軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 魔法使いの少女ミラ

「王妃様ぁ!」

王妃アレシアに駆け寄ろうとして止められたのは十歳ほどの女の子。警備兵たちがその子の前に立ち塞がり、両手を広げて通せんぼをしている。

「いいのよ。通してあげて」

「ですが」

「いいのいいの。可憐な少女ではないですか」

アレシアが余裕の微笑みでそう伝えると、警備兵たちは広げていた両手を下ろした。

「こんにちは。あなたのお名前は?」

「ミラです!王妃様がいらっしゃると聞いてどうしても聞いてほしいことがあって来ました」

「何かしら。ちょうどお茶の時間だからあなたも一緒にいらっしゃい」

「王妃様!」

警備兵が渋い顔だ。

彼らにしてみれば自分たちの仕事をないがしろにされてるように感じるのだろう、とアレシアは判断して彼らを 宥(なだ) める。

「いつもあなたたちが私を守ってくれているおかげで、こうして安心して王宮の外に出られるのです。感謝しています。でも民の声を聞くのも王妃たる私の仕事ですから。今日は大目にみてくれると嬉しいわ」

「はっ」

王妃にそこまで言われては反論もできず、警備の男たちは元の立ち位置に戻った。

本当のことを言えば、アレシアは訓練された男が五十人同時に襲い掛かってきても撃退することはできる。呼吸できないように顔を水で覆ってしまえば相手は無力だ。

しかしそれを言ってはおしまいなので、やんわりと兵たちの顔を潰さぬ言い方をするように常から心がけていた。

今日は王宮から馬車で二日ほどの地区に来ている。

作物に害虫が大量発生しているらしく、それの駆除である。

ギルは「アレシア様が自ら向かわずとも、癒しの水を運びますから」と言ったが、大樽を百、二百と運ぶなど非効率。アレシアが向かって癒しの雨を降らせれば済む話だ。水を運ぶ手間も均等に水を撒く作業も不要になる。ギルは効率最優先の男なのでそう言われてアレシア王妃の遠征を了承した。

「それでミラ、あなたはどんな用事があったのかしら?」

「はい、私は魔法が使えます。なのにお父さんが内緒にしなさいって言うんです。でも、私はお国のために役に立ちたいんです」

「そうなのね。ミラはどんな魔法が使えるのかしら。見せてもらえる?」

「はい!」

ミラはアレシアから少し離れた場所に立ち、足元の石ころを拾うと両手で包み、ひと言「光れ」と唱えた。石はまるで中に光源があるかのように光り始めた。

「えっ」

驚くアレシア。周囲にいた警備兵たちも口を開けてぽかんとしている。

「すごいわ。どのくらいの間、光らせられるの?」

「夜の間中くらいなら」

「ミラが眠らずに光らせるってこと?」

「いいえ。私が眠っても勝手に光り続けます」

それはどういうことか。光を発生させる魔法ならたまに見るが、それは魔法を使っている者が意識している間のことだけで、意識を他に向けたり眠ったりすれば魔法が解けるのが普通なのに。

アレシアがそう言うと、ミラは少し自慢げな顔になって説明した。

「それもできます。でも、これは石に魔法を込めるんです。だからずーっと勝手に光っていた石は、最後にはボロボロに砕けて砂みたいになるんです」

「そう……」

これは大変な魔法ではないか。なぜ父親はこの子を国に届け出ないのだろうか。

「お父さんはどうしてあなたを届け出ないのかしら?」

「うちはお母さんがあんまり丈夫じゃないから。私が王都に行ってしまったら困るって」

「お父さんのお仕事は?」

「大工です」

「そう。わかったわ。ミラ、あなたの力は素晴らしいものだわ。ぜひ国のために働いてほしいと思う」

ミラの顔がパッと明るくなった。

ラミンブ王国はアレシアがマークスと婚約する前までは貧しいことで知られていた。今は治癒の力を秘めた絹布と、アレシアの水のおかげで国庫は潤っている。

だが、まだまだ国民全体が楽に暮らせているわけではない。

「こうしてたぐい稀なる才能も、家の手伝いをしなければならないことで埋もれている場合があるのね。まだまだ王家が取り組むべき課題は山積みだわ」

アレシアはお供の一人を呼んで、小声で話をした。

「イゼベルさんにミラの家に絹布を運ぶよう伝えてくれる?ついでにその地区の具合が悪い人たちがどのくらいいるのかも調べたいからミハイルさんも同行させて」

「かしこまりました」

文官が離れてからもう一度ミラに向かい合って話を再開する。

「ミラ、あなたは魔法を役立てたいのね?」

「はい。でも、うちには妹も弟もいるので、私が家事をしなければならないんです。どうしたらいいのかわからなくて」

「それはもう大丈夫。近いうちにあなたのお母さんはとっても元気になるから」

「そうなんですか? ありがとうございます! 王妃様」

こうしてミラはイゼベルとミハイルが癒しの絹布を携えて訪問し、母親がいきなり元気になったのを確認してから王宮へとやって来た。そして今、国王マークスの前でその魔法を披露している。

「これは……」

マークスは夜の室内で柔らかく光を放つたくさんの石を見て絶句した。

「こんな魔法があるのか?」

「私も初めて見ました。ほんのり石が温かくなるところを見ると、石に働きかける魔法のようですね。ミラ、石の他にも光らせられるものはあるの?」

「木はパアッと明るくなって、すぐに消えます。ガラスも長い時間光りますけど、ガラスがダメになるのがもったいなくて、あまり試したことはありません」

「いや、石でいいだろう。むしろ石がいい。その辺にある石が全部照明として使えるなど、夢のようではないか」

こうしてミラは王宮のお抱え魔法使いとなった。

アレシアが魔法使いであるにもかかわらず王妃となり、大切にされるようになってからは魔法使いの申告が増えた。貧しい国ラミンブにとって、今や魔法使いは国の宝である。

ミラも大人と同じ、いや、それ以上の賃金を受け取って働くことになった。

それ以降、ラミンブに観光客が増えた。

夜の王宮の庭や通路に点々と配置された光る石は幻想的に周囲を照らし出す。王宮を取り囲む通りの照明もミラが魔法をかけた石が光って柔らかい光を放っている。

ラミンブの王都が「光の都」と言われるようになったのは、ミラのおかげだ。

ミラは成長と共に魔力も増え、「魔力を持て余してるからもっと石に魔力を込めさせてください」とギルに訴えるまでになった。

こうして砂漠の国ラミンブは治癒魔法使い、水魔法使い、光の魔法使いたちが活躍する国となり、じわりじわりと豊かな国へと変貌を遂げていく。

それを見届けるのはアレシアの双子たちの世代だったが、それはまた後の話である。