軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123 二人でお出掛け

「ユイト、ちょっといいか?」

「? はい、どうしました?」

閉店後、皆でカビーアさんたちを外まで見送り店内に戻ろうとすると、アレクさんは少し気まずそうに僕の手を引いた。

オリビアさんは気を利かせてくれたのか、ハルトとユウマを連れて先に戻っていく。

「え~と……、明日なんだけど……。少し早いけど、閉店後に迎えに来ても……、いいか?」

「あ! はい、もちろんです! どこに行くんですか?」

夜に行くと思ってたけど、少し早めに来るみたいだ。

僕が質問すると、アレクさんはまだ秘密だ、と言って、困った様に眉を下げて笑っている。

「明日、楽しみにしてますね!」

「あぁ! オレも……!」

アレクさんはなぜか、ずっと僕の手を握ったまま。

それに少しだけ、緊張してしまう。

「あら、アレクも帰ったの?」

「はい。オリビアさんに今日のお礼を伝えてくれって」

「ふふ、お料理を作ったのは私じゃなくて、カビーアさんなんだけどねぇ~」

美味しかったわねぇ~、とさっき食べたカリーを思い出したのか、オリビアさんは楽しそう。

「カビーアさんのお店、行商市で上手くいくといいですね!」

「そうね! 私たちも行ったら応援しなくちゃね!」

お客様の中にいたメイソンさんのお弟子さんと意気投合した様で、今夜と明日は家に泊まらせてもらうそうだ。

そう考えると、本当にこの村の人たちって、お人好しばっかりだよね……?

楽しそうに歩くカビーアさんの後ろ姿を思い出して、僕は上手くいきますように! と強く願っていた。

*****

仕込みも終わり、夕食の時間まで家のダイニングで皆でのんびり。

ハルトだけはふんふんと素振りを頑張っているけど。

「あ、そうだわ! ユイトくん、渡しておきたいものがあったのよ!」

「僕にですか?」

何だろう? 思いつかないな……。

僕がソファーで考えていると、オリビアさんは僕に、買い物用じゃない財布と、頑丈そうな巾着袋を手渡した。

「これ! ユイトくんのお給料とお小遣いね!」

「……えっ!? 僕の……?」

両手に、ズシリと硬貨の重みを感じる。

まさかお金を渡されるとは思ってもみなかった……。

僕が驚いてどうしていいか分からないでいると、オリビアさんはその様子がおかしかったのか、ユウマの頭を撫でながら困ったお兄ちゃんねぇ~、なんて笑っている。

「少し遅くなっちゃったんだけど、これがユイトくんの頑張りの成果です」

そう言って僕にウィンクすると、オリビアさんはよく頑張りました! と僕の頭を撫でてくれる。

お給料……? 初めて自分で稼いだお金……。

そう思うと、なんだか胸がいっぱいになって、嬉しいのに涙が出てきそうだ。

「オリビアさん! ありがとうございます……! 僕、これからも頑張ります……!」

「ふふ、ユイトくんたちが手伝ってくれる様になってから売り上げも倍以上だし! それに、私の方こそ助かってるもの……。これからも、よろしくお願いします!」

「はい! よろしくお願いします!」

嬉しくて、僕は渡されたお給料を大事に両腕に抱えた。

この巾着袋には、僕の初めて稼いだお給料が入っている。

……なら、この新しい財布は?

僕の考えている事が分かったのか、オリビアさんは笑みを浮かべた。

「このお財布はね、トーマスと私からのプレゼント! 中にお小遣いが入ってるわ。明日と明後日は楽しみな事があるでしょう? ちゃんと持っときなさい?」

「えっ……? お小遣い……? お給料、貰いましたけど……」

もう自分のお給料もあるのに……?

そう不思議に感じていると、

「だってユイトくん……。放っておくと、ハルトちゃんとユウマちゃんのために使わないで置いとくんじゃないか……、ってトーマスと話しててね? もううちの子なんだし、お小遣いくらいあげてもいいでしょう? 行商市では調味料なんかは私が買うから、ユイトくんは自分が気に入ったものがあったら遠慮せずに買いなさいね?」

オリビアさんとトーマスさんのその優しさに、胸がジンと熱くなる。

「……嬉しいです……! 大切に使います……!」

「えぇ、私たちも使ってもらえると嬉しいわ!」

行商市で良いものが見つかるといいわねぇ~、とハルトとユウマに話しかけるオリビアさん。

二人にも、僕とお揃いの少し小さな巾着袋を渡していた。

いつもお店のお手伝いをしてくれているからね。二人ともそれを受け取り、嬉しそうにはしゃいでいる。

初めてのお給料に、優しさの詰まったプレゼント。

今日は、嬉しくて眠れないかもしれない……。

*****

おはようございます……。

気付けば朝、ぐっすり快眠でした……。

僕はプレゼントが嬉しくて、財布を眺めながらベッドで横になっていたんだけど……。

いつの間にか寝てしまったみたいで、顔にはくっきり財布の痕が……。

恥ずかしい……! 買い出しまでには消えるかな……?

