軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117話 ルーティは静かに思い悩む

俺とルーティが外に出ると、武器を持った老人達が井戸の側で談笑していた。

「お嬢の話は終わったのかのう?」

老夫が俺達に気がつくと声をかけた。持っている槍は古いがよく手入れされているものだ。

「いやまだだ。今は休憩中で、ミストーム師はお茶を淹れてくれてるよ」

「そうか、お嬢の淹れるお茶は昔から美味しくてのう。夜寒空の中、マストの上で見張りをしていると、お嬢がわざわざロープを登って上まで持ってきてくれてな。あれは本当にありがたかった」

老夫が話しだそうとするが、

「ミゲルや、思い出話の休憩に来た人に思い出話を語るやつがあるかい」

隣りにいた老婆に止められた。ミゲルという名の老夫は、禿げ上がった額をぺちりと叩くと、笑いながら頭を下げた。

「悪い悪い。客人なんて何十年か振りだもんで」

その様子を笑い合う老人達のところを離れ、俺とルーティは日当たりの良い小さな広場へ移動した。

ここには誰もいない。中央には古びたテーブルが一つある。

「 金鱗樹(ゴールドスケイル) のテーブルか。南部のテーブルだな」

極めて腐食に強いこの珍しい素材は、ヴェロニア王国などアヴァロン大陸南部で見られる特殊なものだ。おそらくは彼らがゾルタンへとやってきた船に積んであったものなのだろう。50年も野ざらしだったとは思えないため、今は使われていない家の中で使っていたものをここに持ってきたのかもしれない。

「お兄ちゃん」

俺がテーブルの手触りを指で確かめていると、後ろにいたルーティが声をかけてきた。声色が少し暗い、俺にしかわからないくらいの微妙な変化ではあるが。

「座ろうか」

「うん」

俺達はテーブルに隣り合って座る。

「それで、どうした」

「うん……ミストーム師のことで」

ルーティはやはりどこか気落ちしている様子だった。

「何か思う所でもあったのか?」

「ここまでミストーム、ううん、ミスフィアはゲイゼリクとすごく仲が良さそうだった」

「確かに。お姫様と海賊のロマンスか。後にその海賊が国を乗っ取って王様になるんだものな、ドラマチックだ」

「でも、ミスフィアはゲイゼリクの元を離れ、名前を捨ててこのゾルタンで40年以上暮らしていた……なんでだと思う?」

ルーティの目は真剣だ。ミスフィアの境遇についてルーティの心に何か引っかかるものがあったのか。

「アヴァロニア王都の歴史書には、ゲイゼリクを支持したミスフィア姫は、そのゲイゼリクが父君である先君もろとも王族の大半を殺害したことで、自分の過ちに絶望し城を出ていったとあるな。この時に自害して、それをゲイゼリクは隠蔽したという説もあった」

「でも、今のミスフィアからはそんな印象はなかった」

「うん。公爵に売られたことでミスフィアは王家に絶望していたようだな。海賊行為も躊躇しない性格といい、ゲイゼリクを王にするという目的を達成するには先君達が邪魔になることは分かっていたはずだ」

「だったらなぜ」

「予想はいくつかあるけれど……今は直接ミストーム師が話してくれるのを聞こうと思う」

ルーティが俺の腕を両手でしがみつくように胸に押し当て、俺の肩に額を乗せる。

「ルーティ?」

俺は不安を感じた。なぜルーティがここまで落ち込んでいるのかが分からない。

ルーティが何に苦しんでいるのかが見えなかった。

ズキリと胸が痛み、ルーティの苦悩を理解できない自分に腹が立つ。だが考えても分からない。

ミストーム師の話の中に何があった?

「ごめん、お兄ちゃん」

「どうして謝るんだ……俺の方こそルーティの気持ちを理解してやれなくてごめん。だから、何に悩んでいるのか話してくれないか?」

「お兄ちゃんは……」

「レッドー! ルーティ!」

リットが俺達を呼ぶ声がした。

俺が答えるより早くルーティが立ち上がる。

「ルーティ」

「私はお兄ちゃんのことが好きだよ」

「うん、俺もルーティのことが好きだ」

その時、ルーティの顔に今まで見たこともない哀しそうな表情を見せた。思わず、俺は言葉を失う。

「行こうお兄ちゃん」

ルーティは俺の手を取り、俺達は二人手をつないだまま、ミストーム師の家へと戻っていった。

ルーティが何を悩んでいるのか、その答えもミストーム師の思い出の中にあるのだろう。

俺は、それを見つけなければならないのだ。

☆☆

手を引いたはずのレッドの手は、いつのまにかルーティを追い越し、そしていつものようにルーティの前に立ってルーティを導いていく。

(『導き手』の加護は『勇者』を導くのが役割……)

ルーティは心の中に渦巻く想いに苦しむ。

(お兄ちゃんは『導き手』だから、こうして私を……)

レッドの背中がゲイゼリクの背中に、手を引かれている自分がミスフィア姫の姿に変わる。

ゲイゼリクの加護は『帝王』。その役割は「王」になること。

そのためにミスフィア姫は……。

「ルーティ?」

立ち止まり、心配そうにルーティのことを見ているレッドの顔を見て、ルーティは疑念を追い払うように首を横に振った。