軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

③① クリストフside1

──時は三週間前まで遡る。

(ローズマリーめ……俺よりも劣っている分際で裏切るなんて許せん! 許せんぞっ)

クリストフはローズマリーが入った箱が出て行った扉を見ていた。

隣ではミシュリーヌが満足そうに微笑みながらクリストフに豊満な胸を押し付けている。

ローズマリーを箱に押し込んで国外に追放にしたのを多少なりとも後悔していた。

それに魔法樹のことも考えると焦りの気持ちがあった。

(後悔しても遅いからな。先に裏切ったのはお前の方だからな……!)

本当にこんなことをしてよかったのか、父に許可はいらなかっただろうか。

そんな考えが頭を過ぎるが、すぐに苛立ちでかき消されていく。

むしろ裏切られてムカムカした思いをさせた彼女に対する激しい怒りに

(いつ他の男を誑かしたんだ!? 俺という素晴らしい婚約者がいながらどうしてそんなことをする必要がある?)

クリストフはローズマリーと出会った時のことを思い出していた。

「はじめまして、ローズマリーと申します」

「……!」

珍しいライムグリーンの髪とライトブラウンの瞳。

整った顔立ちをしているものの、貴族の令嬢と比べると地味に感じる。

彼女は魔法樹を癒すことができる聖女という存在らしい。

婚約者になる前から、ローズマリーのことは一方的に見たことがある程度の認識だった。

だけど元平民ということで、会って話す気にはなれなかった。

聖女はバルガルド王国では馴染みのない言葉だった。

そもそも魔法樹もバルガルド王国にきてから時が経っていない。

他国に比べれば魔法樹や聖女の知識が乏しいのも確かだ。

ローズマリーが貴族出身だったら、どれほどよかっただろうと思った。

バルガルド王国では血筋や家格がもっとも重要視される。

だが、父にどうしてもと言われてローズマリーと婚約することになった。

もし気に入らなければ愛人を囲い、側妃として好きな令嬢を迎えていいと言われて受け入れて納得したのだ。

けれどローズマリーはクリストフに媚びてこない唯一の存在だった。

だからこそ惹かれたのかもしれない。

それに大聖堂にこもってばかりのローズマリーにはクリストフしかいない。

クリストフだけがローズマリーの唯一の男ということになる。

そのことがたまらなくクリストフを興奮させた。

(ハハッ、ローズマリーはすべて俺のものだ!)

クリストフの婚約者になってからは、仕方なく彼女と話してやっていたが、ローズマリーが大聖堂の大司教たちに質素な食事しかもらっていないことを知った。

そこでクリストフは、放置しっぱなしで捨てるというクッキーを持っていったのだ。

(飼っていた鳥の餌にしてもいいが、ローズマリーにやってみるか)

するとローズマリーは初めて表情を変えて、クリストフに『欲しい』と言った。

クッキーを食べて嬉しそうにしているローズマリー。

その時のことは今でも忘れらない。

次第に優越感を得るようになったクリストフは彼女のもとにクッキーを運ぶ。

すると彼女はクリストフに欲情した目を向けていたのだ。

(俺のことが好きで仕方ないのだな。ああ……ローズマリーには俺しかいない。いい気分だ)

ローズマリーはクリストフの話をずっと黙って聞いて、何を言っても受け入れていた。

(こいつはそれほどまでに俺のことが好きなのか。平民だったら一生直接顔を合わせて話すことなどなかっただろうからな、)

ミシュリーヌも同じ聖女ではあるが、貴族の令嬢らしく宝石やドレスを強請る姿が汚れて見えてしまう。

ローズマリーは聖女という名に相応しく、クリストフだけを愛している……そう思っていた。

まさかこんな裏切り方をされるとは思いもしなかったため、怒りが倍増していた。

「ローズマリーめ……!」

「クリストフ殿下、もうあの裏切り者の女はおりません。わたくしは、ずっとずっとクリストフ殿下に認められるために頑張ってきたのですわ」

「……ミシュリーヌ」

「この身の純潔も殿下に捧げたでしょう? わたくしのことを信じてくれてありがとうございます」

ミシュリーヌはローズマリーにずっと聖女としての仕事をさせてもらえずにいたらしい。

確かにミシュリーヌはパーティーやお茶会にばかり顔を出していた。

ローズマリーは聖女としての功績を独り占めしようとした挙句、クリストフの気を引きたくて魔法樹を弱めたという信じられない話を聞いたのだ。

最初は嘘だと思った。

だが魔法が使えない貴族たちが現れ始めたり、いつも強気なミシュリーヌがクリストフを頼り『信じて欲しい』と縋り、すべてを自分のために捧げたのだ。

それにはミシュリーヌのことを信じざるを得なかった。

(まぁいい……ミシュリーヌを正妃としてローズマリーは側妃とすれば丸く収まるだろう。聖女は必要な存在らしいからな)

クリストフがそう思っていたのに、実際に目にしたのはローズマリーがアイスグリーンの髪をした赤子を抱きしめている姿だった。

クリストフの中で何かがプチリと切れた。

ローズマリーがクリストフを裏切ったことに目の前が真っ白になった。

ローズマリーを国外に追放して、本人曰く彼女よりも優れた聖女であるミシュリーヌに魔法樹を任せる選択をする。

この時は自分の判断に絶対の自信を持っていた。

これで魔法樹の問題も解決すると、そう思っていたのに……。