軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

44話 アジト⑨休息日

わたしが案外早くにこの世界に馴染めたのは、元の世界と似通っているところが多いことも理由のひとつだと思う。

時間は60進法。秒が最小単位で、1分が60秒、1時間が60分。1日は24時間。0時から12時までが午前、12時が正午、13時から午後となり、午後からをまた1時と言ったりするところまで同じだ。

ひと月は30日で、それが12カ月で、1年は360日となる。

新年は春から始まる。元の世界の3月ぐらいな気候から、暁月、耀月、双月。雨季の雨月。夏は葉月、獅月、乙月。秋が射月と深月。そして冬が留月、水月、海月だ。

1週間は7日。風の日、火の日、水の日、光の日、聖の日、土の日、闇の日と曜日があり、今日は闇が強まる休息日。みんな仕事はお休みだ。

ちびちゃんたちの仕掛けを見たいとのことで、みんなで川原に行く。お兄ちゃんたちに構ってもらえて、年少組は嬉しそうだ。わたしはトーマスに水回りの相談をするべく隣を歩いた。

まず、魔法持ちはいるのかを尋ねる。火と水と風と土持ちがいた。

火はベルンとソングクが。水はチャーリーとナッシュ、土はブラウンとホセ、水と土のふたつを持っているのがトーマス、風はアルスとリックとルシーラが持っているそうだ。なんだ、ならばと思ったが。

「スラムは14で出て行くのが決まりなんだ。俺は体がでかいからその前に出入りできなくなるかもしれない」

トーマスとアルスはともに13歳。来春にはここを立つ。確かに今の段階でトーマスは出入りに苦労している。1年か。他属性の子も14歳になったらいなくなる。楽なことを知ってしまってからできなくなるのは、それは辛いことかもしれない。

「メイはどうするの?」

「俺が出て行く時に連れて行く」

なんとなくふたりしておし黙る。

「トーマスが仕事している時、メイはどうするの?」

「どんな仕事になるかもわからないし。とにかく金がねーから住むところも何もかも未定だ」

トーマスの顔は厳しい。そりゃ不安だよな。

「次のボスは誰に?」

「エバンス、だな」

「屁こきエバンス?」

トーマスが笑ってくれた。

「あいつ、明るいだろ。どんなことがあっても、笑い飛ばせるやつだと思うんだ。それにお調子者だけど、周りもよく見ていて、いつも元気のない奴とか落ち込んでいる奴とか、調子の悪い奴とか、いつの間にか弱い奴に寄り添ってるんだよな。あいつ、すげーんだよ。……もし、お前がずっとここにいてくれるなら、お前に任せたいところだが、お前、出て行くだろ?」

ここは楽しいし、みんなのことは気にかかるが、ずっといるわけではない。行きたいところがあるからだ。決まり悪げにいたからか、トーマスがさらに言う。

「……だってお前は自分が出て行ってからもうまく回る前提で、なんでも作り上げてるだろ?」

バレバレだったんだ。ははは。

「自分のことは全然話さないしな。小綺麗にしているから、いいとこの子供だったのが没落したのかと思ったが、暮らして行くのに必要なこと、自分でできるし、いろいろ知ってるし、大人とも渡り合って、仕事取ってるみたいだし。お前はつかみ所がねぇ」

そういえば、わたしについて聞かれたことないから、話してないや。訳ありと思って聞かないでいてくれたのか。

「そうだったんだ。聞かれないし、取り立てて話すようなこともないから話さないだけなんだけど」

「じゃぁ、聞いてもいいか? なんでひとりなんだ?」

「おばーちゃんと森で暮らしてたんだ。自分がいなくなったら街に行けって言われてて。街に行こうとしたら、迷うし、想定外のことが起こるしで、途方に暮れてた。その時に会った人が、生きていけるようにいろいろ教えてくれたんだ」

「その人は今どこに?」

「どうしても行かなくちゃいけないところがあって、そこに行ってる。わたしは……時間がかかっても会いたいから、会いに行くんだ」

噂の祠を見には行くが、例え何があっても、一度エオドラントに行こうと思う。モードさんの大切なものを返さないとね。ううん、返すものがなくてもわたしは行くだろう。もう、すでにモードさんに会いたくてたまらないから。

