軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

129話 負けたくないんだ

王子と市場をまわった日はお腹もいっぱいだったし疲れてしまって、そのまま眠ってしまった。次の日はビルドー君が王都を案内してくれるという。他の大人はみんな用事があるみたいで、お鉢がまわってきたみたいだ。クーとミミも一緒でもいいと言ってくれたので、一応籠を持ち、でもふたりは肩の上だ。

ビルドー君は15歳だそうだ。寄宿舎のある学校に通っていて、今は試験休みで帰ってきている。生意気そうではあるけれど、さっぱりしたまだやんちゃっけが抜けてない男の子みたいな印象を受ける。ダイアナさんからわたしはあまり丈夫じゃないから引き回さないよう注意を受けている。

お母さんの前ではティア嬢と呼びエスコートもしてくれたが、お屋敷が見えなくなると途端に言葉遣いが砕けた。

「お前さ、16だろ。政略結婚でもないのに、なんでそんな結婚を急ぐんだ? もしかして、子供が?」

「いないから」

お腹をマジマジと見られて思い切り素で答えてしまった。

昨日もたっぷり食べたし、お腹は多少たぷたぷしているが、前ほどではない。

「いや、そう見えないけど、いたりしてって思っただけで別に特に肉ついてないぞ。どっちかっていったら、全体的にもっと肉つけた方がいいんじゃないか。叔父上もその方が嬉しいと思うぞ」

ん? それは特定の部位について言っているのか?

ジロリと見ると。

「悪りぃ、睨むなよ。お前変わってるから、つい」

変わってるだと?

「わかった、奢ってやるから帳消しな。屋台のおいしーの知ってんだ。行こうぜ」

腕を取られて走り出す。

屋台のおいしいのか、それは期待できそうだ。

『屋台、おいしーかにゃ』

『たにょしみ』

クーとミミはわたしの肩でゴロゴロと喉を鳴らしている。

けど、わたしは数メートルで息も絶え絶えだ。見かねてルークさんが口を挟む。

「ビルドー様、ティア様が息切れしています。走るのはおやめください」

言われてビルドーは振り向いて、わたしの状態に慄く。

「なっ。5メートルも走ってないじゃん。お前、冒険者なんだろ?」

いや、10メートル未満ってとこでしょ。答えたいけれど、むせてしまってわたしはしばらく肩で息をする羽目になった。

ちょっと待ってろと言って、走って行ったと思ったら、果実水を買ってきてくれた。ありがたいと、こくこくと飲み干す。甘ーい果実とレモンで割ってあって、甘いけど爽やかさもあり、ゴクゴク飲めちゃうものだった。

『ティア、平気?』

『ティア、大丈夫か??』

ふたりになんとか頷く。

「ありがとう」

とビルドーにお礼を言えば、顔を赤くして

「引っ張って走ってごめんな」

と謝る。謝ることのできるいい子じゃないか。そこからはゆっくりと歩いてくれた。

クーはルークさんの肩に乗ることに決めたようだ。

『ティア、あれにゃに?』

「アクセサリー屋さんじゃないかな」

レースのお花を耳に飾ってから、おしゃれに目覚めてしまったミミ。キラキラした物にも反応するようになった。今もわたしの細いキラキラのブレスレットを首周りに飾っている。毛は真っ白だからそれは映えてとてもキレイだ。

昨日は市場方面にしか行ってないので、王都巡りをできて大満足だ。

どこかおしゃれで、品がよく、王都だからかーって感じがする。

「お、ビルドー! 何やってんだ?」

友達かな? いいとこの坊ちゃん風な男の子たちがビルドーをみつけると手を振って駆け寄ってきた。

「王都を案内してるんだ」

「だ、誰だよ? まさか、婚約したのか?」

「違うって。叔母上だ」

わたしは愛想よく頭を下げておいた。

少し話してから彼らとは別れる。

「ごめんね、案内させて。遊びたかったでしょ?」

「いや、あいつらはこれから騎士団に剣を習いに行くんだ」

「へー、騎士団に」

いずれは騎士にとかなのかな?

