軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59話 君に伝えたいこと⑤奇跡のステータス(上)

子供というのは面白そうなことに鼻が利く生き物だ。

自分たちとは違う、ただそこだけに面白みを感じたのだと思う。最初は教会で顔を合わせるだけだったが、どんどんわたしたちに絡んできて、スラムにも遊びに来るようになり。あっという間に年長組にも懐き、仕事だから遊べないといえば手伝うようになり。

食事は食べたがり、ただわたしたちがカツカツなのも知っているから、仕事を手伝ってその報酬をわたしたちに回すように大人に交渉したり、何か持ち寄って作ってくれと言ってきたりして、わたしたちは街の子供と次第に仲良くなっていった。大人たちが働き者の子供が増えたと穏やかに笑っている。遊びをもっと教えろとうるさいから、ドロケーを教えた。警察だとわからないから、騎士と盗賊という名前にした。毎日白熱してやっている。わたしはいつも早々にリタイヤだ。

子供たちがアジトへ来るようになって数日後、今度はその親も来るようになった。これは主に料理についてだ。仕事に行ってる年長組のお弁当だったり。子供たちがアジトに来て食べるものだったりを家で話すらしく、気になった人が、どんなものを作っているのか尋ねて来るようになり、なぜかアジトはいつも賑やかだ。そして訪ねてくるときは何かしら持ち寄ってくれるので、食卓が潤っている。

そして子供からお風呂のことがバレて、ちょっとまずいかと思っている。

というのは、スラムは子供たちが勝手に廃墟に住み着いているのだ。土地は誰かのものだろうし、税金も払っていない。好き勝手に使っているのがバレると、いろいろまずいかもしれない。どこにもいる場所がなくて廃墟で雨風を凌いでいるのが事実だけど、お風呂まで作っているとなると捉えられる印象は全く違うものになる。

本日は森への採集に行くことになっている。森にも一通りの子供たちが行き、行きたいと思う子と行きたくない子が分かれるようになってきた。これもまた一歩前進だ。森好きな子たちで探索だ。

今日は、トーマス、アルス、ソレイユ、ラオス、ソングク、カルラン、マッケンとわたしの8名だ。魔法を持っていないカルランとマッケンには小ぶりなナイフを買った。

わたしがいなくなることを考えて、探索はかけているけれど、危険はもう排除していない。

足元の何かに引っかかって転びそうになると、マッケンに首根っこを釣り上げられた。子猫持ちだ。

「大丈夫か?」

「ありがとう」

わたしが転びそうになった原因は、バスケットボールぐらいの大きさのクルミみたいな殻で。え?と思って鑑定をかけると、クルミだった。

「ええっ」

「なんだよ、うるせーよ、ランディ」

マッケンに軽く頭を叩かれる。

「ごめん。ちょっと待って。ねぇ、これ拾うから」

「そんなん拾ってどうすんだよ。硬いぞ?」

「これクルミだよ。木の実でおいしいんだ。油も取れるかもしれないし、これうまく割ったらお皿になりそうだよね」

「でも、割れなきゃどうしようもないだろ?」

水につけてから炒る方法とかあるけど。あ。わたしは思い出した。あのなんでも切れそうな赤い苞を!

