軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編14 遊んだからにはお仕事します⑥羨む気持ち

次の日、保釈されましたと従業員の宿舎に挨拶に行った。騒がせていること、休業したことについて謝る。とりあえず、オーナーがそんな嫌疑をかけられる職場なんて嫌と辞める人はいなかったが、触らぬ神に祟りなしな人は出てくる。半々ぐらいか。

営業を再開しても人が来てくれるかわからないし、そうなったら販売での利益も見込めず、子供たちの仕事体験はまだ道筋を作れてないから頓挫することになってしまう。

「ごめんね、力になれなくて」

挨拶にも一緒について来てくれたルシーラにとんでもないと首を振る。

「信じてくれて、一緒にいてくれるだけで、どれだけ助けになってるかわからないよ」

ルシーラはふっと笑った。

「それにしても、何がしたかったんだろうね? ホルスタに薬を与えてさ」

椅子に座って足を投げ出したルシーラがひとりごちる。

「わたしは薬をホルスタで試したんだろうって言われたよ」

「試す?」

ルシーラが首を傾げる。

「……それはないでしょう。メスだけでなくオスにもでしたから」

パズーさんが腕を組んで憤慨したように言った。釣られてわたしも腕を組んでいた。

「牧場の評判を落とす、モードさんかわたしの評判を落とす」

「私に仕掛けたのかもしれないぞ」

王子はそういうけど、ないよなーと思い口に出す。

「遊びには来ているけど、王子は牧場の経営には関与してないし」

牧場ツアーの発案者はロダン王子となっている。そのロダン王子を陥れるのにカイル王子がやったって筋書き? いや、今や王太子はロダン王子と王子から正式発表したはずだ。それに政治的な話なら、アルバーレンでなく他の国で、王族を巻き込むには話が小さすぎる気がする。

やはりこれは、わたしに向けられた悪意なのか。

でも実際わたしが気づかなかったらどうなっていたんだろう。

クーとミミがいなかったら、モーちゃんは倒れたままとなったかもしれない。

もしわたしがホルスタに何かされたのではと思わず、病気だと思って調べることをしなかったらどうなっていたんだろう。

「どうした、ハナ?」

「いやね、もしわたしが気づかなかったら。調べるって言い出さなかったらどうなっていたのかと思って」

「パズーは匂いに気づいたのか?」

「いえ、オーナーがそうおっしゃってると聞いたので、嗅いでみて気づきました。思えば朝からホルスタたちは厩舎から出ようとしなかったのですが、特に気にとめませんでした。それに一頭が倒れただけなら、その一頭が具合が悪かったんだろうと考えて、調べはしなかったと思います」

「だとしたら、これはハナが気づかなければ何も起こらず過ぎていったことかもしれないな」

え。

それは、何? わたしが気づいて騒いだために、疑われて自分で自分の首締めたってこと??

そう理解すると一気に疲れた気がした。

「……ホルスタの様子を見てくる」

椅子から立ち上がり、そう言って家を出るとルシーラがついてきてくれた。

「あ、オーナー」

わたしをみつけると駆け寄ってきたのは13歳の女の子、トワラちゃんだった。大きなバケツの中には生野菜がいっぱい入っていた。

「それは?」

「野菜が余るから、みんなのご飯にって」

あーーーー、営業してないからね。野菜などがそりゃ余る。

トワラちゃんはわたしの隣のルシーラを見て、顔をポッと赤らめた。

いやだ、何、この可愛い反応。数日のささくれだった心が癒されていくのを感じる。

「ルシーラ、運ぶの手伝ってあげてくれる?」

ルシーラは頷いて、トワラちゃんに手を差し出した。

大丈夫です、いや、おれが持つよを繰り返して、それじゃぁ、ふたりで持とうとバケツをふたりで持つ。くっ、たまらん可愛さだわ。

3人で連れ立って厩舎に行く。従業員さんと仕事体験生の男の子たちが、掃除をしている真っ最中だった。中に残っている魔物はいない。

「みんな元気みたいね、ちゃんと外に行ってる、よかった」

「でもホルスタは、あまり見なかったね」

ルシーラに頷く。

「山裾の方までいってるのかな。わたしもあまり姿が見えないから厩舎にいるのかと思ったんだよね」

見えるところに、ホルスタは数えるほどしかいなかった。

「きっとお気に入りの場所に行ってるんだと思います」

「お気に入りの場所?」

ルシーラに尋ねられて、トワラちゃんは頬を染める。

「ホルスタちゃんたちのお気に入りは山裾だと思います」

よく連れ立ってそっちから戻ってくるのを見るそうだ。ちなみにメイメイは大きな木の下の木陰が好きで、コッコは人が何かした後をついて回るのが好きだとか。

コッコとメイメイはそんな気はしてたけれど、ホルスタたちには気づかなかった。

所定位置にバケツを置き、トワラちゃんはわたしたちにお礼を言って戻って行った。

ルシーラと山裾に向かい、ホルスタちゃんたちを見回りながら歩く。

「そういえば、ティアに喧嘩売ってきたのって、ゼフィーさん?」

まあ、貴族女子といえばここではゼフィーさんだけだ。

「喧嘩はしてないよ。ただ合わないだけ」

ああ、そうだった。ゼフィーさんに体当たりするつもりだったのに、とんだことになってそれどころじゃなかった。

「あの人はティアが羨ましくて仕方ないみたいだ。気をつけた方がいい」

「羨ましくて?」

「そりゃそうなんじゃない? 側から見れば、平民が侯爵夫人にってそれも夢みたいな話だし。しっかり大事にされてるみたいだし。事業も成功している。もっと大きくすることもできるのに、それをしようとしないティアにイラついているみたいだ」

