軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

994 マタニティラプソディ3:女性宰相の悩み

『アビスの魔女』ゾス・サイラじゃーいッッ!!

ヒャッホォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!

ズンチャッチャ、ズンチャッチャ、ズンチャッチャチャラホラ、ヘイッッ!!

ババババンッ! ギャーバーンッ!

わらわが何故ここまでご機嫌かというと聞いて驚け。

やや子を授かったんじゃーいッ!!

紛れもない真実ニュース!

結婚式を挙げて然るのちついにのおめでた!

世の中にはこんなに素晴らしいことがあったとは!!

もちろんわらわと結婚したオークボとの間に生まれた子どもじゃよ!

誰じゃったかのう!『人類とモンスターとの間に子どもができるわけないじゃん』とか何とか!

安易な憶測で語る者たちは無知蒙昧を晒したのうホホホホホホホホホホ!

常識がなんじゃ理論がなんじゃ!

そのようなもの直向きな愛にかかれば木っ端でしかないわ!

わらわとオークボとの間に結ばれた絆に不可能はない!

切り拓かれた人生の前途は明るく輝いておるわい! ホホホホホホホホホホホ!!

「バカ笑いをおやめなさい。百里先まで響いていますよ」

なんじゃ藪から棒に?

誰かと思ったら我が永遠の目障り、人魚教師のカープではないか!

気分のいいところに水を差しおって! お前の顔を見るだけでテンションが低気圧になるんじゃよ。

「それはこっちのセリフです。本当ならアナタのような知能指数の低い輩は視界にも入れたくないのですが、生憎と騒音は耳を塞いでも聞こえてくるのです。こちらも迷惑を主張せざるを得ません」

何をぅ!?

こちらは生の喜びを全身で表現しておるだけじゃが!?

生きる権利はすべての生物にあるもんじゃろうが。それを喜ぶ権利も当然ある。

その権利を邪魔する権利がそなたにあんのか、あぁ?

「バカほど権利権利と騒ぐものです。アナタ、そんな軽率な態度でこれから母親が務まるのでしょうか?」

「あぁ?」

なんじゃ出てくるなり難癖付けてきおって。

そなたから売ってくるケンカはいつでも百パーセントオフで買ってやると心に決めておるんじゃが。

「フッ、これだから生まれついての不良は……」

「そなただってシーラ姉さまに舎弟させられてた頃は立派な不良じゃったろうが」

「過去を振り返っても何の益もありません。正しきは前を向いて進むことです」

それっぽい屁理屈でかわしおって。

結局何が言いたいんじゃ。

「アナタはただただご懐妊の喜びに浮かれ倒していますが、それだけでいいのですか? アナタは自身の今の立場を忘れてはいませんか?」

「うッ?」

「ねえ、人魚宰相?」

そうじゃった。

今のわらわは何の因果か人魚国で宰相勤めじゃったわ。

宰相って何?

もっとも少ないこと? それは最少。

宰相と言ったら、行政の長。君主をもっとも近いところで補佐し、時には君主の代理をして政を取り仕切ることすらある。

なんでわらわがそんな厳かな職に就いてんじゃ? と今でも疑問に思うことがある。

しかし答えは出ない。

「宰相職にあるアナタの懐妊は、国にとっても一大事。そのことをしっかりと弁えてるんでしょうね?」

「知ったこっちゃないわーい。生きるも死ぬもわらわの勝手よ」

「またそういう投げ遣りな……」

そうじゃ、出産を機に宰相の職を辞することもできまいかのう?

寿退職は不可だったんじゃから新たな可能性に懸けてみたいわ。

……なんで結婚した時は辞職できんかったっけのう? おや記憶が?

「そんなワガママ通じるわけないでしょう? 非常に納得いきませんがアナタの宰相としての仕事ぶりは近年非常に評価されています。現在の人魚国は宰相ゾス・サイラなくば立ち行かないといわれているほどです」

それはそれでどうなんじゃ?

本来欠くべからざるは王様の方じゃろ?

「今では『地上にルキフ・フォカレあれば、大海にゾス・サイラあり』とまで言われています。魔国の名宰相と並び称される二大宰相の片割れですよ。まったくアナタごときがそこまで称賛されるとは世も末です」

ふむ、ルキフ・フォカレ殿の相当な苦労人ゆえのう。

今度ねぎらいの意味も込めてお歳暮でも送っとくか。

「つまり私が何を言いたいかというと、アナタついにご懐妊で浮かれるのもいいですが、ちゃんと宰相の仕事もしっかりこなしてもらわなければ困る。ということですよ。そこのところわかっているのですか?」

ハッ、そんなのわからんわ。

より正確に言えば『わかりたくない』じゃ。

わらわは随分昔からオークボとの蜜月を過ごすことだけに人生を使いたいんじゃよ!

