軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02 運命野郎と擬態王子

「やあ二人とも、遅かったじゃないか」

サロンに戻ると、既にメルシエ家の皆様は席にかけていらした。

「お父様聞いて!運命野郎が来たのよ!」

「ええっ!?」

「それで、リリス様のお顔を見たら、『君こそ僕の運命だ!』って宣ったの!ぶっ飛ばそうかと思ったわ!!」

「えええっ!?」

全員がイオルムの顔を見る。

イオルムの表情はニコニコと笑顔のまま、変わらない。

「でもリリス様、『わたくしの運命はイオルムだけです』って一蹴なさったの!しびれたー!!」

そうサロンに響き渡る声で叫んだ直後に、あ、金平糖持ってきました、と金平糖の瓶が入ったカゴをテーブルに置くディアマンタ。このぶれなさが実に好ましい。

「リリス、大丈夫だったの?」

「ええ、何も問題ありませんわ」

何も問題だと思っていないだろうイオルムに、にっこりと微笑み返す。

「メルシエ家の皆様もお待たせしておりますし、精霊も今か今かと待ち構えておりましょう。イオルム、始めてください」

こくりとイオルムがうなずき呪文を唱えると、部屋の空気が変わった。

少し暖かくなったような気がする。

「じゃあ、次は結界を解くね。一気に来ると思うから、ちょっと覚悟しておいて」

イオルムが指を鳴らしたと同時に、外にある結界がパリンと割れた。

やったー

まちくたびれたよもう

きょうはみんなとおはなしできるんでしょ?

うれしいねー

精霊がサロンの中に突入してくると、蜂の子を散らすようにぐるぐると上空を回る。

「……これが、精霊」

ディオン叔父様がぽつりと呟いた。

すると数体の精霊が集団を外れて、叔父様の前に降りてくる。

そうだよー

ディオンはいつもすてきなおはなしきかせてくれるからすきー

あれはシャルロットにしてるんだよー

でもぼくらもきいてるよー

いつも、ありがとねー

「……ああ、こちらこそ」

叔父様の声が、少し涙声で。

その隣で、シャルロット叔母様は嬉しそうに微笑んでいた。

「はいはい、みんな落ち着いて」

パンパンとディアマンタが手を叩く。

メルシエ家の方々が我に返り、ディアマンタの方を見る。精霊たちも旋回をやめて中央に留まった。

「今日はイオルム殿下のご厚意で、わたしだけじゃなくてメルシエのみんなもお話できることになりました。

話したいことはたくさんあると思うけど、一斉にしゃべられても人間は聞き取れないから順番にお願いね。

逆に伯父様たちはあなたたちに聞きたいことがあると思うから、知ってることは教えて欲しいわ。それがわたしたちメルシエ家と、わたしたちを大切に護ってくれているあなたたちのためになることだから。……守れそう?」

はーい

もちろん

……できるかなあ……

がんばるー

「よろしい。わたしはこの先もお話できるはずだから、また今度話しましょ。あ、もちろん話す時は一人ずつよ!みんなで押しかけられたらさっきみたいに目を回しちゃうから!」

