軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169 運命の人

「ユイトく~ん! 来たわよ~!」

「はぁ~い!」

今朝はバージルさんたちのお見送りの為、早起きしてお弁当を作ってみた。

結構な量だけど、皆いっぱい食べる人ばっかりだからなぁ~。

アレクさんも移動中は干し肉と黒パンばっかりって言ってたし、もしかしたら魔法鞄は使わない様にしていたのかもしれない。

仲間の人以外に僕にだけ教えてくれたんだとしたら、少し優越感……。

「ハルト、ユウマ、帽子被った~?」

「は~い!」

「だぃじょぶ~!」

出発はギルドの前からなので、隣街までお隣に住むカーターさんが送ってくれる事に。

昨夜、急に頼んだのにカーターさんは快く引き受けてくれた。

僕とオリビアさんは感謝しきりだ。

「カーターくん、今日はありがとう! とっても助かるわ~!」

「いえいえ! トーマスさんたち、昨日は大変でしたからね……! この二つ先の村も大変だったみたいですよ?」

「まぁ、やっぱり……。しばらくはどの村も忙しくなるわね……」

森にあったどの魔法陣からも魔物が現れて大変だったらしい……。

あの乗合馬車で会ったお姉さんたちも、依頼で二つ先の村に行くと言ってたから、もしかしたら……。

無事だといいんだけど……。

「あぅ~!」

僕がお姉さんたちの事を考えていると、抱っこしているメフィストが服を引っ張り出した。

「あ、ごめんね? カーターさん、この子が新しく家族になったメフィストです! よろしくお願いします!」

「あぃあ~!」

僕が紹介すると、にぱっと笑顔を浮かべてカーターさんに小さな手を差し出した。

カーターさんは驚いていた様だけど、一瞬で顔を綻ばせその小さな手を取り握手をする。

「わぁ~……! 可愛いねぇ……! 私の名前はカーターだよ。 隣に住んでるから仲良くしてくれると嬉しいなぁ!」

「あぃ~!」

「ハハ! 返事してくれたみたいだね!」

カーターさんと挨拶と握手を済ませると、メフィストはすっかりご機嫌に。

やっぱり薄っすらと言葉が分かっているのかも……?

