軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95 オリビアさんは、やっぱり最強?

「お客様、来ないですねぇ~」

開店してしばらく経つが、今日は全くと言っていいほどお客様が来ない……。

暇すぎて、店内のテーブルや椅子、窓もキレイに拭き上げてしまった。

いつもならこの時間は冒険者の人や近所のご婦人で賑わってるのになぁ……。まだ二組しか来ていないし、そのお客様もすでに帰ってしまった。

僕は暇すぎて、さっきから店の扉を開けては外の通りばかりを眺めている。

「ブレンダちゃんの言った通りになっちゃったわねぇ~」

キッチンでお冷グラスを磨きながら、オリビアさんも苦笑い。

実は昨日、ブレンダさんから他の冒険者が食べに来られないかも、と予め教えられていた。

なんでも、王都から来る御一行様のために、宿泊予定地周辺の問題が無いか領主様から再度安全確認の依頼が出されたらしい。

オリビアさんも、今までこんな風に何度もしなかったのに、と驚いていた。

領主様が代替わりして初めての年だから、色々不安なのかもね、と言っていたけど。初めてはやっぱり誰でも同じなんだなぁ、と顔も知らない領主様に勝手に親近感を覚えてしまう。

「まぁでも、ユイトくんが来る前は大体こんな感じだったのよ? お客様がゼロの日もあったんだから」

今日はのんびりしましょ、とオリビアさん。

ハルトとユウマの宣伝効果のおかげか、営業を再開してからはほぼ毎日と言っていいほど冒険者の人たちが食べに来てくれる。

しかもお替りを注文する人が多いから売り上げも好調で、このままならもう一人雇おうかという話になっていた。

だけど僕は、その話を聞いてからずっとモヤモヤしている……。

これは、オリビアさんにもトーマスさんにも言えないな、と内緒にするつもりだ……。

「はい、どうぞ」

そう言って僕の前に差し出されたのは、美味しそうな大粒の 葡萄(トラウベ) 。

フルーツサンドに使用する食材だけど……?

「今日はもう誰も来なさそうだし、おやつにしちゃいましょ!」

オリビアさんはそう言ってウインクすると、パクっと一粒頬張り、美味しいわぁ~と頬を押さえている。

僕もツヤツヤのトラウベを口に入れると、噛んだ瞬間に甘い果汁が口いっぱいに広がった。

「やっぱりこのトラウベ、美味しいですね!」

「ね! 皮ごと食べれるから手も汚れないし、いいわよねぇ~」

このトラウベは、ハルトがトーマスさんと冒険者ギルドに向かう途中で仲良くなった青果店の人たちが育てている品種で、今年は特に美味しく出来たと言っていたそうだ。

この村で青果店を営むジョージさんのお店にも特別に卸してもらえる事になり、ハルトは大喜び。

なんでも、ハルトとユウマがまた食べたいとお願いしたかららしいけど……。

本当かどうかは、僕にも分からない……。

「明日からしばらく、トーマスさんいなくなっちゃうんですよねぇ……。ハルトとユウマ、寂しがるだろうなぁ~……」

ついに明日から、トーマスさんの指名依頼の仕事が始まる。

今朝は裏庭でハルトの剣の稽古をつけていたけど、それもしばらく無くなっちゃうから二人とも寂しいだろうな。

「そうねぇ、一応帰宅はするけど、夜遅くなりそうだしね。依頼の間はハルトちゃんもユウマちゃんもお店にいてもらいましょ?」

「そうですね、二人とも立派な店員さんですもんね」

「ふふ、そうね! また皆でやりたいわね!」

和やかに時間だけが過ぎていき、とうとうこの日は二組だけの来客となった。

*****

「オリビア、ユイト、ちょっといいか?」

夕食も終わり、ハルトとユウマはすでに就寝中。

僕もそろそろ寝ようかと思っていたらトーマスさんに呼び止められ、僕とオリビアさんはソファーに腰掛け話を聞く事に。

「ここにはあまり関係はないと思うんだが……。念のため、頭に入れておいてくれ」

いつもとは違う様子のトーマスさんに、僕は少し落ち着かない。

オリビアさんも不安そうだ。

「ギルドから早馬が届いたんだが……。この森の奥で転移の魔法陣らしき物が見つかったそうだ」

「転移の? そんな物がどうして……」

転移の魔法陣……?

