軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

112話 組織をぶっ潰せ①ティアの依頼

まずい、モードさんがかなり罪悪感に苛まれている。

モードさんは全然悪くないと思うのだが、ずっと夜泣きをしていたのをナマで見ていたし、出会って最初の日お母さんとお姉ちゃんを呼んでいたのが、思いのほか打撃になっているみたいだ。

本当は噂の件で一因である王子だけを巻き込むつもりだったけれど、モードさんも巻き込むことにする。わたしが迷惑をかけることで、相殺にしてくれないだろうか。

ルークさんにお願いして、居間扱いしている部屋に話があるとふたりを呼んでもらった。

ルークさんはお茶の用意をしてくれている。

「王子もモードさんも、わたしに本当に悪いと思っている?」

意を決して尋ねると、ふたりの表情に痛みが走ったのを見た。

うっ、しまった。導入の言葉を間違えた。でも、今更発言は戻ってこないし。ごめん、引きずり込まないとなんだ。わたしの罪悪感を小さくするために。悪いけど付き合ってもらうと決めたから。

「だったら、今からわたしがやることを手伝って」

3人の視線が集まる。

「やることって、何を?」

「わたしと同じ髪と瞳の子がいっぱいさらわれて奴隷にされているの。例の噂のせいで、何の関係もない子供や女性が。聖女の子供と同じ髪と瞳の奴隷を持つのがお金持ちの流行りなんだって。わたしはその奴隷狩りルートをぶっ潰したい」

自分一人ではできないと思った。噂の原因は王子にもあるから責任を取れと巻き込もうと思ったのだ。

「ルートってことはアジトや規模や関係しているものなどわかっているのか?」

王子がスッと目を細める。

「さわりしかわかってない」

自警団に誘拐されそうになったことを伝え、そこで聞いたことだけしか知らない。

3人が呆れ顔だ。

「ぶっ潰すってどうやって?」

「それは頭のいい人が考えてよ」

王子に返すと、モードさんも眉を顰める。

「丸投げか?」

「当たり。わたしはこっちのこともよく知らないし、ステータスも低い。何ができるっていうのよ」

「そこまで開き直るか」

「清々しい投げっぷりだね」

開き直りは歳を重ねてできるようになるスキルのひとつだと思う。このスキルのいいところは、開き直ることによって、マイナス部分には目をつぶり考えないから、その分、ネガティブにはならずに次のことに考えを向けることができることだと思う。

「得意なことを得意な人がやるの。なので、食事は任せて!」

わたしは先に食事担当を請け負った。

王子が滞在するセイラのお屋敷は、調理場も広くて使いやすかった。

材料など買いに行く時はルークさんと一緒だ。外に出る時はわたしは青い髪のウィッグを装着。ルークさんにコートを渡された。見ていて寒々しいからだそうだ。モードさんのお家でぬくぬく暮らしていたから普段着のコートを買うのを忘れていた。ミリセントお姉さんが買ってくださったのは、女の子用の可愛らしいものだったので、冒険者ルックの時は着られないし。ルークさんが用意してくれたのは紺色の素朴なものだけど、とってもあったかい。クーとミミは左右の大きなポケットがお気に入りで、ポケットに潜り込む。とても暖かいらしい。冬でもウィッグ、蒸すな。長い時間はキツそうだ。

ルークさんの目の下にクマができている。それでも美しさは損なわれず、かえって美貌を浮き立たせているかもしれない。奴隷ルート撲滅のため、裏の探るお仕事をされているんだと思う。そんな彼を買い物に連れ出すのは心から悪いと思うし、ひとりで平気だと言ったんだけど、3人から却下された。余計にめんどくさいとルークさんの目が言っていて、これはもう逆らわないことが一番彼を疲れさせないことなのだと、口答えしないことにした。

ルークさんから聞いたのか、王子がハンバーグを食べてみたいというので、作ることにした。身分を隠していても身分が高いのは隠せないからか、この時期にマットマが手に入る。希少なものはお金だけでは手に入らないからね。これは絶対権力があるからだ。季節外れでもあるとこにはあるんだな。ありがたく使わせてもらおう。

