軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159 黒い手

「皆! こちらに来てはダメよ!」

オリビアさんの視線の先、そこには馬車の中から無数に伸びる真っ黒な手が蠢いている。

「な、何アレ……!?」

そこだけ別の空間に繋がっている様に先が見えない。

フレッドさんたちとの間にも、いつの間にか黒い手が伸びている……。

これは迂闊に近付けそうにないな……。

ハルトとユウマ、ライアンくんを後ろに庇いながら、僕はジリジリと馬車から距離を取る。

『 降り注げ《 鉄槌の矢(ファオストプファイル) 》』

オリビアさんが両手を掲げて何かを唱えると、後ろから岩の様な巨大な拳がいくつも現れ黒い手に向かって躊躇なく拳を振り下ろした。

「お、オリビアさん……! すごい……!」

「おばぁちゃん、かっこいいです……!」

「ばぁば、しゅごぃねぇ……!」

土埃で一瞬見えなかったけど、蠢いていた黒い手は消散し、そこにはまるで始めから何もなかったようにさっきまで乗っていた馬車が残っている。

だけど、地面には大きなクレーターが……。

「よ、容赦ない……」

しかし、安心したのも束の間。

僕たちの周りに地面からいくつもの黒い渦が現れる。

中からは馬車の中と同じ、無数の黒い手が蠢いている。

「うわぁっ!?」

気が付くと、いつの間にか僕たちの足元にまで手が伸びていた。

「殿下っ! ユイトくんっ!」

サイラスさんたちはこちらに向かおうとするけど、無数の黒い手が邪魔をして動けずにいる様だ。

「危ないっ!」

咄嗟にライアンくんを庇い、抱き上げる。

すると、黒い手は僕の足を掴み黒い渦の中に引き込もうとする。

悪いと思ったけど、僕はライアンくんをハルトとユウマの近くに放り投げた。

「……うっ! ……ユイトさん!」

「おにぃちゃんっ!」

「にぃにーっ!」

三人とも僕に近付こうとするが、咄嗟に片手で制し首を横に振った。

トーマスさんたちの近くへは……、ダメだ! 魔物が迫って来てる!

騎士団の人たちも黒い手と魔物でこちらには来れない。

あの数は何……? ハワードさんたちは無事なのか……?

「ライアンくん! ハルトとユウマを連れてオリビアさんの下へ!」

「でもっ!」

「早くっ!」

僕の言葉に泣きそうになりながらも涙を堪え、ライアンくんは二人の手を引いて僕から離れようとする。

「ユイトくんっ!」

捕まっている僕に気付いたオリビアさんが助けに来ようとするけど、僕たちの間にまた黒い渦が現れ始めた。

「あぁ~……! しつっこいわねぇ……! さっさと消えなさい!」

『 消え失せろ!《 地獄の鉄槌(ヘレ・ファオスト) 》!』

すると、先程よりも巨大な拳が二つ、黒い渦に向かって振り下ろされる。

地面が揺れ、そこにヒビが入り始めた。

そうしているうちにも僕の体はどんどん渦の中へと引き摺られていく。

殴っても蹴ってもビクともしない。

寧ろ拘束はどんどん強くなっていく。

「うぅ……! 何で外れないんだよ……!」

膝のあたりまで黒い手が伸びたとき、その黒い手に向かって炎を纏った剣が突き刺さった。

その手は一瞬にして消散してしまう。

「ユイト! 無事かっ!?」

引き摺り込まれそうになっていた僕を助けてくれたのは、ずっと謝りたかったアレクさんだった。

僕を抱え立ち上がらせると、どこにも怪我はないかと確認している。

「あ、アレク、さん……?」

「ハァ……、無事で良かった……!」

僕を抱き寄せ小さな声でそう呟くと、アレクさんは僕を引き離し、僕の両肩を掴む。

「ステラが結界を張る。オリビアさんの下まで走れるか?」

「あ、アレクさんは……?」

「オレはユイトたちを守るのが仕事だ。いいか? 何があっても振り返るな、走れ。分かったな?」

「は、はい……!」

「よし!」

走れ! と言って僕の背中を押すと、アレクさんはまた剣を持って黒い渦に向かって行く。

振り向くなと言われたけど、アレクさんに何かあったらどうしよう……。

僕は走りながらも少しだけアレクさんの向かって行った方を確認する。

そこには蠢く無数の手が伸び、アレクさんを取り込もうと背中からも迫って来ていた。

───いやだいやだいやだ……!

「ユイトくん! どこ行くのっ!?」

オリビアさんの叫び声が聞こえる。

その間にもあの不気味な黒い手は彼の首に絡みつき、渦の中へ引き摺り込もうとしている。

だけど僕にはもう、アレクさんを助ける事しか考えられなかった。

「アレクさんっ!」

「ユイト……!?」

僕は迷わず、アレクさんと一緒に暗い渦の中に飲み込まれた。