オリビアさんが驚いているから、凄い物なのかもしれない……。

「あの……。それって、どういったものなんですか……?」

僕がオドオドと訊くと、トーマスさんもオリビアさんも優しく教えてくれた。

魔法陣は、簡単なものから難易度の高いものと幅広くあり、中でも転移の魔法陣は誰でも作れるものではなく、高度な技術と魔力を持った者にしか扱えない、難度の高い魔術らしい。

しかも、どこにでも作れるものではなく、術者が一度その場所に足を運ばないと魔法陣は張れないそうだ。

魔法陣を張っている間も術者の魔力を消費するため、大抵の場合は魔石や魔核を使って魔力を補うが、今回発見されたものには魔石は無く、しかも数か所同時。

どうやら、相当魔力の多い人物が張った物らしい。

「と、言うことは……。その魔法陣を作った人は、この村にも来ていたかも、って事ですか……?」

「そうなるな。どんな目的で張ったか分からないが……。時期が時期だけに、この数日、警戒だけはしておいてほしい」

王都から来る人たちを狙っているのか、また別の目的があるのかは僕には全く見当もつかない……。

だけど、警戒しろと言われたら真っ先に浮かぶのはハルトとユウマの顔。

二人にはどんな事があっても、絶対傷一つ付けないぞ……!

僕が手を固く握っていると、オリビアさんが優しく手を包んでくれる。

「大丈夫よ。私だって冒険者は引退したけど、まだまだ魔法は使えるのよ?」

「えっ!? オリビアさん、魔法使えるんですか!?」

何それ! 初耳なんだけど……! 僕は思わず大声を出してしまい、慌てて口を押さえた。

「ご、ごめんなさい……! でも魔法って……!」

「ふふ。私はね、これでも攻撃魔法が得意だったの。若い頃は頑張ってランクも高かったのよ~?」

懐かしいわぁ~、と僕の手を握りながら昔を思い出しているみたい。

「オレも、出会った頃はよく助けられてたな」

「す、凄い! トーマスさんを助けるって……! カッコいい……!」

そう言うとオリビアさんは得意気にウインクして、ユイトくんも私が守ってあげるからね、と笑っていた。

もしかしたら、僕が怖がらない様にワザと冗談ぽく言ってくれたのかもしれない。

だって、いまでも僕の手をずっと優しく包んでいてくれているから。

「あ、転移の魔法陣って、海の近くに行って張れば、この村でも魚介類が食べ放題って事かぁ……」

僕がポツリと呟くと、二人はアヒージョを思い出したらしく、真剣に海に行くかまた考えている。

簡単に出来れば、この辺りでも魚介類が手に入るんだがな、とトーマスさんは嘆いていた。

「明日は夜明け前に出るから、その後の事は頼んだぞ?」

「えぇ、トーマスも気を付けてね?」

「あぁ、大丈夫だよ。あいつ等に会ったら食べに来るか訊いておくよ」

「そうね、今回は絶品ばかりだから楽しみにしててって伝えておいて!」

「そうだな! 帰りたくなくなるぞと言っておくよ」

二人は僕を見てにやりと笑うと、大袈裟な会話を始める。

「ちょ……、オリビアさん! トーマスさん! 緊張するんで止めてください~!」

そんな事言われたら、プレッシャーを感じるじゃないか……!

だけど、お二人の期待にも応えたいな。

そう思いながら、僕は当日のメニューを考えていた。