軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8. 意外と適任

レティが体育祭に出られない。全校生徒が衝撃を受けた瞬間だった。

楽しみにしていた観衆は悲嘆し、ある程度の強者はレティにぶっ飛ばされずに済むことに歓喜し、大抵の人々は驚いた。

「拝見してもよろしいでしょうか?」

「え、ええ。大丈夫よ」

親衛隊の面々が回し読みする。

要するに、強すぎて公正な試合にならないから、出場禁止。体育祭では審判になってほしいということらしい。その他は審判をするときのルールや作法などなど。レティがこんな細かいことを覚えられるはずもない。苦渋の決断だったことは容易に想像できる。

「殿下だけずるいわ!!」

レティがダァンと机を叩く。親衛隊は机を叩き割っていないかヒヤヒヤしたが、ひびが入っているだけだった。自分でも気づいたらしく机のひびをさするレティを見かねて、ルネが魔法で修正する。その間に今まで静かに読み込んでいたロラが資料の読み込みの補足をした。

「……いえ、レティ様。クロヴィス殿下も審判なようですよ」

「えぇ!? どうして?」

殿下は魔力コントロールに優れており、レティのように他人を傷つける心配がない。審判側につく必要がない。

親衛隊員が顔を見合わせる。

十中八九、レティの出ない体育祭などに興味はなかったのだろう。実際、殿下はどの競技でも一歩も動かずに指だけ動かして終わりだった。ただ、レティと最終決戦で戦うためだけに他の生徒の相手をしていた。有象無象を無意味に蹴散らすよりは、レティと同じ審判でレティの側にいる方がいいに決まっている。

「こ、公平性のためではないでしょうか? レティ様が出ないのに、王太子殿下が出てしまえば、殿下の組が勝利してしまいます」

「そうですよ! きっとそうです!」

殿下はレティ様にしか興味がないからだ、なんて言ってしまえば、レティはまた突拍子もない思考になるだろうし、殿下に殺されかねない。ヴァネッサとアネットのフォローに、レティは首を傾げたまま納得した。友達の言うことを信じる性格でありがたい、と皆が思っていた。

「……そうなのね。殿下には申し訳ないけれど、審判として頑張るわ!」

「はい。私たちの勇姿を見守っていてください、レティ様」

一度決まったことに、レティはうだうだ言わない。ひとしきり反応し終えたら、すぐに切り替えて、前を向く。

「もちろんよ! この私が、ビシッとバシッと見極めるわ!」

まさに不敵といえるレティに、親衛隊は酔いしれた。

……それが、先週のこと。

この一週間、レティは、「私は出場しないのだから、こういうところで活躍しなければ」と体育祭の準備に奔走し、放っておかれた殿下はとても不機嫌だった。もちろん、レティの前ではにこやかだったが、生徒会室は地獄の空気だった。レティはそんなことを知らないため、不機嫌なのを薄々勘づきながらも体育祭……全校生徒を優先した。アネットはそんなレティの邪魔をする気にもなれず、何度も心の中のレティに励ましてもらっていた。

そうしてとうとう迎えた全校体育祭。朝から快晴で、レティは「さすが私ね! 天に愛されているわ」と宣った。実際、占星術師の予想では大雨だったため、間違いではない。

入場者数は少し減ったが、例え審判であろうと殿下やレティを見たいと、少々お金持ちな平民から生徒の父兄まで、多くの人が学園の観覧席に座っていた。

「いちについて、よーい……はじめ!」

パァン!

珍しく真面目な顔をしたレティが、魔素弾を打つ。ただ魔素を固めただけのものだが、レティにとってはその魔法式すら難しいため、レティの声に合わせて、観覧席からルネが発動させた。

『レティ様、この種目は障害物を乗り越えてゴールに行くことがルールになります』

ルネの伝達魔法に乗せて、ロラがルールを説明する。隙を見せれば競技中であろうとレティに愛を伝えようとする殿下を、どうにか生徒会の仕事と絡めてアネットが止める。

レティは皆の支援を受けて、その動体視力と野生の勘で、どんな不正も見逃さなかった。競技が始まってから、三人くらいが失格になった。愚かな奴らである。レティのお仕置きが待っていること間違いなし。

そんなこんなで案外穏やかに競技は進行されていた……のだが。

「キャーーー!」

女生徒が髪や衣服を引っ張られ、宙に浮く。

第三の障害物は、ピクシー達から鍵を奪うこと。本来ピクシーは悪戯好きだが、それでは競技が成り立たない。そのため、体育祭で使用されるピクシーは教師と契約している個体の、はずだった。