軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話 冒険に必要なこと②命の重み

街から出て、森の中に少しはいる。歩きながらモードさんの教えは続いた。

「お前のHP38は、大体スライムが30って言われているから、スライムよりちょっとしぶといぐらいだな」

しぶといって……その言葉のチョイスはわたしも魔物みたいなんですけど。

ううっ、比べる相手がスライムってどうなんだろう?

「HPが30のスライムとお前が遭遇した。武器はなくて、素手で勝負だ。お前は何回攻撃したらスライムは敗れる? 防御、回避は考えず、反撃もないとする」

「ステータス」

ステータスボードを呼び出す。攻撃が7だから、7×4=28だと30に届かないから……。

「5回?」

「攻撃だけでなく、攻撃に力を加えたのがお前の攻撃力になる」

そっか。力が7で攻撃も7だから、攻撃力は14。30割る14は、2と余りで。

「3回」

「そうだな。素手でなく、それに武器を持っていたら、武器の攻撃力も加わるからもっと楽に倒すことができる」

なるほど。

「数値は大体そんなふうに活用できる。防御や回避や魔力も複雑に絡み合ってくるし、魔物にも防御力や回避があるからそんな計算できるような単純なものではない。魔物と戦っている間にそんな計算している暇はないし、魔物のHPは鑑定のスキルでも持ってなきゃわからないから……」

言ってて思い出したんだろう、わたしが鑑定持ちなことを。

「鑑定できることもレベルで違うしな。計算して戦う奴はいないだろうが、目安で覚えておくと逃げる時の材料になる。無理だと思ったら絶対に引くんだぞ。とにかく逃げろ。命が一番大切だからな」

そうか、スライムは30とかきっと目安があるんだろう。自分のHPや攻撃力を知っておいて、概算であの魔物なら一目散で逃げるとか、こいつなら戦えるとか検討しておくと、目安になるね、ふむふむ。

「お前、やっぱり計算もできるんだな、すごいぞ。さて、そろそろ何か出てきそうだな。油断するなよ。お前武器はパチンコって言ってたな」

わたしは斜めがけしたポシェットからパチンコを取り出す。右手には眠り玉を持つ。

「お、魔鳥発見。ちょっと遠いか」

モードさんの視線の先の木の高いところに鳥らしきものを目視できた。

わたしには少し重たいパチンコを構えた。眠り玉を装着し、ビュンと飛ばした。

命中率100%のパチンコは獲物をとり逃すはずはなく、眠り玉が炸裂する。

鳥が落ちた。なんか実感がない。

モードさんが目をまん丸にして大絶賛。

「ティア、すごいじゃないか。魔鳥を狩るなんて」

「道具がすごいだけなの。それに眠らせただけだし」

腑に落ちない顔のモードさんに説明。おばーちゃんの遺品で、命中率100%のパチンコに、当たった対象を必ず眠らせる眠り玉だと。

モードさんは落ちた鳥を拾い上げ、確認。

「確かに生きてるな。トドメを刺すか?」

ナイフを出してくれたが、首を横に振る。

「わたし、武器変える」

これはズルすぎていけない気がする。いや、新しい武器も何かしらズルを付け加えるけどね。死にたくないからいざというときは使う。キレイごとで生きていくつもりはない。けれど、少しは重みを受けなくちゃいけない気がする。これ人ごとすぎる。わたしも何かを受けとらなくてはいけない。でないと、何かを勘違いしてしまいそうだ。

命中率の高いパチンコと眠り玉は使用するには罪悪感がなさすぎて、それはいけないことのような気がした。

「あ、なんかいる」

木の根元に、水まんじゅうみたいな生き物が。生き物とわかったのはふるふると震えているからだ。

「スライムだ。繁殖力が強い魔物で、3匹以上いたらあっという間に増え続けるし、合体すると厄介なものになる。近くに3匹以上見つけたら討伐対象だ」

教えてくれながら、わたしが見つけたスライムの側にさらに3匹を見つけ、軽く剣でさした。わたしがみつけた木の根元にいるのだけを残す。

「ティア、今、これだけは狩ってみろ。スライムも狩れないようなら、自分で採集するのはあきらめろ」

モードさんにはわたしが生き物をなるべくなら狩りたくないのがわかっているのだろう。だから最低限の条件を提示してきた。

わたしは枝を拾った。素手では無理。

怖くて手がブルブル震えてくる。スライムが怖いわけじゃない。いや、魔物だからそれだけで怖くはあるんだけど。なんていうか弱いはずだし、このフォルムは怖さを緩和してくれる。

スライムがどうだっていうのではなく、そう、わたしがこれから命を奪う、怖さ。

数値に置き換えたら、およそ3回攻撃できれば、動かなくなる。だけどわたしが奪うのは数値ではない。

スライムって確か酸を吐き出すんだよね。

後ろから狙いたいけど、どこが前でどこが後ろなのかわからない。

うっ。

でも、ここで生きていくには必要なことだから。

ごめん、と思いながら、枝をスライムにブッ刺す。3回でいけるはずだ。

核なのか色の濃くなったところが、さらに濃さを増して、ちょっと身が縮む。

酸を出すのか?