思わず足を止めると、ルシーラも立ち止まる。

「人はそれぞれ違うからさ、羨んでも仕方のないことはわかっている。でもさ、羨んじゃうんだよな。だからさティア、ゼフィーさんとちゃんと話してあげて。ティアのことがちゃんとわかれば、苦しい羨むにはならないと思うから」

それは苦しい羨むを身をもって知っているから出る声音で。

「ルシーラも苦しんだことがあるんだ……」

ルシーラはそつなく世間を渡っている印象があったから意外に思える。

「アジトのみんなを見てよ。言葉は悪いけどアレ化け物だよ。何で子供だけであの人数で暮らしていけるんだよ、おかしいだろ?」

「その一員じゃん」

ルシーラは息をつく。

「特にトーマス。トーマスには絶対勝てないって思う。それが悔しい」

ルシーラにはルシーラの凄いところがある。それが事実だけど、きっと今はそう言っても慰めみたいに聞こえて伝わらないだろうな。だから言ってみる。

「ルシーラ、歳ごまかしてない? 成人してたりしない?」

ルシーラはふっと口の端をほころばせてから言った。

「ティアじゃあるまいし」

これは一本取られた。

わたしたちは顔を見合わせて笑った。

「わたし、ゼフィーさんとちゃんと話すようにするよ」

そう告げると、ルシーラはひだまりみたいな笑顔をくれた。

「ティアも凄いよ。牧場もだけどさ。仕事体験だっけ、子供がいろんなのをさ、どんな仕事か体験できるってすごい事だよ」

「トーマスに計画が穴だらけなことを指摘されたけどね」

わたしは移動資金に頭を悩ませていることを話した。って、それも牧場が傾いたらそもそもが難しくなるんだけどね。

「うーーん、おれ商売に詳しくないからわからないけど、そういう場合、抱き合わせにするとかは?」

「抱き合わせ?」

「うん。この頃さ、子供を指定して仕事に呼ぶ人が多くてトーマスがよくやる手なんだ。指名の子がかち合った時にやり始めたんだけど。例えば2人指名されたとする。そのうちのひとりは指名された子で、プラス10歳以上と10歳未満をひとりずつ2人サポートにつけるんだ。向こうにはひとり分の給料と物品で報酬をもらう。あっちは、指名したのうちのひとりしか条件にあっていないけれど、3人も人手があって物品を入れてもふたり分の給金より安くなるから了承してくれやすいし、こっちも話がおじゃんになったりするよりは、ひとり分でも給料が出る方がいい。物品をつけてもらえばそんなマイナスにはならないし、ちびたちの練習の場になるから損はしない。うまくやれるようになればサポートに入った子が次に指名されたりするしね。トータルでプラスになるように持っていくんだ。移動費は結局マイナスだろ。だからプラスのものと一緒にひとつとして考えるんだよ」

なるほど。セットにして、その一方の利益で移動費を賄うのか。その時に多少マイナスでも未来でプラスに持っていけるならOKと考えるんだ。

「ありがとう。考えてみる」

「凄いな、ティアは。経営者でもあり、テイマーでもあり、子供たちに手を差し伸べることも考えている」

「発端はみんなだよ」

「みんな?」

「うん。家族のみんな。助けてもらって救われたから、わたしも返していきたいんだよね。できることなら。だけどわたしの考えは穴だらけだし、上手く行かないことばかりで。みんなに助けてもらって、なんとかやっていけてるだけ」

「いや、お前は凄いよ」

「わたしはルシーラのトーク術とか、いつも冷静に物事をみられるところとか。どうするべきかの判断が早いところとかの方がよっぽど凄いと思うよ。わたしにはひとつも備わってないよ」

「……ごめん、今そんなことないよって言おうとして、冷静なティアは思い浮かばなくて、反対意見をいえないや」

「いいよ、慰めてくれなくて。わかっていることだから」

全く、ルシーラは素直だな。

「ルシーラは社交性もあるよね」

あっという間に牧場でも溶け込んでいるもんね。

「ティアは侯爵家のお嫁さんなんだよね? 貴族間の社交なんてこんなもんじゃないだろ? そんなんで大丈夫なの?」

「モードさんは一応貴族だけど、職業的には冒険者だからね。なんとか貴族とは関わってない」

「で、王族とは関わりがあるの?」

ルシーラがめちゃくちゃ不思議顔だ。

「……それは成り行きで」

話しながら出会うホルスタの様子を見ていく。途中でぴーちゃんと一緒に遊んでいたクーとミミとも合流した。ホルスタたちは放牧中なので、全部の子を確かめることはできなかったが、概ね健康そうだった。