「さ、忘れ物はないですか?」

「「はぁ~い!」」

「じゃあ、出発しますよ~! ちゃんと掴まっててくださいね!」

「はい! よろしくお願いします!」

「「おねがいしま~す(しゅ)!」」

「あ~ぅ!」

カーターさんの荷馬車に揺られ、僕たちは冒険者ギルドへ。

ハルトとユウマもお弁当が倒れない様に、しっかり支えてくれている。

その二人がよろけない様に、僕とオリビアさんは両端に座る。

まだ朝日も昇り切っていない。

昼間の暑さが噓のように、心地よい風が吹いていた。

*****

冒険者ギルドの前には、既に帰る準備を終え整列して待機する騎士団員さんたちの姿が。

すると、ギルドの入り口からトーマスさんたちが出てきた。

「トーマスさぁ~ん!」

「おじぃちゃぁ~ん!」

「じぃじ~!」

「あぅ~!」

僕たちの声が届いたのか、トーマスさんはすぐに気付き荷馬車に駆け寄ってくる。

「おぉ~! こんなに朝早くから来てくれたのか! 陛下たちも喜ぶだろう! カーターもわざわざありがとう! 感謝するよ」

「いえいえ! このままトーマスさんも家まで送りますので、あちらで待たせてもらいますね!」

「悪いな、助かるよ! またお礼するから遠慮なく言ってくれ」

「ハハ! こちらこそ、いつもお世話になってますから! じゃあ私は馬車を停めてきます」

「あぁ、ありがとう!」

僕たちは荷馬車を降りると、カーターさんにお礼を伝えトーマスさんと一緒にバージルさんたちの下へと向かう。

「あ、これ作ってきたんですけど……。大丈夫でしょうか……」

大きな風呂敷に、お弁当をこれでもかと詰め込んできた。

荷物になるかもしれないけど、お腹いっぱい食べてほしいし……。

「あぁ、きっと泣いて喜ぶと思うぞ? ユイトの料理がしばらく食べれないと嘆いていたからな!」

「大袈裟だなぁ~……。まぁ、そう言ってもらえると嬉しいですけど!」

「じぃじ、これゆぅくんもちゅくったの!」

「ぼくも、おてつだい、しました!」

「おぉ! そうだったのか! それは皆喜んでくれるな!」

「「うん!」」

ハルトとユウマも早起きして、大きなハンバーガーをたくさん作ってくれた。

お肉も二段になってるし、食べ応えは十分だ。

すると、僕たちの前にステラさんたちが駆け寄ってくる。

「ユイトくぅ~ん! 昨日はお役に立てなくてごめんなさい~……!」

「ステラさん! そんな事ないですよ! ハルトとユウマを結界で守ってくれてたんでしょう……?」

ステラさんは昨日の事をずっと気にしていた様だ。

オリビアさんに全力で守ると約束したのに、と落ち込んでいる。

あんな数が襲って来たのに、僕たちの事を心配するなんて……。

「でもでも~……! 途中で結界も消えてしまって~……」

「現にハルトとユウマはこんなに元気なんです。ステラさん、皆さんも! 僕たちを守ってくれて、ありがとうございます!」

僕が頭を下げると、ステラさんも仲間の人たちも皆驚いたように息を呑む音が聞こえた。

「おねぇちゃん、みなさん、ありがとう、ございます!」

「ねぇね! みなしゃん! ありぁと、ごじゃぃましゅ!」

僕の事を見て、ハルトとユウマも一緒にぺこりと頭を下げた。

それを見た途端、潤んでいたステラさんの目から涙がボタボタと溢れ出す。

「うぅ~~~……! わたし、帰りたくないですぅ~~~……!」

「「「えぇ~?」」」

思いがけない言葉に、僕とハルト、ユウマは呆気に取られてしまう。

だけど周りの人たちは慣れているのか、やれやれと肩を竦めて笑っていた。

グスングスンと泣きじゃくるステラさんの肩を抱き、オリビアさんとトーマスさんもお礼を伝えている。

それにまた感動して涙が止まらないみたい……。

あんなに泣いて、瞼が腫れないか心配になってくる……。

「やぁ、君がユイトくんか! 初めて挨拶するね! 私はエイダンだ。よろしく!」

「あ、はい……! 初めまして……、じゃないですよね。ご挨拶が遅れてしまってすみません……!」

確かアレクさんのパーティのリーダーさん……、だった気がする……!

昨日は気まずいまま馬車に乗り込んで、ちゃんと挨拶すらしていなかったから……。

「いやいや! 本当はもう少し早く声を掛けたかったんだけど、アレクが邪……」

「リーダー! ほら! あっちでアーノルドさんが呼んでますよ!」

エレノアさんがリーダーさんの肩を叩き、ギルドの前にいるアーノルドさんたちを指した。

どうやら帰りの護衛の事で話があるみたいだ。

「あ? 本当だな……。ユイトくん、またこちらに来た時はお店にお邪魔させてもらうよ!」

「はい! 是非いらして下さい! お待ちしてます!」

リーダーさんは大柄で髭がちょっと怖いけど、笑うととっても優しそうな人。

この人がアレクさんと一緒に戦っているんだなぁと思うと、なぜか嬉しくなる。

すると去り際、リーダーさんはこちらに振り返り、僕に向かって大声で叫んだ。

「あぁ、そうだ! ちゃんとアレクと仲直りしといてくれよ~? また宿でウジウジされても困るからな!」

「えっ……」

「あら……!」

「何……!?」

リーダーさんは満面の笑みで僕に手を振り、またなと言ってそのままアーノルドさんの下へ走っていく。

アーノルドさんと騎士団員さんたちは、こちらを見ながら笑っているのが分かる。

あ、イドリスさんや受付のエヴァさんも出てきた……!

