軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

132話 ひとりでも生きられるように

次の日完全に熱は下がった。復活だ。

わたしは街に行きたいとルークさんに言った。街の様子をみたいのと、鍛冶屋に行きたいのだと。乗り物を作りたいんだと言うと、朝ごはんの席で、みんなすっごく驚いた顔をしている。

こう言った乗り物で、こう言う付与をつけてと話していると、ルークさんに「黙りなさい」と言われる。

「ウォルター様に、まだ話してはいけないと言われているでしょう?」

なかなかの迫力に押されて黙ると、みんなそそくさと後片付けを始める。

「なんかいけないこと言った?」

ふたりになったところで尋ねてみる。まずったってことだよね? ウォルターお兄さんを出してくるなんて。

「王宮にモード様がいらっしゃらないときに呼び出されたのはわかっていますね」

わたしは頷く。

「誰かが、告げたのでしょう」

へ?

「え? 本気でわかってなかったのですか? さっきのも炙り出すためとかではなく?」

さーっとルークさんの顔が青ざめる。

今、マジかと言った、ルークさんが。ルークさんは咳払いをする。

「私はあなたのことを甘くみていたようです」

甘くみていた?

「そこまでおバカさんだと思っていませんでした」

貶められた。

「私は前侯爵様と話をしてきます。ですから、街へは午後行きましょう。その乗り物のことはウォルター様以外と話してはいけません。いいですね?」

「はい」

ルークさん、表情はそのままだけど、めちゃ怒ってる。

『ティア、やしゃしいルークを怒りゃせるにゃんて、しゅごいわ』

『しゅっごい怒ってる。ティア、はにゃしちゃダメだぞ』

クーとミミにも追い討ちをかけられた。

というわけで、午前中は暇になってしまった。

こういう時は料理の作りだめだ。モードさんが旅立つ時に作りだめした物はほとんど持っていってもらった。それでも3ヶ月分にはならなかった。これからは、3ヶ月分ぐらいのご飯は常にバッグの中に常備していたいと思う。

山葵は試したいけど、モードさんが帰ってきたら解禁にするんだ。

パーティーとか言っちゃったからな。何作ろうかな。

子供が好きそうなもの。ハンバーガーとフライドポテト。スープ類は何にしようかな。クーとミミ、ぴーちゃんも好きなシチューにしよう。あと唐揚げとサラダってとこかな。卵の黄身を散らしてミモザ風にしようかな。サウザンドレッシングが合うかなー。お花畑みたいできれいかな。小さな女の子に喜んでもらえるかも。

デザートはリンゴンパイがいいか。アイスに合うしね。よし。じゃぁ、ハンバーグとバンズ、フライドポテトを作っておこう。

作ったエプロンをかけて、まずパン生地作りだ。一次発酵させる間にハンバーグの準備だ。

フライドポテト用のジャガモも切っておく。

鉄板を作ってよかった。お肉の焦げ目が美味しそうに焼ける。火の通りが早い気がするし。

パイ生地を作り終えたところにルークさんが帰ってきたので、作り溜めはそこまでにする。

今日のお昼のサンドイッチを食べてもらって、街へ繰り出す用意だ。クーとミミはぴーちゃんたちと遊ぶ約束をしたらしく、牧場にいるとのことだ。

初めての場所だしと、ワンピースに袖を通す。濃い青のシンプルなワンピースもモードさんが買ってくれたものだ。

外に出ると馬がいた。

なんで馬?

ルークさんが街から借りてきたのだという。ええっ。すでに1回街に行ったってこと?

領地は広い。ほとんど山に囲まれているから、その山がないところにだけ領地を囲う塀がある。その端に表門と裏門があり、わたしたちの牧場が近いのは裏門になる。表門も裏門にも近いところにはそれぞれお店などが何軒かある。裏門には役所と商人ギルドもある。それから領地のほぼ中央にひとつ、最北になる牧場とお父様たちの領主様のお屋敷の間ぐらいにやはりお店が乱立するところがある。わたしたちは、その奥まった方にあるお店などが集まった集落を街と呼んでいる。

っていうか、馬にふたり乗り?

「ルークさん、わたし馬に乗ったことないです」

「……そんな気はしていました。キトラ様と同じようなものです」

え?

一瞬後にはワープしたかのように、ルークさんは馬の上に座っていた。

心構えもできていないうちに手を引っ張られ、腰をもたれて、わたしも馬上の人となった。スカートだったからだろう、横座りだ。めちゃくちゃ不安定!

