軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146.冬の終わり(1)

ぐつぐつとビートの液を溶かした水が煮える。火にかけた液は精製が済んで、あとは水分を蒸発させるだけ。その様子を焦げないように見守っていると、感じることがある。

「ふー、熱い」

冬の間は煮ている時間は暖かくて好きだったけど、冬はもう終わりかけている。暖かい日が続き、家の中は冬の頃と比べて大分暖かくなった。そのお陰で、火を使う砂糖作りが熱くて居づらくなってくる。

この様子だと、しばらくは離れていても大丈夫そうだ。私は涼むために暖炉から離れ、家の外に出た。

「んー、涼しい」

涼しいとは言ったが、まだ肌寒さが残っている今日。だけど、周りを見渡せば積もっていた雪はほぼ消えた。あとは日陰に残っている雪だけが、冬の名残としてある。

その外では、クレハとイリスが訓練をしていた。二人の分身を作り、本人と分身同士で戦っている。クレハは自分の分身と、イリスも自分の分身と戦っている。

「うおりゃぁっ!」

「なんのっ!」

クレハは凄い速さで剣を振り回し、自らを鍛えていた。その剣捌きはとても素早いもので、ほとんどが目で追えない。分かるのは剣同士で打ち合っていることと、お互いの剣を避けていることだけ。

一方、イリスは魔法の練習をしていた。

「聖なる壁!」

「いきます!」

分身が魔法の壁を作り出すと、その壁に向かってイリスは魔法を放った。強烈な魔法の矢は雨のように降り注ぎ、派手に壁に向かっていく。その魔法の矢も全て受け止める聖なる壁、物凄い強度がある。

二人とも魔物討伐再開に向けて、温かくなり始めた時からこうして訓練をしている。自分と戦うのはかなりの経験になるらしく、毎日魔力が全て尽きるまで訓練を続けていた。

もし、ここで私が魔力譲渡なんていう芸当ができるようになれば、二人はもっと沢山の訓練を行えたことだろう。だけど、魔力譲渡なんていう芸当は自分には出来なかった。

私も魔法の訓練をしたほうがいいのかな、と思いつつもいつも通りに過ごしてしまう。今のままでも問題なく過ごせているし、これ以上色んなことが出来たら色々やろうと思って大変になるかも。

んー、でもいざという時のために色々出来るようになったほうがいいかもしれない。でも、魔法の訓練っていってもなー、何をすればいいのか思い浮かばない。

魔法は日常的に使っているし、そのお陰で魔法の操作は上手くなっていると思う。ん、待てよ? そしたら、私は毎日訓練していることにならないかな? 魔法を使わない日なんてないし、気づかない内に訓練していたんだ。

なーんだ、そうか。ちょっと焦っちゃったけど、そういうことならいつも通りに過ごしていけばいいよね。問題があるとすれば、咄嗟の判断の時の決断力と行動力のような気がする。

それって全然魔法が関係していないし、自分の気の持ちようでなんとかなりそうなものだね。そういうのってどうやって鍛えればいいんだろう。咄嗟の決断力と行動力、うーん……

「ふはぁっ、疲れたー! ノア、水をくれ!」

「ん、はいはい」

考えているとよろよろのクレハが近づいてきた。両手を差し出してくると、私はその手に水魔法で水を出す。クレハは手にたまった水をゴクゴクと美味しそうに飲み干した。

「くー、美味い!」

「クレハは訓練頑張っているね。調子はどう?」

「かなり良くなっているぞ! 前よりも強くなっている感じがする」

「へー、訓練も実になっているみたいだね」

自分自身と訓練しただけで強くなれるって凄いなぁ。やっぱり成長期だからかな? 勇者としての力もどんどん溜まっていっているように思える。

「今日もハードな訓練をするから、沢山夕食を作ってくれよな!」

「クレハの夕食は大盛りにするから、期待してて」

「うおぉぉ、楽しみなんだぞ! じゃあ、行ってくる!」

大盛りと聞いて俄然やる気が出てきたクレハは元気よく分身のところに戻っていった。と、今度はイリスが近づいてくる。

「ノア、水をください」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。んく、んく……はー、生き返る」

「イリスも訓練頑張っているみたいだね」

「はい。クレハも頑張っているみたいだし、私も頑張らないと置いて行かれますからね。それに、次の称号のレベルアップが最後ですもの、ノアが一体どんな魔法を覚えるのか楽しみで」

そう、次の称号のレベルアップで最後。卵として最後なのか、それとも卵の次の段階があるのか、それが謎だ。もし、称号から卵が取れた時、私たちは一体どうなるんだろう? 今まで通り暮していけるのかな?

