軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

384 ひせきのこころ

少女たちと別れた後。狼の背に乗り、再び王都の街中を疾走する。

頬を掠める少し熱を帯びた風に、どこか遠くの方で響いてくる爆発音と何かが崩れる音。鼻につく硝煙の臭いでさえ、いまでは感覚が麻痺したかのように受け入れてしまっている。

《こんなモノか……。おい、さっさと教会に行って、主のところに戻るぞ》

狼はくるりと 踵(きびす) を返し、ユウマとレティたちがいるという教会へと向かおうとする。

その間にも狼は出会い頭の挨拶だと言わんばかりに魔物を蹴散らしていたが、ハルトもリュカもその光景をすっかり見慣れてしまい、何も言わなくなっていた。

(まもの、あんなにいたのに……。いまは、ぜんぜん、いないです……)

この速度にも慣れたもので、目まぐるしく変わっていく景色のなか、ハルトは何かを探すように周囲を見渡していた。

あの武器屋通りの周辺にいる大きめの魔物はあらかた片付いたと言っていたが、なぜか胸騒ぎがして仕方がない。

(はやく、ゆぅくんと、おにぃちゃんたちを、みつけなきゃ……)

フランシェたちに譲ってもらった弓を握り締め、小さく息を漏らす。

それに……、

(りゅかくん、いつもと、ちがいます……)

あの大きな館を出た後から、リュカの言動や行動が少し気になっていた。

(……どうして、ゆぅくんのばしょ、わかったんだろう……?)

そんな考えが、ふと頭の中を過る。

すると、目の端で何かが飛び出してくるのが見えた。

「あっ! おおかみさんっ!!」

ハルトがあぶないと声を掛ける前に、狼に向かって複数の影が一斉に襲い掛かった。

狼はそれを間一髪避け切るが、周囲をその影に囲まれてしまう。

距離を取ろうと下がると、ジャリ、と後方から瓦礫を踏みしめる音がした。何頭もの魔物が唸り声を上げ、ジリジリとこちらとの間合いを詰めてくる。

《……チッ。“シャッテン・コヨーテ”か……!》

狡賢く、体力を消耗させるように執拗に追い回して獲物を狙う。

そして少数の群れで行動する魔物。

「あのまもの、かげのなかから、でてきました……!」

“陰”に特化した魔物である“シャッテン・コヨーテ”は、数分間もの間、陰の中でじっと息を潜めて獲物を狙う習性がある。

そして何より、陰から陰へと移動する事が出来るというその 特(・) 性(・) が厄介なものだった。

それを知る狼は何も言わず、猛スピードでその場を駆け出した。

それを逃さないとばかりにシャッテン・コヨーテの群れが追いかけてくる。

《……おい、妖精。もう コ(・) レ(・) でいいんじゃないのか?》

そこでふと、狼が壁を駆け上がりながらリュカに話し掛ける。

ハルトはその会話を意味も分からずただ聞いているだけだったが、当のリュカは少し考える素振りを見せ、ようやく顔を上げた。

《……うん。そうだね。このまもので た(・) め(・) し(・) て(・) みるよ》

そう言いながら、リュカはハルトに振り返る。

ゆらゆらと街を燃やす炎に照らされた瞳を見て、ハルトは一瞬言葉を失った。

その瞳はいつものキレイな翠色。だが、深い青色がまるでグラデーションのように混ざり合っていた。

《はると。いまから、はるとが、あのまものをたおすんだよ》

「えっ!? ぼく、ですか……!?」

あまりに突然の提案に、ハルトは驚きを隠せない。

自分たちを襲おうと、この黒い狼の速度についてくる魔物の群れ。

「……でも」

《だいじょうぶ。ぼくも、えんごするから》

けれど、真剣な表情でこくりと頷くリュカに、決意したようにグッと唇を噛み締める。

「……ぼく、がんばり、ます……!」

駆ける狼の背に乗り、静かに弓に手を掛ける。

すると、狼の黒い触手のような影がハルトの体勢をくるりと真後ろに向けて固定した。

「おおかみさん、ありがとう、ございます……!」

《……フン》

フスリと鼻を鳴らす狼に、少しだけ緊張が和らいだ。

王都に来る途中、バートとの練習では的に当てることが出来た。

……けれど、ここは荒れ果てた王都の街中だ。耳をすませば、魔物の荒い息遣いが間近に聞こえてくる。

《だいじょうぶ。ぼくをしんじて》

耳元でやさしい声が聞こえる。

それに集中すると、不思議と心が落ち着いてきた。

おなかには、落とさないように抱えた聖灯石。

──とくん、とくん、と自分の胸の鼓動が聞こえる。

《はると。ねらうのは、ひたいのませきだよ》

呼吸と整え、スッと目を開ける。

前方には、いまにも自分たちを噛み殺そうと鋭い牙を剥く魔物たちの姿。

本当は、泣きたくなるほど怖いはず。

本当は、もう帰りたいと喚いているはず。

だけどハルトは、ここに来る前から、ずっとずっと前から、一つだけ決めていたことがあった。

弓を引き、力をためながら狙いを定める。

(──ぼく、きめたんです……!)

そこに、一頭のシャッテン・コヨーテが、建物の陰から勢いよく飛び出してきた。

(……つよくなって)

あまりの速さに、黒い狼でさえ追いつかれると思っていた。

(ぼくのかぞくを、……みんなを)

柔らかそうなその肉を貪ろうと、魔物がハルトに向かって牙を剥く。

(──ぜったいに、まもるって……!!)

その瞬間、ハルトの腕から一本の矢が射られた。

矢は、シャッテン・コヨーテの額に向かい、一直線に飛んでいく。

射られた矢はパリンと音を立て額の魔石に命中し、次に見られたのは屋根から転がり落ちていくシャッテン・コヨーテの姿。

《……やるじゃないか》

次々転がり落ちていく魔物の死骸は、黒い狼の言葉を耳にする事すらなく、燃え盛る王都の炎の中に消えていった。