軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ

その日はいつものように酔っぱらって暴れる父から逃げるように、部屋の隅で息を殺して小さくなっていた。

僕の腕の中には5歳の弟ハルト、3歳の弟ユウマが怯えて縮こまっている。

助けてくれる人はもういない。

『 僕が守らなきゃ…… 』

弟たちが少しでも安心するように、僕は二人をぎゅっと抱き寄せた。

外は酷い雨で、もうどこにも、僕たちの居場所はないように感じた。

母は去年の冬、事故に遭い亡くなった。僕の14歳の誕生日プレゼントを買った帰りだったらしい。

ぺしゃんこになったバッグの中にはラッピングされた携帯電話が入っていた。

まだ36歳。笑顔の絶えない、お日様のようにあったかい人だった。

父は僕が小学校の高学年に上がる頃に会社からリストラされ、再就職も上手くいかず、派遣で工場などに行っていた。

だが、いつからか毎日のようにお酒ばかり飲むようになり、次第に母や僕たちに当たるようになっていった。

それからしばらくして父は家に帰らなくなり、妊娠中の母が朝から晩までパートを掛け持ちし僕たちを育ててくれた。

出産間近になり、母と僕、弟のハルトは住んでいた町から祖母が暮らす母の田舎に引っ越した。

祖母の家は海の近くで、近所のおじさんたちは漁師さんが多かった。

家のすぐ裏には山があって、隣に住む高校生のお兄ちゃんたちに連れられて、ハルトと一緒にカブトムシを探して回った。

末の弟ユウマが産まれ、母の容体も安定した頃、母は地元の介護施設で働くようになった。

母のいない時間は長く寂しいと感じたこともあったけど、祖母や近所のおじさんたちが優しく接してくれたし、何より脅えずに過ごせることがすごく嬉しかった。

二年前、祖母が倒れ入院した。肺炎をこじらせ、一度も家に帰ることなく亡くなった。

身近な人の初めての死を経験し、とても怖くて寂しくて、だけど母と弟たちを支えなきゃって強く感じた。

それからは母を少しでも助けようと今まで以上に家事、幼稚園の送迎、弟たちの世話など、出来ることは何でもやった。

「ありがとう」って笑った母の顔が、いまでも忘れられない。

そして去年の12月、授業中に先生に呼ばれ、急いで病院に向かうと、そこにはベッドで横になったまま動かない母がいた。

お医者さんは顔は見ないほうがいいって、車体に巻き込まれて傷が酷いからって僕に言って、付き添いで来てくれた担任の先生と少し話をしてた。

僕は母の横で泣きわめいてた。

どれだけ時間が経ったのか分からないけど、帰るころには辺りは暗くなってた。

帰りのタクシーの中で、先生は泣いてる僕をずっと優しく抱きしめてくれた。

葬儀の日、僕は何も手につかないままだったけど、いろんな人が手伝ってくれて……。

ハルトは僕の手をぎゅっと握ったまま離さず、ユウマは泣き疲れて眠っていた。

こうして僕たち三人は、空に昇る煙を眺めながらもう二度と会えない母を想い見送った。

祖母と母が亡くなり、僕たちは別居中の父に引き取られることになった。

祖母の土地と家は亡き祖父のお兄さんが持っていたもので、僕たちには今まで通り住んでもいいと言ってくれたけど、母の保険金と事故を起こした相手側からの賠償金も支払われるため、父はそのまま僕たちを連れ、父の住むアパートへ戻った。

戻ってからの生活は以前よりも酷く、アパートにはお風呂もなかったし、隙間風も酷かった。

アパートの裏には山があって、窓を開けると虫がたくさん入ってくる。

祖母の家で遊んだ裏山とは違い、何故かすごく怖かった。

父は母が僕たちに残してくれたお金もお酒やギャンブルにつぎ込んでいるようで、僕たちはまともに学校にも通えないまま、アパートで怯えながら過ごす日々。

殴られ蹴られ、食事も満足に与えられない。

それでも幼い弟たちを守るため、必死に我慢し続けた。

いま思えば、近所の人や交番に助けてって言えればよかったなぁって後悔してる。

……そうすれば、少しはおなかいっぱい食べれたかな。

そして、ここに来てから8カ月が過ぎようとする蒸し暑い夏の日。

昨晩から大雨・洪水警報が発令されていて、父は大雨のせいで外に出れず、お酒ばかり飲んでいた。

弟たちは怯えながらも空腹には耐えられなかったのだろう。

父に小さな声でお願いした。

「おなかすいた」って。

そこからの記憶はハッキリと覚えていない。

とにかくハルトとユウマを守らなきゃ。

このままコイツに殺される。

なんで僕たちがこんな思いしなきゃいけないんだ。

なんでこんなヤツが父親なんだろうって。

お母さん、おばあちゃん、たすけて。

もうここにはいたくない。

するとアパート全体が大きく揺れて、部屋中の家具や食器が倒れてきた。

僕は必死に、ハルトとユウマを自分の腕の中に抱え込んだ。

父の叫び声が聞こえたと思った瞬間、僕たちは真っ黒な土砂に飲み込まれていった。