バッグからアグレシの飛ばしてきた苞を取り出す。自分の手を傷つけないよう気をつけて持ち、クルミの殻の合わさった部分に入れようとしてみる。

「ランディ、お前、絶対、手切る。貸せ」

「ボス、過保護すぎだよ。自分で言い出したんだから、自分でやらせなよ」

「そうだよ、大丈夫だよ」

マッケンが言うように、ボスは過保護なところがあっていけない。

苞をゴシゴシ行ったりきたりさせていると、隙間ができたのか、ひゅっと入り込む。お。これで、捻る感じで。

あれ? あれっ。捻ればいけるはずなのに。

「何やってんだよ?」

「おかしいな。隙間に入ったから、捻ればいけるはずなのに」

「バカ! 深くつかんだら手を切るだろうが」

マッケンに手を止められる。

「貸してみろ」

マッケンがわたしから苞とクルミを奪い取る。

アルスとカルランが笑い声を漏らす。

「なに? どうしたの?」

何が起こったのか周りをキョロキョロ見ながら言うと、みんな苦笑している。

「マッケンが過保護になったのが面白かったんですよ」

ラオスが教えてくれる。

マッケンの顔が真っ赤だ。

「だってランディがあまりにも不器用すぎるから」

「なー」

トーマスが、マッケンの肩を叩いた。なんかふたりで通じ合ってる。

「あ」

マッケンが声をあげた。

あ。とみんなの声も揃う。堅いクルミの殻がきれいにふたつに割れている。マッケンが言うには、そう力を入れなくてもひねる感じでいけた、と。

中のクルミは大きくて食べがいがありそうで。都合のいいことに薄皮があまりついていない。

「本当にお皿になりそうだね」

アルスが落ちた殻を拾ってしげしげと見ている。

「このクルミどっから落ちてきたんだろう? もっと欲しいんだけど」

このクルミにアグレシの蜜をかけて煎ったら絶対美味しいと思う!

買った『お節』に入っていたクルミの砂糖がけを食べてから、その美味しさに悶絶して自分でも作るようになった。本式はオーブンで絡めるんだか、炒っているんだか知らないけれど。自分で食べるからエセ略式で十分。テフロン加工のフライパンで、素材だけこだわりオーガニックのクルミを炒って、きび砂糖を好きなだけかけ、絡める。よくおやつに作った。