財布の痕がついた頬を擦りながらお店のキッチンへ向かい、今日の仕込みと買い出しの確認。

窓の外はまだ薄暗い。

もうこの時間に起きるのも慣れちゃったな。

今日の営業を頑張れば、閉店後はアレクさんと出掛ける予定だし、明日は朝から皆で行商市!

楽しみな事がたくさんあるって幸せだ……!

今日も張り切って頑張ろう!

*****

「「「ありがとうございました(まちた)!」」」

最後のお客様を見送り、無事に閉店。

今日は仕込みもしなくていいしラクだなぁ~!

「ハァ~! やっと終わったわね! お疲れ様でした!」

「お疲れ様です! 今日もピザ、たくさん出ましたね!」

「ホントねぇ~。オーブンが直って本当によかったわ~!」

お店の片付けをしながら、たわいもない会話をしていると、お店の扉が開きアレクさんが入ってきた。

「アレクさん、こんにちは! もうすぐ終わるので待っててもらえますか?」

「あぁ、慌てなくて大丈夫だ。早く着いただけだから」

「ユイトくん、後は私がやっておくから遊んできていいわよ?」

「えっ? でも……」

「もう掃き掃除するだけでしょ? いいからいいから! アレク、ユイトくんの事お願いね?」

「はい! 任せてください!」

「あ、じゃあ……。お言葉に甘えて……」

僕がエプロンを取ると、オリビアさんがそれを受け取り、僕の肩をグイグイと扉の方へ押していく。

「じゃ、楽しんできてね! あ、なるべく危ないところには行かない様に! あと、暗くなったら一人になっちゃダメよ? それだけ守ってね!」

「オリビアさん、オレがちゃんと見てるんで大丈夫だ……、ですよ!」

最近のアレクさんは、段々と素が出てきているみたい。

オリビアさんもそれが分かっているのか、にやにやと笑っている。

「ふふ! さ、ハルトちゃんとユウマちゃんもお見送りしましょ?」

僕が遊びに行くと知って、最初は駄々をこねるかなと思っていたけど、オリビアさんと何か話すと、二人とも思いの外すんなりと了承してくれた。

それがなぜか寂しく感じるけど……。

「おにぃちゃん、あれくさん、いってらっしゃい!」

「にぃに、あれくしゃん……。こんりょは、はるくんもゆぅくんもいっちょね……?」

「あぁ、分かった! 今度はハルトとユウマも、一緒に遊ぼうな!」

「「やったぁ~!!」」

アレクさんが二人の頭をわしゃわしゃと撫でると、楽しそうに声を上げて喜んでいる。

「二人とも、ちゃんといい子にしてるんだよ~?」

「「うん!!」」

「じゃあ、いってきます!」

「「「いってらっしゃい(ちゃぃ)!」」」

*****

三人に見送られ、僕は初めて友達と出掛ける事に……。

どこに行くんだろう? ワクワクするな!

「ユイトは、なんか食えないもんとかある?」

「僕ですか? ん~……、今のところは紅茶くらい、かなぁ……?」

こっちの食材はどれも美味しいんだけど、まだまだ知らない食材もあるし……。

あ、ブレンダさんのあのグロディ……、グロディ……なんちゃらのエキス?

あれは体調が良くなるけど、もう口にしたくないな!

「あ、ユイトも紅茶苦手なのか? オレも! ……って、そんな顔するくらい嫌いなのか?」

エキスの味を思い出していたら、いつの間にか凄い顔になっていたみたいだ。

僕は慌てて誤魔化した。

「アレクさんもですか? 珍しいですね!」

「周りはオレ以外、皆飲むんだけどな。なんか匂いがダメで……」

「なんか、苦手なものが一緒だと、ご飯も気を使わなくていいですね!」

僕が何気なく言った言葉に、アレクさんは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「ユイトはこの村以外で、どっかメシ屋とか行った事ある?」

今日はギルドのある隣街ではなく、反対側の隣村に行くみたい。

乗合馬車の乗り場まで歩いて向かう。

「いえ、無いですねぇ……。行くのはこの村のお店で買い出しくらいなので……。あ、この前アレクさんが財布忘れた日! あの日も、普段あそこまで行かないんですよ! だから会えてラッキーでしたね!」

あの日の落ち込んでるアレクさんを思い出して、少しニヤけてしまう。

アレクさんでもあんな失敗するんだな……。

「ユイト……。なんか失礼な事、考えてるだろ……?」

「え? やだなぁ! アレクさんでもあんな失敗するんだとか考えてませんよ!」

「おい……! 忘れてくれ……!」

「ふふ! やです!」

「ユイト~……!」

なんだか、こんな会話をしながら歩くだけでも楽しい!