「ビルドーは行かないの?」

「おれは……何がしたいのかよくわからないんだ」

ビルドーは最終学年になったそうだ。友達の多くは来春からの行き先がすでに決まっている。ビルドーは決まっていなくて、そのことでスタンお兄さんやダイアナさんと口論となっているらしい。ビルドーのお兄さんは昔から侯爵家を継ぐことが決まっていて、道はひとつしかなかった。

ビルドーはバランスよくなんでもできてしまうタイプらしい。なんでもできてしまうが、何かが特別に誰にも負けないというところまではいかなくて、考えあぐねいているうちに、現在となってしまった。

「ま、悩めることを許される環境なんだから、思いっきり悩んでおけばいいんじゃない?」

「人ごとだと思って軽くいうなぁ。父上と母上の圧がすごいんだよ」

「ビルドーはなんて言ってるの?」

「え? だから将来したいことがみつからないって。わからないから、やりたくないって」

「それじゃぁ、圧かけられても仕方ないんじゃない?」

「お前、自分が行く先決まってるからって」

「自由時間の終わりは自分で決めること!」

「自由時間?」

「そんなふわふわしたこと親に言ったって、心配するだけに決まってるじゃん」

口をへの字にしている。

「いつまで悩みたいって明確にするんだよ。もしその時までにみつからなかったらどうするかもね。自由時間は居心地がいいから、ズルズルと長引かせることもできちゃう。でも、線引きしないとね。自分で。そして自分で決めたことなんだから、絶対にそれを守り通すこと。

スタンお兄さんも、ダイアナさんも、ビルドーが決めたことなら、ちゃんと応援してくれると思うよ」

ビルドーが串焼きを奢ってくれた。クーとミミにも。ルークさんにも尋ねたけれど、食べないとのことだった。こんなにおいしそうなのに、食べるチャンスを回避するなんてもったいない。甘だれのたっぷりついたお肉だ。お肉も柔らかいし、すっごくおいしい! ただ焼くだけじゃなくてなんかしてるのかな? ただ焼くだけじゃこの柔らかさはでないよな。

年下の学生に奢ってもらうだけってのもどうかと思うので、わたしも屋台の食べ物を奢ることにした。甘い物も平気だというので、一口ドーナツみたいのに甘い蜜を絡めた物をみんなの分買っていただく。ドーナツとは全く別物だったけど、これはこれで、甘味が少ないこの世界ではいいお菓子なのかもしれない。

ビルドーが挙げる職種の選択肢が少ない気がする。騎士とか文官とか。もっといろいろ職業があるでしょと知っている働き口を出し合っていくのに、わたしはアジトのみんなの顔を思い浮かべていた。

平民と貴族のお坊ちゃんの就職口は全く違うものだろうけれど、わたしは平民からの視線でという前置きで、みんなの働いていたところを羅列していく。大工のアシスタント、ギルドの手伝い、解体の仕事、食堂の下働き、郵便の見習い作業、洗濯の仕事、子守の仕事、掃除だって、修理の仕事だって、髪結屋だって、いろいろある。貴族だからそれらのオーナーって手もある。アジトのことをちょっと話すと、とんでもなく食いつきがいい。

ま、彼らはすっごくかっこいいからね。

それが年下ということにも驚いたみたいだ。

そうだよ、彼らはかっこいい。いつも前を向いて、突き進んでいく。自分の境遇を何かの理由なんかにしない。

手を豆だらけにして、一生懸命働いて1日にパンを半分しか食べられなくたって、みんなで寄り添って、支え合えいながら生きていた。

ビルドーは最初は目をキラキラさせて聞き入っていたけれど、途中から意気消沈してしまった。はは、わかるな。凄すぎて届かないって思うと、落ち込んじゃうよね、自分と比べてしまってさ。

「どうしてそんな強くいられるんだろう?」

ビルドーが俯く。

「……そうだね。本当はみんな同じで、そう強くはないんだと思うよ」

強がったり、落ち込んだり、でもまた笑ったり、どこにでもいる少年と同じなんだと思う。

でもわたしは知っている。彼らの強さの元を。そしてわたしもそうありたいと思った。同等でいたいから。

クーとミミの口元についた蜜を拭き取る。クーはルークさんの肩へ移動し、ミミもわたしの肩の定位置に戻った。

ごちそうさまをして、よいしょっと立ち上がる。

「負けたくないんだよ」

ビルドーも立ち上がり、顔をあげた。

わたしは歩き出す。

「……何に負けたくないんだよ?」

振り返るとビルドーの深い碧の瞳が、すがるようにわたしを見ていた。

……負けたくないのは。

「 現在(いま) の自分自身に」