「家族みたいなもんか?」

「そうだね。どん底にいる時に、救い上げてくれた、家族みたいに大切な人」

「そうか」

トーマスが目尻を和ませて、わたしを見る。

「お前が来てくれてすっごく助かってるし、ありがたい。本当にありがとう。たださ、出て行く前に教えて欲しい。黙って出て行くなよ」

わたしは頷いた。

「世話になってるんだ、そんな恩知らずなことはしないよ」

「世話になってるのは、俺らだよ」

トーマスは呆れたように笑う。

仕掛けは大絶賛。さらにみんなで案を出し合い、精度の良いものになっていく。手先は器用だし、みんな思いつきが素晴らしい。

洗濯物も持ってきたので、ちびちゃんたちが先生になって洗濯を教えている。

わたしは大きな鍋でスジを煮ることにした。最初に下茹で。スジをたっぷりのお水から沸騰させる。スジをきれいに洗ってから、ネギもどきの青いとこと、クサさ自慢の野菜とただ一緒に長い時間煮るだけだ。茹で汁は旨味のあるスープにもなるし、とろプルのお肉となるのが楽しみだ。脂も取れるだろう。

かき混ぜながら、水回りのことを考える。洗濯は保留だな。でも、お風呂は最悪でも水を汲んでくればいいんだから作っちゃうか。あ、アジトの中じゃなくてもいいのか。お風呂当番決めてきれいに使えばいいんだもんね。そうだ、そうしよう!

トーマスとアルスに相談する。アジトの外のどこかにお風呂を作ろうと。ふたりは生活魔法をそこまで使ったことはないそうだ。フォローする旨を伝えると、ふたりは勢いに押された感はあったが頷いてくれた。

まだ途中ではあるけれど、スジ肉を煮込んでいるスープをお昼のスープにする。別鍋に昼分のスープと灰汁をとったポポタンを入れる。これだけで十分美味しかった。パンを作るには時間が足りないので、炭水化物はかぼちゃ入り蒸しパンもどきだ。

卵もベーキングパウダーもないからなー。ヤギのミルクとレモンもどきは持っていたのでこれをベーキングパウダーがわりにしよう。卵を切らしていたのは失敗だった。

卵があれば、小麦粉と合わせていろんなものが作れるのに。

かぼちゃを茹でて柔らかくする。小麦粉とミルクとレモンと蜂蜜を少し足してこねこねする。ひとまとめにして一回り小さなお鍋に置く。スープのお鍋の上に重ねるようにして、蒸気にあてる。30分ほどしてからお鍋の蓋を開けてみると、びっくりするほど膨らんでいた。何が起こった? ミルクとレモンでこんな膨らむの? わけないよね。何か謎な現象が起こったみたいだ。まぁ、いいや。油入れてないし、油引いてないので、もっと違和感があり、お鍋にくっつきまくるかと思ったが、思ったより酷くはならなかった。チャーリーが何かしたのかもしれない。料理に興味があるようで、率先して手伝ってくれた。配膳も手早い。

川原でみんなでいただきますだ。ちびちゃんたちから広まった「いただきます」と「ごちそうさま」はもう定着している。

ふかっとした蒸しパンに興味が集まる。かぼちゃの優しい甘さと蜂蜜とで、甘いものだったからか、蒸しパンはすごい勢いでなくなった。それにこの柔らかさは評価が高かった。スープも、深みのある旨味にみんな驚いている。ポポタンもいいアクセントみたいだ。苦いけど黄色い花の部分が入っていると当たりを引いたみたいに騒いでいる。食べ終わると、ご馳走様でしたと、命をくれた食材と、それにさらに手をかけた料理人に感謝と敬意を評してくれる。チャーリーも嬉しそう。

後片付けをみんなでしてくれると言うので、ちょっとだけ、年少組とわたしでお昼寝する。元気がチャージされたところでアジトに帰り、わたしとアルスとトーマスはお風呂作りだ。でもみんな気になるみたいで、ぞろぞろとついてきた。