わたしが一歩下がるのと同時に、スライムが液体を吐き出した。

次に吐き出す前にと近づいて、2回続けて枝をブッ刺す。

一番外側の膜が破れたかのように、ぷるんとした形状が遠慮なく横に広がっていく。真っ平らになって、液体は地面に染み込まれていき、小さなひし形の石だけが残った。

「やったな」

嬉しいのか、嬉しくないのか、初めての討伐は複雑な気持ちだった。

枝を突き刺した時の抵抗感。心苦しさ。罪悪感。これは命を奪うものが受けとめるべきものだ。討伐対象でも、わたしは胸に刻むべきだろう。残ったひし形の石を拾う。

『レベルが上がります。上書きしますか? 隠蔽しますか?』

え?

「モードさん隠蔽しますか?って」

「あ?」

「ステータスボードが喋った」

「喋らないぞ、普通は。ほんっと規格外だな、お前。隠蔽しろ」

「レベルを?」

「レベル1を隠しても……」

「2だもん」

「それは、おめでとう。隠蔽したいものがあるって言ってみろ」

「レベルはいいけど、隠蔽したいものがあります」

『なんでしょう?』

「何?って言われた」

「考えたい、あとでもできるか聞け」

「考えたいので時間が欲しいです。あとでも隠蔽できますか?」

『では、決まったら話しかけてください』

「なんて話しかければ?」

『どのようにでも設定できます。いかがいたしますか?』

「……シリさんって呼んでいいですか?」

『はい、設定しました、マスター』

「モードさん、ステータスボードと意思疎通ができるようになった!」

「よかったな。でも人に聞かれるなよ、くれぐれも」

モードさんは疲れた顔をしているけれど、わたしは興奮しながら頷いた。

元の世界とたったひとつ同じ名称にしただけ。思い入れのない、デフォルトの名前をだ。それだけで、なぜか心が浮上する。

「あ、陽月草!」

鑑定もレベルとかはわからないけれど、いい具合にカスタマイズできるようになっている。場所一帯にかけたり、逆バージョンでターゲットだけを検索かけたり。なかなか使い勝手が良かった。そこここに陽月草があったので、しばらく採集することにする。

暇を持て余したモードさんが、パチンコを一度使ってみたいという。わたしがポシェットごと貸そうとすると、眠り玉はいらないと拒否られた。拾った木の実や石を装着し、どこかに狙いを定めたりして、楽しんでいる。

と、ガサッと音がしたからそちらを見ると、距離はあるけれど小型なサイみたいな動物が。

普段なら剣を一振りというところを、モードさんはいたずらっ子のように目を輝かせて木の実をサイもどきの額に命中させる。

サイもどきがコロンと倒れ、動かなくなった。

「ど、どうしちゃったの」

「すげーな、このパチンコ。俺、弓とか苦手だったんだよ。こんだけ距離あるのに狙った場所に命中するって気持ちいいな」

「命中はわかるけど、木の実でどうして」

「俺の攻撃力が、こいつより優れてたってわけだ」

わたしが陽月草を採集している間に、モードさんは鼻歌を歌いながらサイもどきを解体してしまった。サイもどきのお肉は美味しいらしい。

陽月草だけではなく、薬系になりそうな薬草もあった。それとハーブたちも。

あと、高いもの鑑定をかけたら、引っ越し後の蜂の巣があったので、それもいただいた。

この高いもの鑑定はなかなか気に入っている。わたしの高収入源になってくれるだろう。

帰り道では意を決して、常識的なことを聞いた。

時間、日付、季節、年。お金のこと、教育概念、宗教的なこと。魔法の普及率。

聞けば聞くほど、モードさんが困惑していくのはわかったけれど、他で聞くわけに行かなかったから。驚きながらも、わかりやすく教えてくれたモードさんには感謝しかない。

「なんか、心配だ。お前の常識のなさ、とにかく隠せ」

「モードさん、任せて。わたしバックレるのは得意なんだ」

モードさんは大きなため息をついた。

「あれ、モードさん、親指どうしたの?」

「あ?」

と気づいて、さりげなくわたしの目から指を見えなくする。

「ちょっと切っただけだ」

モードさんでも指先を怪我するなんてことあるんだな、わたしは呑気にそう思った。