軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

127話 ミルクティー

というわけで控えの間に戻ったのだが。キラキラの人がひとりついてきた。最初に吹き出した猫っ毛の人だ。モードさんと同じぐらいの歳に見える。

「私はアドバスだ。保護者が戻られるまでお相手しよう」

「あの、わたしはひとりで大丈夫です。護衛もおりますし」

王族の知り合いはもういるので十分だ。増えなくていい。

「そんなに警戒しないでくれ。それにしてもモードに先を越されるとは思わなかった」

第二王子のアドバスというキラキラな人はそう言ってわたしを興味深げに見る。

「普通に話してくれて構わないぞ。私は皇太子ではないからな、結構自由なんだ。どう過ごす? 城を案内するかい?」

「いいえ、恐れ多い。わたしはこちらの部屋で、お父様とお兄様を待ちたいと思います」

もうドレスが苦しくて限界だ。

「ご歓談中、大変失礼いたします。ティア様、体調がお悪いのですか? 顔色が……」

ルークさんが気づいてくれた。

「ルークさん、……どうしよう。ドレスが苦しくて限界なんだけど」

「先にお暇しましょう。第二王子様、御前、失礼いたします」

抱き上げられて、ルークさんが歩き出す。

普通だったら、こっぱずかしい体勢に待ったをかけるところだが、今はそれどころじゃない。かなり気持ち悪くなってる。

と、第二王子から待ったがかかる。

「そういう理由だったか。ここから馬車に行くのも時間がかかりすぎるだろう。こうしよう」

と自然な動作でピッチャーからコップに水を注ぎ、そのコップの水をわたしとルークさんにかけた。

え?

ヒッと護衛やら、メイドさんたちの声なき悲鳴があがる。

「すまない、手が滑ったようだ。誰か、こちらの客人に着替えを」

ひとりのメイドさんが先に立ち、隣の部屋に案内される。水をかけられた状態のままルークさんが隣の部屋へ運んでくれる。上等なドレスの中で、できるだけ質素なワンピースと呼べるようなものを選ばせてもらって、それに着替えさせてもらった。ドレスを脱ぐとやっとしっかり息ができた。ルークさんにもタオルをとお願いしておく。わたしにだけかけるんでいいのに、ルークさんにもとばっちりだ。ワンピースに着替えると人心地ついた。

せっかくきれいに飾り立ててもらっていたのにな。申し訳ないことこの上ない。

それにこのワンピース、どうやって返せば? 買い取りになるのかな? そりゃ買い取りだよね。見た目はシンプルなワンピースに見えるけれど、馬鹿高いんだろうな。払えるかな。もしもの時はマジックバッグを作って売ろう、うん。今日のドレスだって、装飾品やらと合わせてどれだけになるんだろう。モードさんには牧場資金だって立て替えてもらっているし、形になるまで赤字経営を見込んでのことだから、出費が多すぎる。

とりあえず住むところはあるんだから、森で食べ物はゲットするとして、3人のお給金だけ確保しておかなくちゃ。ひと月分でどれだけ魔石や素材があればお給金に届くかな。

メイドさんに促されて先ほどの部屋に戻ると、キラキラ王子が優雅にお茶を飲んでいた。王子って職業?の人はみんなキラキラなんだね。品がいいっていうか所作が綺麗だからそう見えるのかな。

「あの、ありがとうございました。こちらの服はどのようにしたら良いでしょうか?」

尋ねると、彼は片目を瞑った。ウィンクだね。鳥肌が立つほど決まっているのがどこかムカつく。

「それは私が水を誤ってかけてしまったお詫びだから気にしなくていいよ。元のドレスはスタンの家に届けておくよ」

「ありがとう存じます」

気前が良くてありがたい。

「そうだな。顔色も戻ったみたいだし、恩を感じたなら少しの間、私に付き合ってよ」

まぁ、いいけど、苦しいのが何とかなったら、すっごくお腹が空いたんだよな。

意識すると、ぐーとお腹が遠慮ない音を立てた。

「君の体、素直だね」

その通りでございます。王子様はツボに入ったらしくケラケラと笑っている。

「ごめんごめん。君、王都は初めて?」

「はい」

「それじゃぁ、街で食事でもしようか」

それにはルークさんからの待ったがかかった。口を出す非礼を詫びてから、わたしは婚約者のある身なので、男性とふたりで街に出るなんてとんでもない、と。

じろっとルークさんに睨まれる。

待って、わたしが言い出したんじゃないから!

