軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.パン

朝食を食べに宿屋までやってきた。宿屋の扉を開けると、微かに香ばしい匂いが立ち込めてきた。

「この匂いは、もしかして!」

三人で驚いたように顔を見合わせて、急いで食堂に入った。すると、席に座っていた冒険者たちが嬉しそうな顔をしてパンを頬張っているのが見える。

「パンができたんですね!」

「やったな、イリス!」

パンができたことにイリスは喜んだ。もちろん、クレハも私も喜んでいる。

「お、当事者が来たようだぜ」

「よう、嬢ちゃんたち! 先にパンを頂いてるぜ!」

「昨日は小麦を作ってくれてありがとな!」

冒険者たちも私たちに気が付いて気さくに話しかけてくれた。

「昨日、小麦を粉にできたんだ」

「おうよ、冒険者の腕にかかれば小麦を粉に変えるくらい造作もないことよ」

「全力で製粉に力を注いだからな、小麦を全部粉に変えてやったぜ」

「でも、すぐに消費しちまったから。今日も小麦をよろしく頼むな!」

昨日、冒険者が一晩でやってくれたらしい。結構な量があったと思ったんだけど、冒険者にしてみればそんなんでもなかったのかな?

今日も小麦を頼まれてしまった。これは、今日も昨日と同じく頑張らないといけないな。

「今日も頑張って小麦を作るよ!」

「おー、任せたぜ」

「俺たちのパンのため、頑張ってくれよな」

「代わりに肉を沢山獲ってきてやるからな」

これでお互いにやることができた。私たちは小麦、冒険者は肉の確保だ。どちらもなくてはならない存在、頑張りがいがある。

「あ、いらっしゃい!」

「ミレお姉さん、パンができたんだね」

「そうよ、昨日の夜に冒険者さんたちがね小麦粉を持ってきてくれたの。だから、パンが作れたの」

ミレお姉さんが嬉しそうな顔をして現れた。本当に昨日の内に小麦を粉に変えてくれたんだ、冒険者って凄いなぁ。

「ミレ、その子が例の子かい?」

「そうなの。あ、ノアちゃんたちに紹介するわね。お母さんのケニー、奥にいるのがお父さんのセルよ」

「お前たちか、一日で小麦を作ってくれたのは。助かったよありがとう」

食堂の奥からふくよかなおばさんと、細身のおじさんが出てきた。どうやらミレお姉さんの家族みたいだ。

「あと、十六歳になる弟のワッツがいるんだけど、今は宿屋の仕事でここには来られないわ」

「四人家族なんだね」

「そうなの。これからよろしくね」

ミレお姉さんの家族構成は父、母、ミレお姉さん、弟らしい。これだけ居れば宿屋の仕事も割り振ってできそうだ。

「あ、ごめんね待たせちゃって。朝ごはんよね、好きな席に座って待っててー」

慌てたように食堂の奥に引っ込んでしまった。その間に私たちは空いた席に座る。

「パン、楽しみです」

「頑張って収穫したもんな、楽しみだ」

「収穫したてだから、美味しいといいなぁ」

どんな味になっているんだろう、楽しみだ。しばらく待っていると、ミレお姉さんがお盆に料理を乗せて現れた。

「はい、まずはいつものスープ」

肉がゴロンと一個入った、野菜の少ないスープ。

「では、お待ちかね。焼きたてのパンでーす」

「おお!」

「やったぁ!」

「美味しそう!」

皿に乗った小麦色の丸パン。湯気などはたっていないが、焼きたてのいい匂いがする。

「さぁ、食べてみて」

「「「いただきます」」」

三人で声を合わせてパンを頂く。手で持ってみるとまだほんのり温かくて、それが心地いい。手でちぎってみるとちょっと固いが、この世界のパンに比べたら柔らかいほうだ。

千切ったパンを口の中に入れて食べた。すると、小麦の匂いがふわっと口いっぱいに広がり、微かな甘味を感じる。

「美味しい!」

「うまいぞ、これ!」

「小麦の匂いがすごいです!」

この世界のパンとしては美味しい食感と味になっている。久しぶりに食べた美味しいパンの味だ、とても嬉しい。

「ふふっ、そうでしょ? 小麦粉の状態も良かったから、美味しいパンを焼けたの」

そっか、私たちはいい小麦を作ったってことだよね。それを聞いて安心した。植物魔法で急激に成長させる作物は美味しくないんじゃないかって思っていたけど、そうじゃなかったみたいだ。

