軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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正式に番となってから3ヶ月、騎士団本部ではある光景がすっかり日常となっていた。

「副隊長〜、また迎え来てますよ」

「えっ」

訓練終わり。汗を拭きながら顔を上げると、訓練場の入口にレオンさんが立っていた。

今日も輝くばかりのイケメンだ。文官服姿って、なんであんなに格好いいんだろう。

「お疲れ様です」

近づいてくるだけで、ふわりと落ち着く匂いがする。

木の香り

インク

それらが混ざり合った、レオンさんの匂いに胸の奥がじんわり温かくなる。

「……えへへ」

気づけば頬が緩んでいた。すると周囲の騎士達が生暖かい目を向けてくる。

「出た」

「番モード副隊長」

「匂い嗅いだ瞬間これだもんなぁ」

「き、聞こえてますよ!?」

真っ赤になって抗議すると、レオンさんが小さく笑った。

「帰りますか」

「はい!」

自然に差し出された手を取る。もうこの動作にも慣れてしまった。すると

ゴゴ……

小さく低周波が響く。周囲が「あー……」またかみたいな顔をした。

「レオンさん、また鳴いてます」

「エレナが嬉しそうなので」

「理由になってません!」

でもちょっと嬉しい。

騎士寮の自室へ戻ると、私はベッドへ飛び込んだ。

「つかれたぁ〜……」

ぽすん、と顔を埋める。すると、ふわりと大好きな匂いがした。

「……えへへ」

私はベッドの上に置かれていた上着をぎゅっと抱き締めた。レオンさんの上着だ。前に「忘れてますよ」と届けようとしたら、

『置いておいてください』

と言われたので、そのまま借りている。最初は返すつもりだった。本当に。でも…これを抱いて寝ると、ものすごく落ち着くのだ。安心する。レオンさんに包まれている様な感覚になり、ぐっすり眠れる。だから、返せなくなった。

「……いい匂い」

顔を埋めながら呟く。昔の私なら絶対信じられない。だってゾウ獣人の“匂い文化”なんて、全然理解できなかった。

使用済みタオル文化とか無理!って思ってた。

でも今は、レオンさんの匂いを探してしまう。抱き締めたくなる。深く吸い込こみ、その香りに落ち着く。

好き。

胸がぽかぽかする。

「……完全に本能じゃん」

そう呟いた瞬間。

ビリリ……

小さく低周波が漏れた。

「あっ」

最近は一人でも鳴るようになってしまった。しかもレオンさん関連限定。我ながら分かりやすすぎる。

そんなことを思いながら、また顔を埋めてるいた時、コンコンと扉が鳴った。

「エレナ?」

「ひゃっ」

私は飛び起きた。

レオンさんの声だ。慌てて扉を開けると、レオンさんが不思議そうな顔をする。

「どうしました?」

「な、なんでもないです!」

慌てて扉を開けたので、思わず持ってきてしまった上着を、さっと背後へ隠した。

だが…レオンさんの視線が、ちらりとエレナの背後を見る。

沈黙。

「……」

「……」

気まずい。なにかものすごく気まずい。

レオンさんが静かに口を開く。

「それ」

「ひゃい」

「俺の上着ですよね」

「ほへぇ!?……はい」

終わった。バレた、羞恥で死ぬ。

レオンさんはなぜか少し黙った後、赤くなった目元を片手で覆った。

「……駄目だ」

「えっ」

「嬉しすぎる」

低い声で呟く。顔はまだ耳まで赤い。

ゴゴゴゴ……

部屋全体の空気が震えた。

「わっ」

私はその強さに思わず笑ってしまった。するとレオンさんが、ゆっくりこちらへ歩いてくる。そしてぎゅう、と抱き締められた。

「っ」

落ち着く匂い。

安心する振動。

私は自然とその胸へ擦り寄った。

「……やっぱりこっちの方が落ち着きます」

「当たり前でしょう」

レオンさんが小さく笑う。それから、耳へそっと触れてきた。

「ひゃっ」

「まだ可愛い反応しますね」

「だ、だって急に触るから……!」

真っ赤になる私を見ながら、レオンさんが優しく目を細める。

「エレナ」

「はい?」

「好きです」

表情に似合わず、さらっと言われた。そんな一言で心臓が跳ねる。でも今は、前みたいに慌てない。だって、私も同じだから。

「……私も、好きです」

そう答えて、鳴き声を返す

ゴゴ……

ビリリ……

二人の低周波が、柔らかく重なった。心地いい振動が部屋を満たしていく。私はその音へ身体を預けながら、小さく笑った。昔の私は、本能なんて嫌いだった。理解できなかった。でも…レオンさんと出会って知った。好きな人の匂いで安心する事も、触れられて嬉しくなる事も、隣にいるだけで落ち着く事も。

全部。

悪いものじゃない。

むしろ、とても幸せだ。

私はそっとレオンさんへ抱きつきながら、目を閉じた。

──本能って、案外悪くないのかもしれない。