軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123話 これからふたりで

エーデルの森にコッコとホルスタを捕まえに行くことにする。居てくれるといいんだけど。

領地から少し外れた森に入る。コッコはここらでよく見られているらしいから、まあ今日会えないとしても、そこは安心している。

わたしたちには黄虎がいるから、モードさんの実家で過ごし、こうして毎日エーデルのお家に移り住む用意をしに来ている。といっても最初から完璧に人が住めるくらい何もかも揃っていたし、小人さんがいるのかと思うほど、欲しいものを呟くと次の日には届いたりしている。あ、従業員さん、ミリセントお姉さん、ゼノお兄さんには直接会えたので、婚約祝いのお礼を言うことができた。

そんな理由で、こちらでやることが特にあるわけではないから、牧場系のことを進めようとメインキャストになるコッコやホルスタたちを探すのに森に行くことにしたのだ。

森の中はまだところどころ雪の塊が残っていた。果物はみつけられなかったが、蕗の薹やタラの芽などを獲ることができた。オリーブオイルでからっと天ぷらにしよう!

魔物にも全く出くわさない。

午前中はそんな収穫しかなかったが、お昼のお弁当を広げる。鶏ハムで作ったサンドイッチに、黄虎の好きなミリョン入りのサラダと、トラジカのカツとシンプルなポテサラ。それから野菜たっぷりシチューだ。クーとミミはシチューが大好きなので、お皿に顔ごと突っ込み、食べ終わった時は長い毛がシチューまみれになっている。それを拭いてクリーンをかけ、そしてグルーミングできるのがまた至福だったりする。

黄虎はとても上手に食べて、顔を汚すことはほぼない。けれど、溶けた雪で泥が手足についたときにクリーンをかけたら、気に入ったようなので、よくやってと擦り寄ってくる。喜んで!と抱きつかせてもらうまでがセットだ。

鶏ハムは簡単に作れて使い勝手もいいので重宝している。

葉っぱ野菜と鶏ハムとチーズを挟んだサンドイッチをアムっと頬張っていると、モードさんが言った。

「ティアは危険区域に行くつもりなのか?」

「……行くよ」

「行きたくないならいいんだぞ?」

わたしは首を横に振る。

「逃げると追ってくるから」

「王子がか?」

思わず想像してしまい、それはそれで怖いと思った。いや、そうじゃなくて。

「うーうん。わたし、向き合おうと思いながらも、やっぱりいつも逃げてたんだよね。側室聖女のことにしても、最初はやっぱりあの場面に戻ったらああ逃げ出しちゃうと思うけど、その後何回も向き合う機会はあったんだ。追ってくるのは逃げてるからで、ちゃんと向き合って答えを出していたら、あんなことにはならなかったんだ」

なんで追いかけてくるんだって思っていたけれど、それはわたしが終わらせてなかったからだったんだ。

たとえそのとき事なきを得たとしても、逃げている思いは答えを出さないうちはいつまでも追いかけてくる。形を変えて。

わたしが逃げ出したことによって、側室聖女なるものが生まれ、聖女の子供なんかもできちゃって、世界で一番ありふれた髪と瞳の色の人たちが供物になりそうになっていた。もしそれが叶ってしまっていたら。奴隷になってしまうのだってとんでもないけれど、それによって大勢の人が、本当に供物になってしまっていて、そして成就し、呪われた地になっていたら。わたしは気がおかしくなったかもしれない。

一緒に行ったって、わたしに何ができるわけではないだろう。王子が聖女ちゃんを喚び出したのは、おそらくそれが目的だったんじゃないかと思う。それに巻き込まれたわたしだから、これはわたしが行くべきことだと思う。逆にモードさんを巻き込むのが申し訳ないぐらいだ。

「また、モードさんを巻き込んじゃうね」

「きっかけはあの王子に名指しされたこともあるが、危険区域の様子は気になってたんだ」

「危険区域の様子?」

「3年ぐらい前か、やはり緊急依頼で危険区域に行ったんだ。あの時と様子が違うと言うか、なんかうまく言えないんだが、瘴気の反発みたいのを感じたんだ」

瘴気の反発?