「た、高いっ」

「キトラ様より高くはないと思いますが」

「あの、ど、どこを持てば?」

だって横なんだよ。

「一層のこと私にしがみついてでも」

「はい」

ガッと腰を捻って後ろのルークさんにしがみつく。

「本当にやるとは。仕方ないですね。怖いんですね? わかりました。全速力で行きましょう。あっという間です」

ルークさんは有言実行の人だった。

全速力は待てと思ったけど、景色が飛ぶように流れ、目をつぶってルークさんにしがみついているうちに馬は止まり、つきましたよと言われる。

ルークさんが自分からわたしの巻きつけた手を離させて、先に降りる。緊張でガッチガチに固まってしまったわたしを抱き下ろす。足がカクンとなって座り込みそうになって。

「あなたは全く」と再び抱っことなった。

大変、申し訳ない。けれど膝がね、笑っちゃって、立てなかったんだよ。

お馬さんはわたしが怖がって不快だっただろうに、こうやって運んでくれた。

道の端っこでわたしを下ろし、ここにいて下さいねと馬の手綱を持って小屋に入っていく。

お馬さんを借りたところなのかな。

馬に乗るってわかっていればズボンを履いて。そしたらもうちょっとは恥をさらさずに済んだと思うんだけど。

ルークさんが果実水を携えて戻ってきた。ありがたくいただくことにする。足も復活したので、街でお買い物だ。

まず忘れないうちにパーティで使う、お肉や卵を買う。新鮮な葉っぱ野菜もいっぱい。路地裏でバッグにインだ。

街の様子はそこそこ人がいて栄えているけれど、食堂やお酒が飲めるようなお店はそんなになかった。日用品や食料やそういったお店はあるけれど、確かに子供が必要とされる場所は少ないかも。

冒険者ギルドがあれば、解体だとか、素材関係で、それをまた運んだりなんだりができるけどね。

街の様子を頭に入れながら、鍛冶屋にお邪魔する。

わたしは描いたものを見せて、こんな形のものを金属で作ってもらえるかを尋ねた。

ルークさんも図柄を覗き込む。わたしは絵が下手だから、完全にいくつかの図形を組み合わせただけのものだ。

「こりゃ、なんになるんだ?」

40代ぐらいの男性に言われて、わたしは説明する。

「乗り物です。この部分がハンドルで、ここに乗ります。横に車輪をつけます」

「人が乗るならある程度重さがないとだな。けど嬢ちゃんが持つならあんまり重たくてもまずいだろうし。微蘭はどうだ? あれならこんくらいのもの作ってもそんな高くはならないし、ちょうどいい重さじゃねーか?」

わたしは鉱石のことは何ひとつわからない。職人が勧めてくれるんだからそれが適しているんだろう。

「強度はありますか?」

「技術がある奴だったら鉄の剣でも切れるな。嬢ちゃんが扱うぐらいなら壊れんだろ」

まぁ、試しだからいっか。

「この車輪はうちでは作れねーぞ」

「どこで作ってもらえますか?」

「右の三軒どなりに行ってみろ。じじぃがくたばってなければやるんじゃねーか」

カッカッカッと笑う。

「……どれくらいでできますか?」

「2、3日ってとこだな。微蘭でこの大きさ、3万になるぞ。どうする?」

「お願いします」

前払いの1万を支払ってお願いしておく。

三軒どなりね。

目つきの悪いおじいさんが出てきた。

人が乗っても耐えられるぐらいの小さな車輪ってできるものなのか尋ねる。

車輪をふたつないし4つにすれば可能だろうとのこと。ふたつでできないか聞いてみる。

イラストを見せると、問答を繰り返して、こういうことかと納得されたみたいだ。さすが年の功。上のパーツとどう合わせるのかを聞かれて、考え中なことを伝える。軸を通すのがいいんじゃねーかと案を出してもらう。なるほど、それがいいかも。

ぶっちゃけ、素材があれば最悪、創造力で作れるのでそれでやっちゃえって思ってたんだよね。ルークさんに止められて、そっか、これはダンジョン産とは言えないもんなと諦めたけど。ボディはこれらでいけそうだ。

車輪は金属で作り摩擦に強い火蜥蜴の皮を被せて作るそうだ。高さが出せないので太い物にすると。それの素材だけで3万。ふたつで6万だ。わたしは前払いの2万を支払い、お願いする。

家に帰るとウォルターお兄さんがいらしていた。

ルークさんから聞いたということで、何を作ろうとしていたのか聞かれた。

わたしはセグウェイについて話す。

で、こういった動力を付与でつけたいんだと。

「お前なら、何でつける?」

と言われ、「風ですかね」と答える。

魔力を込めると風の力で進む動力が出る。ハンドルを倒すと風が出て、引くと風は止まる。

あれ? 魔石は一個でいいのか?