解体主任のギデオンさんまで……!

さすがに少し、恥ずかしいんだけどなぁ……。

オリビアさんはメフィストを抱っこしながら、あらあらと口元に手をやりにやにやと嬉しそう。

トーマスさんはどういう事だ? とオリビアさんに訊ねている。

エレノアさんは額を押さえ、すまないと謝っていたけど……。

「おにぃちゃん! あれくさん、あっちです!」

「はやく! あいしゃちゅ!」

「え? あ、うん……!」

ハルトとユウマに手を引かれ、僕は馬車の後ろにいるアレクさんの下へ。

「あれくさ~ん!」

「あれくしゃ~ん!」

二人が呼び掛けると、自分用の馬なのか、アレクさんは手綱を付けた馬を優しく撫でている最中だった。

口元にはメフィストに殴られた痕が痛々しく残っている。

「おぅ! ハルト、ユウマ! 昨日はちゃんと眠れたか?」

「はい! ぐっすり、です!」

「ゆぅくんも! いっぱぃねちゃの!」

「そうか! よかった!」

アレクさんは笑顔を浮かべ、二人の頭を優しく撫でている。

そして僕の方を見ると、立ち上がり気まずそうに近付いてくる。

「ユイト……、昨日はケーキありがとう……。あの後、ちゃんと話せなかったから……」

「あ、はい……。僕も……。もっと早く、謝りに行きたかったんですけど……」

何だか恥ずかしくて、なかなかアレクさんの顔が見れないでいる。

ハルトとユウマはがんばって、と応援してくれるけど、どこまで知っているんだろう……?

もしかして僕、バレバレだったのかな……?

「これ……」

「え?」

アレクさんが不意に僕の手を掴み、そっと握らせた物。

「やっぱり、ユイトに持っててほしい……。これを渡す意味、知ってるか……?」

僕の手の中には、僕が誤解して返してしまった緑の石が付いた指輪を通したネックレス。

「僕が貰っても、いいんですか……?」

出来るならもう一度、と願っていた。

「あぁ、ユイトに貰ってほしい」

「嬉しいです……。あ、ありがとうございます……」

このネックレスを見ると、自然と涙が溢れだして止まらない。

あ、そうだ……。僕もアレクさんに渡したい物が……!

僕が涙を拭って鞄をごそごそと探っていると、アレクさんはこちらを見て首を傾げている。

「アレクさん! これ!」

「え?」

「これ……! 受け取って、くれますか……?」

あのお店のお姉さんが、大事な人用にと包んでくれた。

アレクさんはそっと受け取り、包みを丁寧に剝がしていく。

「ユイト……、これって……」

中から出てきたのは、僕が一目で惹かれたきらりと光る石が施されたネックレス。

揺れるたびにキラキラと光を反射し、すごく綺麗だ。

「これ、僕の瞳の色ではないんですけど……。アレクさんに渡したくて……」

「本当に……? オレでいいのか?」

アレクさんはネックレスを大事そうに手に握り、僕の事を真剣な表情で見つめている。

どうしよう……、恥ずかしい……! 恥ずかしいけど……!

「……はいっ! アレクさんに、貰ってほしいんですっ!!」

僕が勇気を出して叫ぶと、オォ~~という歓声が。

知らぬ間に僕たちの周りに皆が集まっていた。

しかも商店の人たちまで……!

トーマスさんはこちらを見て目を見開いている。

オリビアさんはその隣で目に涙を溜めていた。

「う、あ、あの……。あれ、く、さん……」

恥ずかしくて顔から火が出そうだ!

早くこの場から立ち去りたい……っ!

