軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01 女子旅らしさのかけらもない

「こんにちは。久しぶりね、マッシモ」

「ようこそおいでくださいました、ディアマンタ様。お嬢様がいらっしゃると華やぎますなぁ」

シルヴァロンは湖と緑に囲まれた風光明媚な観光地で、精霊が多く棲むとも言われている。

貴族の別荘も多く建っているシルヴァロン支店は、地元では手に入らないものを取り扱い、また、観光客だけでなく貴族の気まぐれな買い物に耐えられるだけの品揃えを誇る。各国の首都や王都を除けば五本の指に入る大きな支店である。

他にもメルシエ伯爵家では、近隣国にある複数の家との共同事業として、メイドや給仕などを育成する教育機関を経営していて、その学校のひとつがシルヴァロンにある。

ここで教育した人材を必要に応じて臨時で別荘に派遣するのだ。考えたのは父の大伯父である先々代のメルシエ伯爵らしい。ほんと、よく思いつくわ……。

「短い間だけれどよろしく。本店に上げる内容があれば、帰りまでに教えてね」

「かしこまりました」

マッシモはこのシルヴァロン支店を十年以上に渡って統括している。たまに会議のために本店にやって来る時以外はなかなか会えないレアキャラだ。

貴族受けする品の良さだけでなく茶目っ気も持ち合わせていて、平民ともフランクに接することができる。

「ああ、こちら、メドゥス製薬のベルサンさん。会長から話は来ていると思うけど、シルヴァロンは高級品の扱いも多いでしょう? 防犯の状況を確認して、最新のものをご提案いただくことになってるの。それ以外にも今ものすごくお世話になっているので、今回ご招待という形でお連れしました」

「初めましてマッシモ様。メドゥス製薬、魔道具開発課のアデル=ベルサンと申します、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします、ベルサン様。本来であれば馬車などで女子旅を楽しみながらお越しいただく場所ですが、味気なく転移箱でお越しいただき申し訳ありません」

「いいえとんでもない。五十年前の転移箱が現役で働いていることに感動しました! 手入れもしっかりされていて素晴らしかったです。乗り心地は製造年相応でしたが」

「ふはは、お嬢様にそう言っていただけて転移箱も喜んでいるでしょう」

「うふふ、もう結婚していますので、お嬢様と呼ばれると恥ずかしいですね」

「えっ!? ベルサンさん結婚してたの!?」

素っ頓狂な声が出る。全然知らなかった!

「あれ? 言ってませんでしたっけ、子どももいます、二人」

「初耳だわ、ええーじゃあごめんなさい、旦那さんにお子さんを押し付けてきちゃった感じ?」

「夫もメドゥスの社員なんです。社員寮住まいなんですが保育士さんが常駐していて、子守りサポートの魔道具も使い放題なんですよ。考えられる万全のサポート体制を敷いてから出てきました」

「手厚い! さすがメドゥス製薬!」

「その代わりおみやげは弾まないといけないので、ご協力よろしくお願いしますね」

ベルサンさんがにっこりと笑った。これは張り切って選ばないといけないわね。

「今日は妻がお二人をおもてなししようと張り切っていました。久しぶりに豪華な食事になりそうです」

銀灰茸料理も用意すると言っていましたよ、とマッシモが言う。やった!

「……あ、豪華な食事といえば最近、高級食材の売上がやけに多いわよね、何かあるの?」

「ええ。パーティーの開催が例年に比べて増えています。こちらとしては願ったりかなったりですし、給仕が足りないということで派遣も増えているのですが、どうもパーティーの目的に健全でないものも含まれるようで」

