軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノエルは、エリクサーの完成から2週間もたったというのに、いまだ一度も魔術院に帰ってはいない。

正確には、帰るどころではない忙しさだったのだ。

エリクサーの作成、そしてそれの完成、摂取した王女の目覚め、その後の書類や手続き、各所への報告そして聴取。

そして今日はノエルの功績を正式に歴史に刻むための学術会議兼、閣議会議が開かれた。

この会議での承認を持って、エリクサーの完成は、歴史に刻まれる。

証人の召喚、経緯の説明、そして議会の承認。

ナーランダが証言し、続いてエズラが数式の証明をする。

そしてロドニーが氷の術式を展開して再現してみせた。

最後の証人の召喚には、ユージニア王女の母であるブリジット第二王妃殿下が自ら証人となり、王女の眠りから目覚めまでの事細かな様子を証言した。

ユージニア王女は、目覚めに驚いてはいるものの、非常に健康で、明日からは外出も許されるという。

ノエルのエリクサーの完成という大功績は満場一致で議会に認められ、会場は万雷の拍手だ。

歴史的な瞬間だ。

この記念すべき日を祝う為に、この後大々的な祝賀会が開かれるという。

「貴方には何とお礼を言っていいか。本当にありがとう」

娘の命の恩人に、会議が終わった後、壇上から降りてきたブリジット第二王妃は、ノエルの前に深く頭を下げた。

王族は臣下のものに頭を下げる事はほとんどない。マナーに反する上に、王族の尊厳にも関わるのだ。

だがこの第二王妃の振る舞いを、誰一人嗜めるものはいなかった。

娘の命を救った恩人に、全ての母ができる事は、王妃であれ平民であれ、どの立場でも同じである。

そして、この外国出身の王妃の王宮内での現在の立場は非常に弱いのだ。

だが自分の産んだ娘の命を救うために、その婚約者がエリクサーを完成させたとなると、今後この王妃の後宮での立場が大きく変わる事は簡単に予測される。

「いえ、そもそも私がついておりながらユージニア王女を魔獣から守り抜く事ができずに申し訳ありませんでした」

ノエルは、現在の後宮の第一勢力である、第一王妃の厳しい視線を背中に感じながらも目の前のブリジット王妃より深く頭を垂れた。

明日より後宮では、激しい勢力争いの渦が巻き起こるのだろう。

(俺の知る所の話ではない)

さざめく女達の不穏な空気に、ノエルはため息をついた。

「しかしエリクサーを本当に完成させるとはな。今後他国からの引き抜きも多くあるだろう。目覚めたばかりではあるが、ユージニアと急ぎ縁を結んで、しっかりとこの国の魔術の発展に尽くすように」

「勿体ないお言葉です。サラトガ侯爵家は長男のノエルはもとより、後継の次男、そして一族皆王家の手足となり、これからも王家に尽くすと、誓います」

「はは、サラトガ家は優秀な息子を得て、次の代ではますますの活躍となりそうだな!今後も頼りにしている」

「勿体ないお言葉です」

ノエルの目の前で実に機嫌の良い会話をくり広げているのはノエルの父であるサラトガ侯爵と、王との会話だ。

ノエルの成し遂げた大きな功績によって、サラトガ侯爵家は公爵に昇爵される事が議会で承認となったのだ。

(このお方に、長男と呼んでもらったのは初めての気がする)

死に損ない、と父から常に罵倒されてきたノエルにとって、目の前の機嫌の良い男は、自分の知らない男のようで気味が悪かった。

王は国産エリクサーの完成という大義名分を得た上で、サラトガ侯爵を公爵に昇爵させる事に成功した。これで完全に神殿派であったサラトガ侯爵家を、王家派に組み入れる事に成功して、笑いが止まらない。

エリクサーを持つという事は、大きな国力の証明となる。

摩擦の激しい諸外国への牽制と、諸外国から遅れをとっていたこの国の魔法薬の分野はノエルによって大きな挽回を示したのだ。

この功績をもたらせたサラトガ家の昇爵に、反対できる材料はどこにもない。

「さすが亡きお母上の血を引いていらっしゃる。ノエル様の手によるエリクサーの完成は、ノエル様に色濃く流れる大聖女の血のなす技であったのでしょうな」

ノエルの母である神殿出身の大聖女の存在がエリクサー完成の鍵である事を、なんとしてでも公式文書に入れ込みたい神殿長が、本日何度目かの同じ発言を重ねる。

エリクサーの完成が王家の施設である魔術院での研究結果のみである事になると、その使用権、製造権は王家のみに属する。

そうなると、エリクサーより格段に劣る治癒力である、聖力の権利を持って勢力を広げてきた神殿はその勢力を急速に落とすだろう。

神殿長は、声高にノエルの群青の瞳がいかにノエルの母である大聖女に似ているのかとの主張をしている。

儚くなったノエルの母の姿が、ノエルに似ているなど今まで一言もこの男はノエルに話したことなど、なかった。

王家、サラトガ家、神殿。

ノエルの誕生からその人生を否定してきた勢力が、たった一晩で、掌を返したごとく、ノエルに群がってくる。

(あれほど父に認められたいと、あれほど神殿に祝福されたいと、あれほど王家の役に立ちたいと思っていたのにな)

ノエルは今日何度目かの深いため息をついた。