思ったより浮かれてたみたいだ。

*****

「おっ? ユイト……? ここまで来るのは珍しいな?」

「アイザックさん、こんにちは!」

村の門の近くまで行くと、警備兵のアイザックさんに声を掛けられた。

アイザックさんが宣伝してくれたおかげか、お持ち帰り用のハンバーガーが売れているのでお店も助かっている。

だけど、最近は警備兵の人たちも忙しそうで、アイザックさんの顔を見るのも久し振りだ。

「アイザックさんがくれた短剣! あれ、ハルトがすっごく気に入っちゃって、強くなるって言って毎日欠かさず素振りしてるんですよ!」

色んな人に強くなるにはって訊いてるみたいだし、本人は真剣にやってるから僕は応援するだけだ。

ありがとうございました、とお礼を伝えると、アイザックさんは安心した様にホッと息を吐いた。

「そうか! 気に入ってくれてよかったよ!」

「ハルトもなんですけど、ユウマはそれを作る方に興味があるみたいで。メイソンさんの弟子になるって言ってました!」

「ハハ! それはそれは! 将来楽しみだな!」

二人が短剣を大切にしていると知り、アイザックさんはとっても嬉しそうに顔を綻ばせた。

僕とアイザックさんが談笑していると、横にいるアレクさんが気になったのか、アイザックさんはチラッとそちらを見ると驚いた様に固まってしまった。

「アイザックさん? どうしたんですか?」

「あ、いや……。ハハ、まさかAランクの冒険者に会うとは思わなかっただけだよ……!」

アイザックさんもアレクさんの事、知ってるんだ……!

「わぁ~! アレクさんって、有名なんですね! 凄いなぁ……!」

「え? そうか? そんな事ないと思うけど……」

「ゲホッゲホッ……!」

僕がアレクさんを見ると、照れた様に頬をポリポリと掻いている。

すると突然、アイザックさんが咽始めた。

「アイザックさん!? 大丈夫ですか? 疲れてるんじゃ……?」

「いや、大丈夫だ……。ちょっと変なところに入っただけだから……」

「そうですか? あまりムリしないでくださいね?」

「あぁ、気を付けるよ。ユイトも村の外に出るなら、あまり暗くならないうちに帰るんだぞ?」

「はい! アレクさんがいるから大丈夫です! ねっ!」

僕がそう言うと、アレクさんも満面の笑みでうんと頷いてくれる。

「じゃあ、いってきます!」

「気を付けてなぁ~……」

アイザックさんに見送られ、僕たちは乗合馬車に乗り込む。

この時間はお客さん少ないのかな? 乗っているのは、僕たち以外に二人だけ。

御者の男の人はこちらを見ると、一瞬驚いた顔を浮かべたけど、何もなかった様に僕たちに挨拶をして前を向いてしまう。

あの人、さっき知り合いの人にブライスと呼ばれていたな。

もしかしたら帰りもこの人の馬車かもしれないし、覚えとこ。

「では間もなく出発します! 揺れますので、走行中は立たない様にお願いします!」

いよいよ出発の時間だ! 僕はワクワクを抑えきれずに、ついついニヤけてしまう。

横に座るアレクさんを見ると、僕を優しい表情で見つめていた。

僕がはしゃいでるのがバレちゃったのかも……。

気を引き締めると、ブハッと吹き出すアレクさん。

「なんですか……」

僕がジト目で見ると、アレクさんは隠そうともせず、ずっと笑っている。

「そんなに笑うなんて……! ひどいです!」

「いやいや、可愛いなと思って見てただけだから!」

「ホントですかぁ~?」

「マジマジ! 信じてくれよ!」

そんな僕たちのやり取りを、やっぱりブライスさんは目を丸くして眺めていた。

ほら、はしゃぎすぎて僕が楽しみにしてるの、他の人にもバレちゃったんだ……!

「コホン……、では出発しまーす!」

いよいよだ! 今日はどこに行くのかな?

やっぱりワクワクは抑えられない……。

アレクさんはまだ笑っているけど、今日の所は許してあげよう……。