「毎日パンを食べにきたいです」

「ウチは肉とパン!」

「小麦粉さえあれば、毎日でもパンを焼いてあげるわ」

「ノア、今日も小麦作り頑張りましょうね!」

「お手伝い頑張るぞ!」

「うん、そうだね。今日も頑張って小麦作りをしよう」

こんだけ美味しいパンが食べられるんだ、仕事にも精が出そうだ。村の人に小麦粉は行き渡るし、私たちはパンを食べられる、いいことづくめだ。

「野菜も欲しいんだけど、まずは主食よね。しばらくは小麦作りをするのよね?」

「うん、作物所のコルクさんと相談しながら、作っていく作物を決めていくと思うよ」

「あぁ、なるほど。なら、コルクさんに任せておけば安心ね。その内、ノアちゃんが作った作物が村に行き渡ることになるわ。あ、もし野菜とかも作ったら真っ先に教えてね。買い付けにいくから」

「分かったよ。冒険者のみんなに食べてもらうんだね」

「そうそう。体が資本の仕事なのに、満足に食べさせられなくて心苦しいの。だから、ノアちゃん頑張ってね」

小麦だけではダメ、野菜も作らなきゃ。やることがいっぱいになっちゃったな。しばらくは畑仕事から離れられなそうだ。

ミレお姉さんが離れていくと、私たちは朝食を食べ進めた。

「どれくらい小麦を作ればいいんでしょうね」

「とりあえず、在庫ができるくらいじゃないのかな?」

「うーん、とにかくまだまだ必要だっていうことだな」

「そうだね。しばらくは小麦作りを頑張るしかないね、二人とも頼んだよ」

「任せてください」

「任せろ!」

頼もしい二人の言葉を聞きながら、塊肉を一噛みする。今日も働くんだから、しっかりと食べないとね。

宿屋で朝食を取った私たちは石の家まで戻ってきた。村の中を探索したいけど、まずはお仕事優先だ。種を撒く前に畑の拡張をする。一メートルずつ増やして、十一メートルかける十一メートルの畑にした。

昨日、仕事を終えた感覚だともう少し魔力が残っているみたいだった。だから、少しでも多く収穫するために畑を拡張した。これで今日は昨日よりも多く収穫できそうだ。

昨日残しておいた小麦の実、これが今日の種の元となる。

「じゃあ、二人ともお願い」

「分かった!」

「分かりました」

二人にお願いすると、畑の端に行って種を撒き始めた。私も畑の端に行って種を撒き始める。雑に小麦の種をバラまいて、土の上に小麦の種を乗せた。

移動しながらバラまいていく。昨日よりも広い畑になったので、バラまくのが少しだけ大変になった。バラまく種も昨日よりは多くしてあるので、量もそれなりにある。

黙々と種を撒いていると、持っている袋に種がなくなった。二人を見てみると、終わったのかこちらに近づいてきている。

「終わったぞー」

「ノアは終わりました?」

「うん、終わったよ。それじゃ、植物魔法を使うね」

「また、あの光景が見られるのですね。楽しみです」

「昨日は凄かったよなー。早くやってくれ!」

三人で畑を出ると、私は畑の前にしゃがむ。畑に手を置いて、準備が完了した。

「それじゃあ、いくよ」

体に秘められた魔力を解放する。

「植物魔法!」

手のひらから一気に魔力が放出されて、それは畑へと広がっていった。すると、小麦の種から芽が出て膨らんできた。ぐんぐん伸びていく芽はあっというまに見慣れた小麦の形を成して、穂先に小麦が実っていく。そして、こうべを垂れて小麦の完成だ。

目の前には畑いっぱいに広がる小麦が見える。

「今日も凄かったです」

「一気に生えるのは見ていて楽しいぞ」

「まだ見慣れないから驚いているよ」

まだ二回目だからか、この光景は見慣れない。しばらく放心状態で畑を見つめていると、ハッと我に返る。

「それじゃあ、収穫を始めよう。役割は昨日と一緒でいい?」

「もちろん、いいぞ」

「それでやりましょう」

「よし、収穫開始!」

地道な収穫作業が始まった。