わたしが眉根を寄せていると、頭を撫でられる。

「まぁ、違和感みたいなもんだな。だからあの王子から危険区域の言葉が出たときに、気になった」

だから、ただ巻き込まれているわけではないとモードさんは言う。

「それと、これからは、俺の問題はお前の問題でもあるし、お前の問題は俺の問題でもある。問題があってもふたりで解決していけばいい。だから巻き込むとかそんなんじゃないんだ」

モードさんは、いつもわたしが思いつかない嬉しい言葉をくれる。

『ティアー』

『ティア〜』

クーとミミの情けない声がする。ふと見ると、いや、笑っちゃいかん。

顔中シチューだらけだ。顔だけでなく身体中の至るところにシチューが飛び散っている。どう食べるとそんなことに。

「今、拭くから、ストップ!」

ふたりを止めて、タオルとお湯を出してタオルを濡らす。

今は森の中にいるから魔力の節約だ。クリーンは汚れがひどいほど魔力がいる。

最初にミミの顔をタオルで拭く。体を拭いていく。よしっとクリーンをかけると。

『にゃにをする』

って慌てたようなクーの声。

アラームは何もなかったけどと、そちらを見れば、コッコが首を下げて器用にクーの顔を突いている。いや、顔についたシチューを食べてる?

「シチュー食べたいならあげるから、クーを食べないで」

そう言ってみると、コッコは首をあげた。可愛らしい黒曜石みたいな瞳だ。

コッコはクーに構うのはやめてわたしの前に来た。言葉わかってるね。

わたしはクルミのお碗にシチューをよそった。

「どうぞ」

と差し出すと、お碗に嘴を入れてシチューを食べている。

走り寄ってきたクーをキャッチしてタオルで拭く。そしてクリーンだ。

モードさんも動きはしないから危険を感じないんだろう。

まだコッコがご飯中なので、ミミとクーのブラッシングタイムに突入だ。

魔法のブラシだ。他のクシとかなら別に平気なのに、なんでこのブラシだとフニャってなっちゃうんだろう。でも、めちゃくちゃかわいい。

黄虎ものそっと寄ってきて、ブラッシングをねだってくる。

顎のところをカイカイしてからブラッシングだ。クーやミミたちほどではないけれど、黄虎もフニャッとする。かわいすぎる! 最後はやっぱり抱きしめちゃう。あったかくて、触り心地はよくて最高だ。

と、黄虎の隣に、コッコが座り込んだ。わたしを見て、羽をバタバタする。

「もっと食べたいの?」

聞いてみると、羽をバタバタする。

「ブラッシングじゃねーか?」

え? 羽毛にブラッシング?

「ピーー」

え? 姿に似合わず今の高い可愛らしい声はあなた?

どうやらブラッシングして欲しいみたいなので、ブラシをそっと羽にあててみる。大丈夫そうなので、そうっと羽にそってブラシを滑らせる。

「ピピピピピピピピ」

高い声で嬉しそうに鳴く。なんだ、なんだ、かわいいじゃないか。

お尻のところはブラシが入りづらくて結構力を入れてやってしまったが、気持ち良さそうなのでよしとする。

首のところは毛が短いけど、ブラシをそっとあてて下から上にやると気持ちいいみたいで、嘴を上げて顎のところをやってと催促だ。めちゃくちゃかわいいじゃないか。

「ティア、聞いてみろ」

「聞くって、誰に、何を?」

「テイムしてみろ。今日はコッコを捕まえにきたんだろ?」

モードさんに言われて思い出す。そうだ、今日はコッコを捕まえにきたんだっけ。

「……モードさん、テイムの仕方、知ってる?」

モードさんが吹き出した。

「お前、自信満々にテイムするっていうから、わかるもんなんだなって思ってたんだが。テイマーでもない俺がわかるわけないだろ?」

そ、そうだよね。

あ。

「クー、ミミ。コッコにさ、わたしとテイムして牧場に住まないか聞いてみてくれない?」

『おい、お前。ティアとテイムしゅるか? 牧場にしゅまないか?』

「ピピピッぴぴぴぴぴぴ、ピピピピッピッピピピ」

『牧場ってにゃんだ?って』

「ええと。街の中なんだけど、草原みたいになっているところで。その敷地に住むのはどうかな? ご飯は用意する。敷地内になるけれど自由にしてくれて良くて。あ、敷地から出る時はわたしと一緒にいないとダメで。あなたが白い卵を生んだときはそれをもらいたいんだけど。とりあえずお試しで、もし窮屈だったり、ずっといるのは嫌ってなったら、森に帰すよ」

「ピピピピぴいピッピぴ?」

『さっきの白いのを食べしゃせてくりぇる?』

ミミが通訳してくれた。

「あれはシチューっていうんだ。毎日ではないけどね。好きならまた作るよ」

「ぴぴぴ」

『いいって』

わたしはモードさんを振り返る。

頷いてくれる。

さて。テイムってどうやってやるんだろう。

わからないけれど、わたしは右手を出した。彼女の額に掌を近づける。

彼女はわたしの掌をコツンと突いた。

『ティア、こりぇからにゃんて呼ぶの』

「鳴き声がかわいいから、ぴーちゃんはどう?」

『ぴーちゃん、気に入ったわ』

おしゃまな感じな声がする。

「喋った」

「喋ったな」

へー、モードさんにも聞こえるのか。

やったー、これでコッコゲットだ!

