軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117話 告白

1日起き上がって普通に過ごしたら、ぶり返したようになってしまった。起き上がって少し動くと呼吸が辛い。体調が悪くなり、またベッド暮らしに舞い戻りだ。いい加減、この弱っちぃのはなんとかならないのか。クーとミミといるとつい遊んでしまうので、ルークさんに取り上げられた。こんこんと眠るほどではないので、圧倒的に暇だ。

モードさんが来てくれた。おでこに手をあてて、熱を測られる。熱は今は高くないはずだ。夜に上がるんだよね、なんでか。

モードさんがベッドの横の椅子に腰掛ける。

「お前の世界には奴隷はいないんだって?」

「うん、いなかった」

「魔物もいないんだってな」

「うん、いない」

モードさんが視線を落とす。

「……辛いな」

「モードさんの方がよっぽど辛そうな顔してるよ」

「だってお前、怪我や病気で回復に時間かかるし、ステータスだって、この世界でお前生きにくいだろ。お前はこちらに来なければ、ずっと幸せでいられたんだろ? こんな辛い思いすることなかっただろ?」

「……そうかもしれない。でも、そしたらモードさんには会えなかった」

モードさんの顔が歪む。

「……俺はどうしたらいい? どうしたらいいんだろうな」

モードさんのわたしに対する罪悪感は軽くならなかったらしい。どころか、具合が悪くなるのは追い詰める要素になるようだ。回復し出した時は普通な感じだったのに、こうしてまた寝込むと辛そうな顔をする。

モードさんの背中を見送り、ため息をつく。

「奴は真面目だな」

カイル王子だ。『ここに居ますよ、入りますよ』を知らせる軽めの『気持ちノック』で入ってくる。モードさんとのやりとりは聞こえてたみたいだ。

「誰かさんみたいに不真面目だとよかったんですけど」

嫌な展開だな。やっとモードさんがわたしを見てくれるまでいったのに。

なんでこうなんだろう。

「振られたら私のところに来い。嫁になってくれ」

「お断りします」

発破をかけるのに軽口を叩いているんだろうけど、縁起の悪いことを言葉にしないで欲しい。本当にそうなったらどうしてくれるんだ。

モードさんは何回も来てくれるけど、割とすぐに出て行ってしまう。

ふと目が覚めた時、モードさんが脇にいて手を重ねてくれていた。モードさんがこちらを見るタイミングで思わず目を瞑る。そしたらモードさんは手を重ねたまま、ずっと隣にいてくれるじゃないか。

それはわたしに情はあるけれど、話すと辛いってこと?

わたしは目をパチリと開けた。

モードさんが手を離そうとするから、その手を今度はわたしが捕まえる。

「すまない、起こしたか?」

「ううん、起きてた」

そう告げて、体を起こす。

「モードさん、起きているわたしといるのは辛いの?」

そう尋ねると、モードさんは話すタイミングだと悟ったのか、椅子に座り直した。

「お前は、辛くないか? ティア、よく考えろ。俺は召喚に関わったんだぞ。お前がこの世界に来なくちゃいけなくなった原因のひとつなんだぞ」

「考えても、モードさんのしたことっていうか、しなかったことが原因とは、わたしには少しも思えない。それに今は、わたしには、モードさんと会えたことの方が大事!」

「……………………………」

モードさんが黙り込むから、胸が痛くなる。泣けてきそうになるのを、目をグッと開くことで回避しようとする。

「じゃあ、モードさんは、わたしを見るたびに罪悪感に苛まれるから、わたしと一緒にいたくないの?」

「そうじゃない」

「そうじゃん。わたしは最初から言ってるのに。モードさんが何かしても、何かしたんだとしてもそれでもいいって言ったのに。たとえ何かあっても、あの時モードさんがわたしにしてくれたことは変わらない。わたしにはどんなことよりもモードさんが大切。でも、わたしがしがみつくから、本当はイヤなのに一緒にいてもらうのも辛いし。わたしはモードさんが幸せであって欲しいから、わたしといると辛くなるなら……」

モードさんがわたしといると辛いってワードにするだけで、大泣きできそうだ。でも、わたしが欲しいのは同情じゃない。だから、泣くな。わたしはモードさんをみつめる。

「モードさんの意見を尊重する。わたしはモードさんが大好き。一緒にいたい。モードさんは? わたしと一緒にいると辛いの?」

考えると告白なのに、勢いは喧嘩をふっかけているようにしか感じられない。

「……お前と離れる方が辛いから困っている」

わたしの目を見てそう言って、わたしを抱き寄せる。そしてそのままぎゅーっと抱きしめてくれた。ボロボロと頬に涙が落ちる。

「泣くな、泣き虫」

モードさんが手でわたしの涙を拭う。

「モードさん、大好き」

「俺もだ、ティア」

モードさんはもう一度ぎゅーっとしてくれた。

気持ちの問題だったのか、そのまま一度眠ってしまい、起きたらかなり回復してきていて。やっとポーションを飲むと、嘘みたいに体の調子が良くなった。ポーションが効いたということは内臓のどこかをなんかしてたのかと思って怖くなる。樽男め。