お兄さんやルークさんには詳しくは言ってないけど、わたしが付与っぽい何かができることはなんとなくわかっちゃっているみたいだ。

「そうだな。付与自体は、ドライヤーより簡単だ」

げ。ドライヤー、そんな難しかったんだ。

「本体ができたら、付与は俺がやる」

「ありがとうございます」

「どうだ、商品化はできそうか?」

「できてみないとわかりませんが、素材だけで9万かかるので、一般的に言って難しいかもしれません」

「ティアはそれをどこで使うんだ?」

「え? 牧場で」

「は?」

「牧場です。広くて、歩くと大変なので」

ふっとお兄さんが吹き出した。

「だ、そうだ」

お兄さんはルークさんにそう言って、じゃぁなと消えた。

「ルークさん、何か気になってたの? わたしに聞いてくれればいいのに」

近くにいるんだから。ルークさんは無表情のまま頭を下げた。

「ルークさん、お兄さんたちに連絡とってくれてありがとう。わたし突っ走っちゃうとこだったんだね」

そういうとまた黙礼した。

4日もかけてパーティの準備をしたので、余裕があった。パーティ以外のご飯もいっぱい作りだめしたよ。クッキーやパウンドケーキも焼いて、お土産にすることにした。

皆さんにもパーティの準備を手伝ってもらう。天気もいいから外でやることにした。テーブルを外に出していく。寮の食堂用のテーブルと椅子がこれでもかってほどあるから、こちらはそれを外に出すだけだ。

気持ちだけよそ行き気分にするのに、真っ白のテーブルクロスをかけていく。直前にバッグから次々とお皿を出していって、テーブルに運んでもらう。カトラリーはまとめて籠に入れておいて、小皿は積み上げておく。自分で取ってもらうビュッフェスタイルだ。シチューだけ、わたしが配るけどね。

子供たちがやってきた。野花の花束をわたしにくれる。うわーかわいい!

わたしはありがたく受け取って、瓶に水を入れてお花をさした。

竜人さんたちもやってきた。これには子供たちが大興奮。女の子たちはみるなりポーッとなっちゃってる。気持ちはわかる。小さくても女の子だなぁ。

竜人さんたちも、オリーブオイルや珍しい果物なんかもお土産にくれた。

わたしはミリョンとレモン水を割った果実水をみんなに配って、乾杯をした。魔物ともどもよろしくと挨拶をした。

好きなように食べてくださいねと言って、スープを配っていく。クーやミミ、ぴーちゃんはすでにお皿に顔を突っ込んでいる。みんななんとなく子供たちを助けてくれながら、しっかり食べてくれているみたいだ。

子供たちが何を口にしてもおいしーと言ってモリっと食べてくれる。嬉しいな。

院長先生やマリさんから再三注意があったのだろう、子供たちはぴーちゃんやモーちゃんに触りたがったが、わたしや従業員の指示にちゃんと従ってくれた。触れると温かくて、同じ生き物だって実感するみたいだ。魔物だから、テイマーと契約しているから、みんな触ることができることも伝えておく。

