軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42話 アジト⑦脂が欲しい

年長組が仕事に行ってから、掃除をする。軽くホウキで掃いて、こっそりクリーンだ。

「ねぇ、ランディ、今日は何するの? 川にも行く?」

「今日はいっぱい、仕事があるんだ。疲れたら動けなくなる前に言ってね。わたしだとみんなを運べないから」

「えー、何するの?」

嫌なトーンの『えー』ではなく、楽しみで聞いてくる感じ。

「今日は、ギルドの解体場のお手伝いがないか聞きに行きます。お昼は川原に行ってご飯を食べて、午後は洗濯をします」

昨日の夜、頑張って繕ったみんなの服。保管状態は悪くなかったのだろうけれど、嫌なニオイがしている。魔法でキレイにもできるけど、なんとなく洗濯したい気がする。洗濯はちびちゃんたちの仕事にもなるだろうから練習も兼ねられる。

「解体は10歳からしか手伝えないよ?」

「うん。だからその作業場のお掃除とかゴミ運びとか、ないかなと思って」

そういうと、ふたりは何かを考えているようにふんふん頷いた。

目的は現物支給のスジ肉だ。なんとなくだけど、この世界では、スジ肉は捨てられているんじゃないかと思うのだ。きちんと処理をすればとろプルのおいしいお肉だ。多分、脂も取れる。

アジトを出る前に、お湯で絞ったタオルで丁寧に体を拭き、洗った服を着る。

「なんでこんなにすぐ服を替えたり、キレイにするの?」

ベルンが不思議顔だ。

「汚くしていると病気になる可能性もあるし、汚いより、キレイな方が気持ちいいでしょ? 誰かと会うときはできる範囲でいいから小奇麗にするんだ」

「それってよく思われようとしてすること?」

「そうだよ」

頷くと、ふたりは傷ついた顔をした。

「よく思ってもらえれば仕事を回してもらえるかもしれない。そうしたらご飯が食べられるよね? ここで子供たちだけで住んでいると、蔑まれたり、保護者がいないから真っ当に生きられないって思われたりすると思う。でも、君たちは違うよね?」

うん、とふたりは頷く。

「でも保護者がいないと生きていくのは大変なのは事実で、そう思われても仕方のないところもあると思うんだ。だからね、真っ当じゃないって思われないように、できるだけ、潔癖なぐらい真っ当に暮らしているのを見せるのがいいと思う。だから、不快感を与えないぐらいは清潔でいて、健康でしっかりご飯が食べられていて、ひねくれないで生活をしていれば、街に馴染めると思う」

それはわたしだけの考えで、まだ小さな子がその考えを受け入れられるかはわからないし、また何か間違っているのかもしれないけれど。貧民街に暮らしていることで差別を受けることはあるだろう。傷ついて欲しくないし、傷つけたくもないけれど、世の中にはいろんな考えがある。それは元の世界でもここでも同じことだ。

「でも、それはわたしの考えだから、みんなは好きに考えていいんだ。わたしも誰かによく思われようとする自分が嫌だなって思うこともある。想いには順番があると思うんだ。今のわたしはご飯を食べられることが一番上で最優先だから、他の思いは小さくて気にならないんだ」

少しして、クリスが突然頷いた。

「うん、人と会うときはキレイにする」

「おれもご飯のためにそうする」

「メイ、お湯で洗うの好き」

3人の頭を撫でる。お風呂も作ってしまいたい。

ふたりに先頭に立ってもらって、冒険者ギルドの解体場へ案内してもらう。

「お前ら、どうしたんだ? 何かあったのか?」

スラムの子だった。今日はギルドの解体場で働いているみたいだ。解体場をのぞき込むとわたしたちに気づいたみたいで、特急で駆けつけてくれた。

「ううん、何もないよ。お手伝いさせてもらえないかと思って」

「10歳未満は解体の仕事はできないよ?」

入り口のところで、話していたからか、奥から大きな大人がやってきた。

ギルマスぐらい大きな人だった。メイが後ずさる。わたしも及び腰になったが、お腹に力をいれてぎゅっと耐える。

「あ、班長」

「どうした? 見習い」

「弟分たちが来て......」

「こんにちは」

無理やり話に乱入する。

わたしが頭を下げると、3人も真似をして「こんにちは」と挨拶する。

「はい、こんにちは。チビたちはどう見ても10歳未満だろ。解体の仕事は無理だぞ」

「はい、解体は無理ですが、掃除やゴミ集めの手伝いは、いりませんか?」

「ゴミ集め?」

わたしは少し首を伸ばして中を見た。大きなテーブルがいくつもあって、その上で見えるものすべてモザイク処理をかけたいぐらいの解体をしている。必要なものと不必要な部分を分け、不必要なものは大きなバケツに入れている。目ざとく目当ての物をみつける。バケツがいくつも足元にあり、増えてくると作業がやりにくそうだ。空のバケツも積みあがっているから、後からまとめて捨てに行くのだろう。

