軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

233 盲目の青年

王都から少し外れた街道で、馬車に揺られる事二時間余り。

漸く王都を囲う 城郭(じょうかく) が見えて来た。

街道って言うくらいだから道は整ってるかと思ってたんだけど、どうやらここはまだ手付かずの様だ。

田舎道(そう言った方が正解だろ)を走る馬車の後ろには、 濛々(もうもう) と土煙が舞っている。

「あぁ~……、気持ちワリィ……」

「もぅ~! アレクさん! 言わないでくださいよぅ~……!」

「やめろステラ……! 今だけは静かにしてくれ……!」

乗合馬車の中ではステラと、何故かいつもは元気が取り柄のリーダーの顔色が悪い。

リーダーが依頼を片っ端から受けるもんだから、王都に戻ってからの数日間、正直ゆっくり休む暇もなかった。

「今回の依頼は、ある意味壮絶だったな……」

「……(こくり)」

思い出したのか、珍しく黙ったステラと、今にも戻しそうなリーダー。

それとは対照的に、壮絶だったと言いながらも涼しい顔をしているエレノアと頷くマイルズ。

オレたちは現在、依頼にあった魔物・ハーピーの討伐依頼を終えて、漸く帰路に就いたところだ。

依頼主は王都に住む貴族のおっさんだった。

盲目の息子が暮らす館に、半人半獣の醜い魔物が現れる。館を荒らすから討伐してほしいと。

向かった館はボロボロで、正直貴族の息子が住むには相応しくないだろう。訳ありだとオレたちはすぐに悟った。

そこでオレたちを出迎えてくれたのは質素な服を着た使用人二人……、ではなく、年老いた使用人の婆さんと、その盲目の息子本人だった。

「うおっ……」

「マジか……」

婆さんと貴族の息子が住んでいるのかと思うとそうではなく、庭では使用人の爺さんが撒き散らされていたソレを疲労した様子で処理していた。

あまりの汚さと立ち込める異臭に、思わず顔を顰めてしまう。

「あ、冒険者の方ですね? 申し訳ありません、お見苦しいところを……」

「あ、いえいえ! お気になさらず!」

「しっかし、ヒデェな……」

「すごい臭いですぅ~……」

申し訳なさそうに頭を下げる年老いた使用人を制し、リーダーはこの使用人からも話を詳しく訊く様だ。

まぁ、あのおっさん一人の話を鵜吞みにするわけにはいかねぇからな。

話を要約すると、この息子ってのはあのおっさんの末の息子で、本来なら王都にある館で暮らす筈だった。だが目を開けた息子は盲目だと知り、厄介払いの為に両親は幼いうちから母屋ではなく庭に作った離れに、乳母を任された使用人夫婦と一緒に住まわせていたと。

それがある時、使用人たちに予言めいたものを発する様になり、それがかなりの確率で当たっている事に気付く。おっさんはそれを利用したいが、盲目の息子の存在は周りの貴族には知られたくない……。

