軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話 またね

「行かなくちゃならない」

とモードさんは続けた。

「Aランクだもんね」

ほんとは凄く心細くなっていて、すがりついてでも一緒に行くって言いたかった。ひとりにしないでって言いそうだった。どれだけモードさんに頼りきっていたかを、そんなの知っていたけれど、これでもかってほど思い知らされる。でも、それはダメなことだ。イケナイことだ。

モードさんを手のかかる子供から解放してあげなくちゃとも思ってはいた。でもそれは、もう少し先であって欲しかった。解放しなくちゃとわかっていたのに、離れがたくてグズグズしていたから、強制的にこんなことになったのかもしれない。

いや、違くて。心細いのも、ダメダメなのも、本当は大人なんだからとか、そんなの何もかも、丸ごと、どうでもよくて。ただただ、わたしはモードさんと一緒にいたいだけだ。そこが居場所であって欲しいだけ。

「ギルドにティアのことを頼んでいく。宿も」

そう、ただ一緒にいたいだけで。……それが叶わないだけ。

「ダメだよ、モードさん」

ニッと笑えたかな。

「わたしだって、冒険者だよ」

精一杯の強がりだ。

モードさんは一瞬驚いて、目尻を和ませた。

「そうだな。お前には生きる術を叩き込んだ。現にルベラミでもお前はひとりで生き抜き、神獣を助け、街をも救った。どこででも生きていける、俺の弟子だ」

わしわしと頭を撫でられる。

「困ったことがあったらエオドラントへ来い。街に入って俺の名前を言えば家はすぐわかる。一人で抱えられないことがあったら、いや、何もなくても、いつか来てくれ。お前が無事だと安心したい」

優しいなぁ。行きずりの子供の面倒を見てくれて、そして先のことまで心配してくれるなんて。

わたしは首を何度も縦にふる。言葉を紡ごうとしたら、声が上ずりそうだったから。

「強制依頼は、Aランク以上だけが請け負う危険なものだ。だから、連れて行けない。Aランクの権利を享受している以上義務を果たす。その誓約込みでAランクなんだ」

言葉にならない『すまない』が聞こえる。絞り出すような声音が、ただ聞いているだけで、なぜかさらに泣きたくなる。

そっか、そうだよね。Aランク以上にくる強制依頼ってものすごく危険なものなんだろう。なんの力もない子供なんか連れていけるはずがない。ゆきずりの子供にそんな悪いなんて思わなくていいのに。モードさんは最初から強制依頼以外は一緒にいられるって口にしていた。上位ランクは依頼料も高額だから、テストや審査も厳しいのだろう。その甘いところを享受する分、リスクも大きく高いんだ。そのひとつが、何を置いても自身だけで駆けつけることを望まれる『強制依頼』なんだろう。

空が騒がしくなる。さすがAランク以上の冒険者だと、すぐに旅立てる手段を持っているのだろう。

「ずっと、いっぱいありがとう、モードさん。気をつけてね!」

急なことすぎて、言いたいことはいっぱいあるはずなのに、全然思い浮かばない。

モードさんはしゃがみこみ、わたしに視線を合わせて、そして抱きしめてくれる。不安な時にいつもぎゅーっとしてくれた。わたしもモードさんに手を回して、ぎゅーっとしがみついた。

どうしたら、感謝の気持ちを余すことなく伝えることができるのだろう?

どうしたらこの想いを、この人に届けることができるんだろう?

