軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その次の日から毎日、ノエルはフェリクスの医師団と打ち合わせを行うため、街に出る事になった。

医師団全てが逗留できるほどの施設が村にはないことと、できるだけフェリクスの健康状態を世間に内密にしておくためだ。王位継承者のフェリクスが滞在する村に、大勢の国の最高ランクの医師が集まるなど、どのような噂となるのかは自明だ。

「折角ベスとしっぽりと鄙びた温泉地でゆっくりしたかったのに」

ベスを玄関でぐずぐずと離したがらないノエルをなんとか送り出して、ベスは一人の時間だ。

ノエルは折角の休暇を、ベスを一人で退屈に放っておいている事に強い罪悪感を覚えているが、ベスはベスで、実は大変充実した楽しい時間を過ごしていた。

(今日は森の東を歩こうかしら)

地元の人間には一見普通の何の変哲もないただの森だが、火山性の植物が生い茂るこの地方の森は、ベスにとって珍しいものでたくさんなので、ちっとも退屈しないのだ。

精霊に愛されているこの娘は、森に入ると珍しい火の体をもつ精霊に挨拶をされ、火山に仕える怒ったような赤い顔のノームにも出会った。

温泉の成分を含んだ黄色い木の実や、熱に耐えるために硬い花びらを持つ植物も、森で見つけた。どれもこれもベスの人生で見たことのない珍しい植物ばかりだ。

「運が良ければ森の中で、火の結晶を見つける事ができるのよ」

そうおしゃべりな精霊は教えてくれた。

ベスの国には存在しない、火山性の生き物で満ちた森を毎日歩いては新しい出会いや発見をして、とても楽しい毎日なのだが、あまり口数の多くないベスは、誰にもそれを告げてはいない。

森で見つけた植物の幾つかは、国に持ち帰って、魔術院の温室で育ててみるつもりだ。

気になった植物をいくつも鉢植えにして、大きな宿の部屋の中は、もう温室のごとく緑の生き物でいっぱいだ。

(どこかに温室があればいいのだけれど)

こんな田舎にきちんとした温室のある場所はおそらくないだろう。

気をつけて手入れをしているが、温室があれば良い状態でこの可愛い植物たちを育ててあげる事ができるだろうに、とベスは少しだけ魔術院の温室が恋しくなる。

(オベロン様は元気かな)

ベスは、毎日森を彷徨い歩いて、珍しい火山性の精霊や植物と出会う、実に充実した楽しい日々を送っていた。

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(あれ? 亀だわ)

ノエルを送り出して、毎日ふらふらと森を彷徨い、植物を採集して遊んでいるそんなある日。

ベスは、森の中で足に少し怪我をした大きな亀を見つけた。

森に亀が歩いているのも珍しいのだが、怪我をした亀はもっと珍しい。

ベスは、

(何か治療してやれる事はないかしら)

と思ってしばらく亀の後をついて、亀が歩みを止めるのを待っていた。

ベスが今日採集した植物の中には、切り傷の怪我に効くものもあったのだ。歩みを止めてくれたら、ベスが足にその植物を巻いてやろうと、そう思っていたのだが、一向に亀は歩く事をやめない。

亀はどうやら、どこかに向かっている様子なのだ。行き先に当てがあるらしい。

(どこに行くのかしら)

何せ時間はたっぷりある。

つい先ほどノエルを街に送り出したばかりだし、宿の女将がお昼のお弁当をベスに持たせてくれたから、日が落ちるまでベスは森で遊んでいてもへっちゃらだ。

(そんな日があってもいいわね)

ベスは今日は亀に付き合う1日とする事に決めた。

ベスは亀の後ろについて行って、ゆっくり、ゆっくり森の奥まで歩いていく。

亀は茂みの中をつき進んでゆき、ゆっくり歩く。

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(不愉快だが、サラトガ魔法伯の診断に間違いはなさそうだ)

フェリクス王太子は、大きくため息をついて離宮の奥の森を歩いていた。

人に姿を見られたくないフェリクスは、離宮の敷地からもう何年も一歩も出ていない。

離宮の敷地は火山の深い森に繋がっている。

だがここの周辺の森は王家の所有する敷地内なので、地元のものは誰も出入りしない。

別に珍しい植物が生えているわけでも、実りの良い果樹があるわけでもなんでもないので、誰に出くわす心配もない。

フェリクスは、風がなく、天気が曇っている日は少しの時間だけ、この森を歩いても皮膚の平和は煩わされない。

そんな日は一人で森を散策し、考え事に耽る。

ここでは誰にも会う心配がないはずだ。

フェリクスは、普段部屋にこもっている時のように、包帯も何も付けずに、シャツとパンツという軽装で、この森を歩く。

この森には誰もいない。フェリクスの姿を見て化け物という者はいない。フェリクスの姿を哀れむものはいない。

離宮のメイドはフェリクスを恐れているし、フェリクスに生まれた時からずっと付き従っていたメイソン家令は、フェリクスの顔を見るといつも哀れだと涙にふせるので、いい加減陰鬱な気持ちになるのだ。

一人になりたい。自分が醜い生き物に成り代わった事を忘れたい。

そう思索に耽っていたはずだったのだが。