そんな事を思っていると、不意にアレクさんが僕の腕を掴み、ぎゅうっと抱きしめた。

「子ども……? 孫……? どっちでもいいや!」

「え?」

すると、アレクさんはトーマスさんたちの方を向いて息を吸った。

「トーマスさん! オリビアさん! ユイトを、オレにくださいっ!!」

その言葉に、トーマスさんはこの世の終わりの様な顔をして、

「まだ早い!!」

と、大声で叫んだ。

周りは皆、お腹を抱えて笑ってるし、イドリスさんなんかもっとやれと囃し立ててトーマスさんに殴られている。

オリビアさんとステラさんはよかったわねぇ~、なんて二人で泣き出してしまうし、いつの間にか来ていたブレンダさんとエレノアさんは、肩を抱き寄せ僕たちを微笑ましく見つめている。

「あぁ~……、とても言い辛いんですが……。そろそろ出発のお時間です……」

イーサンさんが申し訳なさそうに、抱きしめられてる僕に伝えてくる。

バージルさんもその後ろでウィンクしてるし……!

「あ、はい……!」

僕を抱きしめているアレクさんの腕を解くと、口を尖らせ残念そうに眉を下げる。

その子供っぽい仕草が、今は堪らなく愛おしい。

「アレクさん、また……、会えますよね?」

アレクさんの目を見つめて問いかけると、力強く頷いてくれる。

「あぁ、ユイトが嫌じゃなかったらな」

「そんな訳ないじゃないですか!」

悪戯っぽい目でそんな事を言うなんて!

だけど、寂しさを紛らわせようと怒ったふりをしたけどもうダメだった。

自分でも涙が溢れてくるのが分かる。

「ユイト!」

「え?」

アレクさんは僕の顔を両手で掴み、そのまま口付けた。

「ヒュ──ッ! やりやがった!!」

「すごいですぅ~! 憧れちゃいますぅ~!」

周りが騒いでいる声が聞こえる。

だけど僕には、アレクさんしか見えていなかった。

唇をそっと離し、アレクさんは僕の頬を優しく撫でる。

「ユイト、また会いに来るからな! ちゃんと待っててくれよ?」

アレクさんは悪戯が成功した様に、ニヤッと笑っている。

「……アレクさんも、皆さんの言う事、ちゃんと聞いてくださいね?」

あれ? 思ってたのと違うんだけど……?

そんな言葉が聞こえそうな程に拍子抜けしたアレクさんの顔を見て、僕は思わず笑ってしまう。

「そしたらちゃんと、ご褒美、あげます!」

アレクさんの顔を両手で掴み、グイっと引っ張ると、僕はそのままアレクさんに口付けた。

「マジか! ユイト───ッ!」

「きゃあ~~~っ! 興奮しちゃいます~~~っ!!」

周りが何か叫んでる気がするけど、僕の頭には何も入ってこない。

すると、長すぎたのかアレクさんが僕の背中をバンバンと軽く叩いてくる。

「プハ~ッ!」

唇を離すなり、アレクさんは大きく息を吸った。

ふふふ、してやったり……。

今度はアレクさんがまっ赤になる番だった。

「あぁ~ん! どぅちてぇ~?」

「あぅ~!」

すると、ユウマとメフィストの悲し気な声が聞こえてくる。

ふとそちらを見ると、トーマスさんがユウマとメフィストが見ない様に手で二人の目を覆い隠していた。

ハルトは自分の手で隠しているが、指の隙間からこちらを覗いているのが分かる。

「……トーマスさん、許してもらえますか?」

僕がそうお願いすると、トーマスさんはグゥ~ッと顔を渋くして唸っている。

「アレク……! ユイトを泣かせると……、承知しないぞっ!!」

仕方ないという様子で、渋々許してもらえたのかな?

だけどそれだけでも嬉しい!

「はいっ! ユイトの事、一生大切にします! お義父さんっ!」

「まだ早ぁ~~いっ!!」

皆の笑い声が聞こえ、トーマスさん以外は皆笑っている。

バージルさんたちはトーマスさんを慰め、ステラさんたちはアレクさんと僕をお祝いしてくれた。

その日、このアドレイムの街は、お祝いムード一色だった。