竜人さんたちはミモザサラダがお気に入りらしい。唐揚げにも食いついた。

竜人さんたちにはハーブ入りのチーズを追加して出していく。お土産にグリープ酒でも持ってってもらうか。

わたしは院長先生と少し話した。

14歳からの生計の立て方はみんなどうしているのかを知りたかったのだ。

ローディング家からの援助があり、この街ではずいぶん就職事情もいいようだが、全員がその恩恵に預かれるわけではない。

王都に働きにいったが、そのうち今も行き先がわかっている子はひとりしかいないという。

ただ報告されてないだけで、どこかで楽しくやってくれていればいいのだけれど、と院長先生は微笑まれた。

宴もたけなわになったところで、子供たちからわたしへのプレゼントと言って歌を歌ってくれた。

こちらではメジャーな歌みたい。あなたと会えて嬉しい。これからよろしくねみたいな歌詞で嬉しくなった。

お土産を渡してみんなを見送った。

片付けはパズーさんたちが手伝ってくれたので、すぐに終わった。お腹もいっぱいなので、夕飯はいらないとのことで、みんな寮に戻っていった。

「お前は何を考え込んでいるんだ? パーティは成功したみたいじゃないか」

ひとりだけ残って、片付けなど手伝ってくれたバラックさんに声をかけられる。

「子供たちの行末がさ。何ができるわけじゃないけど、力になれることはないかと思って」

彼は、その気持ちはわかるなと言った。

「オレもトントで養子を取ろうかと思ったんだがな、アジトの大ボスの坊主に言われた」

アジトでは今ボスがエバンスで、大ボスがトーマスみたいだ。

巷では子供たちだけで生計を立てていることが噂になっていて、スラムに子供を置いていく人が後を立たなくて、かなりな人数になっているらしい。

「可愛がってくれるのはありがたいけど、本当にこいつのためを思うなら、ただ可愛がるんじゃなくて、ひとりでも生きて行けるようにしてやってくれって。二度と捨てられたって思いはさせないでくれって。目が覚めた。可愛いからってただ可愛がるのがいいわけじゃないんだな。いつ、どうなっても、どこででも生きていけるように、その力をつけさせてやることが見守るものの務めなんだな。あのスラムのガキは、すごいな。教えられたよ」

相変わらずトーマスはすごいなぁ。

でも、確かにそうだね。可愛くて、その時ただ可愛がることなんて普通にしちゃうけどさ。

手を差し伸べるなら、いつでも、どこででも、生きていけるよう力をつける、か。

わたしにも、できるだろうか。

子供たちはよく牧場に来てくれるようになった。お手伝いもしてくれる。院長先生とも話して、院のお手伝いがないときは、ここに来てお手伝いをしてもらってもいいこととした。10歳未満の報酬はご飯とかおやつなどの食べ物にし、10歳以上は1日につき2人まで限定で、給金を渡す代わりにしっかりと働いてもらうことにする。

よく来てくれるのが、最初に会った5人と、12歳の女の子のジュディーだ。ジュディーは料理作りが好きなので、賄いを作るのを手伝ってもらっていて、もう指示だけすればほとんど一人でも作れるようになっていた。

『ティア、ゲンちゃんがいりゅ。来て、干かりゃびちゃう』

『ティア、こっち!』

ミミとクーに急かされて、牧場の端っこまで行けば、小さなカメがいた。甲羅から出ている首や手足がダラーんとしている。なんかやばくないか。

クーとミミが干からびると言うってことは、と。わたしは魔法の水をかけてみた。

しばらくかけていると、プルプルっと首を振る。

「ヒィー」

カメってヒィーって鳴くんだ。

『大丈夫?』

ミミが尋ねると

「フィヒヒヒヒ、ヒー?」

『ティアが魔法のおみじゅをかけたのよ』

「フィヒー?」

カメさんはわたしに向き直り、こくんと頭を下げる。お礼を言ってくれているみたいだ。

「どういたしまして」

『どうしてここにいりゅの?』

「フィッ。ひひひひひひひ。ヒィヒィヒィヒィーヒィヒィ」

『しょれで気づいたらここにいたにょか?』

「フィ」

『ティア、池まで連れて行ってあげて。おみじゅをいっぱい浴びりぇばひとりで帰りぇるって』

「カメさん、池まで連れていくね」

甲羅を持って持ち上げて、掌に乗せる。そして池まで行って、池の中に掌を入れると、スイーっとカメさんが泳ぎ出した。気持ちよさそうにスイスイと泳いでいる。

「お友達なの?」

クーとミミに尋ねると、何度か会ったことがあるという。クーやミミより年下だそうだ。

『まだほんの赤ちゃんにゃの。50歳ぐりゃい』

え?

50歳が赤ちゃん?

「聞いたことなかったけど、クーとミミは何歳なの?」

『俺しゃまたちは103歳だ』

そ、そうなんだ。寿命が長いと歳を取るのもゆっくりなのかしら。

こんな赤ちゃん赤ちゃんしているのに、わたしの倍以上生きてるよ。びっくりだ。

ふと池の中に目を戻すと、カメさんが倍ぐらいの大きさになっている。さっきは掌サイズだったのが今、みるみる間にもう両手でも持てないだろう大きさになっているんだけど。

「ね、ねぇ、カメさん大きくなってるんだけど」

『だかりゃ、ひかりゃびしょうににゃってたのよ』

そういうものなのか。いや、深くは考えまい。ファンタジーだ。ファンタジーなんだ。

結局カメさんは黄虎と同じぐらいのサイズになって、ありがとうと飛んで行った。

カメ、飛ぶんだ。あんな大きいけど、50歳だけど、赤ちゃんなんだ。

孤児院の子供たちとわたしは、驚きながらバイバイと手を振った。