勇者、聖女、賢者。希少な称号持ちが三人も集まるんだから、何かが起こっても不思議ではない。でも、何も起こらない可能性もある。一体どっちなのか分からないから、ちょっと不安だ。まぁ、私の考えすぎかもしれないけれど。

「次はどんな魔法を覚えるんだろうね。また、生活が豊かになる魔法だったら嬉しいな」

「今までの魔法もそんな魔法だったんですから、きっと次もそうなりますよ。あ、そろそろ私も訓練再開しますね。次は杖での打撃の練習です。聖魔法を込めて打撃をすると、凄い威力になるんですよ。いざという時のために鍛えます」

「聖魔法も色んな活用法があるんだね、頑張ってね」

イリスは笑顔で去り、分身と合流すると早速訓練を始めた。

「二人とも頑張っているし、私も自分の仕事をちゃんとしないとね。さて、砂糖はどんな塩梅かな」

涼んだことだし、暑い暖炉に戻るとしよう。大きく背伸びをすると、私は家の中に戻っていった。

今日の夕食はいつもより量を多く作った。二人とも良く動いたお陰か、お腹がとても減っていて、沢山食べてくれた。クレハなんて物凄い勢いで食べるから、喉を詰まらせちゃったけどね。

沢山動いて、しっかり食べて、ちゃんと寝る。健康的な日常を送っていると、私たちの体も徐々に大きくなってきた。そこで、去年仕立てた春の服を着てみることになった。

仕立てたのは数か月前だというのに、腕や足が服から大分はみ出していたのだ。特にクレハの成長は著しくて、一番大きくなっているみたい。

「わぁ、こんなに手や足が出てるぞ」

「私も結構出ていますが、クレハが一番ですね」

「ここでの生活でかなり大きくなったんだね」

「それに、服が窮屈だぞ。これじゃあ、この服を着て魔物討伐にいけないぞ」

「これは春服を仕立てに行く必要がありそうだね。明日になったら仕立屋に行こうか」

「そうですね。まさか、ここまで大きくなっているとは思いませんでした」

私たちはここでの暮らしで、大分大きくなったみたいだ。ここに来る前はいい暮らしをしてなかったのか、その反動が大きい。ここでは美味しいものを食べて、沢山運動して、気持ちよく寝てたからね。

「どこまで大きくなるんだろうな」

「この中でクレハが一番大きくなりそうだね」

「獣人は背の高い人が多いですから、なりそうですね」

「背の高いウチかー……へへへっ」

クレハは背の高い自分を想像して嬉しそうにしている。どんな姿を想像しているのか気になるな。

「服もそうですが、靴はどうしましょう。靴も小さくなったような気がします」

「あー、靴もか。そうだよね、靴がキツイと歩くのしんどいよね。靴も新しく新調しようか」

しまった、靴の存在も忘れていた。成長期だから、どんどんサイズが合わなくなってくるな。まぁ、お金は稼げているから大丈夫だ。うん、靴も新調しよう。

「パジャマは秋に着た物を着れば大丈夫そうだね。サイズはちょっと小さくなるけれど、これくらいなら許容範囲だよね」

「パジャマはなんとかなりますね。あと、入用はあるでしょうか?」

「あとは大丈夫かな。思い出したら、行動するってことで」

子供の体は本当に成長が早い。すぐに服や靴が入らなくなるから大変だ。以前だったら新調なんて出来なかったけど、今は自分たちで稼げているから好きなように出来る。ここにきて、本当に生活が変わったなー。

「よし、今度からウチのことを背の高いクレハと呼ぶように!」

「いきなりどうしたんですか?」

「背の高い自分に酔ってる感じ?」

「へっへっへっ、背が高いって凄いんだぞ!」

変なテンションのクレハはその後も訳の分からない言葉を言って絡んできた。本当に何を想像したのか気になるところだ。