マットマソースをチャッチャと作っておく。

ハンバーグもいろいろあるよね。ミート100%のものから肉の繊維を粉砕して柔らかーくしたものから。わたしはどれも好きだ。ただ自分で作るとなると、作り方をカスタマイズした、お手軽なものになることが多い。

まずは材料の準備だ。丸ネギはみじん切り。みじん切りに決してならないみじん切り。

丸ねぎをみじん切りにしようとすると、察するのかクーとミミは遠くに避難する。

もうちょっとして味見をさせてもらえるぐらいになると、また寄ってくるのだ。賢いから刃物や火が危ないことをわかっているので、ブラッシングをして毛を落としてからになるが、調理場OKにしている。

パン粉は、パンをちぎっている。すりおろしてもいいんだけど、細かすぎるより均一じゃない方が口の中で面白いかなと思って、いつもそうしてしまう。

パン粉は牛乳で浸す。

ホルスタちゃんのお肉を切り刻んでから、包丁で叩く。今まではトラジカのお肉で作ることが多かったけれど、ホルスタちゃんが手に入ったからね。ひき肉ぐらいになったらボウルに入れ、塩だけを入れて捏ねる。お肉と全く別のものになる過程が面白い。ケバケバが出てきて、お肉とは思えないんだよね。ピンク色の別物になったら、生の丸ねぎを投入。はい、しんなりするまで炒めて、粗熱をとる工程をいつもカットしております。焼いた時に初めて火が入った丸ネギが水分を出すけど、出来上がりにしんなりするところまでいってなくて適度に丸ねぎ感があって、ちょっと焦げてたりすると、味も深く食感が楽しくて好きなのだ。

丸ネギは入れてただ混ぜるだけ、牛乳入りパン粉を入れて捏ねると、纏まりやすくなる。そこにハーブを入れ、塩で味を整える。黄身を入れたりもしない。素朴なおいしさになる。

タネを寝かせもせずに、人数分に割って、ひとつずつまとめる。両手でキャッチボールして空気を抜く。楕円にして、火を入れると真ん中が膨らむので、その分凹ませる。生の丸ネギが存在を主張して飛び出したりするけど、神経質にはならない。

あとはクルミ油をしいて、温まった鉄板に、ハンバーグを並べていく。付け合わせの野菜も隣に並べる。

いいな、この鉄板。もっと小さくてもいいから、欲しい。どっかで作ってもらおうかな。

真ん中ぐらいまで火が通ったら、ひっくり返して蓋をして蒸し焼きにする。野菜を一緒に入れているので、野菜に塩を振り、出てくるだろう水分を閉じ込める。水やお酒を入れると蒸し煮感が出すぎちゃうし、ハンバーグだけだと、硬い印象を受ける。野菜から出る水分の微妙なスチームがいいんじゃないかと勝手に思っている。

火が通ったか、上からちょっと押してみて、濁った肉汁が出なければ焼けている。

と、クーとミミが足元にすり寄ってきた。はいはい。

付け合わせのにんじんに、味見用に作っておいたミニバーグを半分にして、にんじんの上に載せる。クーとミミのお皿に入れて、フーフーしてからふたりに差し出す。

「熱いから、気をつけてね」

ふたりは仲良くお皿に顔を突っ込んだ。

顔を上げて目を煌めかせる。

『おいしー』

『しょーしゅがなくてもティアが作るとうまい』

嬉しいことを言ってくれる。

調べ物に行って、皆帰ってくる時間がまちまちなので、別々の食事となっているが、概ね好評である。特にハンバーグは王子の胃袋を掴んだみたいだ。ルークさんにこれの作り方を教えてくれないかという。教えるのはいいが、これで売り出すものがあるから、他の人に教えたりしないのならいいと言ってみると、商売するのか?と食いつきがいい。まだ決まってはいないが、いろいろと考えていると言っておいた。

切れ者3人が揃うと、どの街でもただ困惑していた奴隷狩りルートの詳細が3日で明らかになる。多くのことに足がつかなかったのは、諸悪の根元の元締めが他大陸の大物だったからのようだ。王族の最高権力により調べがつく。奴隷狩りの元締めはカノープス大陸の国のひとつ、ソコンドルの貴族のようだ。ソコンドルは危険区域に一番近い街で、オーデリア大陸を敵視している。