『あ、弟がいるのよ。時々森に来てもいい?』

「うん、一緒に来るよ。敷地以外の街の中ではテイマーと一緒にいてくれないとなんだ。後は自由でいいんだけど。だからそこだけお願いね。あ、後、人を傷つけないでね。わたしもあなたを守るから」

ぴーちゃんは頷いてくれた。

魔物と遭遇しないこともあり、今日はぴーちゃんとだけで帰ろうということになった。黄虎とぴーちゃんとクーとミミが仲良くしている。黄虎の背中にミミが乗り、ぴーちゃんの背中にクーが乗る。うちの子たち、かわいい。

門番さんはやっと黄虎に慣れてきたところだけど、今度はぴーちゃんにビクついている。まだ幼そうだけど、背丈はわたしほどあるからね。結構迫力あるもんね。ちなみに雄はもっと大きいそうだ。雛の時はともかく成鳥になったら雄と雌を間違えることはないそうだ。それと雄は羽が綺麗だそうだ。コッコは雌がダンスで求愛をし、雄は羽にいろんな何かをさして綺麗にして雌にどうだ?綺麗だろう?と魅せるらしい。ぴーちゃんを時々森に連れ出して、友達や未来の旦那さんと会えたらいいかもね。

牧場に向かっていると、商人ギルドの人から声をかけられた。人を雇うのに、役所と商人ギルドに働き手を募集していますと張り紙をさせてもらった。1週間で500G。2カ所で1000Gかかる。その1回で人が来てくれるかどうかわからないから、まだまだかかるかもしれない。

なんて思っていたら張り紙をみましたと言う人が3人もやってきたそうだ。ちょうど揃っているというので、一緒に牧場に行って、そのまま面接に持ち込むことになった。

ひとりは愛想のいい若い男性だった。落ち着いた金髪に赤っぽい瞳がとてもキレイだ。ソツがなく有能な感じで空気を読むのもたけている。23歳。

元々は冒険者もしていたようで、腕も立つところがモードさんは気に入ったみたいだ。戦闘中にテイムしてた子が亡くなってしまい、そのまま冒険者を引退したそうだ。パズーさんという。

もう一人は気の弱そうな男性で、なんだかいつもビクビクしている。灰色の髪に、ダークブラウンの瞳。34歳。馬などの家畜の世話をしたり畑仕事が得意だという。ケイリーさんといった。

最後のひとりはペクさんといった。モードさんぐらい背が高く、体もがっしりした人だった。お屋敷の下働きなどもしたことがあるそうで、一通りなんでもこなせると言う。紺色の髪に榛色の瞳で25歳。無愛想で、表情はあまり変わらないが、瞳はとても優しい。

一番心配だった、魔物を飼うことに3人とも抵抗はないらしかった。まだコッコしかいないが、どんどん増やしていきたいと思っていること。この子たちと触れあいのできる牧場にしたいこと。いずれ卵や牛乳で軽食やお菓子を作って売りたいこと。だからテイマーだからといって魔物をテイムするだけでなく、それぞれいろんなことをやってもらうことになるだろうこと。魔物を飼う上で魔物は敷地内から絶対に出さないこと。街中で魔物が人に怪我を負わせるようなことがあったら、魔物が処分されること。それを絶対に避けたいのだとシステムの説明をする。業務はどんどん多岐に渡って増えるはずで、相談には乗るけれど頭から出来ないしたくないって言う考えなら、双方にとっていいことではないので、考え直してくれて構わないと言った。

報酬金額を伝え、衣食住は完備だが、どこからか通う方がよければそれでもいいと伝える。いずれは賄い人を雇うつもりだが、それまではご飯はわたしが作るつもりで、家を空ける時もあるが、その時のことはその時々で考えることになると思うことも告げる。

思っていたのと違うってこともあるだろうから、よく考えてからもう一度と言いかけると、3人とも「働かせてください!」と。

食いつきが良かったので、わたしとモードさんはちょっとだけ驚いた。