心から同意する」

戦争の結末としては異例な程に穏便な結果となったのだった。

「すみません」

ドアのベルが鳴り、お客が店に入ってきた。

「「いらっしゃいませ」」

俺とリットは声を揃えてお客を出迎える。

そのことに元の日常が帰ってきたことを実感するのだった。

☆☆

お昼になり、俺は作った料理を箱に詰める。

「よしできた」

俺は出来栄えを見て満足気にそう言った。

その時、背後から忍び寄る気配がした。

「今日も美味しそうだね」

俺の肩に顔を乗せ、後ろから抱きつきながらリットが言った。

「レッドのお弁当、今日もルーティは喜ぶね」

俺が作っていたのはルーティのところへ持っていくお弁当だ。

中にはソーセージとレタスを挟んだホットドッグとオムレツとサラダが入っている。

オムレツにはにっこりと笑う顔が描いてある。

今日のは自信作だ。ルーティの喜ぶ顔が目に浮かんで、俺は顔をほころばせた。

「それにしても、ルーティはあれから忙しそうだね」

「……そうだな」

ルーティはゾルタン唯一のBランクパーティーのリーダーだ。

今回の騒動では、持ち前のカリスマからいつの間にかゾルタン上層部から頼られる存在になっていて、今でも議会でサリウス王子達がゾルタンを離れるまでをめどに仕事をしているのだった。

活躍したリットにも冒険者復帰の打診が来ているようだが、それでも以前ほどでは無いのはルーティとティセの2人がいるという安心感からだろう。

まぁ、リットの方は冒険者よりも議会へ参加するよう打診されているようだが……。

「断固として拒否! 私はレッド&リット薬草店のリット以外の人生は考えてないの!」

と、言い切って断っている。

ルーティ、リット、ティセがいるから、俺の活躍が隠れてこうして平穏にしていられる部分もあり少し申し訳なく思う。

「ルーティはやっと『勇者』から解放されてスローライフを始めたのに、またこうして騒動の中心に巻き込まれてしまったな」

ルーティはどう思っているのだろうか。

それが少し心配だ。

「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「うん、気をつけてね」

リットに見送られ、俺はルーティのいる中央区の議会へと歩いていった。

☆☆

ゾルタンの町は活気にあふれていた。

昼間から酒を飲み、肩を組んで歌を歌っている盗賊と衛兵。

戦利品の武具を売り出している商人。

槍を手に武勇伝を語る冒険者。

冒険者は喝采を浴びながら気持ちよさそうにしていたが。

「おい、あっちでゾルタン走竜騎士とサリウス王子の海兵が一緒に飲んでいるらしいぞ!」

「まじかよ、見に行こうぜ!」

誰かがそう叫ぶと、冒険者に群がっていた人々はあっという間に去ってしまった。

あとに残った冒険者は肩を落とし、それを見た商人はこらえきれず吹き出した。

盗賊と衛兵は、冒険者のもとへ駆け寄り飲んでいた酒瓶を渡す。

冒険者はもらった酒瓶をぐいっと一気に飲み干し、大きな声で笑った。

「今日は良い日だ!」

ああ、俺もそう思う。

肩を組みながら歌う3人を横目に、俺もつられて笑った。

町にはいたるところで人だかりができていた。

中心にいるのはみんなゾルタンを守るために戦った英雄達だ。

加護の種類もレベルも関係ない。

彼らはどうしようもないほどに強大な敵を相手に、それでも逃げずに愛する人達を守ろうとしたのだ。

間違いなく、称賛に値する英雄達だ。

だからああして女性に囲まれている男がいるのも納得できる。

「って、ダナン!?」

女性に囲まれ歩いていたのは、療養中の『武闘家』ダナンだった。

「おう、レッド!」

相変わらずのいかつい顔でダナンは俺に声をかけてきた。

「ダナン、なんだその状況は」

「おう、外が楽しそうだから外出してるだけだ」

「その女性陣は」

「怪我人が外に出る時は看護師がついてくるもんだろ」

なるほど看護師か。

にしては。

「なんか仲良さそうだな」

看護師達は必要以上にダナンにくっついている。

「おうよ、こいつらは戦友ってやつだ」

「戦友? ……まさかあれだけ言ったのに戦ったんじゃないだろうな?」

ヴェロニアとの戦争が始まる前に、ダナンには絶対に戦うなときつく言ってあった。

確かにダナンはこうして普通に動いているように見えるが、まだ体の中身はボロボロなのだ。

そのことはダナン自身もよく分かっているはずだが。

「違う違う」

ダナンは首を横に振った。

「戦場には行かないって拳に誓わされたんだ。破ったりはしねぇよ」

「だったら一体?」

「彼はすごいのよ!」

ダナンの左腕に抱きついている看護師が目を輝かせていった。

「すごいって……?」

「ベテラン看護師も驚くほど優秀な看護師なの!」

何?

「看護師って、ダナンが?」

まさか戦えないからって、療養所で手伝いをしていたとは。

「おうよ、戦えねぇのは仕方がないがじっとしているのもムカつくし、看護の手伝いしてたんだよ」

「じっとしているのがムカつくって」

本当この男は、根本的にスローライフできない性分の男だ。

俺が苦笑するのを見て、ダナンは大口を開けて笑った。

別の看護師がダナンに寄り添いながら話を続ける。

「患者がどんな大男でも鎧を着たままでも平気で運んでいくし、怪我や骨折の応急処置もあっという間に終わらせるし、まったく疲れが見えないし、私達がくじけそうになってもずっと笑顔だったし。ダナンさんも身体中痛かったでしょうに」

いや多分、久しぶりに動き回れて開放感で笑顔になっていただけかと。

「それにね、ダナンさんは目を覆いたくなるような重傷の患者に対しても、大丈夫だって笑って励ますの。どんなに苦しくてもダナンさんは目をそらさなかった」

……確かに、ダナンはそういうやつだな。

一癖も二癖もあった勇者パーティーの中で、ダナンはどこまでも真っ直ぐな男だった。

「ダナンさんのおかげで命を救われた患者も少なくありません。戦場には行かなくてもダナンさんは療養所の英雄なんです」

「そいつは違うだろ」

笑っていたダナンが真顔になって看護師の言葉を否定した。

「ダナンさん?」

「お前らも医者も、全員が死ぬ気で気張ったんだろ。なのに俺だけが英雄じゃ道理が合わねえ。俺だけじゃねぇ、あの場にいた全員が英雄だろうが」

「ダナンさん……!!」

ダナンのあれは狙って言ってるわけじゃなくて、思ったことをそのまま口にしてるだけなんだろうな。

だけど、見た目からして英雄オーラを放っているダナンから、同じ英雄だと認められ看護師達はそれはもう嬉しそうにはしゃいでいた。

というかダナンのやつ、あれだけ女性に囲まれて全く動揺していないのすごいな。

「レッド」

ダナンが左手で顎を撫でながら頷いて言った。

「こういう戦いは初めてだったんだが面白れぇな」

「看護のことか?」

「ああ、殺すのに比べて生かすのはまた違った奥深さがあるぜ」

ダナンは嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。

「武を極めるってのは終わりの見えねぇ道だな、俺ぁ『武闘家』に生まれて良かった」