軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

372 想い

「……ここ、です」

優しい声に誘われ、ハルトとリュカは一つの部屋の前に辿り着く。

《 はると~、やっぱりやめようよ~…… 》

二人の目の前には、重厚な木製の扉が。幼いハルトにはとても大きく感じるその扉を前に、リュカは中へ入ろうとする彼を必死で止めていた。

ハルトが聞こえるという優しい声。その声は、妖精のリュカには全く聞こえていなかった。

それに、自分たちが王都で過ごしている家よりもはるかに大きなこの屋敷。

……だが、この屋敷の中を歩いている間、誰一人として自分たちと遭遇せず、物音一つしなかった。それどころか人の気配すら感じられない。

その事をリュカは不審に思っているのか、姿を消しながらもハルトの肩から決して離れようとせず、部屋の中へ入ろうとするハルトを引き留めていた。

「でも、ぼくのこと、よんでます……!」

《 わ(・) な(・) かもしれないよ? あぶないよ~! 》

「……わな?」

その言葉に一瞬たじろぐハルトだったが、首をフルフルと振り、意を決したように肩のあたりにいるリュカに顔を向ける。

「……でも、やさしいこえだから、だいじょうぶ!」

《 ほんとに、だいじょうぶ……? 》

「うん!」

《 ほんとの、ほんとに……? 》

「……うん! きっと、……だいじょうぶ!」

そう言って、ハルトがその扉に触れようと手を伸ばした、──その瞬間。

「────っ……!!」

《 ひゃあっ! 》

キィ、と音を立て、まるで待ち構えていたかのように扉が勝手に開き始めた。

「……あき、ました」

《 あいちゃった、ね…… 》

突然の事に驚きながらも、ハルトとリュカは恐る恐るといった様子でそっと部屋の中を覗き込んだ。

「……こんにちは」

《 こんにちは~…… 》

二人できょろりと辺りを見渡すが……、

「……だれも、いないです」

《 いないねぇ? 》

何度見ても本棚と机、ソファーがあるだけで、肝心なその部屋の中には誰も居ない。拍子抜けしたように二人が肩の力を抜いた、その次の瞬間。

「やぁ、こんにちは」

「《 ────っっ!! 》」

背後で聞こえた声に、ビクリと肩を震わせる。

二人が慌てて振り返ると、そこにはにこりと朗らかな笑みを携えた一人の男性が。

後ろで結われた、光沢のある金色の髪。その優しげな瞳は、深い青色をしている。だが、目線はハルトと僅かしか変わらない。

ふとその足元に視線を向けると、木製の車椅子が目に入った。

「……こ、こんにちは……」

ハルトの返事を聞くと、キィイと微かに音を立て、男性は車椅子に乗ったまま二人の下へと近付いた。

「すまない、驚かせてしまったかな……。君たちは、ハルトくんと、リュカくん……、だったね?」

「──! ……おにぃさん、ぼくたちのこと、しってますか?」

《 ………… 》

初めて会ったはずなのに、自分たちのことを知っている。それどころか、姿を消していたリュカがどこにいるのか分かっているかのように、優しげな表情で自分とハルトを見つめる男性。

だが、彼の存在は目の前にいるのに未だに気配を掴めないまま。その事にリュカはさらに困惑した。

ハルトの肩に身を寄せ、警戒したまま男性をジッと観察する。

「……フフ。警戒するのも、無理はないかな」

そう言って、男性は胸ポケットから小さな包みを取り出した。

「あっ! これ……!」

包みを広げた男性の手の中には、ハルトが着けているブレスレットと同じ石が。

「ぼくのいしと、おんなじです!」

《 ほんとだ…… 》

リュカも身を乗り出し、その石を凝視する。それはブレスレットの物とは違い、手つかずの原石の姿のままだ。石は光を受け、キラキラと神秘的な光沢を放っている。

「ここをよく見てごらん」

男性に示された箇所を見ると、そこには割れたような痕があった。そして、よく見ると緑の中にもう一つ、透明な箇所が。

「……信じてもらえるか、分からないけれど。……これはね、元々ハルトくんが持っている石と一つだったんだよ」

「えっ! ほんと、ですか……?」

「あぁ」

ハルトは自分の腕にあるブレスレットと、男性が持つ石を交互に見やる。確かに、加工されて大きさは違えど、色合いは同じだ。リュカもその石が同じ物だと確信していた。なぜなら、その石が放つ魔力が二つとも、寸分の狂いもなく同じ物だったからだ。

「……遅くなってしまったけれど、自己紹介を」

ハルトの目を見ながら、男性は優しく微笑んだ。

穏やかに、まるで物語を読み聞かせるように。

「私の名は、クラウト・アルフォード」

窓の外は地獄のような光景だ。それなのに、ここにいると時間が止まっているかのような錯覚さえ覚えてしまう。

「トーマスの、……君のおじいちゃんの、兄だよ」