軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編19 もうひとりのオーナー③魔物の事情

わたしが眠ってしまったので、昨日のうちにルシーラとトニーは子供たちと話したことをモードさんに報告済みだという。

モードさんたちは従業員さんたちから話を聞くのは結構大変だったみたいだ。自分たちを疑っているのかとヘソを曲げる人が続出だったとか。とにかく原因がわからないから、なんでもいい見かけたことを話して欲しいと頭を下げたという。オーナーがというより、侯爵様が平民なんかにという色合いが強かったみたいだが、それでなんとか話してくれたと。ただ、有益な情報は得られなかった。子供たちから聞いた、もっと前からホルスタがイライラしていたという情報があったんだがと後から追加で聞いてみると、そういえばと何人もの人がその前の週から機嫌が悪かったかもと思いあたったらしい。

朝ごはんの後に、昨日聞いたことを、モードさんが教えてくれた。みんなは昨日のうちに話しあったらしい。

これといって進展はなくため息をつきそうになる。餌にも水にもワラなどからも薬物は出ていない。吐瀉物からだけだ。ホルスタだけが口にするもの。いや、モーちゃんだけか?

みんなが薬物の件を考えているだろう時に、いきなり話を振ったのは王子だった。

「子爵令嬢から第二夫人の直接交渉はなかったのか?」

王子がみんなの前でモードさんに尋ねる。驚きながらもみんなモードさんに視線を走らせる。

「なんでそんなこと聞くんだ?」

慌てず騒がず、モードさんは王子に聞き返す。

「ハナが聞きたいだろうと思って代弁してるんだ。断っていたそうだが、令嬢がハナに言ってきたのはこの前だ」

モードさんに見られる。いや、聞いてなんていってないよ。というか、そうだ。ゼフィーさんは断られていたのに、なんでわたしに検討しろなんて言ってきたんだろう。

「アマン子爵から当主に打診はあったが、俺に直接はなかったぞ」

王子が疑っているような目を向けた。

「話したこと自体、数回しかない」

王子はふーんと大きい声を出す。

「ハナは彼女がなんで苦手なんだ? もっと前からだっただろう?」

「なんとなく合わない気がしたんだよ」

目が泳いでしまう。

「それだけか?」

「しないでくれって言ったことを、真逆に捉えて親切そうに繰り返されるのが嫌だったんだよ」

「なんだそれは」

しまった。できるだけさらっと言ったつもりが、興味をもたれている。

「しないでほしいことって何?」

ルシーラに促される。わたしは渋々苦手意識を持った経緯を話すと、王子は少しだけ反応する。

「寝室に?」

「それが嫌で2階には上がらないようみんなに向けて注意したんだけど、親切であがってくるんだよ、あの人は」

「なかなか天晴れだな」

王子は親指と人差し指で自分の顎を摘むようにして触っている。

「もしかすると、彼女は……モード、お前、モテるな」

王子から急に言われて、モードさんは目をしばたく。

「何を言うんだ?」

「なかなか面白い。ルーク、ハナに危険が迫る以外は放っておけ」

「はっ」

なんだそりゃ。わたしとモードさんは顔を見合わせた。

「ハナ、脅すわけじゃないし、もうモードも戻っているから大丈夫だとは思うが、令嬢はまだ諦めていないかもしれないぞ」

「諦めてない?」

「第二夫人を」

わたしがモードさんを見上げると、モードさんは勢いよく言った。

「ちゃんと、断っている」

「諦め切れないんだろう、優良物件だからな。だから彼女には用心しておけ」

確かに。断られているのに、わたしに告げてきたってことは、まだ諦めていないのかもしれない。

わたしは重たい気持ちで頷いた。

外に行こうとするモードさんについて行く。

「休んでなくていいのか?」

「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね。モードさんが帰ってきて安心して気が緩んだのと、聞き込みのとき寒かったんだと思う」

ただまたぶり返すと面倒なので、食事とかは今までの作り溜めから出すことにした。今日は適当に体を休ませて過ごすつもりだ。今日は昨日より暖かいから外に出るのは気持ちいい。

