軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19. 葡萄祭りでカウチェイス

「ぐぬぬぬぬ……」

レティは猪を背負ったまま、頬を膨らませる。

「ハッハッハッハ! まだまだだな、レティシア!」

「ダメだろ、妹をいじめちゃ! ほらレィちゃん、パパの方がお兄ちゃんよりもっと凄いからね!」

オベール家の明るさに、雨雲が逃げたのかもしれない。葡萄祭りもやはり晴天だった。

葡萄祭りの狩猟にはルールがある。

まず、オベール家が本気を出したら山から動物が、いや塵ひとつ残らないため、狩る数は一匹のみである。次に野生動物が路頭に迷わないために群れのボスを倒さないというのも重要だ。

その中で誰が一番大きく、強いやつを倒せるのか、という話なのだが。

「レィちゃんはすぐ喧嘩を買ってしまうのがなぁ」

「だって……この私に向かってきた気概を認め、戦ってやらねば!」

「それでは待ちかまえている強者との戦いができなくなってしまうんだ。気持ちはわかるがな!」

今回は一番大きい熊を父が、次に大きいのを兄が狩った。なお魔物ですら軽く倒すため、そもそも山の動物など指先一つで伸せる人たちの会話である。

母や村の男共は解体するために腕を捲り、女共は臭み抜きの準備を始める。そこに町での仕事が終わったらしいサラがやってきた。

「サラ! お疲れ様!」

サラは二年前、十六歳にして行政書士の試験に受かり、今や祭日でさえ完全に休みにはできないほどに人気だった。

「もう狩猟は終わっちゃったか。……生まれた時から見てるけど……やっぱレティのお母さんが解体班にいるの、違和感すごいよね」

「え?」

母が獲物にナイフを入れる。おっとりのほほんに見えるが、戦時中は前線で働いていた女傑である。

「……レィちゃん、後でお話がありますからね」

「ひゃ……ひゃい」

血の滴るナイフを持ったまま、勝手に狩猟に参加したことを叱る母の姿に、感覚の麻痺した領民たちは葡萄祭りの風物詩を感じていた。

そんなこんなで大鍋がぐつぐつと煮え始めた時、オベール家の筋肉たちが一斉に牧場の方を見る。なんだと思っているうちに轟音が聞こえてきた。

「う、牛が!!」

誰かが叫ぶ。

ドタドタと暴れ回り、祭りの会場へ向かってくる牛たち。このまま突撃されては、祭り会場が台無しに、いや死傷者が出る可能性まであった。

「っ止めなければ……ってシル!?」

レティや長兄が向かおうとしたところで、民を驚かせぬように大人しくしていたシルが駆け出す。一匹一匹を追いかけ、威圧し、回り込むようにまとめていく。なんとも鮮やかに、会場に着く前に彼らは柵の中に戻された。

「うん、見事!」

英雄が頷いたところで、シルが壊れた戸を無理やり閉め、自慢げに戻ってきた。牧場主は全頭いることの確認と戸を直しにいく。

「す、凄いわ! シル!」

「これが牧羊犬ってやつか? 賢いなー」

レティは感激のあまりシルに抱きついた。長兄が撫で、次兄が首輪の効力を確認する。

サラは「いや犬じゃなくて狼……魔物ですよね」とつっこんでいたが、オベール家には聞こえていない。

「なんとお礼を言えば良ろしいのか……」

「お礼はシルに言ってちょうだい! さ、葡萄と鍋をいただきましょう!」

戻ってきた牧場主が頭を下げる。満更でもなさそうなシルの舌舐めずりを見て、立派に育ったあかつきには肉を献上すると約束した。

こうして無事に豪快に焼かれた熊ステーキや新鮮な野菜のたくさん入った猪鍋、香草焼きなどが出来上がった。伝えておいた時間にアネットとヴァネッサが訪れる。その他親衛隊員も誘ったのだが、ルネは引きこもりだし、ロラは血が無理だった。

「お招きいただきありがとうございます!」

「いい匂いですね……野営を思い出します」

レティたちは絶品料理とたわわに実った葡萄に舌鼓を打ち、サラや親衛隊員達はレティの情報を共有し、楽しく過ごしていた。

宴もたけなわというところで、営火の前でレティが尋ねる。

「サラは、どうしてお仕事を始めたの?」

「今更? ……んー、秘密かな」

「もう! いい女性だからって〜!」

未来の国母として民と真摯に関わるレティを見て、サラは庶民だからこそ助けになれる道を探したのだ。行政書士として民の動きを把握し、手紙の中でレティに送る。そうすれば、レティは殿下やロラなど然るべきところに働きかけてくれる。

「……そういえば、殿下は?」

「殿下は外せない公務で来れないのよ」

レティ以外の皆が、殿下の相変わらずの不運に手を合わせた。

その後の腕相撲大会は、今年も英雄の圧勝だった。「あ、空にドラゴンが」とかふざけつつ、父の威厳を見せつけた。

一方その頃、他国の使者との会合の最中、レティに会いにいけずにとてつもなく不機嫌な殿下は、ある計画を考えていた。

「それにしても……なんでこんな変に壊れて……」