軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53 アレシアの価値

国王の執務室では国王、宰相、外務大臣、内務大臣、マークスが顔を突き合わせてファリルからの書状について話し合っていた。

「被害を与えた当人と面談はできるのか?」

「いえ。ファリル側との戦闘で受けた怪我により取り調べ後に死亡したそうです」

「死人に口なしで山ほど罪を追加されたのだろうな。織り物だって本当に奪ったかどうか怪しいものだ」

扉の外から揉める声が聞こえてきた。内務大臣が席を立ってドアを開け「何事か」と問い正す間にエドナ王女がスルリと入って来た。

「お父様!アレシアを差し出したりしませんよね?」

「エドナ。ここは立ち入り禁止だ。出て行きなさい」

「アレシアを守るためなら私の宝石を全て差し出します。どうかアレシアを差し出すのはおやめください」

イザヤル国王はフッと表情を和らげると

「心配は無用だ。アレシアは国が保護する魔法使いだからな。渡したりはせんよ」

と娘を宥めた。

「魔法、使い?アレシアがですか?」

「そうだ。だからラミンブ王国はアレシアを差し出すことはない。お前の宝石を使う必要もない。だから安心して部屋に戻りなさい」

「……はい。はい!取り乱して申し訳ございませんでした」

エドナが自室に戻る通路。

(アレシアちゃんが魔法使い。アレシアちゃんが魔法使い。アレシアちゃんが……。うふふふ。そうなんだ。すごい。すごいわ。どんな魔法を使うのかしら。今度見せてもらえるかしら)

来る時には吊り上がっていた青緑の瞳はいつもの垂れ目に戻り、踊り出しそうな足取りだ。冷や汗をかきながらついて歩いていた侍女は(ここまで気に入っていらしたとは。今後はアレシアさんをもっと丁重にもてなさないと)と自分に言い聞かせた。

王の執務室では内務大臣が汗をかきながら財源について説明している。

「今年は予備費の使い先がもう決まっておりまして。南部でメダマバエによる病気が蔓延しております。今後失明する乳幼児が大量に出ることがわかっております。その子どもたちの支援に今後十年以上は多大な費用が必要となります」

「メダマバエか……」

あちこちから苦々しげな声が漏れる

メダマバエは砂漠に住むハエで、親バエが飛びながら動物の目に卵を飛ばす。卵に気づくのが遅れると失明する厄介なハエだ。言葉で目の不快感を訴えることができない赤ん坊を中心に重症になるのだ。今年はそのハエが大発生した。

「それと、王都の東地区の井戸が枯れかけております。一度に三本です。その対策として川から水を引く工事の予定もございます」

「それらの予算は?」

「二つを合わせて大金貨三百枚ほどになるかと」

国王とマークス王子がチラリと視線を合わせ、かすかにうなずく。

「その二つはアレシアが解決してくれるかもしれん」

「ですが、枯れた井戸三本を利用しているのは五千人はおります。あの少女一人がそんなに水を出せますか?魔法使いは限度を超えて魔法を使うと寿命が縮むと聞いておりますが」

「今はまだはっきりとはわからん。だが聞いてみよう」

宰相が眉間にシワを寄せて発言する。

「陛下、では水路増設は先送りにするとしても、メダマバエのほうはどうすれば」

「アレシアの水には癒やしの効果があるのだ。完治するかどうかまではわからんが、効き目が期待できない今の薬よりは効果があるかもしれん。それも聞いてみよう」

内務大臣がハッとひらめいた顔をして提案した。

「井戸の代わりに水を配給するとなれば膨大な数の樽が必要になりますね。手配しなければ」

「ああ、そうだな。大至急だ。アレシアに助けてもらえると仮定しても、差し引きの残額は大金貨二百枚か。どうにもならん場合は王家が負担しよう。それでもアレシアを渡すよりずっといい」

内務大臣がほっとした顔で思わず本音を漏らす。

「あの少女一人の価値は実に途方もないのですな。取り上げられないように親があの娘を必死に隠したのもわか……あ、いや、そんなつもりでは!陛下!申し訳ございません!」

イザヤル国王がその場に居合わせた全員の目を見ながら重々しくに語る。

「そうだ。アレシアの価値は途方も無い。この国は今後も魔法使いが生まれる可能性がある。だが『生まれた我が子を国に取り上げられてこき使われる』という意識は払拭せねばならない。魔法使いは国の宝として扱わなければ、これからも貴重な魔法使いの子供が隠されてしまう。最悪、他国に逃げられる。今後我々はアレシアと関わる時、それを常に念頭に置かねばならんのだ」

マークスが力強くうなずき、宰相と大臣たちはその言葉を肝に銘じた。

「アレシアを大切に扱うこと」とそこにいた全員が心に刻んだ。

・・・・・

「五千人分の水、ですか。出せると思います。一度試してみた方がいいですよね?それと、メダマバエの病気にはあの絹を使えば私の水で目を洗わなくても治せます。絹は使い捨てになるでしょうが、織って溜め込んであるのが相当ありますから間に合うと思います」

ギルは「ほぇぇ」と気の抜けた声を漏らす。国側で絹のことを知っているのは国王夫妻、マークス殿下、ギルの四人だけだ。なのでギルが連絡係に選ばれたのだが。

アレシア一人で大金貨三百枚分の働きをあっさりこなす、という事実に理解が追いつかない。だが、これだけは言わなくては、とギルはアレシアの顔を覗き込んだ。

「アレシアちゃん、試しに水を出すときは樽に入れてよ?樽はちゃんと用意するからさ。荒れ地に捨てたりしないでね?もったいなさ過ぎるからね!俺たち、一滴も無駄にしないよう役立てるから。ほんと頼むよ!」