軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

989 強育

ボクは魔王子ゴティア。

最近毎日が楽しい!

父上によって導かれた農場は、ボクの知らないことばかりで常に新鮮だ!

本格的な修学こそ許されなかったが、週に三日転移魔法で移動し、農場学校で勉強するのも実に楽しい。

毎回、まったく知らない新しいことを学ぶことができるんだから!

最初は怖かったノーライフキングの先生も、接してみたらとてもいい人(?)だとわかった。

教え方も凄くわかりやすいし、何より公正で広い視野を持っている。

あの人に、これまで教わらなかった人族や人魚族、それに数いる超越存在のことを聞くのは実に有意義で刺激的だ。

一緒に農場で学ぶ仲間とも友になった。

最初はあんなに高圧的だったボクの態度も水に流してくれて、今では種族に分け隔てなく過ごせている。

規則的に十五歳からの入学なので、周りはほぼ大きく年上なのがネックだが。

……それにあれ以来、父上もボクと多く過ごしてくれるようになった。

先生の説教が効いたらしい。

昨日も庭先で、ボクとキャッチボールしてくれた。

楽しかったのはもちろんだが、途中でやってきたマリネが『私にもやらせて!』と言うので、渡したボールがマリネから放たれると王宮の壁にめり込んだ。

……異母妹に負けないようにボクも励まねば。

今日は授業の他に、ジュニアくんに剛速球の投げ方を教えてもらおう。

またいつも通りベレナがお迎えに来てくれるだろうから、急いで待ち合わせ場所に向かおうとしたが……。

「お待ちしていましたよゴティア王子」

ズルベスター?

家庭教師のズルベスターじゃないか?

今日はアナタの授業の日だったか? 予定では三日後だったと記憶しているが?

「もちろんです。今日も明日も、毎日が私とアナタの授業の日なのですよ」

そんな話は聞いていない。

ズルベスター、王族の予定を乱してはいけない。

ボクはちゃんと週一度に定められたアナタの授業に出席しているのだ。

……本当はその日だって農場で学びたいのに。

こちらがルールを守っているのに、年長者の先に横紙破りをするなんて、それが教師を名乗る人のすることか?

「今、王子にもっとも必要なのは私からの授業なのです。お父上は幼少の不遇から私に悪意を向けておいでだ。しかしそのためにお子のアナタが当然の権利を奪われるのは間違っている。アナタが将来立派な魔王へとなられるために、私の持つすべてをアナタに教えて差し上げましょう」

ボクは、もうアナタからすべてを教わっていると思っているが?

現に最近の授業は、今まで教わったことを繰り返しまた学んでいるような状況だった。

ハッキリ言って無益だ。

ボクは週一回の授業ですら、そろそろもう打ち切ってほしいと父上にお願いしようとしていたのに。

それに比べれば農場学校では日々まったく未知の英知が現れ、そして学んでも学んでも新鮮さが尽きる気配も見せない。

ボクは今、できる限り農場で新しい知識を得たいと考えている。

立派な魔王になるために。

ズルベスターにはその邪魔をしてほしくないのだが……。

「過去歴代の魔王はすべて、我が家の教育係から薫陶を受けて立派な魔王におなりあそばした。つまり立派な魔王に必要なのは、私から受ける授業なのです。他には何も必要ありません。必要ないのです。そう邪魔だといってもいい」

何を言ってるんだ、この男は?

以前は怪しみもしなかったが、農場で先生の授業に慣れると、この男の異様さが嫌すぎるほどにわかる。

自分だけが正しい。自分の他に正義などない。

そう信じて疑わぬ者の目の色が、どれほど異様であるかは。

「王子を待ちわびているのは私だけではありませんぞ? ほれ、王子のご学友たちです。私が王子のために選りすぐった、才気煥発な若者たちですぞ」

ズルベスターの背後にズラリと、ボクと同じぐらいの年格好をした男女が並んでいる。

王子の教育に『学友』というシステムが組み込まれている。

王子だけでなく他の子息を共に学ばせることで競争心を刺激し、より深く学べるようにするためだとか。

その時一緒に勉強した学友が、のちに重臣に取り立てられて活躍する。幹部候補の選抜という意味合いもあるとか。

彼らはズルベスターの推挙で、ボクの学友となった。

ズルベスターの授業が少なくなったら自然彼らとの接点もなくなってきたんだが……。

「王子! オレたちと一緒に学びましょう!」

「週に一度しか王子に会えないなんて、寂しいです!」

「このままでは将来四天王の道が……いやいや、王子と共に過ごせることができなくなります!」

と押し寄せてくるが……なんだろう、今となっては彼らのことも怖い。

とにかくボクの今日の予定は別にあるから、これで失礼する!

……ってアレ? 逃げられない!?

ズルベスターがボクの手を掴んで離さない!?

「どこへ行かれるのです王子? 教室はこちらですぞ?」

「だから今日の予定はそっちじゃなく……!」

「大丈夫です! 私の教えを受けて王子が著しく成長すれば、魔王陛下もきっとわかってくださるでしょう! 私の教育が、いかに魔王家にとって必要なのかを!!」

怖ッ、怖ッッ!

