軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 強制送還

気を抜くと、もうなんでもいいや、どうにでもなれという気持ちに支配されそうになる。わたしを動かすのは、何の生産性もない、ここに居たくないという後ろ向きな気持ちだけだ。

宿の人が朝ご飯を用意してくれていた。影からお金をもらったという。

具沢山の野菜を煮込んだスープとパンだ。空腹は感じなかったけれど、せっかく用意してくれたのだし、いただくことにする。けれど、スプーンをお皿に入れただけで、気持ち悪くなる。わたしは伊達に太っていたわけでなく、具合が悪くても食べられなくなるという症状にはそうならない。こりゃ結構キテるのかも。わたしは周りを気にしつつ、食べているふりをしながら手持ちの器に移し替えてアイテムボックスにご飯を収納した。

こんな時に新たな考えなんぞ浮かぶはずはないから、当初の予定通りにいこう。とりあえず、トントを避けて、首都に向かう。モードさんの街に向かおう。ギルマスからあの依頼はまだ完遂されていないようだとだけ聞いたけれど、ギルドに寄ったら強制依頼がどうなったか聞こう。モードさんは強いから絶対無事だ。依頼が終わって帰ってきたら真っ先に会えるように、エオドラントに向かおう。指針だけ決めて、あとは考えないようにする。何か考え出したら、底無し沼にハマってしまう気がした。

特に何かをした記憶はないのだが、動作がどこかのんびりしているのか、宿を出たのは昼過ぎだった。

出発して、少し経った時お腹が鳴った。けれど、空腹は感じない。こんな時でも身体はエネルギーを欲する。お腹は空いているのだろうけど、食べたいとは思えない。重症か?

横道から子供が出てきたと思ったら、見知った顔、ラオスだった。

「ラオス、どうしてここに?」

「なんでだと思う?」

なんかいつもと様子が違う。いつものソレイユの背中に隠れている感じじゃない。

「あ、ハンカチもらったよ。靴を磨くのにちょうど良さそうだ」

プレゼントは無事配られたみたいだ。贈り物だからどう使ってくれてもいいけど、この感じは……喧嘩を売られてる?

「ソレイユと一緒?」

またソレイユとのやり取りはごめんだ。周りを警戒しているとラオスが含み笑いをする。

そんな笑い方をする子じゃないはずなのに。

「やっと警戒することを覚えたんだね」

「なぜこの街に? 探すのに苦労したよ」

探した? ラオスが?

「ソレイユにわたしを探すよう頼まれたの?」

ひいてくれたと思ったのに。最後にソレイユを見た時、哀しそうな顔をしていた。ソレイユの強さからいって、彼が本気を出せばトーマスとアルスは敵じゃないだろう。それでも、止められていることを選んだから、諦めてくれたんだと思ったんだけど。

ラオスは馬鹿にしたように笑う。

「僕はバカな子は好きじゃないけど、兄上、……兄様は好きみたいだからしょうがない。兄様の第三夫人にしてあげるよ」

はぁ?

こっちの人たちは、側室だとか、第三夫人とか、人を馬鹿にしすぎではないだろうか。しかも9歳児が9歳児に何を言う。絶対にならないから、なんでもいいんだけどさ。平民にしたらめちゃくちゃ名誉なことなんだろうと想像はできるけれど、こちとら生憎、異世界人。そんな肩書きは欲しくもない。

「兄様が何かを欲しがるなんて、僕は初めて聞いた。だから、お前のことは好きじゃないけど我慢する。兄様のためだから」

眉を寄せた時には、目の前にラオスがいて、どこかに衝撃を感じた。

ラオスが何か言ったけれど、そのまま何もわからなくなった。

「兄様の誘いを断るなんて、本当、バカな奴」

目を覚ました時、わたしは揺れるベッドに寝かされていた。

嫌なニオイと、絶えず揺れているのが気持ち悪くて目が覚めた。

うっと込み上げてくるものがあって、口を押さえる。

「おい、坊主、大丈夫か? もうちょっとで揺れもマシになるから我慢しろ」

我慢しろって言ったって。うー、気持ち悪い。

揺れもマシ? え? ここ、どこ?

「ここ、どこですか?」

わたしの寝かされたベットの横の椅子に座り込んでいたその人に尋ねる。

青い髪。茶色の瞳。頭にターバンを巻いた、浅黒い肌の冒険者風の人だ。

「海の上だ。お前みたいな子供が強制送還なんて、お前何やらかしたんだ?」

と呆れた目を向けられた。

「ど、どこに向かっているんですか?」

「そりゃ帝国に決まってるだろ」

やられた!

「わたしは帝国民ではありません。ラオスに拉致されたんです」

「お前、自国の皇太子を呼び捨てにして加害者にするなんて、とんだ悪ガキだな」

わたしのおでこを人差し指で押す。

ダメだ、通じない。

……皇太子って言った?

「ラオスが皇太子? ソレイユは?」

だってソレイユがお兄ちゃんだよね?

彼はすごい目で睨んできた。

「お前なー。子供でも、口には気をつけろ。ソレイユ様は後ろ盾がない。いいか、お前がそんなことを軽く言ったのを聞かれて、ソレイユ様が謀反を企てているなんて言われるかもしれないんだぞ。よく考えて言葉にしろ」

ソレイユとラオスはお母さんが違うみたいだ。ラオスは慕っていて、ソレイユも可愛がっているみたいだったけど。まぁ、そんな事情は別にいい。

立ち上がろうとしてよろける。

「おい」

帝国なんて行ったら、モードさんからもっと離れちゃう。

気持ち悪いのに動いたからか、目の前が真っ暗になる。

「おい、お前」

バランスを崩してベッドから落ちる。しこたま体を打ちつけた。痛い。目を瞑ったまま四つん這いでドアがあった方に向かう。

「おい」

呆れたような声。

すごい揺れが来て浮遊感があった。持ち上げられて、再びベッドの上に戻される。

「大人しくしていろ」

これは船酔いだけ? いや、熱が上がっている。例のアレだ。ここで見られたら。心臓まで早く打ち出して、気がおかしくなるんじゃないかと思った。

「お前、熱いな。お、おい。大丈夫か。おい」

もうやだ。なんでこんなにうまくいかないんだろう。

ただモードさんに会いたいだけなのに。モードさんの戻る街に行きたいだけなのに。

「おい、医者呼んでくるから、ちょっと我慢しろ。な」

バタバタと男が部屋を出て行く。

これは罰? なんでもいいと、どうにでもなれと思ってしまったから?

どうしよう。船の中で隠れきれると思えない。

どうしよう。どうしよう。

目を瞑っていても、真っ暗なのにぐるぐると渦巻く。ベッドの上にいるはずなのに、もっと底へ底へと落ちていく感覚がする。

もうヤダ。帰る。帰りたい。お願いだから帰らせて。

……帰るってどこに?

その自分への問いかけは、わたしを一番傷つけた。

<第2章 完>