軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

317 王都でデート ~ミサンガ~

「ユイトさん、次はこっちを輪っかに通してください」

「えっと……。これを? こう?」

「あ~、えっと、これを~、ここに……」

「ん~? 難しい……」

アレクさんが 修道女(シスター) さんと話をしている間、僕は何故かバザーに出すミサンガ作りに参加している。隣に座り僕にミサンガの作り方を教えてくれているのは、この孤児院の年長者でもある褐色の肌をしたダレスくん。

僕よりも背は高いけど、十二歳でこの子達のまとめ役らしい。

子供達に連れて来られた僕を見て驚いていたけど、僕はダレスくんを見て驚いたよ。だって羊の角が生えてるんだから……。

重くないのか訊いてみたら、まだまだこれから成長するらしい。枕を突き破るから、横を向いて寝れないんだって。

「ダレス、輪っかに通す前の状態でユイトさんの横に置いたら?」

「あっ! シェリー、頭いいな!」

「あ、この方が分かりやすい」

「ふふ、でしょ~?」

そして笑いながら向かいの席から眺めているのは、そばかすの可愛いシェリーちゃんという十一歳の女の子だ。レティちゃんより一つ上だけど、すごく大人びて見える。

二人とも喋りながらだけど手は休めていない。この二人以外にも、僕の周りには十人程の子供達がミサンガをひたすら編み込んでいる。僕がダレスくんに教えてもらっている間に、あっという間に二本、三本と、籠いっぱいのミサンガを完成させていた。

「皆、手際良いんだね」

「毎年いっぱい作ってますからね」

「嫌でも覚えちゃうもんね」

この教会では、半年に一度の割合でバザーを開催しているという。バザーの収益は全て子供達の生活費に充てられているらしく、毎年たくさんのミサンガを作っているんだって。

その収益の中からお小遣いも貰えるんだとダレスくんは嬉しそうに教えてくれた。

「アレクさんって、ここにはよく来てるの?」

皆アレクさんに懐いていたし、シスターさんとも気心知れた様子だった。もしかしたら……。

「アレク兄ちゃん? 一ヶ月に一度くらいかな?」

「来た時はいつも下の子達と遊んでくれるんだよ」

「そうなんだ……」

やっぱり、この教会ってアレクさんが前に話してくれた……。

「でもこないだ来たばっかりだったのに、珍しいよな?」

「そうだよね。……あぁ~、ユイトさんの事、自慢しに来たんじゃない?」

「あ~、そっか」

ダレスくんはなるほどね、と頷きながら手を動かしているけど、僕は少し気まずいなぁ。さっきみたいに色々聞かれないだけマシだけど、二人の優しい眼差しが……。身長のせいもあるけど、大人びていて本当に僕より年下なのか疑ってしまう。そんな事を考えながら編んでいると、部屋の外から子供達の元気な声が響いてきた。

「あ、ユイト! ここにいたのか」

開放された部屋の扉から、アレクさんと子供達が一緒に顔を覗かせる。足と腕に抱き着かれながらも、アレクさんは楽しそうに入ってきた。

「お話終わったんですか?」

「あぁ、待たせてごめんな」

「いえ、僕もミサンガの作り方教えてもらってたので」

「懐かしいなぁ~。結構、面白いだろ?」

「……まだそこまで辿り着けません」

隣に座り、僕の手元にある歪なミサンガを見てアレクさんは小さく苦笑い。子供達も僕の作ったミサンガに興味があるのか覗き込んでいる。

「ユイトにも苦手な事があって安心したよ」

「慰めになってないです……!」

「ハハ! 冗談だって! ダレス、オレも編んでいい?」

「いいですよ。この中から好きなのどうぞ」

そう言うとアレクさんは糸の束を手に取り、手慣れた様子でスルスルと編み込んでいく。その様子を隣で観察していると、あっという間に模様の入ったミサンガが完成してしまった。

「凄い! アレクさん、上手ですね!」

「久し振りに作ったけど、手は覚えてるもんだな~。ほら、ユイトも続き」

「うぅ……。僕のちゃんと完成するのかな……?」

綺麗な模様が入っているアレクさんのミサンガと比べると、僕のはまだ小指の先くらいしか出来ていない。しかも歪んでいるし、自分がここまで不器用だとは思わなかった……。

「慣れだよ、慣れ。分かんなかったら教えるからさ」

「はい……」

アレクさんに促され、僕は残りのミサンガ作りを再開させる。

自分で言うのも何だけど、これはなかなか手強いかも知れない……。

*****

「あぁ~……! やっと出来たぁ~……!」

「お疲れ、ユイト」

「良かったですね、ユイトさん!」

「頑張ったね~!」

アレクさんに教わりながら完成した僕のミサンガは、編み目も少し歪んでいて皆のと比べるとやっぱり不格好だ。手伝いに参加したはいいけど、これじゃ売り物にならないな……。

そんな事を考えながらミサンガを見ていると、アレクさんが思い付いた様に口を開いた。

「ダレス、この二つ買い取っていいか?」

「はい、大丈夫ですよ。あ、代金はシスターに渡してもらえますか?」

「分かった。ユイト、左足出して」

「左足ですか?」

何をするんだろうと疑問に思いながら左足を差し出すと、アレクさんはしゃがみながら僕の左足首に先程作ったミサンガを結び始めた。ダレスくんとシェリーちゃんはそれを見て目を真ん丸にしている。