「山裾に行くんだが」

「わたしも行く」

セグウェイで行くつもりだったが、モードさんが抱き上げてくれる。

「重たいでしょ。セグウェイで行くよ」

言ってみたけれど、モードさんはおろす気はないみたいだ。

「山裾にはホルスタが食べる土を見に?」

「そうだ」

道すがら、里帰りして交換仕事体験のことをトーマスに話したら穴だらけなことを指摘されたことを話した。お喋りしているうちに山裾に到着。

ホントだ、何頭か山裾の土にかじりついていた。

「なんで土、それも山裾のなんだろうな?」

「おいしいのかね?」

わたしは首を傾げる。

「おいしい?」

「え、いやだって。わざわざここまで食べにくるってことは好きな何かなんでしょ。黄虎やクーとミミも池の水好きだし。アルバーレンでもね、クーたちのお気に入りの井戸の水があったんだよ」

「飲み水にも好みがあるってことか」

わたしは伝わったので機嫌よく頷く。

「なんでモーだけが酷い症状だったんだろうな?」

『ティア!』

ぴーちゃんだ。ぴーちゃんの隣にはモーちゃんもいた。

モーちゃんも鳴いて隣に寄り添ってくる。

「ぴーちゃんはぬかるんだところ大丈夫なの?」

他のコッコは足が汚れるのは嫌がるらしいが。

あ、イヤなんだ。ぬかるんだところでは足をしっかりつけないように気をつけている。

『モーちゃんにつきあってるのよ。また倒れたらいやだもの』

モーちゃんが恥ずかしそうに鳴く。

このふたりも仲良しだ。

「そっか、ありがとね。モーちゃんはこっちに何をしに来たの? 土を食べに?」

『土? ああ、それが好きな子もいるわね。モーちゃんは沼の水が好きなのよね』

「沼の水?」

わたしはモードさんと顔を見合わせた。

「沼があるの?」

『ええ、その奥にね。ちょっと塩辛いの。わたしは嫌いよ』

モードさんとわたしはモーちゃんとぴーちゃんの後について歩き出す。

鬱蒼とした木々の間を縫っていくと、どよーんとした沼があった。

日が差し込まず陰鬱な様子だ。鑑定してみる。塩分を含んだ水だ。モードさんに伝え、瓶に沼の水を入れた。

「こんなところをよくみつけたね」

『光ってたんですって。それで来てみて沼をみつけたそうよ』

光ってた? 今はこんな暗いけど。

「ティア、塩分が含んでいるってわかったのは鑑定で調べたのか?」

わたしたちしかいないのにモードさんが声を潜める。

「うん、そうだよ」

「吐瀉物や餌や、水、ワラは鑑定したか?」

わたしは頷いた。

「うん。でもほら、レベルが高いわけじゃないから〝吐瀉物〟としかわからなかったんだ。餌や水、ワラはなんでもなかった。ミルクも悪いところはなかったけど、そう言えないから破棄したよ」

「ティア、詳しく、正確に思い出せ」

え?

モードさんがわたしの両肩に手を置いた。

「吐瀉物はなんて鑑定された?」

え、えーと。

「テイムされた雌ホルスタの吐瀉物、酸性が強い、だったと思う」

魔物も胃は酸が強く、人と同じなんだなと思った覚えがある。

「お前の鑑定は低くもないはずだ。前に飲み物に何か入っていた時はわかっただろう。ということは、正真正銘の薬物などは入っていない吐瀉物だったのではないか?」

「え? だって、調べて出てきたって」

「それがおかしいんだとしたら?」

モードさんに手を掴まれた。わたしを担ぎ上げるようにして、家へと走りだす。

家に入るとモードさんはルークさんを呼んだ。

「何でしょうか?」

「すまない、手を貸して欲しい。吐瀉物などを調べた機関のことを探りたい。国やペクにはバレないように調べるにはどうするのが手っ取り早い?」

暖炉の前で揺られていた王子が立ち上がる。

「あいつらがでっちあげたのか?」

「わからない。今、ホルスタが好きな水場を見に行ってきた。他の魔物は行かないようだが、その泥水や土をホルスタは好んでいるらしい。ホルスタが具合が悪くなったのは、その水が原因ではないかと考える。じゃあそこに薬が入れられたのかといったら、そうは思えない。牧場の奥深い山裾だし、よく知った者でないと辿り着けると思えない。だから逆の発想だ。吐瀉物に薬物が入っていたのではなくて、吐瀉物に薬物を入れられたんだとしたら? 調べてみるのも悪くないと思ってな」

