軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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3人は言葉もなく、粛々と森を進んでゆく。

細かい灰が霧の様に視界をはばんで、よく見えない。

だが、ベスは、何か確信をもって、森の奥に向かって前にずんずんと歩いていく。

フェリクスも、ラッカもそのべスの後ろに親カモについてゆく子供のカモのようについていく。

(べスには恐らく、どこに向かえばよいか分かるのだろう)

フェリクスにとっては死出の行進に等しいにも関わらず、

「無事にかえる事ができたら、お祝いをしましょうね」

そうのんびりとべスは語る。

「私の育った村ではね、何かお祝い事があると、赤いパンを焼くのです。赤いパンの中身は芋を甘く煮たものなのですけれど、はちみつでゆっくり煮るから本当にお芋がふかふかで甘くて美味しんです。フェリクス様にも焼いて差し上げますからね、お腹を空かせて帰ってきてください」

「ははは、それは楽しみだ。実は私は芋は食べた事がないんだ。王族という生き物は不便な生き物でね。芋は平民の食べものという事で、私は食べさせてもらった事がないんだ」

「まあ! なんてお気の毒!それではお帰りになられたら、温室から一番よいお芋を温室から収穫しましょう。私は植物を育てるのが得意なのですが、その中でも一番お芋が得意なのです。私のお芋はとても美味しいと、ノエル様にもとても喜んでいただいていますよ」

「君が育てる芋なら、きっと世界で一番うまい芋なのだろうな、楽しみだ」

何でもないような会話に心がなごむ。

己の宿命を知り、悲嘆と苦悶に満ちていたフェリクスだったが、今は自分がこのまま火口で死んでも、この国の神の一柱になっても、それとも人として生きて帰る事ができるのか、もうどうでも良かった。

(私はたった一人ではない)

鏡が見せてくれたジア殿下の映像は、とても孤独なものだった。

たった一人で神の領域に行って、たった一人で姿を変えて、たった一人で火口に望む。

誰一人ジア殿下を助ける事はできない。

愛おしい人の姿はみえども、決して交差する事はない次元にその身を据え置かれ、森をただ彷徨い歩く。

(どれほどの孤独と戦っていたのだろう)

おそらくフェリクスが抱えていた悲嘆も苦悶もそれは、永遠の孤独へ捨て置かれる事への恐怖だったのだろうと思う。

だが、今この瞬間、フェリクスは一人ではない。

(もしも私が亀になって戻ってきても、・・きっと連中はあまり気にしないだろう)

現金なメイドのオリビアなら、フェリクスが亀になろうが人であろうが、ビクビクと顔をひきつらせながらでも、今まで通りに遣えてくれるだろう。

(王都からのお菓子を与えたら、亀になった私にでも大きな笑顔でありがとうと言ってくれるに違いない)

フェリクスは、現金なオリビアの、その現金さを思い出して思わず笑みがこぼれた。

メイソンならばどうだろう。あの愛の重い家令は、どんな姿で戻っても、ただただ、フェリクスが生きて帰った事に喜んでくれるだろう。

ノエルであれば。あの男であれば、四方八方手をつくして、フェリクスが人に戻る方法を共に考えてくれるだろう。

ラッカに至っては、そもそもフェリクスの姿は最初から見えてもいない。

そして、ベス。

(お帰り。ただそう言って、私が亀だろうが、人だろうが、眉の一つも動かさないで迎えてくれるだろう。もしも私が神の世界の囚われの身になってしまっても、ひょっとするとあの温泉まで会いに来てくれるのかもしれない)

神々の温泉に、ベスが会いに来てくれるのであれば、怖くはない。

フェリクスの眼裏にあの日の白く美しいベスの姿が思い出される。

(私は、決して一人になる事は、ない)

やがて灰色の霧はゆっくりと晴れてゆく。

あたりに硫黄の刺激臭が満ちてきた。ゆっくりと白い岩肌と、水色の水面が灰色の霧の間からその姿を現してくる。

体中の総毛が逆立つ。

神の領域に、決して足をふみいれてはいけない領域に入った事を、全身の細胞が全力で告げた。

「フェリクス様。ここですか。何とも薄気味悪い場所ですな」

ラッカは厳しい顔をして、体をさすった。

眼が見えていない分、ラッカの肌感覚は研ぎ澄まされている。

「ああ。白い岩肌の水色の温泉だ。遠くには人外の姿がみえる。ここは建国神話にあるあの温泉に間違いない。ラッカ、気を付けてくれ。ベスの手を離さないでくれ。ここは足元が良くない」

視界を阻む灰色の霧の向こうには、白い湯気が立ち上っているのが見える。

白い湯気のその向こうには、人外の存在がその身を水色の湯に預けているのが見える。

今日の湯治客は、妖精の群れの一群。

男を惑わし、森の深くに連れてゆく美しい女の姿をした魔物の一種だ。

火山性の毒ガスにやられてしまったのだろう。爛れた皮膚と、破れてしまった小さな羽根の体を、一匹一匹、ぽしゃんと温泉に預けてゆく。

奥には、頭が半分欠けたオオサンショウウオの人外の一種が見える。

その手前には、瀕死のケルピー。舌を出して、目は白目を剥いている。意識が無いのだろう。

どうやら人外の存在もみな、火山の活動による甚大な被害を被っている様子だ。

(・・・)

フェリクスは、覚悟を決めた。