なのになんで公僕として社会奉仕せにゃならんのじゃ!

わらわの人生に、他人のために割くべき時間など一秒もないわい!

「まったくアナタという人は……」

お? なんじゃ?

真面目女のカープさんが、わらわの無頼っぷりに呆れ果てるのかあ?

全然オッケーじゃぞ。怒り罵り否定してみろ!

そんなのわらわにとっちゃあ全然ノーダメージじゃからな!

わらわは生まれついてのアウトロー。

正論も常識も、わらわを一切揺さぶることもできぬ!!

「アナタのその考え……とてもよいですね!!」

「は?」

予想とは真逆の反応にわらわ、不覚にもズッコケ……ようとして踏みとどまった!

いかんいかん、腹に大事なやや子が眠っておれば迂闊に転ぶこともできぬ昨今ぞ。

「おいカープや……。わらわ今大事な体ゆえ想定外の受け答えは控えてほしいんじゃが」

「何を言っているんです。大事な体というなら私だって同様ですよ」

ああ、そうじゃった。

そういやコイツも最近オメデタだったんじゃった。

何しろわらわとコイツが結婚したのがほぼ同日だった故にな。

遥か昔からの腐れ縁と、なんで華燭の典まで同所同日なんじゃと当時はぼやいたものじゃが、子を授かるタイミングまで同じだといっそ清々するの。

「そう今、この私のお腹には愛するゴブ吉様との愛の結晶が宿っているのです! この私の賢明さと、ゴブ吉様の英邁さが合わさった子が世に出ればきっと、いや間違いなく不世出の秀才となることでしょう! 世界をよりよいものへと十段階進めてくれるに違いありません!!」

「親バカが過ぎる!」

よくもまあまだ生まれてすらもいない子どもに過大な期待をかけるもんじゃ。

カープは人魚国の名門校で教師を務めているぐらいじゃから、そうした期待は世の親より格段に大きいのかもしれぬ。

教育ママというヤツじゃ。

大丈夫かのう?

期待かけられすぎた子どもが反転してグレたりしない?

よそ様の家庭のこととはいえ老婆心がうずくのう。

「そんな私ですから、今は生まれてくる子どもに集中したいのです! よそ様の子どもの面倒見ている場合ではありません!」

「教師にあるまじき発言じゃのう」

「叶うことなら今すぐにマーメイドウィッチアカデミアへ辞表を提出し、責任あるこの職から解かれたいと思っているのです。そこに居合わせたのがちょうどいいアナタ!」

「ちょうどいい!?」

どういう了見じゃ!?

「だって、アナタだって妊娠したからには辞めたいでしょう宰相! むしろ辞めるのに絶好のチャンス! アナタぐらいいい加減な人ならこれ幸いと辞職の道を一直線と思っていましたよ!」

「言いようが失礼極まるんじゃがのう!!」

たしかにその通りだけれども!

事実を指摘されたからこそムカつくこともある!!

「宰相といえば、国内有数の重職。その進退ならば普通にニュースになるほどの大事件です! 世間もきっと騒ぐことでしょう!!」

「ほうほう、そうかものう!?」

しかしそんな騒ぎを恐れて進退を迷うデリケートな女ではないぞわらわは。

アウトローゆえにな!

「それとタイミングを合わせて私も退職すれば、アナタの方が目くらましとなって騒がれることは一切ない! 私も一応マーメイドウィッチアカデミアで一二を争う有能教師でね! 辞めるとなれば慰留を求められる可能性もあるわけですよ!」

なにぃ!?

つまりそなたは、自分がスムーズに今の仕事辞めるためにわらわを利用する気満々か!?

なんと卑劣な!

それがヒトの手本となる教師のすることか!?

「よそ様より自分の家庭ですよ! 我が子に恵まれた以上は、私の有り余る指導力を一点に注ぎたいです! わたしが教師としてこれまで培ってきた知識教養指導力は、我が子を最高の人物抜育てるためだったと思うくらいですよ!」

やべぇのうコイツ。

我が子への愛が偏愛すぎて周囲が見えなくなっておるわ。

これ旦那さんや子どもがガチで苦労するヤツと違うか?

心配する。

心配はすれどもこれはチャンス!!

わらわだってこれから出産子育てに集中するために宰相なんて激務、今すぐ放り出したいわい!

しかしなかなかそうもいかないのも事実。

わらわが無事失職するためにも協力者は多い方がいい!

このアホ女でも手助けしてくれるんなら渡りに船じゃあ!

「前途ある育児生活のために!」

「我が子を世界一の天才に育て上げるために!」

古くから不倶戴天であった宿敵カープと、わらわは手を組んだ。