一生懸命逃げようとしてもいやはり子どもと大人、抵抗も虚しくズルズル引きずられていく。

どうしよう、こうなったら大声を出して助けを呼ぶか?

でもそんな情けない姿をさらしては魔王子としての沽券が……!?

「魔王城内で人さらいとは、やることが大胆だね」

「はッ? 何ヤツ!?」

誰とも知れない声でズルベスターの手がパッと離れた。

さすがに見咎められてはマズいことだとわかっていたのか。

「『何ヤツ』だって? それはこっちのセリフだよ魔王子拉致犯さん。いやここは『何ヤツ』どころか『曲者』『であえであえー』と言うべきかな?」

「何を勘違いされているのか知らんが、これは魔王子への教育の一環だ! 幼いうちは勉強嫌いな子どもが多いでな、無理矢理にも教卓へ引っ張っていくのも教育係の役目よ!」

「ふぅーん、そう。だったら魔王様にチクるとしようかな。当代の教育係は、魔王子を引っ張らないと教卓につけることもできない無能だってね」

そう言いながら現れたのは……ベルフェガミリア!?

魔王軍四天王のベルフェガミリア!?

「ぐ、軍属が何故ここに? ここは魔王城、魔王軍総督府ではありませぬぞ?」

「いやいやたまたまこっちにサボりに来たらあられもない悲鳴を聞いてね。公僕として見て見ぬふりはできないと駆け付けたわけさ」

サボりに?

なんか捨て置けない単語がいくつかサラッと出たような?

あられもない悲鳴ってボク上げてないし!

「い、いかに魔軍司令閣下であらせられようと、ことは王族の事情、口出しは無用ですぞ!」

「それを言うならキミだって同じだろう。家臣風情が魔王子の行動に口出しするとは、一体何の権限があっての狼藉だい?」

「知れたこと! 私はゴティア王子の教育係! 教育係には魔王子を指導する役目があります! その役目のためなら王子自身に多少疎まれようと、甘んじる覚悟でありますぞ!」

「打ち首にされるぐらい疎まれても?」

「うッ?」

ベルフェガミリア殿!?

なんてことを言いだすんだ? ボクは、いくら最高の権力を持ったとしても、嫌いになったぐらいで家臣を処刑する暴君にはなりたくないぞ!

「魔王家の立てた予定を無視して王子を連れ去ろうって言うんだからそれくらいの覚悟はあるよね? たしかに役割には一定の裁量が許されるけど、まさか魔王様の決定を覆すほどの裁量なんてあるだろうかね? ゴティア王子の予定は、最終的に魔王様が許可を下したものなんだから」

「ぐぬッ!?」

「しかもキミ、今日という日を選んで暴挙に出たでしょう? 魔王様が視察で魔都を離れられる、この日を狙ってね」

そ、それじゃあ……。

もしやベルフェガミリア殿は、不在の父上に代わってボクを助けに来てくれたの?

家庭教師であるズルベスターは、ボクの扱いに関しては多少の裁量を父上から許されている。

それこそボク自身が嫌がっても強制的に勉強させるようなことを。

周囲の者には、それが業務上のことなのか狼藉なのか、それこそ判断しがたいはずだ。

命令を出した父上本人に聞きでもしなければ。

ズルベスターはそれを狙って今日、ボクの前に出てきたんだな。

これが大人の狡賢さなのか。

そして父上は、そんなズルベスターの暴走を読み取ってご自分の不在中をベルフェガミリア殿に託した……?

「僕も首を賭けようじゃないか。魔王様から軍の全権を委ねられし魔軍司令として、王子に危害を加えんとする狼藉者を排除しよう。王族をお守りすることは面倒くさくも、軍属の最重要任務だからね」

「わ、私とて王子を指導する役割を……!」

「だから魔王様が戻り次第判断を仰ごうじゃないか。キミと僕、果たしてどっちが正しいのか?」

ズルベスターが圧倒されている。

口だけは上手いズルベスターを、胆力だけで押し付けるなんて。

これが軍人……しかも父上から、それまでは魔王にのみ持つことを許された魔王軍の全指揮権を委ねられた魔軍司令なのか。

「わ、私は間違っておらぬ!」

「うん?」

「私はゴティア王子の教育係だ!! ゴティア王子がどこで、誰から、何を学ぶかは私に決める権利がある! それを邪魔することは誰にもできん! 魔軍司令殿、アナタであってもだ!!」

何を言ってるんだ、コイツは?

ボクの教育方針を決める権利は、ボクを後継者と定める父上だけのものであって、お前はその父上の指示を受けて動くことしかできないはずだ。

「どうか引っ込んでいただこう! ここは魔王城! 野蛮な軍人の出る幕ではない!」

「ほうほう、キミは間違っていないか。相当面倒くさいことを言うねえ。……じゃあ、たしかめてみようか?」

ベルフェガミリア殿は、皮肉気な笑みを浮かべながら言う。

「キミらと彼ら、どちらがより王子の教育によいかをね」