「あのバケツをどこかに持って行くんですよね? 作業の最後に持って行くんでしょうけど、途中でもなくなったら、作業やりやすくないですか?」

「それはそうだが、やりにくいぐらい我慢すれば済むことで、そんなことに金はかけられねー。それにお前ら10歳未満じゃ、金払えないぞ」

「はい、そこは現物支給で。あのスジのところを少しいただければ」

班長さんは驚いたように指をさす。

「スジってあれか? あの捨てるやつか?」

テーブルの隅に置かれたスジスジした部分。不必要なバケツに落とされるのを待って鎮座しているあれだ。やっぱり捨ててるんだ。

「はい、あれです」

わたしは勢いよく頷いた。

班長さんは少し考える。

「バケツは結構重いぞ。それを裏の焼却場まで運ぶんだ。そうだな、午前中までだ。様子を見よう。もしちゃんとできて、戦力になったら、報酬にスジをやる。それでいいか?」

「はい、お願いします」

「お願いします」

3人も頭を下げる。

「お前、気合いいれろ。追い抜かれるぞ? チビたち、随分しっかりしてるじゃないか」

「ほんとですね、びっくりしました。お前ら邪魔にはなるなよ」

そう言って心配そうに何度も振り返りながら持ち場に戻っていった。

「みんな、これからこのチビたちが、バケツを焼却場に運ぶ手伝いに入る。ちっこいから気をつけてやれよ」

班長さんが大きな声で、わたしたちのことを知らしめてくれた。

「焼却場を見てきます」

わたしは頭を下げて、裏庭に回る。

焼却場にはまだ火が入ってなかった。陽が当たっていて、一見のどかに見える。裏庭だからここの職員以外が敷地に入ってくることはないだろうし、ここなら、メイがひとりでいても大丈夫だろう。

「メイには一番重要なお仕事をしてもらいます」

そう告げると、決意を込めた目でメイが頷く。

「ここにわたしたちがバケツに入ったゴミを持ってきます。その燃やすのに必要なゴミが誰にも取られたりしないように、見張っていてください。できますか?」

「メイ、できる」

「じゃあ、どんどん持ってくるからね」

解体場に戻るときに、ふたりに声を掛ける。メイの様子を気にして欲しいこと。焼却場に行ったら、一言でもいいから絶対にメイと会話をすること。眠そうにしていたら、わたしに教えて欲しいこと。

解体場は3列×5個のテーブルが並んでいた。担当で列を決めるのにジャンケンをした。クリスが勝ったのに、一番奥の列を選ぶ。ゴミ捨て場から一番距離があるのに。次に勝ったベルンは真ん中を選んだ。ふたりとも、小さいのに十分に男の子だった。その幼さで、年齢は上なのに体力のないわたしを、かばってくれようとしているのだから。

バケツはなるほど、ぎっしりと重い。午前中だけでよかった。

クリスとベルンは大人たちが忙しく動く間をすり抜けて、危なげなくバケツを運んでいる。わたしはそれよりだいぶゆっくりになるが、なんとか運んでいる。でも重たいのが幸いして、匂いやモザイクがけしないと吐きそうになるバケツの中のことも見えずに運べているのかもしれない。

バケツが焼却場にたまってくると、クリスに提案をされる。

「ランディはさ、このバケツの中身を焼却場に投げ入れて、バケツを空にしてくれない? 班長さんもそれでいいって」

いつの間にか班長さんと交渉までしているし。

わたしは疲れきっていて、やっとのことで頷いた。

メイに見守ってもらいながら、バケツの中身を焼却場に投げ入れる。

バケツは水魔法でキレイにする。ゴミ入りを持ってきたふたりが、空のバケツを持って帰る。解体場との往復よりはかなり楽で、会話できるぐらいには回復してきた。

どれくらいそうしていただろう。

鐘の音が聞こえて、お昼になったのがわかった。運ばれてきたバケツは全部空にし、キレイにした。そのバケツを中に持っていき、班長さんに終了を伝える。

班長さんは戦力になっていたぞ、と言ってくれて、スジも好きなだけ持っていっていい、と。

やったー。ありがとうございます、と一抱えほどのスジスジした腱のお肉をもらう。

ふふふ。とろプルお肉を食べたときのちびちゃんたちは、どんな顔をするだろう。考えただけで頬がゆるむ。

挨拶をして解体場を出る。

外に出てからすぐにスジ肉をお鍋に入れてバッグにしまった。

「ふたりとも、ありがとう。疲れたでしょう?」

ふたりはニッと笑った。

「疲れるは疲れるけど、ご飯食べてるから大丈夫だ」

「うん、ご飯食べるようになってから、疲れても少し休めばすぐに動けるようになった」

子供の回復力、すげー。わたしも肉体的には子供のはずだが、みんなより回復はずっと遅い。

それってひょっとして、身体能力、ステータスの差?

気づかなければ良かった。

「さ、川原でご飯にしようね」

みんなに声をかけながら、わたしはこっそりため息をついた。