軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63話 君に伝えたいこと⑨夜の川原

明日は初夏のお祭りの日だそうだ。

蛍火送りといって、ご先祖さまを偲ぶ日で、小さなランタンに蛍を入れて夜の街を練り歩き、最後に蛍を飛ばして、祈りを捧げるらしい。

その蛍をとってくるのは子供の役目だ。カルランはその日が決行日と言った。

キャストはなんとベルンだ。教会の学び舎でベルンは大人気だ。この蛍確保にもいっぱいの女の子から誘われ、みんなで行く約束をしている。けれど本人には何も知らせていない。知らないところ怖がらせることになり申し訳ないのだが、塔に幽霊がいる噂を広めるためなのだ。

夕方、女の子たちが呼びに来て、ベルンが出動。出かけにソングクがみんなに声をかける。

「後でおれたちは川原の方に蛍をとりにいくつもりだ。そういえば、物見の塔の奥に泉があってそこにも蛍がいるって言ってたな」

女の子たちはこしょこしょと話し合い、ベルンの手をとる。

「私たち、物見の塔の泉の方へ行ってみます」

「そうか、気をつけていけよ。泉に落ちるなよ」

せっかくのいつも外に出ては行けない時間での外出だ。なるべく自分たちだけで過ごしたいのだろう、気持ちはよくわかる。

物見の塔には水魔法を使えるナッシュ。同じ12歳のしっかり者の土魔法の使えるブラウン、同じく12歳の何かあっても切り抜けていけるだろう感のあるマッケンを向かわせてある。最初は茶色の髪の女性がいることを印象付けようとしたのだが、わざとらしいし、ただの幽霊騒ぎでよくない?ということになった。とにかく子供たちが物見の塔に何かがいる、と騒いでくれればいいのだ。それで何を想像するかは神のみぞ知るってやつだ。

ベルンたちが出発してから、わたしたちは川原に移動だ。

クリスとメイと手を繋いで、川原を歩く。いつもと違う時間の川原は、なんだかそれだけで不思議な印象だ。水の流れる音も響いて聞こえて、少しだけ何かが怖い気がする。

メイがわたしの手をぎゅーっとした。

「どうした? メイ」

「なんか、こわい」

「そっか。わたしもそう思ってた。昼間くるときと印象が違うね」

「怖いの? にーちゃんたち一緒だから大丈夫だよ」

そう慰めてくれるクリスもちょっと寂しそうだ。

こちらはいつも一緒のベルンがいないからかな?

「どうした?」

後ろからトーマスに問いかけられる。お兄ちゃん、目ざとい。

「いつもと違って暗いからちょっと怖いねって話してた」

トーマスはメイに尋ねる。

「おんぶするか?」

メイはわたしをじっと見てから言った。

「ランディもこわいって。にーちゃ、ふたりおんぶ、むり?」

なんて、かわいいことを!

「メイ、ありがとう。わたしは歩けるから大丈夫だよ」

「じゃあランディは僕がおんぶしようか?」

「いや、歩けるから大丈夫だよソレイユ。ありがとう」

「大人気だね、ランディ」

クリスがこそっと言ってくる。

「お兄ちゃんは偉いね。トーマスもだけど、ソレイユも歩けなくなっちゃったラオスをいつもおんぶしてあげたりするんだろうね」

わたしが想像してふんふん頷いていると

「ちょっと違う気がするけど」

クリスが呟く。

「僕は兄上におぶわれるような、無様なことはない!」

ラオスに怒られる。まぁ、そういうことにしておこう。

メイはトーマスにおぶわれる。わたしはクリスと手を繋いだままみんなと歩く。

わたしたちが食材をいつもいただきに来るところより上流で、川の幅が狭い。音で、少し流れが速いのかな、と思った。

「あ、蛍」

声をあげたのはケイかな。

川の水面の上を、蛍が頼りなく漂う。ひとつ光が見つかると、またひとつ、ひとつと今にも消えてしまいそうな儚げな光があちこちでゆらゆらした。夜光虫の方がよっぽど明るいな。先祖を偲ぶには、なるほど蛍火の方が適していそうだ。

みんなで川岸まで歩いていく。

「川に落ちないようにね」

副リーダーの注意が飛ぶ。誰かが持ってきたランタンをぶんぶん振り回している。中に夜光虫が一匹入っていたので見えたのだ。

え? ああやって蛍ってとるの? なかなかランタンには蛍火が入ってこない。

蛍の歌ってあったな。ほんとかどうか知らないけれど、甘い水が好きなそうだが。夜光虫も好きだし、蛍もそうかもしれない。

わたしはランタンをひとつ借りて、甘い水を少しだけ入れた。

それをクリスに持ってもらうと、儚げな光がユラユラと集まってきた。元気な光、夜光虫も入ってくるけど!