「そうか」

と、少し寂しそうだ。

「じゃぁ、ここで何か少し用意しよう」

とメイドさんに声をかける。

わたしは一応遠慮したからね、聞き入れられなかったけど。

何が不敬に当たるかわからないと思っていると、ものすごい神経使うんだよね。早くお父様たち解放されないかな。

わたしにもお茶とお菓子が。この 出立(いでたち) は、もしかしてマカロン!?

すっごい食べたいけど、ルークさんに後から怒られそうだし。

お茶はいただくが、マカロンに思慕だけ募る。茶葉は紅茶だった。香りが高い。

「食べないの? 嫌いだった?」

「いえ、美味しそうです」

「食べさせてあげようか?」

「いえ、自分でいただきます」

本当にやりそうなので、わたしは急いでマカロンっぽいものを摘み上げて、口に運ぶ。

あ、マカロンだ。抹茶かと思いきや、これはピスタチオ?中はアーモンドクリームか。うまうま。

「おいしそうに食べるねぇ」

「はい、おいしいですから」

「君、モードとどこで会ったの?」

「草原です」

一拍後、大爆笑だ。

え? なんで?

「あ、失礼。そう、草原で会ったんだ。モードのどこが好きなの?」

「全部です」

そう答えて、もうひとつのマカロンに手を出す。ピンクはベリー系かな?

「全部、ねぇ。君、平民だよね?」

酸味がキツイ。オレンジのクリームみたいのを挟んでいる。もうちょっと甘い方が好みだな。

でもマカロン自体はものすごく王道で、とてもおいしい。

「はい、平民です」

「貴族との結婚を夢見たの?」

「わたしは、モードさんだから一緒にいたいんです」

「周りはそうは思わないよね?」

「そうなんですか?」

そうか、王家はそこを心配してるのか。

訳わからん素性の者が国の護りの侯爵家にズカズカ入り込んでくる。聞いてみれば、他の国、アルバーレンの篭り花。アルバーレンがハーバンデルクに何か仕掛けようとしているかもと思われているのかな?

でも、そう思われても、だからって何も思いつかないし、何もできないしな。

最後の3つ目のマカロンに手を出す。茶色い。きっとチョコだ。当たり。チョコ味の生地にチョコのクリーム。これはおいしい。大満足していると、メイドさんがやってきて、パウンドケーキみたいのを追加して置いてくれた。

やったー。おいしそう。ありがとうございますと頭を下げて、フォークを持つ。

後ろで咳払いが聞こえて、ハッとする。

第二王子様の御前だった。

「いいよ、食べて。お菓子もそんなおいしそうに食べてもらえたら本望だろう」

軽蔑なのか、何なのかはわからないけど、やはりわたしにはどうにもできないから、目の前のお菓子をいただこう。

フォークを入れると、重たさを感じる。どしっとしたパウンドケーキだ。濃厚なやつだ。香ってくるバターとアーモンドの香り。中にはナッツ類が入っていて。バターたっぷりだけど、めちゃうま! これはこれだけでいただくやつだね。これだけで濃厚ですっごくおいしい!

「召し上がらないんですか? すっごくおいしいですよ。食べないと損ですよ?」

王子のお皿のマカロンもパウンドケーキも手付かずだ。

王子はフォークをとって、パウンドケーキを口に運ぶ。食べ方もきれいだ。

「なかなか重たいな」

「バターがいい仕事してますよね。第二王子様は甘い物が得意ではないんですか? それでしたら、そのピンクのマカロンがいいかもしれません。あまり甘くなくて少し酸味があります」

王子様は素直に手でマカロンを摘み上げて、ピンク色のを口にする。

「この菓子はマカロンというのか? 本当だ。これはあまり甘くないな」

酸っぱいのが好きなのかも。だったら、お茶にも。紅茶ならレモンを輪切りにして浮かべても好きかもしれないよと教えてあげる。お水もポットに入れて、レモンを切って一緒に少し入れておけばレモンウォーターになってさっぱりのお水にもなる。

メイドさんにレモンを持ってこさせて、紅茶にレモンを浮かべる。

飲んでみて気に入ったようだ。

普段からレモンティーを飲んでいるのか聞かれ、紅茶は高いからほぼ飲まないけれど、甘い物が好きなので、ミルクティーにして飲むのが好きだというと、どんなものだというから、ミルク出しの紅茶だと教える。飲んでみたいというので、なぜか調理場まで行って、ミルクティーを作ることになった。

