軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

227 意外な才能?

「おじぃちゃん! はやく~!」

「こら、ハルト! 待ちなさい!」

乗合馬車を降り、冒険者ギルドのある街・アドレイムへ到着。

ここは朝早くから行きかう人々でいつも賑わっている。ハルトは早く稽古がしたいのか、馬車に乗りながらもずっとソワソワと落ち着かない様子で、乗り合わせた冒険者たちにも、どんな武器を使っているのかと質問攻めだった。

「きょうは、いどりすさん、いますか?」

「どうだろうな。いなくても稽古は受けるだろう?」

「うん! たのしみ、です!」

駆け出したハルトをつかまえて、 逸(はぐ) れない様にしっかりと手を繋ぐ。いつもはユウマとメフィストの優しいお兄ちゃんだが、今日は一人だ。ワクワクを抑えきれないハルトは、大変可愛らしい……。

最近は随分としっかりしてきたからな。今日は目一杯、楽しんでもらおう。

ギルドに着くと、早速受付へ向かいイドリスに面会希望だと伝える。前回ハルトとユウマの対応をしてくれた受付の子だ。ハルトの事を覚えていてくれた様で、今回はスムーズに処理を済ませる事が出来た。

彼女によると、どうやら今日は出勤しているらしい。ホッと胸を撫で下ろす。

「あ! ぼくと、おなじくらいのこ、います!」

イドリスとの面会許可を長椅子に座り待っていると、ハルトの視線の先にはハルトより少し上くらいの男の子が。一人で来ているのだろうか? 慣れた様子で地下への階段を降りて行った。

「本当だな。きっとハルトと同じ訓練を受けに来たんじゃないか?」

「ぼくも、はやく、いきたいです……」

「もう少しだからな。ちょっとだけ待ってておくれ」

よしよしと頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。

この仕草がとても可愛いんだ。

「トーマスさ~ん! ハルトさ~ん! お二階へどうぞ~!」

「お、呼ばれたな。行こうか?」

「うん!」

手を繋いで二階へ向かい、扉をノックする。開いてるぞ~、と気の抜けた返事が返って来たので遠慮なく扉を開けると、部屋の中ではイドリスが机に突っ伏していた。

「いどりすさん、おつかれ、ですか?」

「そうみたいだな?」

「ハルト~! オレを癒してくれ~!」

イドリスは顔だけこちらに向けると、机に突っ伏した体制のまま動こうとしない。

余程溜め込んでいたのか、はたまた仕事が舞い込んできたのか……。

イドリスの両脇には、今にも崩れそうな書類の山が出来ていた。

「イドリス、泊まりに行く日程を聞きたかったんだが……。出直そうか?」

「いや、気分転換に丁度良かった! ハルト~、今日もお前の頬はもちもちだな~?」

そう言いながら、イドリスはハルトの頬をムニムニと触っている。ハルトも疲れ切ったイドリスを不憫に思ったのだろう。されるがまま大人しくしている。

来週か再来週はどうかと言うと、来週の方が楽しみが近いからそっちが良いと。余程疲労しているのだろう、ユイトにサンドイッチを作ってもらうとブツブツ呟いていた。

*****

「わぁ~! くんれんじょう、ひろいです!」

伝言も無事伝え、ハルト念願の地下訓練場へと足を運ぶ。イドリスも後で見に行くと言っていたが、仕事は終わるのだろうか……?

