軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49話 君が教えてくれたこと④ギフト

夕ご飯を一緒に作っていると、チャーリーに聞かれる。チャーリーはわたしよりひとつ上の10歳。わたしと似たような髪の色と瞳の色をしている。ただ髪は長く伸ばしていて、後ろでひとつに結んでいる。

「ランディは料理人になるの?」

「料理人? ならないよ。っていうかなれないな」

「こんなに美味しいのを知っているし、作れるのになんで?」

「ほら料理人ってさ、お金もらってご飯作るだろ。そしたら、いつも同じ味、同じ分量で作れないとじゃん?」

「ああ、そっか。同じ代金で、味が違ったり、量が違ったら、喧嘩になるな」

「そう。わたしはご飯を作るのは好きだけど、そういうきちっと決めて、決まった量を決まった味にするというのが苦手なんだよ。料理人というのは、いつ作っても同じ味、同じものを作れる人のことをいうと思うんだ」

チャーリーはゆっくりと、ふんふん頷いた。

同じ味も難しいんだよね。基本的に食べることが大好きなので、多少の違いもスパイスで、それを美味しいと思えちゃう。だから同じものを作ろうって気がさらさらおきないし。だからわたしは料理人は向いていない。

配膳していると、ケイが泣いていて、トーマスやアルスが宥めている。

「どしたの?」

気になって聞いてみると。ケイは本日の仕事場でいい大人に、スラムのヤツがこんなところに来るなと突き飛ばされたという。

ケイはわたしよりふたつ上の11歳だが、わたしよりほんの少し大きいぐらいの小柄で、泣き虫だ。きれいな金髪に薄い葉っぱ色の瞳で儚げにも見える。

「そんな考えの奴はぶっ飛ばしちゃえ」

「ランディって、時々、好戦的だよね」

と言ったのは、ひとつ上、10歳のルシーラだ。彼も小柄で、わたしと同じこの世界で一番多い髪と瞳の色を持つ。

「それができたらいいけどさ、大人になんか勝てないよ」

「そんなことないよ」

大人に勝てることがひとつだけある。

ヤツはなんと言ってたっけ? わたしとまるで違う考え方をする、あいつの言葉を思い出そうとする。

あいつは呆れるくらいポジティブだった。泣き言や弱音もほとんどなかった。ただ一度だけへこたれていることがあり。聞いてみると、わたしだったらそんなこと言われたら二度と話したくないと思ってしまうだろうし、傷つくこと確実なのに。それは誰が聞いても、その上司が変で、言いがかりのようなことだった。元気づけたいのに、どう何をいえばいいのかも思いつかず、ただその上司を憤慨するようなことしか言えず。けれども、彼は言った。

「大丈夫だ。俺はあいつより先まで生きるから、俺の勝ちだ」

負かすでも勝つでもなく、寿命を待つってどんだけのんびりしていて、そっからの勝ちってどうなんだろうとも思ったけど、そんなふうに言えるのは羨ましくもあった。それはヤツなりの弱音だったのだろうけれど、世の中はちょっとズラして見てみれば、息をうまくつけることがあるのかもしれない。

彼との終わり方を後悔せずにはいられないけれど、わたしは彼の発想、考え方に憧れていて、好きだった。その考えを借用させてもらおう。

大人に勝てること。わたしたちは彼らより先の未来まで生きることができるのだ。

「大人より、わたしたち先まで生きるから。より先の未来見られるのわたしたちだから」

年長組が言葉を失くす。

「なんだよ、それ」

吹き出したのはトーマスだ。受け売りだけど、笑ってくれた。よかった。

続いてアルスとソレイユが爆笑だ。

「ケイ、わたしたちは大人よりもっと先の未来を見られるんだよ。大丈夫、勝ってる!」

ケイは真っ赤な目で、ぽかんと口を開けている。

「ケイ、ランディはさ、おれたちより未来に行けない負け犬が吠えてるだけだから、気にすんなって言ってんだよ」

カルランが独特の解釈を披露した。

「そうだな、負け犬が吠えていると思えば、あんま悔しくないな」

マッケンもそう言って、くすくす笑い出す。

「そうそう。それに考えだって、いくらだって変わっていくよ。勝つのはいつだって数の暴力なんだ。大人は急に増えないだろ? でも子供が増えてやがてその数で大人になる。今の大人は凝り固まった考えかもしれないけど。今の子供がスラムを勘違いしないで接してくれて、その数で大人になった時、住みやすくなるよ」