「よし……! これで解けないかな」

そう言うと、アレクさんは満足そうに頷き立ち上がる。

「ちょっと院の中、見せてもらうな」

「どうぞ」

「ユイト、行こう」

「え? あ、はい! ダレスくん、シェリーちゃん、教えてくれてありがとう」

アレクさんに手を引かれながらそうお礼を伝えると、二人とも笑みを浮かべながら手を振り返してくれた。

*****

「ユイト、こっち。足下気を付けて」

「はい」

歩く度にギシギシと軋む廊下を進むと、所々修繕した様な箇所が目に入る。だけどそれがこの建物の温かみを感じる要因になっているのかもしれない。

ふと楽しそうな笑い声が聞こえ窓の外に目を向けると、先程アレクさんに引っ付いていた子供達がシスターさんと一緒に洗濯物を干している最中だった。

皆仲が良さそうだな、と微笑ましく感じる。

「アイツら、いっつも走り回ってるんだよ」

「そうなんですか? 元気いっぱいで可愛いですね」

そんな事を話しながら廊下を歩いて行くと、窓からぽかぽかと暖かい日差しが射し込み、庭からは笑い声が響いてくる。

( 僕、この場所好きだなぁ…… )

初めて来た場所なのに、不思議と穏やかな気持ちになるのが分かった。

「あ、この部屋」

アレクさんの後について行くと、一つの部屋に通される。そこは二段ベッドが八つ並べられた子供達の寝室だった。

「お! あった!」

「何ですか?」

突然しゃがみ込んだアレクさんの後ろから覗くと、そこには小さな傷がたくさん入った部屋の柱が。

「ここ。オレが三歳の頃に測ったんだって」

しゃがんで柱の傷を見ると、そこには微かに“アレクシス”と彫られた文字が残っていた。

「わぁ! これ、アレクさんの身長ですか?」

「そうそう。ユウマより小っちゃいんじゃねぇ?」

「ホントだ! 可愛い……!」

( アレクさん、こんなに小っちゃかったんだ……! )

今のアレクさんからは想像もつかないけど、ユウマより小さいかも……! 三歳のアレクさん、きっと可愛かったんだろうなぁ……。

メフィストみたいにミルクを飲んで、ユウマみたいに絵本を読んで、ハルトみたいに剣に夢中になっている小さなアレクさん。

僕も見てみたかったなぁ……。

その柱に刻んだ線と名前を指先でそっとなぞると、胸の奥から何とも言えない感情が湧き起こってくる。

「……やっぱりここ、アレクさんの過ごした孤児院だったんですね」

そう思うと、傷だらけの壁も少し軋む廊下も全てが大事な物に見えてくる。

それに、この場所でトーマスさんと出会って、アレクさんは冒険者を目指したんだ……。

そう思うと、不思議な縁だなぁとつくづく実感する。

「あ~……、なんかごめんな?」

「どうして謝るんですか?」

「いや……、急にこんなとこ連れて来られても困るよな……、と今更ながら思って……」

「いえ、全く! アレクさんの育った大事な場所が見れて、今すっごく嬉しいです」

僕がそう答えると、アレクさんはよかった、と小さく呟き、ホッとした様に肩の力を抜いたのが分かった。

「……なぁ。ユイトのミサンガ、オレが貰ってもいいか?」

「ミサンガですか? ……下手だけど、いいんですか?」

「あぁ、なんか愛着湧くだろ?」

「それ、褒めてませんからね? ……あ、そうだ。アレクさんには僕が結びたいです」

「ユイトが?」

「はい! さっき僕の足に結んでくれたじゃないですか? どうせなら同じところに結びましょうよ!」

そう言ってアレクさんが取り出したミサンガを僕が手に取ると、その表情がどことなく嬉しそうに見える。

「ちょっと照れ臭いな……」

「何言ってるんですか~! 僕にも結んだじゃないですか」

ブーツを脱いでもらい、解けない様にしっかりと結ぶ。

不格好だけど、これでも一生懸命編んだからね!

……それに、

( 言い方は悪いけど、“アレクさんは僕のモノ”って感じがして何となく気分が良い…… )

「えへへ、これでお揃いですね!」

「……だな」

アレクさんの大切な場所で、こうして一緒にいれる事がとても嬉しい。

これからもっと、アレクさんの事知っていけたらいいなぁ……。

( ──僕もちゃんと、伝えた方がいいよね…… )

……だけど、アレクさんに本当の事を言うのは正直怖い。

気持ち悪いって思われたら、僕は多分、立ち直れないかも知れない。

だから少しだけ、もう少しだけ、伝えるのは止めておこうと思う。

僕の覚悟が決まったら、その時はちゃんと……。

そう思いながら、僕は柱に彫られたアレクさんの名前を何度も指先でなぞっていた。

*****

「……ミサンガ、左足に結んでたよね」

「うん。アレク兄ちゃん、意外と独占欲強いんだね」

「左足に着けるって、“自分のモノ”って意味だもんね」

「ユイトさんは分かってなさそうだったけど」

「まぁ、嬉しそうだったからいいんじゃないかな?」

「だね~」