「今日は結構賑わってるな。ハルト、あっちみたいだ」

「うん! みんな、すごいです……!」

新人らしき若者たちが、自分の武器を手に指導役のベテラン冒険者に稽古をつけてもらっている。どこもなかなかの熱の入り様だ。

そんな彼らを横目に子供たちを教えている一角へ向かうと、ハルトはオレに手を引かれながら周りをキョロキョロと忙しなく観察している。

「ん? トーマスじゃないか、珍しいな?」

「おぉ! フィンゲル! 久し振りだな!」

子供たちの集う一角へ足を向けると、そこには昔からの見知った顔が。

フィンゲルと言う白髪のこの男。もう冒険者稼業は引退しているが、昔はオレたちのパーティとよく競っていたなと懐かしく感じる。

「トーマス、いつの間に子供を?」

「縁があってな。家族になったんだ。あと四人いるぞ?」

「四人!? お前がか!? 随分丸くなったな……」

嵐でも来るんじゃないかと、フィンゲルはハルトを繁々眺めながらブツブツと呟いている。酷い言われ様だが、まぁ驚くのも無理はない。自分が一番驚いているからな。

フィンゲルが集合と声を掛けると、先に稽古をつけてもらっていた子供たちが集まってくる。集まって来たのは7歳と9歳の男の子。今回はいつもより人数が少ないそうだ。他にも冒険者を目指す子供たちがいるのかと嬉しくなる。

自己紹介を終え、ハルトは無事、同じ指導を受ける子供たちの仲間入りを果たせた様だ。

「ハルト、俺が武器を持って基本の動きをするから、同じ様に真似てごらん」

「おなじように、うごけば、いいですか?」

「そうだ。重かったり、動くのが辛かったらすぐに言うんだよ? では早速始めようか!」

「はい! よろしく、おねがい、します!」

元気よく一礼をするハルトに、フィンゲルは笑みを浮かべ、まずは剣を慎重に手渡した。

いつも振っているアイザックに貰った短剣よりも遥かに大きく、これはハルトを 試(・) し(・) て(・) い(・) る(・) なとオレは確信する。

「どうだ? 一人で持てそうか?」

「う~……! おもい、けど、もてます!」

「そうか! ならこれを10回、俺と同じ様に振ってごらん」

「はい!」

そう言うと、フィンゲルは剣を片手で軽々持ち、縦横と十字に切り、斜めに十字を切る。

「これでワンセットだ。これを10回。出来るかな?」

「はい! やります!」

ハルトは剣を両手で握り締め、フラフラしながらも縦横に1回、斜めに1回と、何とか剣を振ってみせた。だが後これを9回。オレはハラハラしながらも、口を出してはいけないとジッと我慢するしかなかった。

「……これで、さいご、です……っ!」

フラフラしながらも、ハルトは残り1回を何とか振ってみせた。

「おわり、ました……!」

「よし! 合格だ!」

フィンゲルはそう言うと、ハルトの腕から剣を取り、頑張ったな、と激励の言葉を贈っている。

ハルトは合格の意味が分からず、きょとんとしたままだ。

「試すような真似をしてすまないな。 ここで最初に見るのは忍耐力だ。この重たい剣を音を上げずに最後まで振ってみせた。君は無事、合格だ」

「あ、ありがとう、ございます……」

少しの休憩を挟み、次はハルトに向いている武器を選ぶらしい。本人はこれがやりたいと思っていても、意外と違う物の方が向いている場合がある。何事も経験だ。

ハルトは長椅子に腰掛け、先程見かけた子供たちと楽しそうに話している。ハルトのすぐに打ち解けるところは、オレも見習いたいところだな。

するとそこへ、書類の山から逃げて来たのであろうイドリスが顔を出す。

ハルトと話をしていた子供たちは緊張していたが、頭を撫でられ嬉しそうにはにかんでいた。

「フィンゲル、指導員はいつからしてるんだ?」

「半年前だよ。酒場にいるのをイドリスに見つかってな。フラフラしてるんなら働けと言われて。ここで子供たちの適性を見ているんだ。引退した老体には堪えるよ」

フィンゲルは昔、戦いで左肘と左目を失い、冒険者を引退した。その後、旅に出ると言って行方が分からなかったが、どうやらイドリスに捕まり指導員の一員に任命された様だ。

なかなか面白いんだ、と笑う横顔は、どこか満足そうに見える。

「そろそろいいかな? ハルト! こちらにおいで!」

「はい!」

休憩が終わり、ハルトはすぐに駆けてくる。次は武器選びだ。

どれどれ? とイドリスも興味深そうに覗き込んでいる。

「適性を見る為に、今から君には剣、弓、槍、杖の基本的な四種類を渡す。これはあくまで初歩的な物だ。後からもっと、自分に合う物が出てくるかもしれない。俺が一通り教えるから、自分でやりたいと思った物、自分に向いてるなと思った物を二つ、選んでくれるかい?」