そう、わたしたちはスラムは悪いところじゃないよ。汚くないよ、怖くないよってのを知らしめていけばいいだけだ。それを知っている子供たちが大人になった時には、スラムは街に受け入れられる。

「ランディ、すごいこと考えるね。なんか考え方によってはすごいことできちゃいそうだよ」

「でも、ランディだから、こういうことしか考え付かないんだろう、きっと」

「なんかバカにしてるだろう。いいよ、別にバカにしても。でもこれだけは覚えておいた方がいいよ。怖がらなくちゃいけないのは、上の人たちじゃなくて、これからやってくる勢力、下の子たちなんだ。大人はこれ以上増えないから、未知数なのは下の勢力だよ。子供はどんどん生まれてくるからね。だからね、天下と思ってあぐらをかいていると、すぐ塗り替えられるんだから。でもそうやって、今までも続いてきたんだよ、世界ってのは」

年長組は虚を衝かれた顔をした。

「それにしても、すごい考えだよ、本当に。悪いこともできそう」

人ぎきが悪いので、アルスに宣言をしておく。

「あのねー。せっかく神様やいろんなものに生かしてもらってるんだから、悪いことなんてしないよ」

「神様に生かしてもらっている?」

驚いたように言ったのはチャーリーだ。

「そうだよ。丈夫な体と心。それを使って生きなさいって能力をもらっているよ」

半信半疑の顔だ。みんなはわたしよりよっぽどハイスペックなのに、自信がないんだな。

「能力って、スキルのことか?」

魔法を持たない、マッケンの表情がちょっと苦い。マッケンのスキルは知らないけれど、魔法持ちを羨ましいと思っているんだろう。

「そのスキルだけじゃなくて。トーマスは指導者向きだよね。把握能力が高くて、適材適所に捌く力がある。マッケンは手が器用だ。あと、面倒見がいいよね?」

「おれは?」

「おれは?」

と次々みんなが言い出すので、気づいた長所をあげておく。

「おれは?」

とエバンスが言うので

「自由におならができるよね」

と言ったらみんな爆笑だ。ちえッと言うので、

「そう言う風に、場を和ませて、みんなの気持ちを明るくできる。周りをよく見ていて、弱者に優しい。それらってとっても大切なことだよね。ちなみにこれはトーマスが言ってたんだ」

エバンスが嬉しそうだ。

「そうやってみんないい能力持っているんだから、それをいっぱい使って楽しく生きていかないともったいないよ。神様からの贈り物だからね」

「そうなんだ? おれ、親からも、神様からも捨てられたんだと思ってた。だからお祈りなんかするかって思ってたけど。そっか、おれにもちゃんと持たせてくれてるんだ」

おっちょこちょいで小さな怪我が絶えないナッシュが呟く。

まずい、そのセリフは胸にくる。ここで泣いたら失礼だ。唇をぐっと噛みしめる。

その下唇を触られて、びっくりする。

ソレイユだ。どっから湧いた?

「そんなに強く噛みしめたら、血が出ちゃうよ」

モードさんみたいなことを言って、優しい瞳をする。わたしは一歩後ずさる。驚いたからなんか言ってやろうかと思ったけど、いいセリフが思いつかないから、頷いてやり過ごす。ソレイユは時々苦手だ。

今日は発酵を1回にした簡易ブレッドだ。それととろプル肉と野菜を炒めたもの。

食事を取りながら、わたしは提案した。

「前から思ってたんだけどさ、みんな何でも平均してできるよね。そして特化した何かもできる。ってことはさ、需要に応えた商会でも立ち上げればいいんじゃない?」

「商売ってこと?」

「子守を望む人には、子守を。洗濯がして欲しかったら、洗濯を。掃除を手伝ってもらいたかったら掃除を。ご飯も作れるし。あとさ、お金貯めて土地買って、共同風呂作るのどう? みんなで組めばもう作れるでしょ? みんないろんなことができるからさ、考えるだけで楽しい。自分ひとりじゃ、ひとり分しかできないけど」

いいよね、能力あるって。

「そうしたら、年齢が上になっても残りたい人は残って、一緒に暮らせるよ。トーマスもメイと一緒にいて働けるよ」

トーマスが固まった。

「トーマス?」

「……そんなこと考えたことなかった。そっか、そんな方法があるんだな。俺でも、やりたいことをやっていけるんだな」

トーマスが自分の両手の平を見ている。その上に広がっている未来に今気づいたようだ。

「そうだよ、体とスキルをもらって生かしてもらってるんだから、楽しんでまっとうしないとね」