軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

226.度胸試し(3)

必死になって暗い森を走る。転びそうになっても、息が切れそうでも、真っすぐに走った。後ろを確認するのが怖いから、前しか見ない。

頭の中は真っ白で逃げることしか考えられない。あれがなんだったのか、知りたくもない。ただ、恐怖だけが残っていた。一人だから余計に恐怖が膨れ上がって苦しい。

暗い森を走って行くと、奥のほうで灯りが見えた。人がいる! 私はその場所へ急いでいくと、人の姿が見えた。

「あっ、ノアが来たぞ!」

クレハの声がした。すると、人々の中からクレハとイリスが飛び出してきた。二人の姿を見たら、急に安心感が生まれて泣きそうになる。

「クレハ! イリス!」

私は二人に飛びついた。ギュッとして抱きしめると、二人も抱きしめ返してくれる。

「ノアがいなくて、すっごく心配したんだぞ!」

「私たちが飛び出してしまったせいで一人にして……ごめんなさい」

二人の温もりのお陰でようやく無事でいられたことを実感した。良かった、私はあの訳の分からないものから逃げ出すことができたんだ。そう思うと緊張の糸が切れて、ポロポロと涙が溢れてきた。

「こ、怖かったよぉ……」

「おぉ……ノアが泣いてる! もう大丈夫だからな!」

「怖い思いをさせてごめんなさい。だけど、もう大丈夫ですからね」

「うん……うんっ」

二人がギュッと抱きしめてくれると安心できる。すると、そこにエリックお兄ちゃんが近づいてきた。

「一人で森の中を走ってきたのか。それは怖かったな」

そう言って頭を撫でてくれる。それだけで心に残っていた恐怖が薄れていくようだ。

「じゃあ、全員揃ったし、村に戻って解散にするか」

「片づけは明日やるし、そうしよう」

「どうだ、子供たち。今回も怖かっただろう?」

大人たちがそう声を上げると、子供たちからは様々な声が上がった。怖かったとか、怖くなかったとか様々だ。それを聞いた大人たちは満足した顔をして、村に続く道を進んでいった。

その後を子供たちがついていく。あれだけ怖い思いをしたのにケロッとしている子やまだ怖くて怯えながら道を進む子など様々いる。

私はまだ怖さが残っているため、二人の腕に掴まりながら道を戻っていった。

「もう安心しろ。宿屋に戻るぞ」

「一緒に戻りましょうね」

二人は優しい言葉をかけて、私を引っ張ってくれる。周囲を見渡すと暗い森が見えて、あの事を思い出す。だから、目をギュッと瞑って二人を頼りに宿屋へと戻っていく。

宿屋に帰り、私たちは自室へと戻ってきた。パジャマに着替えると、私が座っているベッドに二人が近寄ってくる。

「ノア、もう大丈夫か?」

「うん……なんとか」

「そんなに怖い思いをしたんですか?」

「……うん」

あんなことがあったと正直に言った方がいいのだろうが、二人に怖い話をしたくない。だから、私は二人を怖がらせないためにも口をつぐんだ。

「何があったか教えてくれないのか?」

「……言ったら二人も怖い思いをすると思うから言わないでおくね」

「そんな私たちのために……言った方が楽になるんじゃないですか?」

「……ううん。私は平気だから」

二人はあんな子供だましな事でもかなり怖がっていた。だから、私が体験したことを話せば絶対に怖がるはずだ。こんな辛い思いは私一人だけでいい。

「でも、それだとノアの恐怖が収まりません」

「言った方が楽になると思うぞ」

「二人ともありがとう。でも、このことは言わないでおいたほうがいいと思うの」

「ノアがそこまで言うんだったら……」

二人は優しく背中を撫でてくれる。それだけで、本当に気が楽になる。

「あっ。それじゃあ、ちゃんと寝れるようにおまじないをかけてあげましょうか」

「おまじない?」

「そんなのあったか? ……あー、あれか!」

そんなおまじないがあるのは知らない。イリスとクレハが知っているおまじないってどういうものだろう?

イリスが私の体を向けさせると、にっこりと微笑んだ。そのイリスが近づいてきて、おでこに顔を寄せるとチュッという音がした。これって……キスッ!?