「それにしては確信がありそうだが、まぁ、いい。ルーク、ペクにもパズーにもわからないように調べるのは可能か?」

「モード様やハナ様が動かれますとわかってしまうでしょうね」

モードさんがここにいて何か行動すると情報が漏れる可能性があるので、お父様たちの家に呼ばれたことにして行くことになった。ルークさんが抑えるポイントと流れを簡単に伝えるとモードさんは頷いた。颯爽と馬に乗って行ってしまった。

またモードさんは留守になってしまったけれども、気持ちの上で全然違う。

あの沼の水はどうして塩分が入っているんだろう? あの山向こうは確かに海だけど、下から海水が流れ込んでいるの? それ山自体が危険な気がする。そんなことないのかな? ホルスタは塩が好き。あの土も塩分が含まれているとか?

そうだ、モーちゃんにいつ頃あの沼をみつけたのか聞いておこう。わたしはひとりセグウェイに乗って走り出す。山裾近くにモーちゃんがいた。しまった、ぴーちゃんがいない。クーやミミもいないし。黄虎と一緒にどこかに行ったみたいなんだよね。

「モーちゃん、後で教えて欲しいんだけど……」

とりあえず語りかけて、驚きすぎてひゃっくりが出た!

モーちゃんが、モーちゃんのお腹が光っている!

光るって何? どういうこと?? わたしは踵を返す。

「パズーさん、パズーさん!!」

わたし的には全速力で走りながらパズーさんを呼んだ。ひゃっくりが時々痛い。

誰かがわたしが呼んでいると伝えてくれたのか、小走りでパズーさんが向かって来てくれた。

「どうしました、オーナー?」

わたしはパズーさんの手を持って引っ張る。

「来てください! モーちゃんが、モーちゃんが!」

わたしのただならぬ様子にパズーさんはついて来てくれた。

モーちゃんは普通にしているけれど、お腹が光っているのだ。

「こ、これは」

「なんなんです? どうなっちゃうの? 危険なんですか??」

まさか某ゲームみたいに進化したりするんじゃないよね?

仲間にしたモンスターたちをバトルさせるゲームがあった。成長すると進化してより強いモンスターになったりする。わたしは元の姿が好きだったのに進化させてしまって、戻ってーーーーーと叫んだことがある。わたしには強さよりも、そのフォルムが重要で可愛いくて好きだったのに。お気に入りだからこそ、いつも呼び出し戦わせ、逆に進化させる原因になった哀しい出来事だった。

「いや、これは。聞いたことはありましたが、見るのは初めてです。恐らく夜光症です」

「夜光症?」

「だからだ。だから酸っぱい匂いで。でも、そうすると水源があるはずだ」

「オーナー、池はいつ洗いましたか?」

ええと、モーちゃんが具合が悪くなる前だから。いや、そうじゃなくて。

「さっきわかったんですけど、この先に塩分を含んだ沼があって、モーちゃんはその水が好きだったみたいなんです」

パズーさんの瞳が大きくなって、繋がった!ような顔をした。

「なるほど。いや、悠長にしている場合ではありませんね。ペクに証人を連れてきてもらわないと。オーナーは誰にも何も言わないで。ペクのところに行ってきます。この子は大丈夫です。これは完治した証拠です」

パズーさんはそういうと、すごい勢いで走って行った。

完治した? それじゃあ、モーちゃんは大丈夫ってことだよね? ひゃっくりが苦しい。

誰にも言うなって言われた。ってことはこれを誰にも見せない方がいいんだよね。わたしはここにいない方がいい? わたしはモーちゃんを撫でて、そっとそばを離れる。

後もう少しで池というところでゼフィーさんとすれ違う。わたしは身構える。

黙礼をして通り過ぎようとすると声をかけられた。

「先ほど、パズーさんが宿舎の方へ走って行かれましたわ」

知ってる。

「そうですか」

ひゃっくりがでた。気まずい。

話すなと言われたからパズーさんの動向も話すべきではないんだろう。

「泣かれました? 目が赤いですわ」

「泣いてませんけど?」

驚いたが、泣いてはいない。またひゃっくり。

わたしは頭を下げて、ボロのでないうちに退散する。

トーマスにもルシーラにも彼女と対峙すると言ったけれど、ちょっと方向性が違くなってきたからな。

まさか彼女が第二夫人狙いだったとは。今までそういう文化で生きてきたならともかく、わたしは当事者になった場合そんな考えのお持ちの方とどう話したらいいのかわからない。