「そうだな、この辺の木にはこんな大きな実、つけるような木はなさそうだな」

トーマスが辺りを見回しながら言う。

「落ちたんじゃないなら、こんな大きな実を誰が運んだんだろうね?」

ソレイユの問いかけに、場がシーンとなる。

どう考えても、あれを持ったりなんだりできるのはそれだけで大きく、そして知性があることが伺えるからだ。

「引き返した方が良くない?」

モードさんも言ってた。危険を少しでも感じたら回避するよう、すぐに動くこと、と。

探索では特に危険はないみたいだが。

あ、高いものが引っかかった。左の方だ。行きたいけど、そう言える雰囲気ではない。

「どーする? 戻るか?」

「そうだな、もうちょっと外れ側に移動しよう」

残念と思いつつ、決定に頷く。木の根に躓かないよう気を付けながら歩く。そういえば。

「魔鳥コッコって見たことある?」

トーマスとカルランは見たことがあるらしく、なんだか嫌な顔をする。

「魔物としては友好的だし弱いが、なんか嫌な鳥だぞ」

「うん、なんか目つきがやなんだよ。鼻息荒いし」

目つきが嫌で鼻息が荒い鳥、か。どんな鳥か逆に興味深い。

「魔鳥コッコがどうかしたの?」

ソレイユに尋ねられる。

「やっぱり、魔鳥って飼っちゃいけないの?」

みんなが足を止める。

「魔鳥を飼うって、お前、何考えてんだ?」

「いやさ、コッコの卵おいしいじゃん。飼えば新鮮な卵が手に入ると思って」

「お前はまた突拍子のないことを」

「やっぱ、飼ってはいないんだ」

「あれは一回巣を作るとあんまり移動しないんだ。そんで、生まれない卵を産み続ける。卵商人が巣を回って集めてるな、だいたい」

「そっか。じゃぁ、野生のコッコの巣をたまたまみつけて、売ったりしなければ、問題にならないってことだね?」

これは巣を見つけなくては。ちなみに雛が生まれてくる卵は殻の色が青いそうだ。だからコッコたちも白い見かけの卵は温めないらしい。

「お前、巣を探すつもりじゃねーよな?」

「え?」

「お前の回避値じゃ、コッコにみつかるわ」

「えーーーーーっ」

そんなぁ。いい案だと思ったのに。

卵が常にあったらいいと思ったのになぁ。

危険がない時は、ただ歩くのが苦痛になるので、どうしてもおしゃべりになってしまう。

「ねーねー、スラムをさ、どんと買えるぐらいのお金になる魔物って何かなぁ? 思いつかない?」

みんな引いた目でわたしを見る。

「いいじゃんか、ちょっとぐらい夢みたって」

「スラムっつったって土地だぞ? そんな高い魔物いたとして、おれたちで倒せるわけないじゃん」

カルランの言うことはもっともなんだけどね。

「だから、夢だってば、夢。思い描ければ夢は実現するっていうじゃん。逆に思い描けなければ実現しないって」

マッケンが苦笑しながら言う。

「そういえばそんな物語あったな。なんだっけ、成り上がりが土地を買う」

「『賢者になったキコリ』か?」

カルランがすぐに題名を出して、マッケンが頷く。

「そうだ、そうだ。キコリだ。斧と知識で最後は一国の主になるんだ」

「へぇ。土地を買ったって、そのキコリは何を倒したんですか?」

ラオスが尋ねる。

「えっと、鬣で目が隠れてて、鼻が長〜い、なんて名前だっけ?」

「ええと、モスマンじゃなかった?」

「そうそう、モスマン! 鼻の肉がスッゲーうまくて。体を覆う皮は矢も通さないのに通気性があって、高級素材になるんだよな」

アルスが思い出した名前で記憶が繋がったようだ。

「ひとつ目の目も、なんかすげー薬の元になって。鬣は高い楽器に使われるんだよ。どこもかしこも高く売れるんだよな。山ほどの大きさの全体の姿が見えない特大級に大きいのが来るんだよな」

「山ほど大きくて全体が見えないのに、モスマンだって叫ぶんだよね」

アルスがおかしそうに言った。

「そんな大きくて、矢も通さないんじゃ、剣も斧もなかなか通らないよね。どうやって倒したの?キコリは」

ソレイユに問われてアルスとマッケンとカルランが顔を合わせる。

「どうだったっけ?」

「なんか凄いとかじゃなくて残念な感じだったよな」

「そうそう、すっごい登場の仕方なのに、かっこいい倒し方じゃなくて、幼心になんだよそれって思った気がする」

3人とも残念な倒し方だったとしか覚えがないようだ。

「倒し方がわからないんじゃ、モスマンはナシだな。あとは何かいない?」

「お前、どんだけ上から目線だよ」

ソングクに突っ込まれたけど、無理なもんは無理だもんね。

木の密集地帯から抜け出すと、少し歩きやすくなる。

「シロガネなんかいいんじゃないか?」

ソレイユが魔物の名前を挙げた。

「銀狼の大きなヤツだな。毛皮と爪は高いな。魔力が高いから魔石がべらぼうなはずだ」

「家ぐらい大きいよね、確か。そんな大きいの出てこられても倒せなくて困っちゃうね」

トーマスが価値を教えてくれて、アルスが苦笑する。

「ちげぇねぇ」

みんなで笑っている。

「ランディは何に出てきて欲しいんですか?」

ラオスはいつになっても一歩引いた感じだ。

「アグレシが30体ぐらい出てきてくれないかな。あの蜜めっちゃ美味しいよね!」

「アグレシは単独を好むからな。居ても1体だろう」

そうなのか。団体でいればラッキーと思ったのに。

「お前、誰にとらせる気だよ」

トーマスが苦笑気味だ。

「自分でやるよ」

「お前じゃ苞に殺られるって」

「やってみなくちゃわからないじゃんか」

「お前の敏捷性じゃ無理だ」

わたしとトーマスの言い合いになる。

「それ、前から気になってたんだけどさ、ランディの敏捷性っていくつなんだ?」

とカルラン。

「赤ちゃん並みって聞いたけど、どれくらい? 30以下とかってこと?」

とソングク。

「まさか、そこまで低くないだろ。ボスがちょっと低いのを大げさに言っただけだろう?」

とマッケン。

ひとけたって、本当に相当低いみたいだ。

「で、いくつなんですか?」

ラオスに促される。

「……低くても生きていけるし」

呟いてみたが再びラオスに促される。

「で、いくつなんですか?」

「……4」

4人が呆気にとられた顔をする。

「マジか?」

「まずいだろ、それ」

「ええっ」

「それで生きていられるのは大したもんです」

「お前、なんで森に来てるんだよ」

真っ青なマッケンに揺すられる。

「なんでって、素早くなくても生きていけるもんなんだよ、うん」

「まさか、本当にHPも低い……んだな。いや、言わなくていい。恐ろしすぎて聞きたくない」

ひどい扱いだ。

「ボス、過保護とか言って悪かった。そりゃなるわ。生きてるのが奇跡だもんな」

そこまでじゃないから!