「なっ、イリスッ……!」

「ふふっ、驚きました? 良く眠れるように、こういうおまじないがあるんですよ」

突然のことで顔が火照る。目の前で微笑むイリスを見ると、なんだか気恥ずかしくなってきた。まさか、おでこのキスをするなんて思ってもなかったから、動揺が……。

「孤児院ではこうして安心をさせて小さい子を寝かしてました。ノアは安心しましたか?」

「安心したっていうよりも、ドキドキしたっていうか……」

「寝る時の挨拶みたいなものですよ」

前世ではおやすみのキスなんていうのも、挨拶代わりのキスなんていうものはない。キスは特別なものだったから、だから余計に意識してしまう。

一人、悶々としていると肩を叩かれた。顔を上げると、クレハが笑っていた。そして、クレハもイリスのように近づき、おでこにキスをする。

「なっ……クレハ!」

「ウチはあんまりこういうことしないんだけどな。ノアだから特別だぞ」

クレハにもおでこにキスをされた。恥ずかしさが高まって、顔が火照っていく。

「これは落ち着くっていうより……ドキドキして寝れなくなるよ」

「えっ、落ち着かないのか? イリス、どうなっているんだ?」

「そんなはずはないのですが……」

前世の記憶があるから余計に意識してしまう。いや、意識するほうがおかしいのか? 子供のお遊びみたいなものだし、深く考える方が悪そうだ。

「あ、でも……体の震えは止まりましたね。怖がっていたのが無くなったみたいです」

「おっ、そうだな! 怯えている感じはなくなったな!」

「……そうだね。二人のお陰かな?」

おでこにキスで意識がそっちに持ってかれたから、恐怖はほとんどなくなってしまった。二人にお礼をいうと、嬉しそうに微笑んでくれる。

「それじゃあ、お返しですね」

「お返し?」

「今度はノアからするんだぞ」

「えっ、私もするの!?」

「それでおまじないが完成します」

「えっ、えー……」

私も二人におでこにキスするの!? うわっ、なんだか凄く恥ずかしくなってきた。そんなこと、前世ではやったことないのに……。

二人はニコニコとした表情でお返しを待っている。恥ずかしいけど、おまじないの力で私の恐怖がなくなったみたいなものだし……。おまじないは完成させなきゃね。

意を決して私は動いた。イリスのおでこに口を近づけると、チュッとキスをした。今度は反対側にいるクレハのおでこにチュッとキスをする。終わったとたん、恥ずかしさで顔が火照った。

「これでおまじないは完成だよね」

「はい、完成です」

「なぁ、これで全然怖くなくなっただろう?」

「……怖くなくなった」

恥ずかしさで残っていた恐怖は綺麗さっぱりなくなっていた。おまじないの効力はすごいけど、やっぱり恥ずかしい……。

「じゃあ、これで寝れそうですか?」

「うん、寝れそうだよ」

「じゃあ、横になれ」

「う、うん……」

なんでそんなに性急なんだろう? 不思議に思いながらもベッドの上に横になると、私の両側にイリスとクレハも寝転がった。

「えっ、これはどういうこと?」

「ノアがちゃんと寝れるまで傍にいてあげますよ」

「そうそう。孤児院でもこういうことしてたよな」

一つのベッドに三人がギューギュー詰めになって寝転ぶ。

「そ、そこまでしなくてもいいよっ」

「ダメです。途中で怖くなったりしたら大変ですからね。しっかりと寝入るまで、傍にいますから」

「こういう時は手を繋ぐんだぞ」

「そうですね、手を繋ぎましょう」

そう言って二人は私の手をギュッと繋いだ。この扱い、幼女みたい……。私、そこまで小さくないのに。

それでも、二人の思いは嬉しかった。繋いだ手をギュッと握ると、二人は嬉しそうにしてくれる。

「じゃあ、眠るまでお喋りでもしようか」

「いいですね。何を話しましょう」

「海の話をしよう、海の話!」

楽しそうな声がするだけで、今日あったことを忘れてしまいそうだ。その楽しい声はゆりかごになって、私を安らかな眠りへといざなった。声はいつの間にか寝息に変わった。