「お、どうやった?」

「蛍も甘い水が好きみたいだ」

そう教えると、みんなが甘い水を求めてランタンを持ってくる。ちょろりと注げば、蛍ホイホイの出来上がりだ。

特に動かなくてもランタンを置いておけば、蛍が寄ってくる。

大きな石がゴロゴロしている。いつもの川原とは勝手が違った。真っ暗だしね。暗いから近いところにあると蛍火が際立つ。いつも聞いているだろう水の流れる音に、何かを急かされているように感じて、やはりちょっと不安な気がする。みんな一緒だから、そんなのおかしいのに。

「ケイ!」

切羽詰まった、エバンスの声。

バシャンと派手な水音。

バシャン、もうひとつ水音。

「エバンス、どうした?」

トーマスが鋭く声を上げる。

バシャっと水面を叩くような音がするだけで。暗くて何もわからない。

「ライト!」

思わず叫んでいた。子供の顔ぐらいの大きさの光の玉があたりを照らす。

バシャっと音がした方に玉を向かわす。

川から浮き沈みして見えるのはエバンス?

と思った時には川の水が竜巻のように巻き上がり、その中にはぐったりしたケイとエバンス?

竜巻がふたりを川岸へ運ぶ。ふたりが地面にくてっと置かれた途端に、アルスとチャーリーが倒れた。ふたりが風と水で助けたんだ。

トーマスがメイをわたしに預け、ケイとエバンスに駆け寄る。続いて12歳組が駆け寄った。

ふたりの頬を手のひらで叩く。

「ケイ?」

「エバンス!」

パチパチ、パチパチ、叩く音に力が入る。

怖くて怖くてぎゅーっとメイを抱きしめた。

ごほっ

コホッ

「おい、わかるか? ケイ? エバンス?」

「ケイ」

「エバンス」

呼び声が安堵のトーンに変わる。

ああ、神様!

ありがとうございます。ふたりを連れて行かないでくれて。

「ランディ、どうしたの? なんで泣いてるの? 怖いの?」

「ああ、ごめん、メイ」

ああ、良かった。

ソレイユとラオスはアルスとチャーリーの介抱に向かってくれていて。ソングクが火を出して焚き火のようにし、風もちのリックとルシーラが濡れ鼠のふたりを乾かしている。魔法のない子もふたりに寄り添ってさすったりなんだりしている。

動けなくなっていたのはわたしだけみたいだ。

「ごめんなさい、ボス、みんな。おれ、調子にのって川の中の石に乗ってバランス崩しちゃって。手を伸ばしてくれたエバンスも巻き込んじゃって。エバンス、ごめん。ありがとう」

震えながら、ケイが謝罪する。

「ごめん。助けられない上に、助けてもらうことになっちゃって。ありがとう、みんな」

トーマスのいかっていた肩がおちた。ほっとしたんだろう。

「そっちはどうだ?」

「アルスは気づいたよ。チャーリーはもう少し、かな」

ソレイユがボスに答える。

ざわざわっと何か聞こえた気がした。

「ひとまず、後で話そう。ランディ、助かった。消せ」

あ、ライトか。消すとあたりは暗くなる。

メイがぎゅーっと抱きついてきた。

「にーちゃ、にーちゃん、にーちゃん!」

バタバタ団体様で走ってきたのはベルンと女の子たちだ。

ランタンの明かりだけで、塔からここまで駆けてきたようだ。

「どうした? 暗いから危ないぞ、走るな」

トーマスが何もなかったように、普通に声をかける。

「にーちゃん、幽霊! 幽霊が出た!」

周りの女の子たちもウンウン頷いて、相当怖かったようだ。とにかく誰でもいいのか、近くにいる人にしがみついている。

「幽霊?」

と言いながら

「ベルン、塔に行った子、これで全部か? みんないるか?」

とすぐに人数確認をさせる。

ベルンはすぐに周りを見渡して、頷く。

「全員、いるよ」

さっきあんなことがあっただけに、心からホッとする。

こそこそっと、ナッシュとブラウン、マッケンが合流する。マッケンだけはわたしたちの微妙な空気に気づいたみたいだ。チャーリー倒れているしね。

「塔の奥の泉に蛍を取りにいったんだ。そしたらね、真っ暗な塔にスーって灯りがともって移動したんだよ」

「私も見たの。私だけじゃない、全員よ。何度も何度も、灯りがともったり消えたり、行ったり来たりしたのよ。それで幽霊が怒って何かを倒したの!」

「夜光虫だろ」

ソングクは否定派役だ。

「幽霊を見たわけじゃないんだよね? 音を聞いたの?」

ホセは肯定派役だ。

「うん、明かりだけじゃないよ、人影があったよね」

「うん、だから幽霊って」

女の子たちは大盛り上がりだ。話しているうちにさらに興奮してきて、怖いのどこいったって感じ。

むやみに怖がらせるのも可哀想と思っていたけれど、どの世界でも女の子は強いね。これなら成功じゃないかな。

マッケンとカルランが目配せしている。

「まぁ怖い思いしたとしても、何事もなくてよかったな。今日は遅いからもう帰ろう。家の人も心配しているだろう。ところで蛍は集められたか?」

「あ」と女の子たちの声が揃う。

「ほら、じゃあ、これ持って帰れ」

ランタンのいくつかを女の子たちに手渡す。そう、わたしたちはこのために蛍をとりにきたのだ。

トーマスがそれぞれを送っていく年長組を決めて、川原を後にした。チャーリーも目を覚ました。よかった。本当によかった。

みんながわたしを追い抜いて行くときに、頭に軽く触れていく。ファインプレーという意味だと思いたい。