以前、強制依頼でモードさんが行っていた危険区域はカノープス大陸にあった。なぜ危険区域なのかというと、そこに瘴気が集まってきやすいからだそうだ。

大昔、魔王が瘴気を浄化できる聖女を召喚する記述を全て焼き払ったという。そして最後に聖女を食い尽くした。この世界に瘴気を浄化できるものがいなくなった瞬間だった、永遠に。ところが食われてもなお聖女は魔王の中から微かながら瘴気を浄化したという。人々は勇者に魔王の封印に向かわせた。討伐をしたら浄化されなくなってしまうかもしれない、だから魔王は封印された。封印された魔王の中で、聖女の抜け殻は今もなお瘴気を浄化している。その封印場所が危険区域だそうだ。

浄化されていくためかそこは瘴気が集まってきやすく、魔物が強くなりがちだ。ただ瘴気があまりにも濃くなった時、聖女の抜け殻がどうにかなってしまわないのかの保証もないので、瘴気が濃くなった時は、強くなった魔物と戦うことが余儀なくされる、とか。

魔王と勇者という言葉を聞いて、王子の前世はその勇者だったのかもと思っている。

ソコンドルの親分貴族を捕らえる手立てを進めているそうだが、ソコンドルの王族がうやむやにするだけだと思うので、世界裁判に持ち込むつもりだという。世界裁判というのは、国も大陸も関係なく、世界規模で犯罪を審断することのできる機関だそうだ。世界規模の犯罪だと認定されるには条件があり、ふたつ以上の大陸をまたにかけ、最低5つの国が関わっていること。国同士の話し合いが見込めそうにないこと。など審査条件があるそうだ。そして世界裁判で通じるような明確な証拠がなくてはならない。

その明確な証拠を確保するために、3つの場所を一気に叩かなくてはならない。時間差にしてしまうと、どこで言い逃れられるか、蜥蜴の尻尾きりになるかわからないからだ。

ひとつは、捕らえられている奴隷狩りに遭ったものたち。その媒介現場を押さえる。国を跨いでの商会への介入になるため、大きなお金が動いているはずだという。そしてオーデリア大陸の各地から集められていることもあり、一番広範囲となる。

ひとつは、その命を下した貴族。こちらは間抜けなようで、奴隷媒介に対しての報酬などの契約書をもう手に入れてあるらしい。公共の場でそれを暴露できればいい。

そして、間抜けだから、唆した輩がいるはずだと。貴族を唆すことができる相手、それは王族かも知れない。

ということで、3人が指揮者となり動くという。

モードさんはソコンドルの貴族を請け負い、王子も一緒に行って、その唆した相手を生け捕る。

奴隷媒介現場にはルークさんが。

「わたしは?」

だって事の発端はわたしだ。組織潰しの依頼をしたのもわたしだ。

危険だから、わたしは連れていってもらえないらしい。頭では理解する。わたしは足手まといだ。適材適所を唱えたのはわたしだし。ここで大人しくしているのが道理だとはわかっている。

でも何故、心は一緒の動きができないのだろう。

「ティア」

開き直るなら、開き直りきるべきだと思う、そう思っているのに、モードさんを見上げたら涙が落ちそうだ。情けない自分には目を瞑り、頼ることしかできない。自分が逃げ出したことで起こったことを、人に尻拭いしてもらうしかないのだ。なんて情けなくて、滑稽なんだ。

「ティア、こっち見ろ」

それでも顔を上げられないでいると、強制的に両頬に手が伸びてきて、上を向かされる。

「確かに、噂にのって起こっている犯罪だ。けど、勘違いするな。いいか、金儲けのために人攫いをしている奴が悪いんだ」

「……うん」

「お前はお前と姿が似通った奴が奴隷になって欲しくてその姿になったのか?」

首を横にふる。

「お前が悪いことをした時は、俺が絶対にそう言ってやる。お前は何も悪くない」

たまらずモードさんに抱きつく。

モードさんは抱きついたわたしの頭を撫でてくれる。

「お前が間違った時は俺が指摘してやるから、お前も、俺が間違えた時は教えてくれ、な」

わたしは自分からやっと顔を上げられた。

「うん」