夕方、ペクさんが連れてきたのはハーバンデルクの騎士たちだった。

パズーさんがペクさんの胸を軽く叩く。

「やるじゃん」

「お前、おれを疑ってるんだろう? だから証拠としか言わなかったんだな?」

「疑ってはいるけど、詳しく言わなかったのは牧場のためだ。お前が知っていたら、グルってことにされて証拠にならないかもしれないからな。でも、自警団ではなく騎士がきた。これなら、公平に見てもらえる。大丈夫だ」

ペクさんに連れられてきた、家畜医さんと騎士さんたちで厩舎へと行ってもらう。

モーちゃんに立ち上がってもらうと、みんな息を飲む。

「こ、これは」

騎士さんがお医者さんに診断をしてくれと言った。

パズーさんがモーちゃんの首をかいてやりながら、悪いところがないか医者に見てもらう。怖いことはないとモーちゃんに説明した。モーちゃんは鼻をならした。了解の合図だろう。

お医者さんはモーちゃんの喉のあたりをかいて軽いスキンシップをとってからお腹に手をやった。聴診器を黒い鞄から取り出してモーちゃんのお腹にあてる。何か所か音を聞き、騎士さんを振り返る。

「完治しております。魔物もなるんですね、驚きましたが。これは夜光症です」

「確かか?」

別の騎士さんに尋ねられ、お医者さんは頷いた。夜光症の説明をと促され話してくれる。

「夜光症とは夜光虫の死骸が水に晒され、羽にある鱗粉が溶けた水が体内に入った時に発症します。特徴として夜光虫の鱗粉が溶けたものは酸の匂いが強いこと。一定量以上取らなければ悪くなることはありませんが、中毒のようになったときはその酸を吐き出させることが完治に有効です。中毒までなってしまうぐらいだと鱗粉が体内に溜まっているので光ります。光ることで鱗粉がなくなりそこで完治とみなします」

「その沼、塩分があるといいましたね。夜光虫は塩辛いのが好きだからそれで」

パズーさんの呟きに驚く。

「え? 夜光虫は甘い水が好きなんじゃないんですか?」

「ああ、味がついているのが好きなんですよ。甘味にも寄ってきますが、塩が一番好きですね。海なんかは夜光虫が群がりますよ。命を落としてからもしばらく光っているので、そこで最後の篝火となり海の上にいくつも火が焚かれたようになるんです」

パズーさんはその光景を見たことがあるんだろう、遠くを見ているような表情をした。

モーちゃんも沼が光っていてみつけたみたいだから、信憑性が高くなった。

それにしても、そうか、塩水でよかったのか。塩なら安いし手に入りやすいのに。夜の灯りとりに高い甘味を入れていた。安くすみ、塩が好きなら塩の方が断然いいもんね、スラムのみんなにも教えてあげなくちゃ。

「海水が入ってきてるんですかね?」

「どうでしょう? 土を食べる子もいるんですよね?」

「はい、食べているのを見ました」

「こちらのホルスタが夜光症を患い、完治したようだ。が、それが違法薬物と関係ない証拠にはならないぞ」

騎士がパズーさんとペクさんに伝える。

まあ、そうかもしれない。でも、モーちゃんが完治したならよかった。

「はい、それでもこのことは記録してくださいね」

パズーさんが力強く騎士さんに言った。

「……その沼まで案内してくださいますか?」

騎士のひとりに言われて、わたしたちは頷いた。

失礼してわたしはセグウェイに乗る。

沼にたどり着くと、わたしたちはなんとなくしか見なかったが、騎士たちは端から端までを丁寧に見ていって

「あ、ここに夜光虫の死骸が吹き溜まっています」

と教えてくれた。見て気持ちのいいものじゃなさそうだったので、遠目で確認しておく。

「沼、埋めないとですね」

わたしがいうと、パズーさんが頷いた。