そこで長年売りに出されていたこのボロ屋敷を買い取り、そこに年老いた使用人夫婦と盲目の息子を追いやった。

そしてここに来て初めて、どうしてこの屋敷に買い手が付かなかったかをおっさんは知ったらしい。

「だけどさぁ、あんた予言? 予知? 出来るんだろ? なんでここの事は分からなかったんだよ?」

「こら、アレク! 失礼だろう!」

「いえ、大丈夫ですよ」

目を伏せたままの盲目の息子、名前はテオドール。オレと年はそんな変わらないか? あのおっさんとは血が繋がっていないんじゃないかと疑うくらいの穏やかさだ。

「実は、こうなっていると分かっていてここに来たのです」

「え~っ!? こんな悲惨な状況なのにですかぁ~!?」

「はは、正直な方ですね」

「あっ……! すみません~……」

自分に振り返ったテオドールに、ステラは一瞬体を硬直させた。

目を開けたテオドールの瞳は優し気で、ふわりと笑う表情は知的で穏やかな青年と言ったところだろう。盲目と言うのが信じられない程だ。

珍しく頬を赤らめ、モジモジと手を弄りだしたステラ。あぁ、コイツこんな感じのが好みなんだな……、とオレたち、パーティ全員が納得する。

「しかし……。分かっていて、何故ここに?」

「他の館でも良かったのでは? ここは何かと不便だろう? それに……、魔物の気配も多い……」

リーダーとエレノアは親切心からそう言っているのだろうが、このテオドールにしてみたらこの館が重要だったらしい。

「ありがとうございます。ここは確かに利便性も悪いですし、王都周辺よりも魔物は多いです。ですが私の予想では、ここはあと数年で発展する街の中心街になる予定なのですよ」

「発展? ですかぁ……?」

「数年で……?」

こんな辺鄙な場所が? とステラとリーダーは首を傾げている。

正直言うと、オレもそうだ。馬車で揺られながら周りを観察したが、北に進むにつれ村人の姿も減り、店どころか家屋も無くなっていった。

おまけに魔物も多いときた。死んだ土地と言っても過言じゃねぇ。まぁ、冒険者にしてみたら宝の山な訳だけど。

「父は王都に執着していますが、私は違います。ここよりも北の土地には、移民たちの村があります。その周辺の土地を、予言……、いえ、正確には占いですね。それで稼いだお金で買い取っているのです」

「坊ちゃまは昔から、人使いが荒いのです」

「あんなに広い土地を買って、いつか旦那様にバレないかとヒヤヒヤしているんですよ」

使用人の老夫婦も、どうやら分かっていてここに付いてきた様子。

予言ではなく、あくまで占い。昔からこの夫婦を介して、周辺の貴族を占ってやっていたらしい。特に貴族の奥方や令嬢には、この占いにどっぷりのめり込んでいる者も少なくない様だ。

ここに移り住んでからも、内密に通っている者が後を絶たないそう。

そのなかのある婦人が、あまりの惨状におっさん本人に苦言を漏らしたらしく、渋々討伐依頼を出したらしい。

貴族のおっさん本人に意見するって、よっぽどの偉いさんか……?

しかも占いの為に通っているとバレない様に、こんな辺鄙な場所にたまたま通りがかったと言って信じてもらえる人物……。

ん~、分かんねぇ……。

「でも~、ここを荒らしに来るのって、ハーピーなんですよねぇ~?」

「まぁ、ハーピーは執着が凄いと聞くが……」

自分らで言うのも何だが、ハーピーはAランクのオレたちに出すような依頼ではない。もう少し下のランクの冒険者でも、この報酬額なら喜んで請け負うと思うんだけどな?

「はい。この付近にはハーピーの餌場になる墓地も食べ物もほとんど無いですから。私たちの食事を狙って来ているんですよ。ハーピーが狙う食事には、美味しい肉を用意しています」

「はぁ~……、そうなんですかぁ~……」

穏やかな笑みを浮かべながら妙な事を言うテオドールに、さすがのステラも呆れ……。いや、顔が赤いまんまだな。

「ハーピーの討伐依頼を出すとなると、それなりに名の知れたパーティに依頼を出すと踏んだんです。父は見栄と欲の塊ですから。ですから、最近Aランクになり、陛下たちの護衛を請け負った貴方たちに頼むだろうと」

当たりましたね、と嬉しそうに微笑むテオドールに、ステラはうっとりとした表情だ。パーティを組んで結構経つけど、そんな顔見た事ねぇんだけど……。

もしかして……、オレもユイトの前でこんな感じだったのか……? いやいや、それはない筈……。

「でも、どうしてオレたちに……?」

「正直に言うと、貴方たちと縁を繋ぎたくてですね。特にアレクさん……、と言った方が正しいのかな……?」

「へ? オレ?」

「はい」

にっこりとオレに微笑むテオドール。マジで見えてねぇんだよな?