「健全ではない?」

「薬物です」

「……薬物。まさかうちで売ったものじゃないでしょうね」

「御冗談を! もしもそんなことがあれば、私すぐに会長の御前で自刃いたしますよ!」

「ふふふ、そうよね、ごめんなさい。マッシモがそんなものに関わるはずはないわね」

「出入りしている信用できる者にそれとなく調べさせているのですが、なかなか尻尾を出さんのですよ」

「なぁるほどねぇ。会長には」

「もちろん報告済みです」

「……そう。わかっててわたしがシルヴァロンに行くのを止めなかったってことは」

「次期商会長としての現時点での実力を示せと、まあそういうことでしょうな」

護身用の魔道具をしっかり着けているから安心だ、というのもあるのだろう。

「はー、お父様はわたしには甘めだと思ってたけどさすがに商人ね、腹黒いわ」

「まあ、そうおっしゃいますな。会長からは、くれぐれもよろしく頼むと言われております」

「薬物については既にどこかへ報告してるの?」

「防犯警備部経由で領の警備隊には上げております。あとはシルヴァロン子爵にも。ただ、子爵はかなり楽観的なところがおありで、あまり問題視されていないようでして……」

「……観光業で潤った領地だものね。先々代くらいまでは大変苦労されたと伺ってるけど、栄えているところしか見ていないとお気楽にもなるかしら」

マッシモと顔を見合わせてため息をついた。

「お話中にすみません、シルヴァロンは銀灰茸の生息地でしたよね」

ベルサンさんが話を切り出す。

「そうです。生で食べられるのがシルヴァロンの売りのひとつですから」

そう、銀灰茸はすぐ鮮度が落ちるのだ。温度変化にも弱いのでシルヴァロンから外に流通することはまずない。銀灰茸料理はシルヴァロンの名物の一つでもある。

「乾燥させて粉末状にした銀灰茸をニオニンと一緒に焚いて、狩猟や魔物討伐に使っていると耳にしたことがあるのですが」

「その通りです。動物が酩酊するので、狩りやすくなります」

「あの組み合わせは人にも効きます」

「な!?」

ベルサンさんの言葉を聞いたマッシモの声が裏返った。

「気分が高揚するんです。薬物ほどではありませんし、違法性もない。ふたつの配合を変えたり違う原料と組み合わせて鎮静剤としても使います。ですが依存性があり、常用すると脳に悪影響が出ます」

ニオニンそのものには香りはない。しかし他の素材と合わせて焚くと、素材の香りをぐんと引き出す。

そして銀灰茸はリラックス効果が高い茸だ。そのまま食べることもできるが、希少なため乾燥させてから使う。

「……可能性はありますな」

マッシモが低い声を絞り出す。

「高級食材の売上が増えたと先ほど言いましたが、売上が五割増であるのに対して、廃棄が二倍に増えたのです。適正な量をお買い上げいただくようにお願いはしているのですが。あとはタバコや菓子類の売上も例年よりも三割ほど増えております」

「よろしくないわね」

食材が無駄になるのは良くない。廃棄が増えたということは、どれくらい消費するかをまともに考えることができていないのだろう。そしてタバコと甘味には依存性がある。

「そんな状況なのに子爵は問題視してないの? 子爵も頭がやられてるんじゃないかしら」

「子爵がちゃらんぽらんなのは今に始まったことではないので……」

「最悪、子爵もやっている側の可能性がありますね」

はあ、と三人のため息が揃った。

「マッシモ、今のベルサンさんの話も踏まえて会長に至急連絡して。隣のムンド侯爵領にある軍の駐屯所からの派遣を頼みたいわ。ちなみに、次のパーティーはいつ?」

「今夜です」

「今夜……」

思わず額をおさえる。

「急だけど派遣できるか聞いてみて。メルシエ家の別荘を待機場所に使ってもらいましょう。転移箱、別荘にもあったわよね」

「ございます」

「駐屯所まで誰か遣いにやることはできる?無理なら本店から転移箱を使って人を出すわ、絨毯型の転移陣を使ってもらいましょう」

それぞれの腕で反対の肘を抱えると、右手の中指で、左肘をトントントンと叩きながら考える。

「……あと、気になることはある?ベルサンさんも情報があれば教えてください」

「別荘地の管理運営が半年ほど前に外部委託に変わっています。子爵も出資はしているようですが運営には口を出していないようです」

マッシモが目線を天井にやりながら言った。

「外部委託ね。どこの業者?」

「辺境にあるバハラ伯爵領です。あちらも別荘地がありますので、そちらの運営をしていると」

「……怪しいわね。警備は?」

「以前と変わらず私設警備です。が、メルシエで教育された警備員はもういません」

「えっ!? どうして」

「方針が変わったから契約を更新する、と提示された待遇が改悪されていたので、断りました」

「……すると今いる警備員は」

「給仕として派遣された者が言うには、どうもシルヴァロン子爵のご令息やそのご友人であるらしく。警備をせずに一緒にパーティーを楽しんでいたという話もありました」

ため息を深く吐く。

「別に子爵がどうなろうが知ったこっちゃないけど、うちの売上が下がるのは困るわ」

子爵はあてにならない、警備も万全ではなさそう。

「マッシモはさっき話した内容を会長へ報告して。あと、給仕の制服を準備してちょうだい」

「制服、まさかお嬢様」

「当然でしょ、乗り込むわよ」