また、ルークさんに睨まれた。

わたしのせいか? わたしは作りたいなんて言ってないじゃないか。

お鍋を借り、ミルクと茶葉、蜂蜜を用意してもらう。

わたしはお湯と割るのではなく、ミルク出し派である。

ミルクを人肌まで温めてそこに茶葉を直接入れる。

料理人たちに息を飲まれた。そのまま細火で温めて、茶葉の色がしっかりとでたら、完成だ。蜂蜜や砂糖はお好みで。ミルクの甘さだけで最初から甘みがある感じだからね。でもわたしはあえてミルクティーはもっと甘くする。甘いのがどーしても飲みたかったのという時にミルクティーを飲むのだ。

茶葉は温まったミルクによって生き物のように踊りまわる。邪道だがわたしはそれをかき混ぜて渦を作るのが好きだ。真っ白のミルクから渦巻き状にミルクティー色が出てくるのを見るのがなんともいえなく好きだ。いい香りがミルクと相まうのも楽しめるし、こんなに優しく混じり合っていくのは、心が落ち着く。

ミルクは牛の乳だし、お茶は植物の葉っぱを乾燥させたものだ。この2つがただ自然にあって混じり合うことなんて絶対にない。何もかも違う2つが出会った。自然では絶対に巡り合わない何かでもこんなに優しく混じり合うこともあるのだ。

別に全ての人に受け入れてほしいなんて思うわけではない。けれども、異物のわたしでも優しく混じり合えることがあるといいと思う。

とカップに注ぎ、王子が手を伸ばすから、待ったをかける。

「王子様がお飲みになるものは料理人の方に作ってもらってください。これはわたしがいただくので」

「なぜだ」

「あのですねー。わたしは料理人ではありません。わたしが作ったもので王子様に何かがあった時、困ります。わたしはまだしも、モードさんのお家に迷惑がかかるのは嫌なんです」

「わかった。何があってもお前のせいとも、ローディング家にも迷惑はかけないから」

「絶対ですよ。今、ここにいる皆さんが今の言葉聞いてますからね」

わたしはカップを差し出した。

王子がこくんと一口飲んで、

「うまい」

小さく呟いて、またごくんと飲んで、一気に飲み干した。

「すっごくうまい。料理長、飲んでみろ」

料理長さんは、お鍋に残ったミルクティーをカップに入れて試飲する。

「これは!」

入り口がガヤガヤっとしたと思ったら、みんなが頭を下げる。何事だと思っていると、王様と王妃様を始め王族の方々、そしてお父様とスタンお兄さんが調理場に入ってきた。

「ティア、大丈夫か? 殿下に水をかけられたと聞いたが」

お父様がわたしに駆け寄り、第二王子との間に入ってくださる。

「あの、大丈夫です、お父様。王子様には助けていただきまして」

「助けた?」

うーー、こんな大勢いる中で恥を言わなくてはいけないなんて。

「実はすいません。きれいに着飾っていただいたのですが、ドレスがあまりに苦しくて気分が悪くなってしまい、王子様が水がかかってしまった口実を作ってくださって、着替えさせてくださったんです」

お父様はわたしに向き直り、頭を撫でてから、第二王子に向き直る。

「うちの娘に心遣いいただき、ありがたく存じます。して、このような場所には何故?」

「ティア嬢に斬新な紅茶の入れ方を聞いてな、どうしても飲んでみたくなり作ってもらったのだ。とてもおいしかった」

「斬新な紅茶ですの?」

「はい、母上。いつもの紅茶にレモンを浮かべるのも爽やかでおいしかったですが、ティア嬢が好むというミルクティーというのが、ミルクで茶葉を煮出すのですが、これがまた深い味わいでおいしいのです。蜂蜜を入れて甘くしたのですが、甘味が苦手な私でも一気に飲んでしまいました」

「ミルクティー、わたくしも飲んでみたいですわ」

「そういえば、モードとティア嬢は『牧場』なるものを作り、そこで軽食を売ると聞いていたが。その軽食はティア嬢が考えたのか?」

「はい、国王陛下。うちの娘の作る料理はとてもおいしいのです」

「父上! 国王陛下、父は末の妹を孫のように可愛がっておりまして、身内贔屓でお見苦しく申し訳ありません。ティアも無事見つかりましたし、お暇しましょう。調理場に人がこんなにいては迷惑でしょう」

スタンお兄さんがまとめる。お父様もつい褒めちゃったのを省みたみたいで、微かに頬を染めている。

「ティア嬢。おいしい紅茶の礼がしたい。すぐに領地には帰らないんだろう? ……明日、街にでも」

「では、ワンピースのお礼としていただけると。作り方というほどのものではないので、料理長さんも見ていらしたし、よろしければ皆様で味をみていただけると、お茶の幅が広がってティータイムが楽しいかと思います」

わたしはお辞儀をして、お父様とスタンお兄さんにせきたてられるように、王城を後にした。