ステラの視線が氷みてぇに刺さるんだけど。

厄介ごとだけは勘弁してくれ……。

夕暮れ時、夕食の時間を見計らったかの様にハーピーが庭の木に停まり、こちらの様子を窺っていた。

使用人夫婦がテオドールの前に食事を用意した瞬間、スゴイ速さでこちらに向かって飛んでくる。

テオドールに襲い掛かる寸前、鋭い氷柱がハーピーの体を貫いた。

奇声を発しながら藻掻いているが、貫かれた個所からピシピシと氷漬けになっていくのが分かる。そしてものの数分で息絶えるハーピー。

その胸から上は人間の姿をしている。間近で見るには向かねぇ魔物だ。

「アレク! そっちは頼んだよ!」

「おぅ! 任せとけ!」

残るは全部で三匹か……。怒りでギャーギャー泣き喚く姿は見るに堪えない醜さだ。

エレノアとオレは同時に斬りかかり、二匹の首を斬り落とす。

あっけなく終わったなと思った瞬間……、

「「ウワァ─────ッ!!!」」

「きゃあああああ~~~~~っ!!!」

首を斬り落としたと同時に、オレとエレノア、そして何故かステラの絶叫が辺りに響き渡る。

それもその筈……。

その斬り落とした体から、大量の汚物が辺り一面に飛び散ったんだからな……。

「ふ、二人とも……。ハーピーのお勉強、してこなかったんですかぁ~……!?」

「「してない……」」

「勉強は、大切だ……」

結界を張って使用人夫婦とテオドールを汚物から守っているが真っ青なステラと、何かあってはいけないと待機していた回復役のマイルズは難を逃れている。

だけどもう一人、そこに足りない人物が。

「お、お前らぁ~~~~……!」

その震える声に振り向くと、ハーピーを手で生け捕りにしたまま汚物塗れになっているリーダーの姿が……。

オレたちが斬って飛び散ったハーピーの残骸を、まともに喰らった様だ……。

「「ご、ごめん、リーダー……」」

「バッカも~~~~~~~~んッッ!!!」

リーダーの悲愴と憤りの籠った叫びが、再び辺り一帯に響き渡った……。

*****

王都に無事到着し、ギルドに依頼達成の報告に向かう。

まさか汚物塗れで帰る訳にはいかず、テオドールの館で一晩泊めてもらった。

慣れていますから、と老夫婦はオレたちの服を嫌な顔もせず洗濯してくれた。これには頭が上がらねぇ……。

だけど食欲が湧く筈もなく、夕食はオレとリーダー、ステラの分は丁重に断り昨夜は早々に就寝。

エレノアとマイルズは遠慮なくご馳走になっていたけどな。

そして帰り際、依頼達成のサインと共にテオドールがオレに言った言葉。

“帰ったら嬉しい事が待っていますよ”

それが何なのかは教えてくれなかったけど、なんかラッキーな事でも起こるのか? 一日ズレてしまいましたが、とも言ってたな……。

まぁ、良い事ならいっか。

「はい! 依頼達成の報告ですね! 皆様お疲れ様でした!」

ギルドの受付で報告を終え、買取窓口でステラとリーダーが捕まえたハーピー二体を渡す。羽は高額で買い取ってくれるらしい。オレとエレノアの分は汚物塗れで売りには出せないと低価格。まぁ爪も需要はあるからと買い取ってくれたから、小遣い稼ぎにはなったかもな。

さすがに疲れたと、リーダーは今日一日休みだと言って早々に宿に戻って行った。

その表情は、早く風呂に入りたいと物語っていた。

「ハァ~……。わたしたちも帰りましょ~……?」

「だな……。オレも洗いに行こ……」

四人でギルドを出ると、そこには先に帰った筈のリーダーの後ろ姿が。

そして、スゴイ速さでリーダーの目の前にいる人物を抱き締めるエレノア。

周りの通行人たちからは、きゃあきゃあと歓声に近い悲鳴が上がっている。

「アレク! 久し振りだな!」

そこには、満面の笑みでオレを呼ぶブレンダの姿があった。