軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16 わたしもどこからともなくしゅっとなにかをだせたりできるようになれるかもしれません

私は運動神経がいいと旦那様に褒められますし、人間の魔法も鼻血が出ないようにだいぶ使えるようになりました。旦那様は護衛たちと剣術や体術の鍛錬を毎朝していて、私もその真似は上手にできてると思います。だけど途中で疲れてしまうので、アビゲイルの体はまだちょっとだけ弱い。

だから旦那様と同じに軍のお仕事をすることはできません。そのうちできると思うのですが、今はまだ駄目です。でも治癒魔法師なら、ウェンディみたいに弱くてもついていけるのです。魔王の頃より私の手や足は少ないですけれど、ウェンディよりはずっと強いから、治癒魔法さえ使えたら私だってついていけるはずってそう思いましたのに。

「あと十センチもだなんて……多分来年ぐらいにならないと無理です……」

思わず手の中の靴下を握ってしまいましたら、旦那様はそっぽを向いて口を押さえていた手を下ろしてゆっくり私の指を開かせてくれました。そして靴下をもう一度伸ばしてテーブルに置いてくださいます。覆いかぶさるように私の前に回った腕でぎゅっとされたので、そのままもたれかかりました。とてもがっしりしててちょうどいい。

「遠征の間は、子爵夫人として屋敷を護ってくれるんだろう?」

「それはそうです!ばっちりです!でもそれはそれです!」

「ふはっ、うん、それはそれとして、俺も君を置いて遠出するのは嫌なんだけどな」

「……お仕事だから仕方ないのです」

「さすが俺の妻は頼りになる」

ふわっとしたつむじの感触で、口づけがおりてきたのがわかります。

去年の遠征のとき、一緒に行こうとなんて全然思わなかったのはどうしてだったかと考えました。きっとその頃はまだこんなにいつも口づけしてくれてはいなかったからじゃないでしょうか。

お優しいのは変わりませんし、てっぺんの苺もくださってましたけども。

時々頭を撫でてくれてはいても、抱っこはしてもらえていなかった。あ、おなかが痛くなったときはベッドに運んでくれたかもしれません。

でもいつもじゃなかった。いつからいつもになったのでしょう。

旦那様が私の髪をくるくると指に絡ませては離し、またくるくるとします。

「……ロングハーストの、地図に載っていなかった村があるだろう。君が指差して教えたところだ」

第四王子から連絡があったのだと旦那様は続けます。

「あの村は、君の実母や義母のブリアナが生まれ育った村らしいな。――あと領主補佐もか」

「伯爵家とは古くから縁のある村だと聞いたことはあるので、そうだったのかもしれません」

「あ、うん。君は興味なかったかやっぱり」

「はい!」

「領主補佐は金で買ったとはいえ爵位持ちだったし、君の実母の実家も何代か前に準男爵位を買った家だ。古くから続く伯爵家と縁を繋ぐために外面を整えたんだろうけれど、それでもなお、出身の村を隠し続けたのは魔王の存在が関係しているんじゃないかと思ったんだが」

「地図に載ってないのは知ってましたけど、隠してたのは知りませんでした。載ってなくても困らなかったので」

私がお手伝いしてたのは書類のことばかりで、領民に直接指示を出したり他領や商人と取引したりするのは伯爵や領主補佐たちでした。私はあの人たち以外と話すこともなかったですし、私が知っていればいいことは知っていたので困ったりはしません。内緒というものは、旦那様やタバサたちとしたのが初めてで、内緒が楽しいことも知らなかった。あの人たちもきっと楽しかったのかもしれません。

旦那様の足の間で絨毯の上に座っていたのですが、そこからお膝によじ登りました。ほっぺとほっぺをくっつけたら、すりすりしてくれて気持ちがいい。

「領都を中心に俺もドリューウェットでも調べさせていたのに、その村のことは出てこなかったから随分念入りに隠してたと見える。行方がわからなくなっていたブリアナ元伯爵夫人、あれもどうやらその村にいたらしい」

「はい」

「村人の大半は領主館に避難しているが、そこにブリアナはいない。領都に向かう途中ではぐれたって話だ――アビー」

旦那様は私の頬を両手で挟んでじっとまっすぐ目を覗き込みましたので、私も同じにしてさしあげます。

「護衛は全員屋敷に置いていく。ないとは思うが、もし万が一ブリアナが来ても会わないでくれ。……俺が留守の間は、外出せずに屋敷を護っててくれるか?」

「お庭は」

「護衛の奴らがついていればいい」

「じゃあ普段と同じです!お任せください!」

旦那様は、ははっと笑った後にそのまま大きなため息をついて「行きたくない……」とつぶやきました。

「お仕事は大事です」

「うん……、あー、イーサンも強いからな。いざというときはイーサンの後ろに隠れるように」

「イーサンがつよい!?」

「俺が子どもの頃、剣術の基礎を教えてくれたのはイーサンだぞ」

なんてこと!気がつかなかっただなんて!私もお願いしたらこっそり教えてもらえたりしないでしょうか。

「……今イーサンに習おうと思ってるだろ。イーサンの得意は暗器だか――っ」

旦那様が口をちょっと尖らせたので、ぱくりとそこを唇ではさみました。

おねだりの前は口づけするといいって教わりましたので!