居間でみんなでくつろいでいると、ソレイユが飛び込んできた。礼儀正しい彼にはあり得ない慌て方だ。

ミミのブラッシングをしていたときだったので、ミミがビクッと体を震わせた。大丈夫だよとお腹を掌でさする。ぽちゃふわで、たまらん。

いや、そうじゃなくて、ソレイユだ。

ソレイユは軽く会釈をして王子の元に歩み寄る。

「ラオスがティアに気付いてしまいました。側近に唆されているみたいで。ティアを自分の元に置こうとするでしょう」

ソレイユはそう王子に申告した。

ソレイユが言うには何か仕掛けてくるはずだと。

ソレイユにとっては彼は可愛い弟だが、皇太子はラオスなので地位が上だから何もできない、と。

今までラオスはソレイユのいうことを従順に聞いてきたが、オーデリア大陸から帰ってきてから少し様子がおかしくなったらしい。そしてこの奴隷ルート壊滅で兄が動いたことを知ってからさらに頑なになったという。

後から王子が誰かにソレイユが皇太子の座を狙っているとでも言われたんじゃないかと心配していた。

わたしたちは世界議会への手続きが終わればすぐに帰るつもりだったのだが、皇太子から正式なちょっとしたお茶会パーティーへの誘いが届いてしまった。そこにはモードさんもわたしも一緒に来るよう書かれていたらしい。無視することはできないのか試しで聞いてみたが、無視する方が後々困ることになるだろうとのこと。

それにきな臭い動きがあるという。世界議会からも通達があったのだが、残党がいるかもしれないと。それは帝国の貴族ではないかと言うことだ。それぞれ供物を埋めるとされた街の誰かしらが関わっているのではないかと推測されている。まぁ、それはそうだよね、外国人が何かを大量に埋める作業をしていたら、それは人目につく。その国のその街に協力者はいたのだろう。

帝国ではソレイユの王位継承権を剥奪するのに躍起になっている人がいるらしい。それが残党と手を組んでくるかもしれないと言うのが、ルークさんの見立てだ。でもなんでそこにわたしを入れ込んでくるのか不思議だが、恐らくわたしが平民だから一番どうとでもしやすいからだろうという。何やら面倒なことが起こっているみたいだ。

王子は言った。もし自分がラオスの立場だったら。皇太子は自分だけど、大好きな兄が王位に興味がないと言っていたとして。もし手柄を立てられたら、民衆がこぞって兄をもてはやしたら、自分も手柄を立てようとするだろう、と。今だったら、聖女関係を手に入れるのが、一番支持を得やすい。本物の聖女は動きがないから難しいが、側室聖女と名の通った、けれど実態ははっきり知られていないものなら手が届きやすい。お誂え向きに、側室聖女と同じ髪と瞳の色を持った女性が、奴隷狩りの組織を潰した関係者の中にいる。その者は多くの者に目撃されている。その彼女を自分の手元に置ければ、民衆への影響力を持てるだろう。どうお膳立てするかが分岐点にはなるが。

王子は知らないが、ラオスにわたしがランディだとバレているかもしれない。ソレイユに気づかれたように。急に成長する、それは何か特別だと受け取られるだろうか?

クーとミミに紙をくしゃくしゃにしたボールを投げてキャッチさせる遊びをしていると、王子に言われる。

「そっちはうまくいったみたいだな」

なんでわかったんだろう。喜びが出ちゃっているのかしら。

「そんなにわかりやすい?」

尋ねると、彼はため息を落とした。

「それもあるが、ハナのことはなんでもわかるぞ。同じベッドで眠った仲ではないか」

わたしはポンと肩に乗せられた手をぴしゃりと叩く。

確かに、王子のベッドを借りて寝てたからね。

「それでしたら、わたしはモードさんと一緒の時は、毎日一緒にお風呂に入って、毎日ひとつのベッドで眠ってる仲ですから」

「ルーク」

「嘘はついていません」

モードさんは目頭を押さえている。

「お前、なんて手が早いんだ!」

王子がモードさんに突っかかるので、慌てて止める。

「会って2時間で手をだすあんたの方がよっぽど早いわよ」

「それは」

王子が言い淀んだ時に、モードさんの大きな手がわたしの口を塞いだ。

何するの? と怒ってみたがうううおおお?としか音が出ない。

「お前に聞こう。お前たちは関係を持ったのか?」

なんてことを直接的に聞くんだ! っていうか知ってどうする?

「うーうーうー」

抗議の声も、うーにしかならない。

「こいつの実地の相手は、俺ですね」

モードさんはしれっと言った。

「ルーク」

「嘘はついていません」

確かにモードさんは嘘はついていない。実地をモードさんが教えてくれるって約束したからだ。

まだ約束しただけだけど。

王子は苦いものを口にしてしまったような、変な顔をした。