「ふたつ、ですか?」

「そう、二つ。やりたい物と、出来そうな物だ」

「わかりました」

そう言うと、フィンゲルは各々の使い方を指導し、ハルトはそれを真剣に聞いて実践している。聞くのとやるのとでは違うからな。しっくりくる物があればいいんだが。

「どうだ? 選べたか?」

「はい! これと、これ、です!」

ハルトが選んだのは剣と弓。剣はいつも振っているから納得だ。槍はう~んと首を傾げていた。魔法を使う杖は普通なら魔力の少ない者でも僅かに反応するのだが、ハルトには全く馴染まなかったらしく、うんともすんとも言わなかった。

以前ノアが、ユイトに魔力が溜まらないと言っていたのと何か関係があるのかもしれない。

それと弓だが……。

「意外な才能、発揮だな……?」

「百発百中とは……。恐れ入るよ……」

意外や意外。ハルトは弓を初めて使うのにもかかわらず、的のど真ん中を全て打ち抜いてしまった。

弓は筋力がいる筈なんだがな……。イドリスは面白がり、ハルトに小型ナイフを手渡すと、あの的に向かって投げてみろと。

まさかとは思ったが、これも全て狙った的の中心に吸い込まれる様に刺さっていた。

「ハルト、弓はやった事があったのか?」

「ん~ん。きょう、はじめて、やりました!」

「そうか……」

フィンゲルは一考すると、ハルト用に剣と弓の訓練メニューを組み、早速そのメニューを開始。

他の子たちに交じり、真剣な顔付きで剣を振っていた。

「ありがとう、ございました!」

訓練の時間が終わり、子供たちは指導員のフィンゲルに一礼。三人ともいい汗をかいているな。フィンゲルはハルトに合わせて膝を折り、毎週じゃなくても良いからここに訓練しに来るといいと頭を撫でる。

ハルトもどうやら時間が合えば通う気満々の様で、仲良くなった子供たちと楽しそうに話し込んでいた。

*****

「きょうは、とっても、たのしかったです!」

「そうか。新しい友達も出来たもんな?」

同じ訓練を受けていた子供たちはこの街に住んでいるらしく、またな、と手を振って元気よく駆けて行った。訓練の後だというのに、何とも逞しい子供たちだ。

イドリスは探しに来たギルド職員のコンラッドに連れ戻され、いやだと駄々を捏ねながら泣く泣く仕事に戻って行った。

来週はイドリスの家に泊まりに行くのか……。少しばかり不安になってきたな……。

「おじぃちゃん、おうちでも、ゆみ、つかいたいです!」

ギルド近くの店で遅めの昼食をとる。野菜たっぷりのスープにふわりとした白パンがよく合う。

ハルトも腹が減っていたのか、いつもよりよく食べている気がするな。

「そうか。弓か……。明日メイソンの店に買いに行こうか」

「やったぁ!」

子供用があるかは分からないが、本人もやる気みたいだしな。

《 ぼくも、いきたい! 》

「え?」

「何だ?」

突然、あどけない声が聞こえて来た。

一瞬ノアかと思ったが、ハルトも反応しているし、どうやら違う様だ。気のせいかと食事を続けようとすると、

《 ぼくも、つれてって! 》

「おじぃちゃん、こえ、きこえます……」

「そうだな……。随分、近くから聞こえるな……」

ふとハルトの方に顔を向けると、オレは全てを悟り頭を抱えた。

「おじぃちゃん?」

《 どうしたの? 》

ハルトの肩には、家で遊んでいる筈の妖精の一人が座っていた。