二度と会えないかもしれない。こちらの世界はシビアすぎる。同じ世界にいるのに、二度と会えないことがあるなんて。もう会えない、なんて。

ぎゅーがゆるんだ。わたしも手を放さなければいけない。ゆっくりとわたしとモードさんの繋がりが……途切れた。

「ティアも、元気でな。怪我、するなよ。お前女の子なのに、怪我をしすぎだ。こっちも早く片付けるから、エオドラントへ来い。絶対だぞ」

そう言いながら、わたしの首に何かをかけた。

「困ったことになったら、保護者はエオドラントのモードだと言え。これを見せればある程度のことからは守られるだろう」

鎖の先には、紋章の入ったような指輪みたいのが通してあった。

「これ、大切なものなんじゃないの?」

「……ん、だから、いつかエオドラントまで返しにきてくれるか?」

泣いちゃいそうだから、わたしは何度もうんうん頷く。唇を噛みしめて。

モードさんは少しだけ戸惑いをのぞかせながら微笑む。初めてちゃんとモードさんを見たときと同じ 表情(かお) だ。この表情を何度見たことだろう。そうだよね。小さな子をいきなり拾ってしまって、どうしたらいいのか戸惑うことが山程だったと思う。その上、わたし怪しいしね。それなのに、モードさんはわたしに優しくしてくれた。守ってくれた。ここで生きていけるようにしてくれた。

モードさんは最後にわたしの両頬を両手で挟む。モードさんの瞳にわたしが映る。そっと近づいてきて、額に口づけを落とした。

一雫、ポロリとわたしの頰を熱いものが伝う。

わたしは目に焼き付けておこうと立ち上がるモードさんを見ていた。

泣くな。泣いたら、モードさんがよく見えないから。

立ち上がって背筋を伸ばし、わたしから目を離さずに、モードさんは指笛をふく。

澄んだ音に連れられて、雲の合間から黄虎が駆けつける。

それが合図だったかのように、ギルド上空で待機していた上位冒険者たちが、一点を目指して空を翔け出した。

黄虎がわたしに擦り寄るから

「気をつけてね。モードさんを守ってね。黄虎も怪我しちゃダメだよ」

こっそりお願いしておく。

黄虎が大きくなって、モードさんは騎乗した。

モードさんに教えてもらったことはひとつも忘れないよ。

『別れ』のことだって理解している。特に冒険者は一度別れたらもう二度と会えないと理解していろ、と。もし再び 見(まみ) えることができたら、それが奇跡なのだ、と。

だから冒険者たちは別れ際に必ずいうのだ。「また会おう」と。守れないかもしれない約束に願いを込めて。

「ティア、またな!」

「うん、またね!」

遅れて飛び立った黄虎とモードさんは、空を駆る団体にあっという間に追いついた。空を駆る人たちを見て、何も知らない子供たちが歓声をあげている。

空を見上げていた人たちがひとり、またひとりと歩き出し、辺りは静けさを取り戻す。わたしは今までの騒ぎが嘘のように何もかも見えなくなるまで、モードさんたちを見送った。

とうとう見えなくなった。空にはもう雲しかない。

さっきまで優しく笑いかけてくれたモードさんはいない。見上げると頷いてくれた指針は今はない。

さて。

どうしよっかな。

どれくらい空を見上げていたのだろう。やっと、そう思えた。

わたしはこの街に来たばかりなことを感謝した。

前の街にいる時にこんなことになったら、知り合ったみんなが我先にと手を差し伸べてくれたのが見える気がした。今優しくされたら動けなくなる自分が想像できた。何も考えられなくなって、無くしたことばかりを哀しんでしがみつく、弱っちぃ自分が見えるようだった。

今までは強い保護者と一緒だったから、無茶なこともできたけれど、これからは身の丈にあった冒険をしていかなくては。ほっぺを叩いて気合をいれる。

しっかりしろ。

しばらく働かなくても大丈夫なくらいお金はあるけれども、これは非常用に残しておきたい。

子供のわたしがお金持ってるって思われても、危険がますしね。

今日からはギリギリ稼いで、そこから暮らしていこう。

だとしたら、やっぱ、ポーション作りをしよう。そうしよう! そうと決めたら。

ギルドに入って採集の薬草をチェックする。常駐の薬草とりはどこも同じなようで、金額にも安心する。冒険者じゃなくてもギルドには採集物も買ってもらえる。ポーションもだ。冒険者じゃないと査定料などは引かれるが、子供でも買い叩かれることはない。

雑貨屋に寄って、瓶の元を、購入。

では、薬草とりに向かおう。街の外に出よう。

わたしは門に向かって歩き出した。

<第1章 完>