あー

そうだねー

さっきはやりすぎたねー

「それじゃあ始めましょ。せっかくイオルム殿下が作ってくださった機会だから、みんな楽しんで」

「ディアマンタ様の采配、さすがですわね」

「そうだね」

イオルムと、サロンの壁に沿って置かれたソファに座り、メルシエ家の方々の様子を眺めている。

ユジヌ公国全体では精霊信仰はあまり一般的ではないらしい。

それでも、そういう超常的な存在を信じ、いざ眼の前にした時に戸惑いなく受け入れられる度量。

「……素晴らしいわ」

「それ、何を指してる?」

「メルシエ家の皆様です。……あと、こんな粋なはからいをスマートにできるイオルムも」

「ふふ、おまけでも嬉しい。ありがと」

わたくしの右手に、イオルムの左手が重なった。そして、指と指を噛み合わせてくる。まるで、絡めとるように。

「そういえばさっきの話。ディアマンタちゃんに迫ってた運命野郎が、リリスを見て運命を乗り換えたって?」

「ええ。ギャラリーが多くて良かったわ。その場で首をはね飛ばしていたかもしれませんもの」

「おお、苛烈だねーさすがリリ」

イオルムがこちらを見て、わたくしの髪を一束すくい、唇を落とした。

「それで?どうするつもり?リリス」

「そうですわねぇ……」

閉じた扇子をおとがいに当てる。

「もう決まってるくせに」

イオルムがニンマリと笑った。

ふふふ、と微笑み返し、イオルムの肩に頭を乗せた。

「幸運なことに運命をかたる道化も釣れましたからね。先ほどのお話もありましたし、イオルムが勉学に励んでいる間、わたくしも自らの務めを果たそうかと思いますわ」

リリスー

イオルムー

二体の精霊がこちらに飛んできた。

「うん?どうしたの?」

イオルムが精霊に尋ねる。

せつど?はわきまえろってー

シャルロットがー

頭を上げ、シャルロット叔母様に視線をやると、ばっちりと目が合った。

叔母様の口元、扇子の影で動く唇の動きを読む。

「『人前なのだから慎みなさい』ですってイオルム」

「ええー、良いじゃないこれくらい。あーあ、父上たちから離れていつでもリリスといちゃいちゃできると思ってたのにとんだ伏兵だなあ」

イオルムが頬を膨らませた。

「まあいいや。それで、僕はどうすればいいのかな?」

「……何について?イオ」

「僕は無邪気に引っ掻き回す役回りで良いのかな?それとも……やめても良い?擬態」

「擬態を解いたら即幽閉ですよイオルム」

「ちぇー」

もっとも、完璧に擬態はできていないのだけれど、イオルムは自覚しているのかしら。

「あ、思いついちゃった!」

突如イオルムが立ち上がった。

「どうしたの?」

「魔道具作ろう!」

「魔道具?」

「ディアマンタちゃんの魔道具!呪物並みの魔道具にしたいよね!今の僕の全力を出してルルの祝福にどこまで喰らいつけるかためしてみたいじゃーん!?」

……ええ、イオルム。それが口に出てしまっている時点で、まるで擬態できていないのよ。

「魔道具ですか?」

嬉々としてディアマンタのところに突進していったイオルムの後を追う。

「うん、運命野郎のつきまといは終わりそうだけど、まだまだ色々ありそうじゃない?せっかくだし、めちゃくちゃ強力な魔道具作ろうよ!」

いいねー

たのしそうー

おもしろそうー

精霊たちもすっかり乗り気になっている。

「ねえねえ会長、魔道具どう?ディアマンタちゃん、たぶんこれから結構大変だから、しっかり護れるやつがあった方が良いと思うんだ!」

「それは確かにそうですが」

「僕、作るからさ!」

「ええっと……?」

興奮して発光し出した精霊たちに埋もれたディアマンタの手を引き、叔母様たちの元へ向かう。

叔母様たちのそばでは、数体の精霊がテーブルの上で寝そべったり、金平糖を盛り付けたカクテルグラスの縁に腰かけたりしながら、人間とゆったり会話をしていた。

「叔母様」

「どうしたのリリス。さっき精霊に頼んだ伝言の苦情は受け付けませんよ」

「ふふ、そうではありませんわ。……わたくし、社交に出ようかと思います」

「あら、どういう風の吹き回し?」

「この目でユジヌの実情を確かめておこうかと。イオルムの尻拭いをしなければならない場面も確実に今後発生しますので、顔は広めておきたいと思いますの」

「お茶会を開きましょうか」

伯爵夫人であるマリエル様が微笑む。

「シャルはディオンと一緒に飛び回って滅多にユジヌに留まりませんからね、リリス様と二人並ぶ姿を一目見ようと珍客もおしかけてくるのではなくて?」

「私たちは見世物ではないわよマリエル」

シャルロット叔母様が不服そうな声を上げた。

「ああ、でもシャルも珍しいことに変わりはないわ。ねえ、ノエミ?」

「……そうねぇ」

ディアマンタの母、ノエミ様が頬に手を当てた。

「シャルには申し訳ないけど、面白そうではあるのよね」

「もう、ノエミまで!」

「……リリス様の目的は、顔見せだけではないのでしょう?」

マリエル様が不敵な笑みを浮かべた。

「もちろん。運命にかぶれた方々に、本物の運命を見せて差し上げるのはどうかしらと思っておりますの」

わたくしの言葉を聞いて、叔母様が考えるように顎に手を当てた。

「……悪くないわね」

「本物の運命?……あ、さっきも同じようなこと言ってましたね」

「ええ、本物の運命、なんてそれらしいことを言いましたけれど、実際には運命なんてありませんのよ」