軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113 束の間の再会

「出掛けたい?」

「……はい」

アレクさんが帰った後、オリビアさんが水を飲みに起きてきたので早速相談。

いきなりトーマスさんに言うのは、なんとなく、勇気がいるから……。

まだ少し頭が痛そうだけど、朝よりはマシみたい。

「定休日の前日ねぇ……。あまり遅くならなければいいわよ?」

「えっ!? いいんですか!?」

反対されると思っていたから、思わず大きな声が出てしまった。

「あら? ダメって言われる方が良かった?」

「えっ!? いえ! 嬉しいです……!」

「ふふ、たまにはゆっくり羽でも伸ばしてきて?」

「あ、ありがとうございます……!」

まさかこんなにスムーズにお許しが出るとは……!

トーマスさんが帰ってきたら、出掛けてもいいか念のためにもう一度訊いてみよう……。

「オリビアさん、ご飯どうしますか? ずっと寝てたからお腹空いてませんか?」

朝から今までずっと寝ていたからなぁ。

結構な時間が経ってるし。

「お腹は空いてるんだけどねぇ~。ハルトちゃんとユウマちゃんがもうすぐ帰ってくるでしょ? 夕食まで我慢しようかしら」

「そうですか? ならこれは夕食に回そうかな……」

「あら、何か作ってくれてたの?」

「お昼に作った揚げた鶏肉を薄く切って、オリビアさん用にサンドイッチにしようかなと思ってたんです」

オリビアさんの分も仕込んでおいたんだけど、起きてくる気配がなかったから揚げずにおいてた。

今夜はもう一度チキン南蛮か。

それか、一口大に切って皆に分けて出そうかな。

「揚げた鶏肉? 鶏の唐揚げ(フライドチキン) じゃなくて?」

「はい。甘酸っぱいタレとタルタルソースで食べるんですけど、アレクさんにも美味しいって言ってもらえました」

「甘酸っぱい? どんなのかしら……、って! アレクが食べたの!?」

「? はい。買い物に出たら偶然会って。それで一緒に食べようかと思って誘ったんです」

「まぁ……! 寝てる間にそんな事になってたなんて……」

オリビアさんが思わず、といった風に口を押さえて驚いている。

……あ、お休み中に勝手に入れちゃダメだったかな、なんて思っていたら……。

「私も参加したかったわ……!」

とても悔しそうに目を瞑っていた。

今度からはちゃんと起こしますね……。

「もしかして、その出掛けるって言うのは、アレクと……?」

オリビアさんがハッとした顔をして僕を見る。

「はい。今日のお礼に、ご飯をご馳走してくれるって」

「まぁ~!」

オリビアさんは口を押さえたまま目をこれでもかと見開き、いいわねぇ~と言いながら僕の肩をポンポンと軽く叩いた。

もしかして、オリビアさんもご飯一緒に行きたいのかな?

そう思って僕が誘うと、オリビアさんはアレクも大変ねぇ~、なんて涙を拭いながら笑っていた。

なんでアレクさんが大変なんだろう?

僕がオリビアさんのリクエストで鶏肉を揚げていると、予定よりも早くハルトとユウマが帰ってきた。

トーマスさんは馬車の方でまだ話をしているみたい。

「おかえり! 思ってたより早かったねぇ。別荘、楽しかった?」

僕が声を掛けると、ハルトとユウマはただいま、とにっこり笑って後ろ手に何かを隠している様子。

ははぁ~ん? 僕を驚かせるつもりだな……?

揚がった鶏肉を上げて油を切ると、僕はキッチンから出て二人の下へ。

「おにぃちゃん、おめめ、つぶってください!」

「にぃに、はやくはやく~! ちゅむってぇ~!」

二人は余程僕に見せたいのか、はやくはやく! とせがむ。

「なぁに? お兄ちゃんにも早く教えてよ~?」

僕がしゃがんで目を瞑ると、二人の笑い声が聞こえてくる。

「おにぃちゃん! もう、あけてもいいです!」

「にぃに~! いぃよ~!」

「えぇ~? なんだろう?」

僕がゆっくり瞼を開けると、僕の顔に何かがビタン! と張り付いた。

驚いて思わず尻もちをついてしまう。

「えっ!? なになに?」

怖いんだけど!?

焦り、張り付いたものを慌てて片手で掴み、確認すると、キレイな瞳と目が合った。

「……えっ!? ウソ!?」

そこには僕の手に掴まれて、不服そうにぷく~っと頬を膨らませて睨むノアの姿が……!

僕が慌てて手を緩めると、ノアは僕のほっぺにまたしがみ付く。

それを見ていたオリビアさんの方にも飛んでいき、またほっぺにしがみ付いた。

オリビアさんは可愛いノアとの再会にご機嫌だ。

もしかしてあれって挨拶なのかな?

僕が呆然としていると、トーマスさんが慌てて店の中に入ってくる。

尻もちをついている僕を見て、何をしてるんだ? という顔をして僕の手を取り、起こしてくれた。

「トーマスさん、お帰りなさい……」

「あぁ、すまないがまだハルトとユウマを送りに来ただけなんだよ。ちょっと緊急事態でね。オリビア、今夜と明日は帰れないかもしれない。この子たちの事を頼む」

いつもの優しい顔ではなく、厳しい表情のトーマスさん。

何かあったんだろうけど、僕には何も出来ないし……。

そんな事を考えていると、トーマスさんが不意にこちらを向き、僕にお願いがあるという。

「ユイト、すまないが、二日後までに甘くて美味しい菓子と蒸しパンを作ってほしい。なるべく多い方がいいんだが、頼めるか? 砂糖は遠慮なく使ってもいいから」

「お菓子ですか? はい、大丈夫です」

「そうか! 助かるよ。また取りに来るから。ノア! おいで!」

いつの間にか僕の肩に座って足をプラプラさせていたノアを手招きし、ノアもちゃんと言う事を聞いてトーマスさんの方にふわりと飛んでいく。

あ、もう行っちゃうのか。

「ノア! またね!」

僕が慌てて手を振ると、トーマスさんの肩に座ったノアも、大きく頷き手を振り返してくれた。

「トーマス、気を付けてね?」

「あぁ、戻ったらちゃんと説明するよ。行ってくる」

「トーマスさん、いってらっしゃい……」

「ユイトも、オリビアとこの子たちを頼んだぞ?」

「はい……!」

僕の頭を優しく撫で、トーマスさんとノアは馬車に乗って行ってしまった。

……それにしても、ノアはどうして、ここにいたんだろう?

疑問ばかりが浮かんでくるけど、きっと何か大変な事が起きているというのは理解した。

でも何も手伝えない自分がもどかしい。

きっとこんな時、僕が冒険者だったら役に立てたのかな……?

こんな所でも自分の力不足を痛感する。

僕はとりあえず、お願いされたお菓子と蒸しパンのレシピでも考えようかな……。